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『寿曽我対面』で亡き父・十代目坂東三津五郎ゆかりの大役に抜擢! 歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」坂東巳之助 取材会レポート

歌舞伎座にて上演中の「吉例顔見世大歌舞伎」第二部『寿曽我対面』より。小林朝比奈=尾上松緑、曽我五郎時致=坂東巳之助、曽我十郎祐成=中村時蔵(C)松竹

いよいよ芸術の秋本番。歌舞伎座では11月1日から26日まで、「吉例顔見世大歌舞伎」を上演している。緊急事態宣言が解除された後も、感染予防対策を徹底し、半数の客席に抑えることは継続しての興行である。

第一部は、まずは昔から幸せを運ぶとされる“こうのとり”の親子をモチーフにした舞踊劇『神の鳥(こうのとり)』を、歌舞伎座バージョンで上演。そして、幕末の動乱の最中に活躍した井伊直弼とその側室・お静の方との物語を描いた名作『井伊大老』。

第二部は、曽我兄弟の仇討を題材にした、江戸荒事の様式美と魅力が詰まった『寿曽我対面』。惜しまれつつ亡くなった十代目坂東三津五郎の七回忌追善狂言で、その子息の坂東巳之助が、父もたびたび演じた曽我五郎を初役で勤める。そして、厳しくも温かい親子の情愛や、獅子の精の勇壮かつ華麗な毛振りなどが眼目の名作舞踊『連獅子』。

第三部は、「忠臣蔵」の世界に、花形俳優が新演出で挑む『花競忠臣顔見勢(はなくらべぎしのかおみせ)』。歌舞伎の代表的な古典『仮名手本忠臣蔵』をはじめ、『元禄忠臣蔵』や『土屋主税(ちから)』など他の「忠臣蔵もの」の要素も取り込み、物語の発端から仇討成就までの名場面を楽しめる。

尾上菊五郎、松本白鸚、片岡仁左衛門などの大御所から若手花形俳優までが揃い踏みする、魅力満載の公演である。

【坂東巳之助 取材会レポート】

10月中旬、坂東巳之助の合同取材会が行われた。『寿曽我対面』で演じる曽我五郎は初役であることから、稽古は先輩であり、五郎を数多く勤めてきた尾上松緑。心構えについては「お兄さんに教えていただいたこと、皆さんが長年大切にされてきたことをしっかり身に着け、舞台で体現できたら。基本的なことを変わらず大切にするのも父の芸風でした。特別何をということでなく、歌舞伎役者として当たり前のことを大切にすることは、ひいては父の追善にもなると思う」と神妙な面持ちで語った。

平成23年1月新橋演舞場【曽我五郎=十世坂東三津五郎】©松竹

父・三津五郎とは、『対面』では一度だけ新橋演舞場で共演している。三津五郎は五郎、巳之助はその恋人役・化粧坂少将の役。当時の思い出を「舞台ではほとんど後ろ姿しか見ていませんでした。舞台稽古のとき、その前の『三番叟』を踊った父が、工藤の播磨屋(中村吉右衛門)さんや十郎の高砂屋(中村梅玉)さんなどの先輩をお待たせするのは申し訳ないと、格好は五郎でも顔は『三番叟』のままで(笑)、花道でその顔を見て、迫力ないなあーと思った記憶が強烈に残っています」と笑いを誘った。

『寿曽我対面』(H23.1新橋演舞場)左から、化粧坂少将=坂東巳之助、大磯の虎=中村雀右衛門、曽我五郎=十世坂東三津五郎©松竹

『対面』の五郎そのものを教わる機会は残念ながらなかったが、荒事の代表的な役である五郎が登場する舞踊作品の稽古はつけてもらったことがある。「体の使い方など、基本的なことはたくさん教えてもらいました。今よりもっと若い頃『草摺引』の五郎をやらせていただいた時、父に『顔が何か変だなあ』と言われ、ずっと化粧を直された。『何でだろうな?』とずっと左の眉毛を描き足されてどんどん太くなり、最後に『あ、右か』と右の眉を直されました」と笑った。荒事については「小難しいことを考えるな」と教えられた。「気をつけることや工夫することはもちろんあるが、それを考えないでできるようにする。気にせずできるようになるまで稽古しないとできない、ということなのだと思います」と、父の言葉を反芻する。

三津五郎亡き後、三回忌では歌舞伎座で『どんつく』が上演された。今回は歌舞伎座で二度目の追善公演。「菊五郎のおじ様が先頭に立って、追善をやろうよと仰ってくださり、僕はもとより父にとっても先輩にあたる方や、父と一緒にやってこられた皆さんがお顔を揃えてくださった。本当にありがたいの一言に尽きます。父が遺してくれた機会だと思う」としみじみ感謝の思いを口にした。

三津五郎の言葉で印象に残っているのは、踊りの稽古の時に言われたことだという。「基本的なことはもちろんしっかり教えるが、君(巳之助)のように手足が長くなったことも背が高くなったこともないから、自分の良い形、体の使い方は自分で探しなさい。それは教えてあげられないことだと言われたのは印象に残っています。現代人にしてみれば僕も決してすごく背が高くも手足が長くもないのですが、何しろ父は、寸法がちょうど良い(笑)。歌舞伎や歌舞伎舞踊、日本舞踊をやるためにちょうどいい手足の長さ、身長、それに対する顔の大きさ、すごく収まりの良い体型で、実力以前に羨ましかったので、そう言ってもらえたのは救いでした」と語る言葉の中に、父亡き後の坂東流(巳之助を家元とする日本舞踊の流派)を背負うプレッシャーも垣間見えた。

七回忌を迎える現在、巳之助にとって俳優の師匠であり先代の家元であり、父である三津五郎という存在について「こういうお役をさせていただくにあたり、父に教えてもらえたらと思わなくはないですが、それは見方次第。追善なので、父が亡くなっていなければ(自分が)演じる機会はないわけで、タイムパラドクックスのようですが、亡くなってしまったがゆえに僕自身に起こったことがたくさんあるので、父がいてくれたらと思うのは、自分の人生に対してちょっと無責任ですから。父が自分にとってどういう存在なのかは、考えることが難しいなと常々思っています。6年経ちましたが、6年ずっとそれは変わりません」と、言葉を選びながら、率直な心情を吐露した。

ピーク時に比べて、新型コロナの影響は落ち着いてきたように思えるが、確実な収束まではまだ見えていない。「松竹さんは、変わらず半分の客席と感染対策の徹底を頑なに守ってくださるので、我々としても安心して舞台に立たせていただいている。ただ、お客様一人ひとりの向き合い方があるので、今回大役で追善をさせていただくが、何をしてもぜひ劇場でご覧くださいとは言えない」と複雑な心境を語った。

11月『寿曽我対面』曽我五郎=坂東巳之助©松竹

『寿曽我対面』の舞台で、十代目三津五郎を偲びつつ、大和屋の将来を担う巳之助が歌舞伎屈指の荒事・曽我五郎に初めて挑戦する姿を、ぜひその目で確かめてほしい。

【公演情報】
歌舞伎座「吉例顔見世大歌舞伎」
令和3年11月1日(月)初日→26日(金)千穐楽
休演:8日(月)・18日(木)

◎第一部 午前11時開演

水口一夫 作・演出
一、『神の鳥(こうのとり)』

狂言師右近実はこうのとり(雄鳥)/山中鹿之介幸盛 片岡愛之助
狂言師左近実はこうのとり(雌鳥) 中村壱太郎
仁木入道 中村種之助
傾城柏木 上村吉弥
赤松満祐 中村東蔵

北條秀司 作・演出
二、『井伊大老(いいたいろう)』
千駄ヶ谷井伊家下屋敷

井伊直弼 松本白鸚
仙英禅師 中村歌六
老女雲の井 市川高麗蔵
お静の方 中村魁春

◎第二部 午後2時30分開演

十世 坂東三津五郎七回忌追善狂言
一、『寿曽我対面(ことぶきそがのたいめん)』

工藤左衛門祐経 尾上菊五郎
曽我五郎時致 坂東巳之助
曽我十郎祐成 中村時蔵
小林朝比奈 尾上松緑
八幡三郎 坂東彦三郎
梶原平次景高 坂東亀蔵
化粧坂少将 中村梅枝
秦野四郎 中村萬太郎
近江小藤太 河原崎権十郎
梶原平三景時 市川團蔵
大磯の虎 中村雀右衛門
鬼王新左衛門 市川左團次
後見 坂東秀調

河竹黙阿弥 作
二、『連獅子(れんじし)』

狂言師右近後に親獅子の精 片岡仁左衛門
狂言師左近後に仔獅子の精 片岡千之助
浄土僧専念 市川門之助
法華僧日門 中村又五郎

◎第三部 午後6時開演

河竹黙阿弥 作
渡辺霞亭 作
戸部和久 補綴
石川耕士 構成・演出
市川猿之助 演出
『花競忠臣顔見勢(はなくらべぎしのかおみせ)』
序幕
第一場 鶴ヶ岡八幡社頭の場
第二場 桃井館奥書院の場
第三場 稲瀬川々端の場
第四場 芸州侯下屋敷の場
第五場 同 門外の場
大詰
第一場 槌谷邸奥座敷の場
第二場 高家奥庭泉水の場
第三場 元の槌谷邸の場
第四場 花水橋引揚げの場
顔世御前後に葉泉院/大鷲文吾 尾上右近
河瀬六弥 中村歌之助
源蔵姉おさみ 市川笑也
高師直/戸田の局/河雲松柳亭 市川猿之助
晋其角 市川猿弥
大星由良之助 中村歌昇
井浪伴左衛門 松本錦吾
桃井若狭之助/清水大学 松本幸四郎
足利直義/お園 坂東新悟
寺岡平右衛門 澤村宗之助
大星力弥 中村鷹之資
塩冶判官/槌谷主税 中村隼人
龍田新左衛門 大谷廣太郎
赤垣源蔵 中村福之助
小浪 中村米吉
(五十音順)

〈料金〉1等席15,000円 2等席11,000円 3階A席5,000円 3階B席3,000円 1階桟敷席16,000円(全席指定・税込)
未就学児童は、満4歳よりお一人様につき1枚切符が必要です。
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹(10:00-17:00)0570-000-489
または東京 03-6745-0888 チケットWeb松竹 検 索
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/731

 

【取材・文/内河 文 写真提供/松竹】

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