【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第118回「劇中劇」
2月の悪い芝居「今日もしんでるあいしてる」も終わりまして、しばらくは舞台の仕事がありません。ですので、ようやく色んな舞台を見に行けるようになりました。いやあ、稽古や本番を抱えていると中々舞台を観に行くタイミングがありませんからね。
で、この春には何本かの舞台を観に行ったのですが、たまたまではありますが、何故だか劇中劇のある舞台が多かったのです。そう、「劇中劇(げきちゅうげき)」。これが今回ご紹介したい用語です。上演される演劇の作品の中で、設定として演劇が上演されることです。「劇」の「中」に「劇」があるので「劇中劇」ですね。
現在も上演されております我が劇団☆新感線の41周年記念公演であるYellow新感線「月影花之丞大逆転」では、木野花さん演じる月影花之丞が率いる劇団の話ですのでいくつもの劇中劇が上演されます。まあ、全部稽古風景なんですけどね。
また、私が長年宣伝美術を担当させて頂いているプロジェクトKUTO-10「かもめごっこ」も、ある地方のアマチュア劇団の話でして、冒頭に劇中劇のシーンが(声だけですが)ありました。劇団を扱った作品の場合、まあ当然のように劇中劇がでてきます。
そして、つい先日千秋楽を迎えたシス・カンパニーさんの「ほんとうのハウンド警部」ではガッツリと、それはもうガッツリと劇中劇が上演されていました。何しろ、生田斗真くん演じる主役が演劇評論家でして、舞台上で演じられる劇中劇を見ながら話が進んでいくのですから。
舞台の奥にはこちら向きに客席が作ってあり、二人の演劇評論家が舞台前面で上演される演劇を見ている設定です。しかも劇中劇が進行する間に徐々に現実との境目が曖昧となっていき、やがて二人の劇評家も劇中劇に飲み込まれていき…、という不思議な劇構造なんですが、達者な俳優さんたちの軽快な演技によって有無を言わせず巻き込まれていきます。
作者は何度もトニー賞を受賞しているイギリスの劇作家であるトム・ストッパード。「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」通称ロズギルという作品が一番有名ですかね。仕掛けのある劇構造とウィットに富んだ作風が特徴です。
そして、シェイクスピアなどの過去の名作のパロディというかエッセンスを採り入れるのも特徴です。この「ほんとうのハウンド警部」でも、上演されている劇中劇はアガサ・クリスティの唯一の戯曲である「ねずみとり」を彷彿とさせます。三ヶ月前に同じシアターコクーンで「オリエント急行殺人事件」を上演した身としては面白い因縁を感じました。
シェイクスピアの「ハムレット」やチェーホフの「かもめ」、また古典演劇も含めてヨーロッパではよく劇中劇という手法が用いられます。これなどは王侯貴族の前で演じられるコトの多い宮廷劇という上演形態の影響もあるのでしょう。
また、「月影花之丞」もそうですが劇団や劇場を扱った、いわゆるバックステージものの場合は必然的に劇中劇がでてきます。東京サンシャインボーイズの「ショー・マスト・ゴー・オン 幕をおろすな」などはバックステージものの傑作です。
劇中劇という手法は演劇の中に演劇を採り入れていますので、観客に対して「これはフィクションである」という印象を強く感じさせます。いわゆる「メタフィクション」ですね。
虚構の中に虚構を入れるワケですから、結果として「なんでもあり」な空気を醸し出します。「まあいいか」と思わせるワケです。それによって更なるフィクションの飛翔を許容させるコトができるようになります。
このように、劇中劇を採り入れるコトによって演劇の表現が更に広がるワケですね。もちろん「ちょっと嘘くさくなってしまう」というリスクはありますが、それも込みで作品を作ってしまえば問題ありません。メタな演劇表現、それが劇中劇なのです。
知り合いの舞台を見ていたら、また舞台がやりたくなりました。感染が再拡大している中、舞台などのライブエンタテインメントは難しい立場にありますが、それでも舞台を続けていくことが大事なのだと思います。早く何も気にせず舞台ができるような時期が来ればいいなあ。
杉並区の玉川上水第三公園で見つけた遊具。上水に船型の遊具を置くなんて粋じゃありませんか。
【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。
◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ4月号」は全国書店で発売中!
▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼
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