【粟根まことの「未確認ヒコー舞台：UFB」】第95回「弓折れ」

2019/05/01 粟根まこと『未確認ヒコー舞台：UFB』 / 日刊☆えんぶコラム , 連載 , 粟根まこと

大阪・金沢・松本と巡った久しぶりの旅公演である「偽義経冥界歌」平成版が無事に終わりました。夏秋公演の「けむりの軍団」を挟んで来年新春には「偽義経」令和版が東京と福岡に参ります。なので終わったような終わっていないような、ちょっと宙ぶらりんの気持ちですが、取りあえず私は今月5/10～19の「+GOLDFISH」at紀伊國屋ホールに向けて稽古中ですよ！

さて、「偽義経」での私の役どころは源頼朝でした。頼朝といえばご存じ鎌倉幕府を作った人ですよ。平氏を打倒し奥州藤原氏を討伐して日本を統一し、武家政権を確立した人です。武家の棟梁として様々な合戦で指揮を執った人です。舞台でも様々な合戦シーンが描かれ、それが故に衣装が甲冑で暑かった話は前回書きました。
そんな合戦シーンでも私はほとんど刀を抜かず、逃げ回っていただけなのはご覧頂いた方にはお判りでしょう。まあ、戦の大将は刀を抜かず指揮するだけの場合も多いのです。刀の代わりに采配を振るって戦を指揮します。そこから「采配を振るう」という成語ができたのですね。
「偽義経」のパンフレットの写真で私が握っているのが采配です。短い棒の先になんかフサフサしたモノが付いているアレ。アレが采配です。アレを振るうことによって軍勢に進めとか退けとか指示を出すのです。それが大将の役目です。
武田信玄なんかは采配の代わりに軍配を使っていた様ですね。軍配といえば今では相撲の行司さんが使うモノとして有名ですが、何しろ「軍配」ですからね。軍を配するのが本来の使い方です。

このように大将は采配や軍配を使って軍を指揮していたようですが、今作で私が持っているのは細めの長い棒です。平たくてちょっと反り曲がっていて、所々に装飾のヒモが巻き付けてあるヤツ。これは「弓折れ（ゆみおれ）」というモノでして、コレが今回ご紹介したい専門用語なのですが、演劇用語というよりは軍事用語というか、時代考証用語です。しかし、現物が廃れているので、実際に使用されるのは時代劇の中でしかなく、まあいってみれば小道具用語ですね。実際に検索してみても時代劇の小道具としてしか引っかかりません。
名前の通り、折れた弓を改造して指揮棒として活用していたようで、大将はコレで指揮をしたり、ムチのように使って馬を制御したりしていたようです。何しろ廃れてしまっているのでよく判りませんが、小道具会社ではアレを弓折れとして管理されているのでそういうモノなのでしょう。

新感線はこの弓折れが好きなようで、ずーっと使っています。現在、ゲキシネとして上演中の「髑髏城の七人」のラストシーンで徳川家康が使っているモノと同じです。全く同じモノを私も使っております。采配や軍配に比べてスリムで使いやすいからですかね。鎧の上に締める細い帯である「上締め（うわじめ）」に挟みやすくて楽だからですかね。あ、この上締めも時代考証用語ですね。

このように、時代劇でしかお目に掛からないような様々なモノにもそれぞれ専門用語があり、「鎧」や「兜」などの一般的に有名な用語もあれば、「弓折れ」や「上締め」などのあまり知られていない用語もあるのです。一般的には知られていなくても、それを使う人々にとっては馴染みのあるものでして、まあこの連載もそういったマニアックな用語をご紹介しているワケです。知らなくても支障はないが、知っておくとちょっと楽しくなる専門用語。令和となった今後も様々な専門用語をご紹介していきますよという言葉を持って新時代の幕開けとさせて頂きます。令和もよろしく！