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舞台『象』まもなく開幕! 小林且弥×安西慎太郎×伊藤裕一 インタビュー

お知らせ:本公演は、舞台稽古にて、出演者の安西慎太郎さんが怪我をされましたことにより、4月6日~8日の3公演を中止することとなりました。詳細 https://le-himawari.co.jp/releases/view/00993

俳優として映像や舞台に出演、またMCなど多彩なジャンルで活躍する小林且弥が、満を持して初演出に挑む舞台『象』が、4月6日にKAAT神奈川芸術劇場〈大スタジオ〉で幕を開ける(17日まで)。

脚本は、映画『オボの声』で第1回松田優作賞優秀賞を受賞するなど、映画監督でもある齋藤孝が書き下ろし、コロナ禍で廃業を余儀なくされたサーカス団の最後の一日を描いた物語を届ける。

《あらすじ》
廃業することとなった「びっくりサーカス・ノア」。
解団の日に集った団員は、今後の生活への不安や不満を口にしながら後片付けをしている。
殺伐とした空気を払拭するように、不遇の過去を持つ見習いクラウンがパフォーマンスを披露することになるのだが、サーカス団所有の象が業者に引き取られていないことが判明する。金を持ち逃げしたオーナーとは連絡がつかず、残された団員で象の処遇を話し合うのだが…。

主人公のクラウン見習い・松山悠太役に扮するのは安西慎太郎。幼少期から虐待を受けて養護施設で育ち、常に他人の顔色を窺い、愛想笑いや自分に嘘をつく癖があるという内向的な役に挑戦する。その松山の指導係で完璧主義なクラウンの根本賢役には、俳優、MC、脚本など多彩な才能を活かしてマルチに活躍する伊藤裕一が演じる。

そのほかに眞嶋秀斗、鎌滝恵利、伊藤修子、木ノ本嶺浩、大堀こういちが出演、個性豊かな7人のキャストが集結し、不条理に変化する社会の中で、人生を模索する登場人物たちの葛藤を描く。

この『象』という作品、そしてお互いについて、演出の小林且弥と安西慎太郎、伊藤裕一に語り合ってもらった。

安西慎太郎 小林且弥 伊藤裕一

生きづらい世の中で本当の自分とはなんなのだろうと

──今回の脚本は映像の世界で活躍する齋藤孝さんですが、小林且弥さんとは旧知の仲だそうですね。

小林 10年ぐらい前に坂井真紀さんと共演した『ビルと動物園』という映画でご一緒しまして、それ以来の長い付き合いです。齋藤さんも舞台の脚本は今回が初めてですが、彼に頼もうと思ったのは、舞台や映像に限らず大きなうねりみたいなものがある物語を書いてほしいという気持ちがあったことと、僕とは違う文脈みたいなものを書ける人がいいなと。齋藤さんはそういう物語の起承転結みたいなものを書くのがうまいので、お願いしました

──出演者はお芝居がうまくて陰影のある俳優さんが揃っていますが、キャスティングは脚本が出来てからですか?

小林 プロットの段階で僕の頭の中にはありました。でも顔合わせで確かに僕も感じました、みんな闇があるなと。

安西・伊藤 ははは(笑)。

──おふたりは台本を読んだときの印象はいかがでした?

安西 今、この状況の中で変わり続ける世の中を映していて、とても良い題材と脚本だなと思いました。コロナ禍になって僕自身も生きづらさみたいなものを改めて突きつけられたんですが、それは僕だけじゃなくて、みんなそれぞれの立場での生きづらさがあって。そういう部分でこの話は今の時代にとてもフィットしていると思います。

伊藤 先ほどの話にも出たように陰影とかコントラストがはっきりしている本だなと。コメディとしてもやれるし、社会派としても作れる。そして、コメディ方向に舵を切れば切るほど、この作品の持っている不気味さも浮き彫りになってくると思うし、逆に闇を出そうとすればするほどコメディになっていくんじゃないかなと。かなり得体の知れない、いろんな意味で広がりを見せていくような作品だ思っています。

──安西さんの演じる松山は道化の修業中で、トラウマがある内向的な青年ですが、今の時点で理解とか感情移入できそうなところなどは?

安西 まだちゃんとは理解できていないですね。彼の気持ちでわかる部分もありますが、すごく難しいです。

小林 松山だけでなく、人って自分で自分のことがわからない、自分は何者なのかということも今回の1つのテーマです。今、社会がすごく変わっていってるし、どんどん監視社会になっている。一応民主主義ですけど、でもやっていることは戦争をしていた時代にみたいに余裕がないし、何事につけ他者にならざるを得ない。その中で本当の自分ってなんなんだろうというのがあって。良い意味でも、負の側面でも、自分のポジションを取って生きるみたいな生き方を、今の日本の社会では要請される。松山はそういう世の中の被害者というか、本人はそんなふうには思ってないんだけど、その代表の1人で。でもそれは松山だけでなくみんなが実はそうで、自分は違うんだと思っているけれど、それは自分がラインを引いて逃れているだけで。いや俺はそんなんじゃないと自分で決めたときに、もうそれは本当の自分ではないんじゃないか。そういう話を齋藤さんとしているうちに、今回の脚本ができあがっていったんです。

もともとの指導力に演出家という肩書きが加わっただけ

──伊藤さんが演じる根本は、完璧主義の道化ですが、いろいろな局面で出方が変化して、伊藤さんならではという役ですね。

小林 たぶん裕一くんにはすぐ出来ちゃうと思うんですけど、実はこの脚本ってニュアンスがわりと狭いというか、僕の読み方、慎太郎の読み方、裕一くんの読み方と、それぞれの読み方があって、それを針の糸を通すくらいの細心さで通していかないと、あるシーンは良くても全体を通すとなかなか難しいというのがあるんです。これけっこうたいへんじゃん!と今思っています。

──大きな流れというか太い幹のためにはディテールを棄てるみたいなことも?

小林 そうですね。どっちかなというところは出てくると思います。でも僕が望んでいるのは、まずその人であってもらいたいということで。それはさっき話したみたいに役者さんに他者になれということではなくて。今、僕の頭の中にはこうかな?というイメージがありますけど、稽古の中で役者はどんどんそこからはみだして行くと思っているんです。そして大きな流れができたときに、どちらに賽を振ったらいいのかなと考えることになるだろうなと。そういうことがすごく面白いし、楽しみなんです。たぶんもう二度と演出をすることはないと思うので。

安西 え、もう嫌になっちゃったんですか?(笑)

小林 いやいや(笑)。

──伊藤さんから見て小林さんの演出について感じることは?

伊藤 俳優として共演させていただいて、且弥さんのカリスマ性というようなものは感じていましたから、今回が初演出と言われても初めてのようには思えないです。もともと若い俳優さんからの信頼が篤い方で、お芝居のアドバイスなどもされてきたので、そこに演出家という肩書きがついただけで、もともとそういう気質の方がそれを存分に発揮できるようになっただけだと思っています。それに俳優をメインにされているだけに、俳優の気持ちもよくわかって、理論もありつつ改善策とか気持ちの流れなどに俳優ならではのアクセスをしてくださる。逆に言うとそれだけにこちらはもう逃げ場がない(笑)。

安西 そう。わかります(笑)。

伊藤 理想というか、「これをやるためにはこうすれば出来る、なおかつ俺も出来るけどね」みたいなところがあるから(笑)。

──それは演じる側としてはちょっと大変ですね。

伊藤 いや且弥さんがそうされてるということではなくて、僕が勝手にそう思ってるだけですから(笑)。でも、この人なら絶対できるよなと思うと、とてつもないプレッシャーになるんです(笑)。

──安西さんもプレッシャーを?

安西 いや、そこまでは(笑)。演出という意味では初めて共演したときから、「この人演出家やらないのかな?」ぐらいに思っていたので、演出家席に座っているのは初めて観ましたけど、全く違和感ないです。接し方も俳優同士で一緒に作っているときとほとんど変わらないし、僕には僕に対する接し方で、伊藤さんにもいつも接しているときと変わらなくて、それぞれへの接し方や伝え方で作っている。それを見ると、演出家というより人としてやっぱりカリスマ性があるなと思います。

小林 そのカリスマ性って言葉ダサイよ。古くない?(笑)

安西 いや最近あまり使わないから逆にいいんですよ。一巡してカッコいいかなと(笑)。でもカリスマという言葉でおさまる器の人じゃないですけどね。

──表面的な意味ではなく、実際に指導力や牽引力があるということですね。

安西 そう、そういう意味なんです。

──稽古では自分で演技してみせるほうですか?

小林 そういうこともありますが、自分のコピーをやってほしくないので、できるだけお任せしたいなと。

伊藤 模倣してほしいためではなくて、自分自身でやることで間尺を測ってみるみたいなことだと思います。その俳優が今悩んでいることを体感してみて、それでまた演出するみたいなことだと。

小林 自分が気になっているというか、「ここうまくいってないよね」みたいなところしかやらないです。ちょっとノッキングを起こしているところについて共有できればいいので。なんか演出家席から眺めてものを言うみたいなのは嫌なんです。言葉で言うより共有して一緒によくしていきたいので。

──同じ目線に立ってくれる。そういうところがカリスマなんですね。

伊藤 見出し決まりましたね(笑)。

小林 いや、絶対に変えてもらいます!(笑)。

「小林且弥さんが初演出する作品」なので期待していただきたいです!

──役者としてのお二人について、今回の役への期待も含めて語っていただきたいのですが。

小林 二人とも魅力的な役者で、慎太郎に関して言うと整然としてない感じがいいんです。ただ散らかってるわけじゃなくて、整然としてない何かのバラつきみたいなものが色んな色になったりする。そのバラついた状態だけで耐久力があって観れてしまう。ちょっと抽象的な言い方ですけどそういう魅力ですね。初めて会ったときいくつだっけ?

安西 21とかです。

小林 年々経験を積んでいって、さっき話に出たコントラストというか陰影も濃くなってて、自分を表現する設置点というか色みたいなものも、まだこれから変わっていくと思いますが。この先もお芝居をやっていて、「上手い」と言われる役者より「いいね」と言われる役者、そしてその先に「凄いね」と言われる役者になってほしいですね。その可能性はあると思ってるし、もっと言えば「安西慎太郎ならこれ」とかカテゴライズされることから逃げていってほしい。本人もそんなに迎合する人間ではないと思っていますが、安西慎太郎という「生き物」として、自分に正直にありのままに役者を続けていってほしいです。

──安西さんは良い意味でカオスを抱えている役者さんに見えますし、カオスのまま豊かになっていただきたいですね。

小林 なんかデジタルな役者さんっていますよね。本人の気質とか、舞台は人に見せるものだからということもあって。でもそうするとどんどん生っぽさがなくなっていく。慎太郎の年代はそういう役者が多いと思うけど、その中で慎太郎はそれを選択していないというか、本人もできないと思うので、それでいいと思っているんです。

──そして伊藤さんは、とにかくいろいろな顔がある役者さんですね。

小林 僕の中では生活感との距離がすごくある役者さんで、会話していても芝居でも底知れないところがあって、奥行きが深い。慎太郎も「裕一さんって奥が見えないですよね」と言ってましたが。それに、陽か陰かでいうと陰なんだけど、その中で陽にも見える瞬間がすごくある。そういう伊藤さんに、根本というこの作品の中で数少ないまともな人をやってもらってます。まともというか生活感のある役をやってもらいたかったんです。伊藤さんは華やかなところも持っていて、でもそうじゃないところで如何に生っぽくいてくれるか、そういうところが観たかったので。今回は全員そうなんですけど、僕が観たいなという人になってもらっています。

──そんな且弥さんの演出と、演じる役者さんたちを拝見するのが楽しみです。最後にお客様へのメッセージをぜひ。

伊藤 この作品はコメディでもありますし、途中には観たくなくなるぐらいツライ部分も出てきたりするので、とても感情を揺さぶられると思います。でもちょっと観ていて苦しくなるものを観ることで、逆にストレスを解消できるという説もあります(笑)。最終的にはカタルシスを感じていただけると思いますので、生きづらい今だからこそ、ぜひこの作品を観に来ていただきたいです。

安西 なによりもまず、小林且弥さんが初演出する作品なので期待していただきたいです。僕は初めて且弥さんに会ったときは、「凄いな」とふわっと思ったぐらいだったんですが、7年ぐらい経った今、その「凄いな」が「本当に凄いな」になっているんです。それに、僕が一番心を動かされた役者さんが且弥さんなので、その人の演出でやれるのがすごく嬉しいし、本気でがんばっています。今回の舞台は360度から観られる形なので、お客さんが物語を覗き見るような感覚で楽しんでいただけるのではないかと思っています。ぜひ劇場まで来てその感覚を味わってください。

小林 この時期に観に来てくださるわけですから、来てくださった方には絶対に何かをお返ししたいと思っています。そして、とにかく役者さんたちが良かったなという舞台にしたいです。それが一番の目標です。

安西慎太郎 小林且弥 伊藤裕一

■PROFILE■
こばやしかつや○山口県出身。2002 年、ドラマ『東京ぬけ道ガール』(NTV)でデビュー。2013 年公開の『凶悪』で魅せた演技で注目を浴び、数々の映画やドラマに出演。近年の主な出演作は、映画『マエストロ!』(2015)、『あゝ、荒野』(2017)、『ゼニガタ』(2018)、  ドラマ『メディカルチーム  レディ・ダ・ヴィンチの診断』(2016/CX)、『頭取 野崎修平』(2019/WOWOW)など。る・ひまわりの舞台公演は、る・ひまわり×明治座 祭シリーズ 2014『聖☆明治座  る・の祭典』主演の黒田官兵衛役、祭シリーズ 2020『忠臣蔵 討入・る祭』主演の大石内蔵助役などのほか、毛利亘宏(少年社中)脚本・演出で世界の英雄たちを描く『英雄』シリーズ全作、鈴木勝秀×る・ひまわり企画『僕のリヴァ・る』『僕のド・るーク』『ウエアハウス-double-』など多数出演している。

あんざいしんたろう○神奈川県出身。2012 年に青山円形劇場にて初舞台を踏む。その後、2.5 次元作品からストレートプレイまで幅広く経験し、現在では広い意味での「俳優」ではなく「舞台俳優」であることを念頭において活動している。主な出演作は、ミュージカル『テニスの王子様』2nd シーズン、舞台『もののふ白き虎―幕末』、『僕のリヴァ・る』、『遠い夏のゴッホ』、『四月は君の嘘』、『ゆく年く・る年冬の陣  師走明治座時代劇祭』、『野球』、『絢爛とか爛漫とか』、『明治座の変  麒麟にの・る』、一人芝居『カプティウス』など。

いとうゆういち○神奈川県出身。俳優、MC、脚本など多彩な才能を活かし幅広く活動している。主な出演作品に映画『シン・ゴジラ』、『進撃の巨人』、『東京喰種トーキョーグール【S 】』、ドラマ『獣になれない私たち』、舞台『~崩壊シリーズ~』、『黄昏』、『+ GOLD FISH』、『楽屋』、『モンテ・クリスト伯』『魔法使いの嫁  老いた竜と猫の国』『僕とナターシャと白いロバ』『フェイス』『楽屋-流れさるものはやがてなつかしき-』『本日も休診』、ミュージカル『SMOKE』など。る・ひまわり作品には、年末“祭”シリーズに 2 年連続出演。

【公演情報】
舞台『象』
脚本:齋藤孝
演出:小林且弥
出演:安西慎太郎 眞嶋秀斗 鎌滝恵利 伊藤裕一 伊藤修子 木ノ本嶺浩 大堀こういち
●4/6~17◎KAAT神奈川芸術劇場 大スタジオ
〈料金〉9,800円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
・イープラス  https://eplus.jp/zou2022/
・チケットぴあ  https://w.pia.jp/t/le-himawari-zo/ (Pコード:511-040)
・チケットかながわ https://www.kanagawa-arts.or.jp/tc/
0570-015-415(10:00~18:00)
※おかけの際は番号をお確かめのうえ、お間違いのないようお願いいたします。
・カンフェティ http://confetti-web.com/zou2022
0120-240-540 ※通話料無料・オペレーター対応(受付時間 平日10:00~18:00)

〈公演サイト〉https://le-himawari.co.jp/galleries/view/00132/00611

 

【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】

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