【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第107回「ヒヤメシ」
既報の通り、二○二○年 劇団☆新感線 四十周年興行・夏秋公演 いのうえ歌舞伎「神州無頼街」は、昨今の情勢を鑑み、全公演を中止とさせて頂くことになりました。公演を楽しみにされていた皆様には誠に申し訳ありませんが、詳しくは劇団公式HPをご覧下さいませ。
なんだか最近お詫びしてばかりで誠に恐縮なのですが、皆様と我々の健康と生活を守るためだとご理解頂きますようお願い致します。
さて、そんな悲しいニュースも飛び込んでくる、ちっともゴールデンじゃないウィーク。皆様いかがお過ごしでしょうか。そんな時にはお家で舞台鑑賞するのもいいかもしれません。昨年末に私が出演致しました「明治座の変 麒麟にの・る」が、期間限定ですがDMM.COMさんで見られるようになっています。2,980円(税別)です。本能寺の変のifを意外な展開で描きます。イケメンがいっぱい出てきます。冒頭に私が一曲、ソロでへたくそな歌を歌います。5/10までの期間限定ですので、気になる方はぜひ。
その「麒麟にの・る」での私の役名は「おっちゃん」でした。紙芝居のおっちゃんなのですが、語り部として所々に出てきます。着物にもんぺに頭巾、そして襷に前掛け。履き物は冷飯でした。ん? 冷飯? ええ、今回ご紹介したい用語は「ヒヤメシ」です。
正しくは「冷飯草履(ひやめしぞうり)」といいまして、いわゆる藁草履ですね。藁だけで編まれた粗末な履き物で、江戸時代までの庶民の履き物でした。
現代での草履は分厚い中敷きにゴムの底が付いたり、オシャレな鼻緒だったりしますよね。男性用だとしっかりした雪駄だったりします。しかし、冷飯草履は藁だけなのでペラペラです。現代の靴に慣れた私にはクッションがなさ過ぎて結構辛かったですね。
似たような藁の履き物に草鞋(わらじ)がありますが、こちらは鼻緒が長く伸びていて、足首に巻き付けて固定します。足裏に密着するので、作業用や旅用に適しています。それに対して冷飯草履は簡単に脱ぎ履きができるので、現在のつっかけやサンダルのように普段履きとして使用されていたようです。
冷飯草履も草鞋も土の上で使うコトを前提に作られていますから、舗装道路では全く耐久性がないため、現在の日常ではほぼ使われるコトはありません。しかし、時代劇ドラマや映画、そして演劇ではこうしていまだに生き残っているのですね。
大劇場の本番に付いて頂く衣裳さんや小道具さんは、演劇や映画の現場に長く携わっておられる方が多いので、普通に専門用語を使って話されます。衣装合わせの日に、一通り衣装を着付けて頂いた後に「で、そこのヒヤメシ履いて」と言われて、ん? と思いまして。戸惑っていたら「あ、そこの草履ね」と言われる、というやりとりを何作かしているウチに覚えました。繰り返さないと覚えないよね特殊用語って。
ただねぇ、この「ヒヤメシ」って言葉の由来が判らないのよ。面白いですよね、ヒヤメシ。まあ、あんまり良い意味ではないような気もしますが、そう言うんだから仕方がない。そして、そんな言葉を普通に現場で使っている我々も面白い。ま、それが専門用語ってもんです。
そんな専門用語もいっぱいの演劇の現場。まだまだご紹介したい用語もございますが、なにしろしばらくはその演劇の現場にいられない私です。新しい生活様式と共に、新しい演劇の在り方も考えなければなりません。どうしましょうかねえ。いやいや、来月からもドンドン書いていきますよ。
こちらが「麒麟にの・る」で実際に私が履いていたヒヤメシ。もちろん、本物の冷飯草履ではなく、使いやすいように加工されていますよ。
【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。
◇コラム「粟根まことの人物ウォッチング」掲載の「えんぶ6月号」は5/9全国書店で発売!
▼▼▼今回より前の連載はこちらよりご覧ください。▼▼▼
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