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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第104回「再演」

やたら雨が多かったり暖かかったりする暖冬の新年、皆様いかがお過ごしでしょうか。体調管理が難しい時期ですので、どうぞお気を付け下さいませ。今年は、特にね。

さて、令和二年一発目の新感線は「偽義経冥界歌」です。あれ? ソレって去年もやってたんじゃない? ええ、昨年版は大阪・金沢・松本での上演でして、一年おいて同じ作品の東京・福岡公演なんです。色んな事情でこういうちょっと変わった公演形態になってしまいましたが、長い目で見れば一つの公演です。

それはそれとして、演劇の公演形態の一つとして「再演(さいえん)」というモノがあります。もちろんコレが今回ご紹介したい演劇用語なのですが、意味としては「昔に公演した作品を再び上演すること」でして、「再び上演する」から再演ですね。読んで字の如くです。ちなみに再演に対応して、初めて上演される場合を初演、三度目に上演される場合を再々演とか三演目、などと言います。
再演が行われるのには様々な場合があります。初演時に好評だったので数年をおいて再演されるとか、初演時には何故だかステージ数が少なかったので比較的間を置かずに再演されるとか、結構年月を置いてから新演出などの挑戦をかけて再演されるとか、全く別のカンパニーが脚本を借りて新キャスト新演出で再演するとか、本当に様々なタイプの再演があります。
レアなケースではありますが、作家が新作を書けなかったので急遽予定を変更して昔の作品を再演して急場をしのぐ場合だってあるんです。色々と大変なんですよ演劇の現場って。

いずれの場合にせよ、作品に自信があってこそ再演が行われるのです。初演時に自信があったのでそのまま再演される場合もあれば、面白いのに初演時には準備が足りなくて不本意に終わったモノをブラッシュアップして再演する場合もあります。過去の名作を再評価するために新たな趣向を凝らして再演される場合もあれば、伝統そのままに再演されるモノもあります。シェイクスピアや歌舞伎など、数百年前から再演し続けられている作品だってあるのです。
つまり、再演というのは新作が書けなかったから仕方なくするモノではなくて、まあそういう場合もあるっちゃぁあるのですが、基本的には初演に対するリスペクトとして、より高みを目指して上演されるコトの方が多いのです。
最近ではナイロン100°Cの「百年の秘密」が好例でしょう。6年振りの再演ですが、ほぼ同じ脚本、演出、キャストでの再演なのに、より濃密により緻密に昇華されていて、初演再演の両方を見た者としては至福の時間でした。
再演に際して掛けられる労力は初演とほぼ同じですので、テレビ番組の再放送のようなお手軽なモノではないのだとだけでもご理解頂ければ幸いです。

劇団☆新感線でも何度も再演が行われております。「阿修羅城の瞳」や「仮名絵本西遊記」や「野獣郎見参」などはキャストも演出も、脚本すら変更しながら何度か上演されました。しかし一番再演されたのは皆様ご存じ「髑髏城の七人」でしょう。
1990年から2018年まで7年ごとに、28年間に10回11バージョンも上演されています。しかも1990年の初演時には東京・大阪・東京と三回上演されたのですが、その三回ともクライマックスシーンの台本が変わるという変則振り。正直、劇団員である私ですら把握しきれないほど様々なバージョンがあります。しかし、根幹は不変です。その不変な根幹があるからこそ度重なる再演に耐えうる作品として大事にされているのです。

と、ここまで書いておいて何ですが、「偽義経〜」は再演ではありません。あくまで期間の空いた一つの公演です。正直、約一年の間が空いておりますし、脚本も演出もちょっと変わっておりますし、キャストも二名変わっております。稽古場でもかなり違った空気が漂っておりますし、より熟成された印象もあります。しかし、再演ではないのです。
ただ、一年前をなぞるのではなく、新たな挑戦もしながら新鮮に取り組んでおります。再演のような、再演ではない公演。ちょっと変わった上演形態ではありますが、昨年版をご覧頂いた方も、ご覧頂けなかった方も同様に楽しめる作品になっていると思います。是非御確認下さいませ。

正月に行った、源頼朝と北条政子が出会ったと言われる伊豆韮山の蛭ヶ小島。離島かと思ったら内陸部なんですね。

 

【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。

【出演情報】
2020年劇団☆新感線39興行・春公演 いのうえ歌舞伎『偽義経冥界歌』2/15〜3/24◎TBS赤坂ACTシアター、4/4〜28◎博多座

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