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【粟根まことの「未確認ヒコー舞台:UFB」】第92回「下調べ」

「偽義経冥界歌」の稽古も順調な二月。でも他の月よりもちょっと短くて稽古日数詐欺が発生する二月。今作では山のように殺陣があってホント大変なんですよ。いや、私は楽なんですけどね。

さて、そんな演劇の稽古においては、様々なアプローチの方法があります。例えば以前にも書きましたが「サブテキスト」を用意するという方法。サブテキストというのは、戯曲に明確には書かれていないが、セリフやト書きから類推されるそのキャラクターの人物像を拾い出して、役に対する理解を深めていく方法論です。その人物の生い立ちや境遇、そして考え方を想像するコトによってそのキャラクターを創造していくのです。
あるいはエチュードと呼ばれる即興劇で自由に人物像を拡げたり、ディスカッションを繰り返すことで理解を深めたり、役を交換して演じてみるコトによってお互いの役を理解し合ったり、演出家や団体によって様々な方法論があるのですよ。

また、下調べという方法もあります。もはや演劇用語でもなんでもない一般名詞である「下調べ」でして、これが今回ご紹介したい用語なのですが、演劇ならではの特殊な意味はありません。通常通り「あらかじめ調べておくこと」であり、なんかそれっぽい演劇用語を考えてみたんだけど特にないんだよね、該当する専門用語が。
要するに、演じる役についてあらかじめ調べておくことなんですが、これはその役の人物が実在したとか、創作だけどハッキリしたモデルがいるとか、あるいは小説などの原作がある場合にしか使えません。だってそうでなければ調べようがないからね。

例えば、「IZO」の時には勝海舟を演じましたが、そんな時には海舟の評伝を読んだり、海舟の出てくる幕末物の小説を読んだりしました。私はしませんでしたが、海舟の出てくる映画やドラマを見てみるのもいいでしょう。そうやって演じる役柄に対する理解度を深めていくわけです。
「シレンとラギ」では高師直がモデルの「モロナオ」を演じましたが、それをキッカケに初期室町について調べていくと、あまり詳しくなかった時代背景について興味が沸いてくるんですよ。
まあ、正直に言いますと、こういった下調べが役作りに役立つとは限りません。ていうか、大抵役には立ちません。しかし、演じる上での足がかりになるというか、拠り所にはなるワケです。なんだか色々調べることによって想像力の広げ方のとっかかりになるのです。

あるいは特定のモデルがいない場合でも、時代劇の稽古をしている時には時代小説を読むとか、SFっぽい話をしている時にはSF小説を読むとか、まあ気分だけでも盛り上げていこうとしたりもします。自己満足でしかないとは思うのですが、なんだかそういうのが好きなんですよね。

もちろん、役者さんがみんなそんなアプローチをしているワケでは無く、下調べを全くしないで、あくまで目の前の戯曲との格闘だけに集中する俳優さんもたくさんいますが、私にはこういう下調べをするというアプローチが向いているのだと思います。そういうタイプなんですね。調べ好き。

「偽義経冥界歌」で私が演じるのは源頼朝。そう、あの頼朝さんですよ。歴史の授業で習う、鎌倉幕府を作った人。私が子供の頃には「イイクニ(1192)作ろう鎌倉幕府」だったのですが、最近の学説では守護・地頭の任命権を得た1185年あたりが主流となりつつあるようです。まあそれはさておき、誰もが知っていて、伝記もたくさん残されている偉人ですから下調べも簡単です。
子供の頃から歴史物が好きだった私は、子供向けの字が大きな「平家物語」とか「義経記」とかを読んでいて、ていうかそんな全集があったという家庭環境に感謝しておりますが、まあ子供心にも義経って格好いいなあとか思っておりましたが、頼朝には特に思い入れはなかったんですよね。

ですが、正月には頼朝の本拠地である鎌倉に行って源氏の守り神である鶴岡八幡宮に初詣したり、頼朝の墓参りをしてみたり、地元の資料館に行ってみたりすると、なんだか気分が盛り上がってきました。頼朝の評伝を読んで初めて知った事実もありますし、どんどん興味が沸いてきました。
なんたって古代からの朝廷による貴族政治を打破し、江戸時代まで続く中世の武家政権の基礎を作った人ですし、武家の棟梁と呼ばれ、鎌倉殿とも呼ばれる強烈なカリスマ性と政治手腕の持ち主です。実に魅力的な人物なんだなあと改めて感じました。

と、ここまで書いておいて何ですが、「偽義経冥界歌」における頼朝像には全く役に立ちませんでした。だって全然違うんだもん。いや、違ってはいないのですが、今作ではそういう人物像では描かれていません。戦わないしカリスマ性もありません。なんとも情けない、そして目つきの悪い頼朝さんです。中島かずきさんが私にアテ書きして下さった結果、そんな頼朝像が出来上がり、その通りにいのうえさんが演出しているので、なんとも情けなく目つきの悪い頼朝さんが出来上がりつつあります。
そのあたりは是非とも劇場でご確認頂きたいと思いますが、東京公演は来年の二月です。今年は大阪・金沢・松本公演しかありませんので、東京在住の皆様におかれましては是非とも地方遠征などして頂きたく思います。なんたって二年に渡って東京公演しかしていなかったんですからね!

鎌倉に取材旅行に行った際、駅前で見つけた「i-ZA鎌倉」という商業施設。いいよね、こういうネーミング。ロゴも流鏑馬をモチーフにしてるし。

【著者プロフィール】
粟根まこと
あわねまこと○64年生まれ、大阪府出身。85年から劇団☆新感線へ参加し、以降ほとんどの公演に出演。劇団外でも、ミュージカル、コメディ、時代劇など、多様な作品への客演歴を誇る。えんぶコラム「粟根まことの人物ウォッチング」でもお馴染み。

【出演情報】
劇団☆新感線『偽義経冥界歌』
3/8-21◎フェスティバルホール(大阪) 金沢・松本公演もあり。

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