栗山民也演出・長田育恵脚本で『ゲルニカ』開幕!
PARCO劇場オープニング・シリーズの最新作『ゲルニカ』が、9月4日に開幕した。
本作品は、演出の栗山民也が、スペイン内戦時のゲルニカ無差別爆撃を描いた画家パブロ・ピカソの絵「ゲルニカ」と出会って以来20年以上、あたためてきた構想をもとに、劇作家の長田育恵が書き下ろしている。スペインのバスク地方の都市、ゲルニカで生きた人々の人間ドラマにフォーカスして物語を紡いでいる。
主人公となるのは上白石萌歌が演じるサラ。ゲルニカの貴族の家に生まれ、裕福だが閉ざされた世界にいた彼女は、スペイン内戦により目覚め、様々な人々とのつながりの中で一人の女性として成長し、命の果てるその瞬間まで精いっぱい生きぬく。そんなサラのエピソードを軸に、サラの母や女中、元使用人など取り巻く人々や、戦場で生きる人民戦線の兵士たち、戦場を報道しようとする兵士たちなどの、戦争下での生き方や人間関係が描き出される。
その公演の前日にプレス用のフォトコールと出演者の挨拶が行われた。
【フォトコールその1】
1幕後半で、元屋敷の料理番だったイシドロ(谷川昭一郎)の店に、サラ(上白石萌歌)がやってくる。そこは今は人民戦線の兵士たちの溜まり場で、お屋敷のお嬢様で今は敵側のサラに兵士たちは不快感を表す。兵士のハビエル(玉置玲央)、アントニオ(後藤剛範)が、人民戦線の兵士らしいヒリヒリした闘争心とむき出しにする様、そしてサラを庇う女中ルイサ(石村みか)の立場などに、同じ民族同士で内戦状態のスペインの現実を浮かび上がらせる。
【フォトコールその2】
サラの母マリア(キムラ緑子)は、この地方を束ねてきた領主で人民戦線と対峙する立場にあるために、サラの自由な振る舞いを叱責、サラの代わりに女中ルイサを鞭で折檻し追い出す。マリアの激しい怒りには誇りと矜持、同時にこの内戦への恐怖も感じられる。そんな母とに決別を告げ、サラは自分らしく生きるために家を出て行く。残されたマリアの姿は崩壊していく旧きスペインそのものだ。
【フォトコールその3】
人民戦線の兵士イグナシオ(中山優馬)が落ちていた銃を見つける。そこに政府側の軍人が現れ、イグナシオと対峙。ピストル音がそれぞれ響き、政府側の軍人が崩れ落ちる。イグナシオは実はドイツ軍のスパイで初めて銃を撃ったのだ。思わず銃を放ってしまった自分自身について自問自答するイグナシオ。中山優馬のモノローグには戦場で生きることへの苦悩や葛藤が込められている。
【フォトコールその4】
バスクの街、イルンで取材をする海外特派員のクリフ(勝地涼)とレイチェル(早霧せいな)。凄惨な戦いの場を前にしてこの無秩序の中で報道の人間が何を伝え、どう生きるかが2人の間で議論される。人間くさいがやや脆弱なインテリのレイチェルと、人民戦線の兵士ホセ(林田一高)を籠絡してタフにしたたかに仕事をまっとうしようとするクリフ。戦地でのジャーナリストの在り方を照らし出す場面だ。
【フォトコールその5】
燃え上がるゲルニカの街の様子を歌によって表現する。フラメンコのリズムに乗せて手を叩き、足を踏み鳴らす登場人物たち。上部から吊るされている舞台美術は遺骸の山のようにも見える。スペイン内乱の中で消えた街「ゲルニカ」、その悲劇を伝える舞台がいよいよ幕を開ける。
【会見挨拶】
会見には上白石萌歌、中山優馬、勝地涼、早霧せいな、キムラ緑子が登壇した。
上白石萌歌
いつも以上に特別な感情を抱いています。いつか絶対に出していただきたいけれど、もう少し先だろうなと思っていた栗山さんとの舞台がこんなに早くきて、とてもうれしいです。栗山さんは、稽古中に食べているおせんべいを半分くださったり、柔らかいお人柄の中に鋭い視点を持っていらっしゃる。最後まで栗山さんの言葉だけを信じて、皆さんと一緒に駆け抜けたいです。この物語の中の目に見えない不安や敵と闘うという状況は、今と通じるものがあるなと感じます。悲痛さや苦しみの中でも、それに争う気持ちや希望を見出す人々の営みが丁寧に描かれています。難しいことは考えずに、新しいPARCO劇場に足を運んでいただけたらと思っています。
中山優馬
やる気に満ちております。“実はスパイ”という役ですが、人間味あふれる青年だなと思いました。演じるうえで“若さ”が大事だなと感じていて、サラとの関係性ではそこを意識しています。1人のシーンが多いので、自分との闘いでもありますね。希望や運命といった概念を目撃できる舞台。その概念が科学的な兵器で壊される、そこにどういう人が生きていたのか、ぜひ目撃していただきたいです。劇場でお待ちしております。
勝地涼
僕の役はピカソにゲルニカ爆撃を伝えた実在の人物がもとになっているのですが、僕自身は「ゲルニカ」をピカソが描いたという知識しかなかったです。描かれているのは日常で、それが突然、切られてしまう物語。作品の裏側を知っていたほうがより楽しめると思いますが、背景を知らなくても伝わるものはあるはずです。最後に“沈黙は罪人だ”というセリフがあるのですが、僕にも刺さりました。ぜひ今の方々に観ていただきたいです。
早霧せいな
レイチェルは正義感と理論で武装した、硬くて不器用な女性。そこをクリフは見抜いていて、記者だからこそ正直な言葉でお互いがぶつかり合う仲です。信頼があるからこそぶつかることができるので、お稽古場から(勝地)涼くんとはコミュニケーションを重ねて。信頼関係を築けていると思うんですけど。(顔を見る早霧に勝地「あ、はい!」(笑))、さらに深めて1回1回の公演を大切に生きていきたいです。
キムラ緑子
PARCO劇場が新しくなって初めてで、すっかり違う印象です。今の劇場には自分の部屋に窓があって、渋谷の街を見渡せるんです。渋谷の真ん中にある劇場で、すごいパッションで作品を世に生み出していく。面白い場に出させてもらっている。マリア役は栗山さんから『人形の家』のノラのような役だと聞いていて。サラが苦に感じた世界に生きる女性として、サラに対して圧していく存在でありたい。想像することが多すぎてめまいがしそうですが(笑)、この作品がスペインだけでなく、今の日本、世界の中の日本、今の自分を考えられるきっかけになれたらと思っています。
【公演情報】
PARCO劇場 オープニング・シリーズ『ゲルニカ』
作:長田育恵
演出:栗山民也
出演:上白石萌歌、中山優馬、勝地涼、早霧せいな、玉置玲央、松島庄汰、林田一高、後藤剛範、谷川昭一朗、石村みか、谷田歩、キムラ緑子
●9/4~27◎PARCO劇場
●10/9~11◎京都劇場
●10/17・18◎りゅーとぴあ 新潟市民芸術文化会館・劇場
●10/23~25◎穂の国とよはし芸術劇場PLAT 主ホール
●10/31~11/1◎北九州芸術劇場 大ホール
〈公式サイト〉 https://stage.parco.jp/blog/detail/2335
【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】
Tweet