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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第141回「シェイクスピア」

二月も終わりまして徐々に暖かくなってきていることを感じます。どちらかといえば、暑いよりも寒い方が好きな私ですが、冬の寒さがほどけていくのは嬉しいですね。

私は現在、劇団☆新感線「ミナト町純情オセロ」の稽古終盤です。タイトルからお判りのように、シェイクスピアの四大悲劇の一つである「オセロー」を翻案したものです。中世ヨーロッパの戦争から戦後間もない関西ヤクザの抗争に話を置き換え、笑いも歌も取り入れて新感線流にアレンジされた「オセロー」になりました。

さて、そのシェイクスピアですよ。ウィリアム・シェイクスピア。1600年前後(日本だと江戸幕府が開かれた頃)にイギリスで活躍した劇作家でして、演劇史に残る名作を数多く残し《劇聖》とも称される偉人です。演劇に興味が無い方でもその名前くらいは聞いたことがあるのではないでしょうか。まあ、演劇に興味の無い方がこのページを読むこともないかとも思いますけども。
まあ要するに、世界で一番有名な劇作家だというコトですよ。死後四百年以上経った今でも世界中で上演され続けているし、影響を受けた作品となれば数限りなくあります。
シェイクスピア作品を元にした映画やドラマだってたくさんあります。「ウエスト・サイド・ストーリー」は「ロミオとジュリエット」だし、「蜘蛛巣城」は「マクベス」ですからね。

私も純然たるシェイクスピア作品に出たことはありませんが、影響を受けたり翻案されたりした作品には出たことがあります。新感線の「メタルマクベス」は「マクベス」を近未来に置き換えたものですし、「朧の森に棲む鬼」は「リチャード三世」を元にしています。2002年に上演された井上ひさしさんの「天保十二年のシェイクスピア」はシェイクスピアの全戯曲と言われている37作品をごちゃ混ぜにした、なんとも贅沢な作品でした。
そして、今回上演される「ミナト町純情オセロ」も「オセロー」の翻案だというコトなんですよ。

では、なにゆえシェイクスピアはそれほどまでに評価されているのか。これがね、私もよく判らないのです。大学で演劇を学んだワケでもなく、演劇史を研究したこともありませんので。まあ戯曲を読んでみても、ちょっと大仰で壮大だけど、普通の話だな、とか思ってしまうのです。
しかし! この「普通の話」というトコロが重要なのです。つまり《現代の演劇では普通に描かれる登場人物の心情の変化やら苦悩やら葛藤などを、当時の普通の人々の言葉で紡ぎ、普通の人々に楽しんでもらえるように上演した》コトが偉大なのですよ。要するに、今の人々が楽しんでいる現代の演劇や映画・ドラマの元を作り出したことが凄いところなのです。

シェイクスピア以前の演劇というのは主に宗教劇・道徳劇・歴史劇といった啓蒙的な内容で、堅苦しい言葉で事実を羅列するような作品が多かったのです。
しかし当時のヨーロッパではルネサンス運動が興り、新たな文化が発展していました。イギリスでは演劇が好きだったエリザベス一世の後援もあり、様々な演劇が花開いていたようですが、シェイクスピアも王立劇団に所属して作品を発表していました。
そして過去の史実や伝説を採り入れていながらも、ただ出来事を書くだけでなく、この登場人物はこう思ったからこういう行動に出たという心情やバックストーリーを想像して膨らませ、より魅力的に再構成することで波乱に富んだストーリーを紡ぎ出しているのです。
シェイクスピアが手掛けた作品は詩的な美しい言葉で人間の心理を詳細に描き、ドラマティックな展開で見る人を飽きさせません。それが故に人々を魅了し、現在でも上演され続けているというワケです。

なお余談にはなりますが、少し時代の下った日本の歌舞伎でも、当時の世相を採り入れた物語や、ドラマチックな展開、人々の欲望や悲哀、七五調の名調子など、シェイクスピアと似たような演劇を創造していたコトには面白い共通点があると思います。

ただねえ、ここから先は私の個人的な感想になってしまうのですが、シェイクスピア戯曲にはどうにも《モノローグ》が多すぎるような気がするんですよね。もちろん当時としては最先端である、登場人物の心情の変化を伝えるためには必要だったのだと思うのですが、客席に向かって滔々と自分の気持ちを語るセリフの多いコト! 独り言ならまだしも、他の登場人物が居る前でも思っていることを口にしてしまうのです。いや、もちろん現代でもそういう演出はありますが、ちょっとその頻度が高すぎるんですよね。
二人の会話である《ダイアローグ》でも同様です。お互いが、思っていることを多彩な比喩や形容を交えながら滔々と語り合います。さながらフリースタイルラップバトルのように順番に長々と喋ります。それが故に韻律に富んだ詩的で美しいセリフになっているのではありますが、要するにまどろっこしいのですよ。
いや、これは本当に私個人の感想ですので、お気になさらずに。

さあ、そんなシェイクスピアの名作「オセロー」を翻案した「ミナト町純情オセロ」は、かなり違う話になっているのに、かなり「オセロー」です。シェイクスピアならではのドラマチックな展開で、シェイクスピアならではの心の動きや人間の業が描かれています。
《シェイクスピアの悲劇》と聞くと高尚で壮大で取っつきにくいような印象があるかもしれませんが、結局の所は愚かな人間たちの浅はかな行動を描いているに過ぎません。青木豪さんの見事な翻案で、さらに面白おかしく脚色されておりますので、どうぞお気軽にお越し下さい。3月が東京で4月が大阪ですよ!

本文とは関係ありませんが、2/1、つまり閉店翌日の東急百貨店渋谷本店。なんとも寂しげ。

粟根まこと

【著者プロフィール】
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み

 

【粟根まこと出演予定】

2023年劇団☆新感線43周年・春公演
『ミナト町純情オセロ~月がとっても慕情篇~』
3/10~28◎東京建物 Brillia HALL
4/13~5/1◎COOL JAPAN PARK OSAKA WWホール

◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ4月号」は3/9全国書店にて発売予定!

 

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