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日々の葛藤も愛も全てをパイに昇華するミュージカル『ウェイトレス』上演中!

女性クリエーターが紡ぎ出すからこその、現代女性のリアリティーあふれる姿を、甘いパイでくるんだミュージカル『ウェイトレス』が、日比谷の日生劇場で上演中だ(30日まで。のち4月4日~11日福岡・博多座、4月15日~19日大阪・梅田芸術劇場メインホール、4月29日~5月2日愛知・御園座でも上演)。

『ウェイトレス』は、2007年公開のアメリカ映画「ウェイトレス~おいしい人生のつくりかた」をベースに製作されたブロードウェイミュージカル。2016年3月にブロードウェイでの上演が始まるや否や、瞬く間に記録的興行成績を上げ、全米ツアー公演、及び、ロンドン・ウェストエンド公演でも大好評を博した。グラミー賞のノミネート歴を持つサラ・バレリスの楽曲を始め、脚本、作曲、演出、振付の主要クリエイティヴを全て女性クリエイターが担当したことも、ブロードウェイ史上初の出来事として注目を集め、圧倒的な支持を得た。今回の日生劇場での上演は、そんな作品の日本初演で、主人公ジェナ役に、近年はNHK連続テレビ小説、民放ドラマ、映画など、数々の映像作品で主演を担ってきた高畑充希が扮するのをはじめ、多彩で魅力的なキャスト陣が集結。作品に新たな息吹を吹き込んでいる。

【STORY】
アメリカ南部のとある田舎町。とびきりのパイを出すと評判のレストランでウェイトレスとして働くジェナ(高畑充希)は、ダメ男の夫・アール(渡辺大輔)の理不尽な束縛による辛い生活から現実逃避するかのように、自分の頭にひらめくパイを作り続けている。一方、ジェナのウェイトレス仲間のドーン(宮澤エマ)は、オタクの自分を受け入れてくれる男性がこの世にいることを信じられず恋愛に臆病だったが、出会いを求めて投稿したプロフィール欄にオギー(おばたのお兄さん)からメッセージが届いて上の空。また、姉御肌のベッキー(LiLiCo/浦嶋りんこ Wキャスト)は、病気の夫の看病と仕事を両立しながら、料理人のカル(勝矢)と毎日のように言い争っていた。

そんなある日、ジェナはアールの子を妊娠していることに気付き、訪れた産婦人科の若いポマター医師(宮野真守)に、「妊娠は嬉しくないけれど子供は産む」と正直に身の上を打ち明ける。診察日の度にポマター医師と語り合い、彼に惹かれはじめるジェナ。ポマター医師もまたジェナへの想いを抑えられず、二人はお互いが既婚者と知りながら、遂に一線を越えてしまう。

それでも出産の日が刻一刻と近づいてくるジェナに、店のオーナーのジョー(佐藤正宏)が、「全国パイづくりコンテストに出場して賞金を稼いだらどうか?」と提案する。その言葉をきっかけに、ジェナは優勝して賞金を獲得できたら、アールと別れようと強く決心するのだが……

劇場に入った途端に目に入る様々なパイの陳列ケースや幕の印象からはじまる、あくまでもポップでカラフルなイメージと、この作品が描こうとしている女性の自立や、どんなに男女同権を願っても、自身の身体にも大きな負荷のかかる妊娠、出産という大事業は女性が担うしかない、という現実の重さとには、良い意味でかなりのギャップがある。既に愛しいという気持ちを失ってしまった夫との間に、望まない子供を授かってしまったヒロインの葛藤や、登場人物たちそれぞれが置かれた環境は、驚くほどシビアでむしろディープだ。

それでも、この作品が決して重くなりすぎることなく、女性だけに限らず懸命に生きる人々へのエールを運んでくれるのは、躍動感にあふれる演出、振付、更に時に美しく、時にユーモラスにまたキッチュに繰り広げられる、ミュージカルナンバーの力によるところが大きい。正直2016年にブロードウェイで初演された作品、僅かに5年前に製作された作品が、主要クリエイティブを全て女性クリエーターが担ったはじめてのブロードウェイミュージカルだという事実には、だからこそ逆に女性が社会進出を果たしていくことの難しさを表現した「ガラスの天井」という言葉を思い出させる驚きがあるが、だからこそ作品の持つ逞しさ、どんな困難も自らの才能とユーモアで切り拓いていこうとする精神の横溢に、心打たれずにはいられなかった。

そんな、苦しい現実の全てを甘いパイ生地にくるんでいく作品の、軽やかな甘さの部分をきちんと前に出してくれたのは、どこにも穴がないと感じさせる、実力と華を兼ね備えたキャスト陣の活躍故に他ならない。

ヒロイン・ジェナを演じる高畑充希は、近年多くの映像作品で大活躍を続けているが、いま尚愛され続けているファミリーミュージカル『ピーターパン』の8代目ピーターパンを務めた、本来はミュージカルをホームグラウンドにしてきた人。その資質が今回のジェナ役に大きく寄与していて、モラスハラスメントを受け、離婚を望んでいる夫との子供を身ごもってしまった女性の焦燥と、それでも生まれてくる母性との間で葛藤する女性像を瑞々しい強さを持って演じている。ポマター医師との出会いに心ときめく様、ドーン、ベッキー、カル、ジョー等、店の仲間たちに寄せる信頼等々、ジェナの見せる様々な表情が魅力的で、このヒロインを自然に応援したくなる。緩急の豊かな歌唱面も充実していて、やはり舞台でも是非引き続いて活動して欲しいと思わせる主演ぶりだった。

その高畑演じるジェナと恋に落ちるポマター医師の宮野真守が、「声優界のプリンス」と呼ばれ、歌手活動でも絶大な人気を誇る人だからこその存在感で魅了する。ジェナが心を寄せるのも無理はないと思わせる姿の良さはもちろんだが、あのプリンス・宮野真守にこんな一面があったのか!と驚くほど、軽やかでユーモラスな動きが面白く、かつチャーミングなことにワクワクさせられる。本人が演じることを楽しんでいるのが手に取るように伝わるのも、舞台の明るさを支えていた。

ジェナが心からの信頼を寄せるウェイトレス仲間ドーンの宮澤エマは、メガネがとびきりよく似合うどこまでもキュートな外見と、思い込みが激しくコアな内面を持つ、思えば作品世界全体に通じるギャップを抱えた女性を活写。作品の大きなスパイスになっている。

同じくウェイトレス仲間で、ジェナに愛ある厳しいアドバイスもする姉御肌のベッキー役にはWキャストが組まれていて、映画コメンテーター・歌手等、多方面で活躍中のLiLiCoの回を観たが、ミュージカルは今作が初挑戦だということがむしろ信じられないほど、自然に舞台に位置しているのに感嘆した。情熱あふれる映画紹介と同じパワフルな雰囲気が役柄にピッタリで、質の高いミュージカルデビューになった。

『レ・ミゼラブル』『天使にラブ・ソングを~シスター・アクト~』等、数々の作品で豊かな歌唱力と演技力を発揮してきた浦嶋りんこのベッキーも、また独特の魅力を放つことだろう。Wキャストならではの妙味も楽しみだ。

ジェナを束縛するモラハラ夫のアールに、『1789─バスティーユの恋人たち─』『ロミオ&ジュリエット』『オン・ユア・フィート』など、多くのミュージカル作品で活躍している渡辺大輔が扮し、信頼に足る頼もしい青年像を多く演じてきた人だけに、この思い切った役柄への挑戦に驚いたが、そうは言ってもアールにもどこか放っておけなくなる魅力があると思わせたのは、渡辺が演じたからこその効果。作品の苦みを軽減する力になっている。

また、ドーンに想いを寄せる粘着質なオギーを演じるおばたのお兄さんの、機械仕掛けの人形のようにさえ見える身体能力の高さと歌唱力は喝采ものだし、3人のウェイトレスに囲まれて働く、店長兼シェフのカルの勝矢の、大柄な体躯と強面な雰囲気と心根の優しさの対比が生きたし、レストランのオーナー・ジョーの佐藤正宏が、一見厳しい態度の中に誰よりもジェナのパイを評価して、自立の後押しをする役柄を印象的に見せている。「困った時には年寄りに助けを求めろ」と歌うナンバーの滋味深さも胸にしみた。

 

全体に、妊娠・出産・離婚・自立・子供の養育など、一人の女性の人生の岐路を、キャッチーな楽曲に乗せて描き出したミュージカルならではのスピード感が生きていて、日々の困難を甘いパイ生地でくるんでしまおうという、生きていく機微を感じさせる作品になっている。

【囲み取材】

浦嶋りんこ、宮澤エマ、高畑充希、宮野真守、LiLiCo

初日を前に囲み取材が行われ、高畑充希、宮野真守、宮澤エマ、LiLiCo、浦嶋りんこが舞台衣装で登場。作品への抱負を語った。

──いよいよ初日を迎える今の心境は?

高畑 1月からずっと皆でお稽古をしてきて、マスクをしながらどんな顔なんだろうと思いながら皆と一緒にお芝居をしてきました。海外のスタッフにもリモートで演出したりしてもらいながら、どうなるかわからない中で一生懸命やってきたので、やっとお客様と一緒にこのミュージカルを楽しめるんだとワクワクしています。すごく楽しみです。

宮野 とても嬉しく思います。今までとは全く違う環境での作品作りになったので、稽古中は不安に思うこともたくさんあったんですね。でもカンバニーの皆が本当にあったかくて、こんな状況だからこそ一丸となって作品作りができたのではないかなと思うし、やっと皆の顔を見て芝居ができたので、なんて芝居って楽しいんだろう!と思います。その僕らの思いも感じてもらえると思いますし、何よりお客様がエンタメを求めて下さった、こんな状況にも関わらず劇場に来て下さるということを本当に嬉しく思っています。

宮澤 今日の初日が迎えられたのは、たくさんの奇跡があってのことだと、キャスト・スタッフ全員が思っていると思います。リモートで演出をつけて下さったり、リモートで音響や振りを気にして下さる、コロナ禍でなければ逆に出来なかったというくらいの最先端のテクノロジーを使った、色々な人の力でこの舞台は今日を迎えられているので、本当に嬉しいという気持ちです。私は去年コロナ禍で舞台が中止になってしまったので、ミュージカルの舞台が一年ぶりなんです。この一年を経て、リモートで演出をして下さったアレックスからの、まだ演劇が始められる見通しが全くついていない、だからあなたたちが先駆者となって劇場業界を盛り上げて下さい。というメッセージを感じて、今日の初日に挑みたいなと思っています。

LiLiCo 皆に届けたい素晴らしい作品です。曲も、キャラクター全員も。そして私は50歳にして今日ミュージカルデビューを致します!お稽古の時は本当にポンコツだったので、それを皆がずっと色々教えてくれて。やっと歌詞を覚えて充希ちゃんを見たら「カワイイ!」って言ってまた間違えちゃったりして(笑)、ホントに大変だったんですけれども、今日は楽しんで下さい!もちろんコメディなんですが、すごく感動できるところもいっぱいあって。Wキャストの良いところは観られるということで、私皆より先に観たの!ごめんね(笑)。すごく良い作品なのよ!それを早く皆に届けたい!そんな気持ちです。

浦島 私はWキャストなので、LiLiCoさんの初日を客席から観せて頂くという幸運なことになっております。今回はベッキー役だけがWキャストということで、色々変則的な稽古の仕方があって、それをスタッフの皆さんと、海外のスタッフの方々が合同で話し合いながら進めて頂けたので、感謝の気持ちでいっぱいです。お客様の拍手が聞こえる中でできるということを本当に嬉しく思っています。客席で皆さんを応援したいです。

──高畑さんはこの作品を海外でご覧になっていたそうですね?

高畑 最初はニューヨークで拝見したのですが、あまりにも感激してしまって。曲も素晴らしいし、もう一回観たいなと次にロンドンに行ったのですが、もう1回観たらまた観たくなって、またニューヨークで観ました。何度観ても楽しい作品ですし、それを日本語で、日本のキャストで上演できるのがすごく幸せですし、それに自分が出てるなんて!本当にカンパニーに恵まれたと思いますし、お客様が入って最後のピースが入る感じがしているので、めちゃめちゃワクワクしています。最初は自分がやるとは全く決まっていないまま観たので、やりたい!とはもちろん思いましたけれども、なんて楽しいミュージカル!というものが先にありました。日本に帰って、こんなに素晴らしいミュージカルがあって、チャンスがあったらやりたいな~と言っていたら叶ったので。プレッシャーもありましたし、ジェナという役が30代前半の役なので、私はまだ少し若いのでどうかな?とも思いましたが、声をかけて頂けて本当に良かったと思います。稽古場で歌っていても、聞いていてもこの曲に触れられるだけで幸せと言うか、全く飽きずにずっと聞いていたい曲たちばかりでした。内容も日本語になってなるほどそういうことか!という発見もあって、それを皆で深めていく作業がとても楽しい稽古場でした。

宮澤 私もブロードウェイで2017年頃に観ているのですが、その時は充希ちゃんと全く同じで、楽しいし歌もキャッチーだし、でも話はものすごくディープだし、アメリカ南部のどこかの街のダイナーで働く女性たちの物語で、共通点のあるシチュエーションではないのに、大号泣ってこういうことかな?と思うほど嗚咽混じりで泣きながら観ました。しかも向こうではパイも売っていましたから、パイも食べて劇場を出た時には浄化されている、宗教的なくらいの体験をしました。ですからこの作品が日本にいつかくるのであれば、何らかの形で関わりたいと思っていたんです。その後『ウェイトレス』の演出のダイアン(パウルス)さんがやはり演出を担当されている別の作品に出た時に、『ウェイトレス』の話になって「あたなドーンにピッタリだと思うのよね」とポロッと言って下さって!喜びながらも社交辞令だと思っていたら、本当にオファーが頂けたので、縁ってこういうことなのかなと思いました。

──高畑さんと宮野さんは舞台初共演にして不倫をするという。

宮野 ディープな感じの関係です。年に1回くらいはバラエティで会っていたよね。

高畑 そうそう。だからポップな味付けとは言え、かなり色々なことがあるミュージカルで絡むのは大丈夫かなと思いましたが、細かく相談しながら稽古ができてすごく心強い存在でした。

宮野 やっと一緒にお芝居ができたのですが、すごく楽しくて引き込まれました。一方的に客席から観劇している時にも引き込まれて、充希ちゃんから目が離せないという感じでしたが、実際相手役となった時に、充希ちゃんと対面すると物語の登場人物に自然になれるんです。それが楽しくて仕方がなくて、本当にボマターとして、ジェナとして喋っていられるのが素晴らしいなと思っています。

 

──モラハラに、不倫に、シングルマザーとなかなかディープな内容ですが…

LiLiCo でも皆そういうの好きでしょう?(爆笑)

宮澤 今までのミュージカルってお姫様が出てくるようなものが多かったと思いますが『ウェイトレス』はリアルに現代の物語なので、出てくるキーワードは結構ディープですが、そういう現実や、生活の中でどうやって人生を生きていくか?をコメディで包んでいるので。

──ジェナには酷い夫がいますよね?

高畑 そうなんですけど、可愛いところもあるんですよ。

LiLiCo ジェナだね!

高畑 一応ジェナが主人公のストーリーですが、登場人物ひとり一人が皆愛すべきキャラクターで、色々な人の人生がどんどん切り替わって、どの人もとても好きです。だからこそ豊かなミュージカルになっているのかなと思っているので、酷い旦那にも(笑)注目して欲しいし、素敵な生バンドを早く聞いて欲しいです。

──LiLiCoさんはそんな夫だったらどうですか?

LiLiCo どうだろう、でも私結構色んな経験があるからな(笑)。

宮野 カッコイイ!

高畑 LiLiCoさんめちゃくちゃ気遣いをして下さる優しい方なので、ああいう夫だったら夫だったで合わせちゃえると思う。

LiLiCo ギターとかも修理しちゃうとかね(笑)。

高畑 夫がギターを壊すシーンがあるのですが、確かに修理しちゃいそう!

──では高畑さん、最後に代表してメッセージを

高畑 ポップなコメディミュージカル、女性への応援歌という形で受け留められていると思いますが、その中にリアリティもある作品です。かつてのあの自分はどこに行ってしまったんだろうという、取り戻せなくなってしまった自分をどう取り戻すか?というテーマがあるので、とても楽しいミュージカルナンバーや、早い展開と同時に、そういうディープなものを美しいパイに包んでいます。ミュージカルを見慣れている方も、そうでない方も、こういう作品があるのかと感じて頂きたいですし、どう感じて頂けるのかも楽しみです

【公演情報】
ミュージカル『ウェイトレス』
脚本◇ジェシー・ネルソン
音楽・歌詞◇サラ・バレリス
原作映画製作◇エイドリアン・シェリー
オリジナルブロードウェイ振付◇ロリン・ラッターロ
オリジナルブロードウェイ演出◇ダイアン・パウルス
演出補◇アレックス・ヒューズ
音楽スーパーバイザー◇ライアン・キャントウェル
振付補◇アビー・オブライエン
翻訳・訳詞◇高橋知伽江
日本版演出補◇上田一豪
出演◇高畑充希 宮野真守 宮澤エマ LiLiCo/浦嶋りんこ(Wキャスト)
渡辺大輔  おばたのお兄さん 勝矢 佐藤正宏 ほか
●3/9~30日◎東京・日生劇場
〈料金〉S席14.000円 A席9.000円 B席4.500円
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777
〈公式ホームページ〉https://www.tohostage.com/waitress

【全国公演】
●4/4~11◎福岡・博多座
●4/15~19◎大阪・梅田芸術劇場メインホール
●4/29~5/2◎愛知・御園座

【取材・文・撮影(囲み)/橘涼香 舞台写真提供/東宝演劇部】

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