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医学の発展に寄与した人たちの話を描く! 扉座創立40周年記念公演『解体青茶婆』 横内謙介インタビュー

横内謙介が主宰する劇団扉座が40周年を迎えた。その記念公演の1つとして横内が書き下ろし、演出する新作『解体青茶婆(かいたいあおちゃばば)』が、6月26日に厚木文化会館 小ホールで開幕した。(27日まで。その後、6月30日~7月11日、座・高円寺1で上演)

コロナ禍における公演であることで医学をテーマとし、杉田玄白の『蘭学事始』に記された、江戸の蘭方医たちによる人体解剖見学の顛末を描き出す。

また今回は、感染予防対策として稽古場や楽屋を密にしないために、出演者も9人に絞り込み、劇団の実力者を中心とした座組で、社会性、芸術性を高め、重厚で硬質なセリフ劇の面白さを堪能できる作品となっている。

【あらすじ】
明和八年(1771年)小塚原の刑場で、青茶婆と呼ばれた毒婦が斬首される。養育費目当てで幼児を引き取っては殺していたという希代の悪人。この鬼婆の死体が、我が国の医学の発展に寄与することになった。蘭方医の杉田玄白、前野良沢らは人体内部の観察が不可欠であると知りつつも、漢方が正統とされたこの時代、その機会が得られないでいた。それが青茶婆の死体に限って奉行所より珍しく腑分けの許可が下りる。その見聞が解剖書『解体新書』の翻訳出版と言う偉業に繋がった。

この新作『解体青茶婆』の内容について、また創立40周年を迎えた劇団扉座について、横内謙介に話してもらった。

オランダ人も日本の大罪人も体の中身は一緒なんだと

──今回のタイトルの意味からまず伺いたいのですが。

青茶婆というのは江戸時代にいた毒婦で、処刑されたあと解剖されたのですが、それを杉田玄白、前野良沢、中川淳庵ら蘭方医が見学することが出来た。それがのちにオランダの解剖書『ターヘル・アナトミア』を翻訳して『解体新書』として世に出すことに繋がりました。ただ、解剖つまり腑分けは、当時は小伝馬町での処刑御用の人たち、処刑された死体の処理などを行う被差別階級の人たちしか出来ないので、その時も彼らが腑分けするのを玄白たちは見学しただけなのですが、その様子を後年、玄白は著書『蘭学事始』に記します。僕は以前、『奇想天外☆歌舞音曲劇げんない』という平賀源内を主人公にしたミュージカルを、愛媛の「坊っちゃん劇場」で作ったんですが、平賀源内は玄白とは親友でしたから、玄白についても調べたんです。

──そして今回の『解体青茶婆』が出来上がったのですね。玄白たちは、その解剖でいろいろな新しい知識を学んだでしょうね。

解剖が何を明らかにしたかというと、これは僕の推察なのですが、源内も玄白も「人間というのは同じ中身なんだ」と知ったのではないかと。彼らがそれまで見ていた『ターヘル・アナトミア』は、オランダ人の体の解剖書で、それは日本人の参考にはならないと言われていたんです。当時は医学といえば漢方の時代で蘭方などは御法度で、漢方は薬草、薬による治療で人間の体内にはあまり興味がなかったんです。ところが青茶婆を解剖してみたら、オランダ人の解剖図と一緒だった。それが彼らを『解体新書』の翻訳に向かわせることになった。医学のためという理由もありますが、オランダ人も日本の青茶婆も体の中身は一緒だということを知らせることもあった。青茶婆は他人の子供を育てると言ってお金をもらっておいて、その子供を次々に殺した大罪人です。でもそんな大罪人でも体の中は同じだと、人間は実はみんな一緒なんだと。玄白が禁制を破っても本を出さないといけないと思ったのは、それが社会正義であり、病気を治すために必要な知識だからだったんです。でもそれに寄与したのは被差別階級の人たちであり、大罪人の体だった。そこがすごく興味深いなと。去年1年、コロナ禍で家に引き籠もっていた時期に、このあと何をやろうか考えていたんですが、「医療従事者」という言葉を毎日耳にするようになって、そういうことも含めて医学についての芝居を作ろうと思ったんです。

老境の玄白は何を思い、何を書き残していこうとしたか

──物語はどんな内容になっているのですか?

まず83歳になって死を間近にした玄白が出て来ます。彼は80歳から回顧録として『蘭学事始』を書き始めていたのですが、記憶が不十分なので、弟子の大槻玄沢に手伝ってもらいながら、『蘭学事始』を書いています。そこに青茶婆の幽霊が出てきたり、本当は腑分けをするはずだったけれど当日逃げ出した虎松という男が出て来たりします。玄白はその虎松についても書いていて、逃げ出してしまった男のことをなぜわざわざ書き残したのだろうと、僕の作家魂に火がついて(笑)、それを繋げてみようと思ったんです。

──青茶婆は誰が演じるのですか?

中原三千代がやります。恐ろしいですよ(笑)。虎松は犬飼淳治です。「本当はこの座敷にも上がれるような身分ではない」という虎松を、玄白たちは招き入れて、腑分けのときの正しい記録を残すために話を聞くんです。そういう証言者たちの話で『蘭学事始』という本が出来上がろうとしている。そこで玄白は何を思い、何を言い残していくのか。その老境の玄白を有馬自由が演じます。彼には「あと30年できるからライフワークにしてください」と言って台本を渡しました。

──他の方たちの役も教えてください。

岡森諦は奉行所の近習で得能万兵衛、やはり『蘭学事始』に出てくる実在の人で、玄白に手紙で「骨が原(小塚原)で腑分けをすることが許されたので、来たければ来てください」と知らせてくれた人です。そもそも腑分け自体が簡単には許されていないわけですが、それを見ることを許してくれた奉行所の人間がいた。本の中には1回しか出てこないのですが、わざわざ書き残しているのは、きっとそこにメッセージがあるんだろうなと。玄白が書いたことだけでなく、書き残せなかったことまで想像させます。それから山中崇史はさっき話に出て来た弟子の大槻玄沢で、玄沢は玄白と前野良沢の2人から名前を貰っている秀才で、のちに蘭学者として近代日本に繋がる仕事もしています。それから砂田桃子が蘭と呼ばれて、本名はヤソという玄白の娘です。蘭は志を持っていたけれど江戸時代だから女性が蘭方医になるのは許されなくて、家にずっといたんです。その許婚者である宇田川玄真は新原武が演じます。宇田川も門人で優秀だったけれど女性問題を起こして破門されるんです。素行が悪いと(笑)。でもあまりに優秀なのでみんなの力でまた戻ってきた。大槻玄沢門下の四天王の1人です。そして鈴木利典と小川蓮は老玄白を世話しながら学んでいる門弟の役です。

目覚めた人たちとそれを実行する人たちが世の中を変えていく

──今回登場する杉田玄白と彼を囲む人たちは、医学のためなら身分制度や禁忌という枠も超えてしまう。それは当時としては凄いことですね。

新しいことに目覚めた人間たちで、その衝動も自分の利益のためではないんです。玄白も「これをやると世の大益になろう」と書き残していますから。演劇はダメな人間の話のほうが面白いんですけど(笑)、こんな立派な人たちがいたというのをやるのもいいかなと思って。読めないオランダ語の本をなんとか翻訳しようとするんですからね。しかも当時は蝋燭の灯りで暮らしていたわけで、その灯りで遠い国の本を読んでいた。うちの劇団の『お伽の棺』は蝋燭の灯りでの芝居だったので、今回も蝋燭でやりたいんですけど、さすがに劇場が座・高円寺では蝋燭だけでは無理なので、照明の力も借りながら、江戸時代の蘭学教室で真実を探求しようとしている人たちの姿を、雰囲気だけでも再現してみたいと思ってます。

──この18世紀後半は江戸300年の後期に入る時期ですが、多少は自由な空気があったのでしょうか?

ちょうど老中が田沼意次で、賄賂の話なども出てくる人ですが、本当なら公には認められていない蘭学なども奨励していて、長崎から図鑑や医学の本なども江戸に入ってきているんです。『ターヘル・アナトミア』も、平賀源内がこういう本があるから翻訳しないとだめだと言ってくれた。それで読めもしないオランダ語を始めるわけで、何人かの変わり者というか目覚めた人がいて、その目覚めた人だけではなく、それを大真面目に実行する人がいて、そういう出会いが世の中を動かすんです。ただ田沼が失脚すると、あっという間に反動がくるわけで。たとえば女性の自由なども奪われて、小唄とか三味線の師匠も女が教えてはいけないと禁じられる。その話は蘭の話として出てきます。

──いつの時代でも国の意向で民衆は振り回されますね。でもそういう時代でも自分たちの求めるものを追求していった人たちの話は、このコロナ禍で「不要不急」と言われている演劇の世界にも勇気を与えてくれます。

今、芝居をやる意味ってみんな考えたと思うんですよね。演劇人全員が。そしてこの時期にやる以上、こちら側も覚悟とか上演する理由をいつも以上に持たないと気持ちを保ちきれない。もちろん観に来る方たちもそれなりの覚悟を持って来ているわけで。これまでうちの劇団はわりと祝祭感で公演していたけど、今は祝祭感じゃないなと。もう観劇後の宴会もコミュニケーションもないから舞台上にあるものが全てで。それをいかに共有して、その時間があって良かったねと言ってもらうしかない。本当は創立40周年だからまさに祝祭のはずだったんだけど(笑)、これも運命だったんだなと。だからこそ自分たちがやっていることを、40周年にきちんと示さないといけないと思っています。40周年の重みやプライドを舞台の上でしっかりとお見せしたいなと思います。

40年続けてきた劇団とともに、コロナ後の演劇状況を見届けたい

──今回の作品は、なんと新日本フィルハーモニー交響楽団とのコラボレーションがあるのですね。

うちの公演の音楽は、昨年暮れにやった『お伽の棺』だと,過去にモンゴル民謡とか韓国民謡を歌ってもらって、昨年のでは藤原道山さんのお弟子さんに参加していただいたのですが、基本的に生音、アンプラグドでやりたいと思っているので、今回もバイオリン奏者の人が2人参加してくれます。新日本フィルとなぜコラボすることになったのかというと、墨田区繋がりなんです。去年、劇団の飯田橋の事務所を閉めて、登記も千代田区から墨田区に移したんです。それを知って新日本フィルの方がわざわざ訪ねてきてくれて、去年緊急事態宣言が出てからいろいろな助成金が出て、新しい試みにも助成金が下りるので、扉座が墨田区に来たなら、新日本フィルと一緒に出来る企画を考えていきませんかという提案をいただいたんです。新日本フィルはすみだトリフォニーホールが本拠地なので、本当にお隣さんで。そういう新たな出会いがあって、まずは今回バイオリン奏者の人が2人出演してくださることになりました。次は僕らがあちら側に参加するかたちで考えているところです。

──40年という歴史ある劇団だからこそでしょうね。いわゆる”小劇場”の時代の劇団で40年も続いているのは本当に数えるほどです。

このコロナ禍があって逆にもっと続けようという気になりました。以前のような演劇の活況が戻るのをちゃんと見届けるまで、劇団をやめるわけにはいかないなと。この1年、本当に考えさせられました。演劇はずっとあると思っていましたからね。そして、やっぱり演劇のほかに何やるんだと、ちゃんと演劇をやりたいと。

──コロナ禍でさまざまに分断されている状況の中で、劇団という絆があることは強いと思います。

コロナ禍の中で、やっぱり最後は家族と劇団、仲間だなと。劇団の仲間は血縁にこだわらず家族と呼べるもので。今、稽古中ですが、誰もマスクを外していない。これで劇場での最後のゲネまで行くんですが、マスクしていても顔はわかってるから、どんな顔してセリフを言っているかもわかるんです。初めて会う俳優さんだとゲネで初めて顔を見ることになったりするから、そのへんは劇団の強さだなと(笑)。今、僕はスケジュールがすごいことになっていて、でもこの作品は内容も決まっていたから早めに書いておこうと思って、稽古開始の1か月以上前に書き上げて渡したんです。新作でそんなに早いのは珍しいんですが、それで稽古初日に覚えておいてくださいと。そして稽古を始めたら、みんな台詞が全部入ってるから稽古の進み方が早い早い!(笑)そういうのも劇団の良さで、新しいことやるにしてもべースができているとやりやすい。

──今回は硬質なセリフ劇ということですが、これだけの精鋭メンバーですから観応えがあるでしょうね。40周年記念の良いスタートになりますね。

暮れには全員が結集します。『ホテルカリフォルニア―私戯曲県立厚木高校物語』という作品で、初演が1997年で今回が三度目です。作ったときに「すごく年を取ってからやったら面白いだろうな」と思ったけど、まさか還暦でできるとは思わなかった(笑)。うちの劇団の原点の話で僕と六角と岡森が出会う話で、そのとき厚木高校がどんな変な高校だったか、今の社会の歪みとか、良いところも悪いところも全部あった。そんな高校で生まれた劇団が今もやっている。それがそのままメッセージになると思います。ほぼオリジナルキャストに出てもらいますから、ある意味ここで祝祭ができるなと。でも、まずはその前にこの『解体青茶婆』を観ていただかないと(笑)。我が国の医学の発展に大きく寄与した人たちの物語を、この時期だからこそ観ていただきたいので、無理のない範囲でぜひ劇場へいらしてください。

よこうちけんすけ○東京都出身。82年「善人会議」(現・扉座)を旗揚げ。以来オリジナル作品を発表し続け、スーパー歌舞伎や21世紀歌舞伎組の脚本をはじめ外部でも作・演出家として活躍。92年に岸田國士戯曲賞受賞。最近の扉座公演は『歓喜の歌』『郵便屋さんちょっと2017』『江戸のマハラジャ』『無謀漫遊記~助さん格さんの俺たちに明日はない~『新浄瑠璃 百鬼丸』『最後の伝令 菊谷栄物語 -1937津軽~浅草-』『お伽の棺2020』『10knocks~その扉を叩き続けろ~』『リボンの騎士 ー県立鷲尾高校演劇部奮闘記ー』。扉座以外は、ミュージカル『奇想天外☆歌舞音曲劇げんない』(脚本・演出・作詞)『HKT指原莉乃座長公演』(脚本・演出)スーパー歌舞伎II『ワンピース』(脚本・演出)スーパー歌舞伎II『オグリ』(脚本)パルコ・プロデュース『モダンボーイズ』(脚本)六月大歌舞伎第三部『日蓮』(構成・脚本・演出)『スマホを落としただけなのに』(脚本・演出)などがある。

【公演情報】
劇団扉座第70回公演 劇団創立40周年記念
『解体青茶婆』(かいたいあおちゃばば)
作・演出:横内謙介
音楽監修:新日本フィルハーモニー交響楽団
出演:岡森諦 中原三千代 有馬自由 山中崇史 犬飼淳治 鈴木利典 新原武 砂田桃子 小川蓮
バイオリン演奏:吉村知子 ビルマン聡平

●6/26・27◎厚木市文化会館 小ホール
●6/30~7/11◎座・高円寺1
〈料金〉前売:当日共 5000円 学生3000円[要学生証・扉座のみ取扱](全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉劇団扉座 03-3221-0530(12:00~18:00土・日・祝休、公演中平日12:00~15:00)
〈公式サイト〉https://tobiraza.co.jp

 

【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】

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