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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第101回「スモークマシン」

「けむりの軍団」全82公演を無事に終え、今は川原正嗣さん主演の「BURAI2」の稽古をしている粟根です。無愛想だが有能な警察官が巻き込まれる、様々な陰謀や意外と脱力系のギャグ。もちろんアクションもあります。12/4〜8に東池袋あうるすぽっとですよ!

さて、無事に終わった「けむりの軍団」ですが、ご覧頂いた方ならお判りの通り「けむり党」という謎の集団が出てきます。煙のように実態の判らない軍団。それを表現するためもあって、舞台には大量のスモークが終始漂っていました。劇中にも「煙が足りねえな」というセリフが出てきましたが、実際に舞台稽古の最中に演出のいのうえさんが「煙もっと足して!」というダメ出しをスタッフに出していました。
煙とかスモークとかフォグとか色々な言い方がありますが、演劇に於いて「煙」は非常に重要なのです。端的に言いまして、煙を焚かない演劇の現場はほとんど有りません。つまり「けむりの軍団」だから煙を焚いていたのではないってコト。いや、もちろん今作だからこそいつもより多めに焚いてはいたのですが、基本的に劇場での演劇公演ではスモークを焚くのです。それは何故か。それは「照明を綺麗に見せるため」です。

照明はもちろん舞台を明るくするためにあります。セットや出演者を照らし、彩り、あるいは部分的に照らすことで時間や空間を表現したり、場合によっては照らさないことで心情を表したりもできます。まさに照明によって物語を語ることもできるのです。現代演劇にとって照明は欠かすことのできない演出技法なのです。
本来、照明は対象を照らすことによって認識されます。もしも空気中に空気を構成する気体分子しかなかったら、対象に当たるまで光はほとんど認識されません。しかし、空気中にはチリやホコリなどの軽い固体が浮游しているので、それらに反射して光の道が見えます。それが故に細く絞った照明のラインが見えたりするのです。
新感線の舞台に限らず、派手目の演劇やライブなどで印象的な光のラインを見たコトがあるでしょう。あるいは舞台が真っ赤な照明に照らされた時に、まるで空気までもが赤く染まったように見える時があるでしょう。あれは空気中のチリやホコリに反射しているのですが、それをさらに強調するのがスモークなのです。煙の粒に反射させて、より効果的に照明のラインが見えるようになるのです。

スモークマシンは各社様々なマシンがあるのですが、基本的には特殊な液体を蒸気にしたり霧状に噴霧することで煙を発生させます。その液体の種類によって「水溶性」と「油性」に二分されまして、水溶性は濃い煙が出ますが消えやすく、油性は薄く均一な煙を長く出せます。
新感線でよくある悪者が煙幕を張って逃げる場面とか、「けむりの軍団」で古田くんが蹴って倒した火鉢から煙が吹き出る場面などには水溶性のマシンを使い、舞台全体に薄く煙を張りたい時には油性のマシンを使うというワケです。必要とされる煙の種類によってマシンを使い分けているんですね。
ちなみにこちらが新感線の現場で使われている油性のスモークマシンです。

黒い箱の上に乗っている取っ手の付いた角張ったヤツがスモークマシン。その下にある大型ファンで舞台全体に煙を広げます。オイルの細かい粒子を均一に広げることで、綺麗な照明効果を得ることができます。舞台ソデにはこんなマシンが何台も置いてあるのです。

そうそう、スモークマシンといえばドライアイスマシンを思い浮かべる方も多いかもしれません。あの、昔の歌番組などでよく使われていた床一面の低いところに広がる煙。まるで雲の上にいるような幻想的な効果を生み出していました。
ドライアイスをお湯の中に入れるとモクモクと煙がでます。この煙は空気よりも重いので床に溜まります。それがあの幻想的な風景を生んでいたのですが、実は制御が難しいのよ。お湯の温度、ドライアイスの量、そしてなによりも発生する煙を止めづらい。ドライアイスを溶かしているだけだからね。
まだ劇団が若かった頃、大きなポリバケツにヒーターを取り付けて、簡易ドライアイスマシンを手作りしていました。フタに穴を空けて太いパイプを取り付け、そこに細かく砕いたドライアイスを放り込んで煙を発生させるのです。デカイわ重いわ扱いが難しいわで大変だった思い出があります。
なので、今ではああいう低く溜まる煙もスモークマシンで出せるようになっているんだそうです。「偽義経冥界歌」で冥界を表す時に使われていた煙も、ドライアイスではなく特殊なスモークマシンで出していたんですって。その効果については来春の東京・福岡公演でお確かめ下さい。

そんなこんなのスモークマシンのお話。今回は新感線で長年特殊効果を担当して頂いている株式会社ギミックの南義明さんにご教授頂きましたが、そのギミックさんのHPにもっと詳しく解説されていますので、知りたい方はこちらのリンクをご参照下さい。
http://www.gimmick.co.jp/effect/smoke.html

南さんには本当に長くお世話になっておりまして、新感線の特殊効果、煙や血糊や花吹雪や火や、とにかく特殊な効果は全て南さんにお願いしているのです。様々な舞台で何か特殊な効果が使われていたら、ああ特効スタッフさんが頑張っているんだなと思い出して頂ければ幸いです。

【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。

【出演情報】
ブシプロ「BURAI2」12/4(水)~8(日)あうるすぽっと
https://burai2.com/

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