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扉座『Kappa ~中島敦の「わが西遊記」より~』開幕! 横内謙介・犬飼淳治・北村由海 インタビュー

劇団扉座の第75回公演として『Kappa ~中島敦の「わが西遊記」より~』が、5月13日に厚木市文化会館・小ホールで幕を開けた(14日まで、そののち5月17日~28日、東京公演を座・高円寺1にて上演)。

この作品は、小説家・中島敦の未完の大作「わが西遊記」の連作「悟浄出世」「悟浄歎異-沙門悟浄の手記-」を原作に、横内謙介が独自の視点解釈を加え、新作脚本として書き下ろしたもので、演出も手がけている。

主人公となるのは河童の沙悟浄。横内謙介は彼についてこう語る。「悟浄は引き籠もりの青年であり、心に思っても口に出さない大人であり、語りはしても自ら動こうとしない傍観者です。それは現代を漂う我々そのものの姿であり、中島敦の描いた悟浄の苦悩と屈託は、我々の病理だと思うのです」(座・高円寺にむけてのご挨拶より)。

昭和の戦時下、中島が書き綴った頭でっかちで行動を起こすことが出来ず、焦燥感に苛まれながら己と向き合うばかりの沙悟浄が、三蔵法師の旅に加わり、悟空たちの力を畏怖しつつ生まれ変わってゆく姿を通して、この時代を生きる人々に伝えようとするものは?

本作の稽古場を訪ね、作・演出の横内謙介、扉座の実力派俳優で今回は猪八戒役を演じる犬飼淳治、そして妖怪三姉妹の長女メダカを演じる期待の若手・北村由海にこの作品への取り組みを語り合ってもらった。

犬飼淳治 北村由海 横内謙介

「わが西遊記」は自分探しの青春小説

──中島敦といえば「山月記」が有名ですが、「西遊記」についての小説も書いていたのですね。

横内 まず試作的に短篇の「悟浄出世」と「悟浄歎異」を書いて、そこから長編で「わが西遊記」としてまとめるつもりだったようです。でも33歳で亡くなってしまった。だから未完の大作なんです。僕は彼の作品が好きで読んでいたので、2014年に大谷亮介さんから還暦記念の一人芝居を頼まれたとき、この短篇2作をもとに猪八戒を主人公にして書いたんです。それで次は沙悟浄を中心に書こうと思って、今回やっと書くことができました。

──「わが西遊記」の主人公が沙悟浄というのはなぜなのでしょう?

横内 孫悟空と猪八戒はアクティブで欲望がわかりやすいんですが、沙悟浄はインテリで、そのために苦悩したり、自分探しの旅として三蔵法師に付いてきているみたいなところがある。自分探しは僕たちの世代の大きなテーマでしたが、中島敦にとってもそうだった。つまり我々を映し出す存在が沙悟浄ということで、これは今になってわかったことなんですが、中島敦が書いた「わが西遊記」は青春小説なんです。文体が難しいからそう見えなかったけれど、実はすごく青臭いんです。でもそれこそが今の時代に必要だし、僕たちをリスタートさせてくれる気がする。だから今回、沙悟浄の年齢も少し上げて書いてあって、それは僕ら世代にとっては二度目の自分探しだからということなんです。

──その作品で、犬飼さんは三蔵法師とともに旅をする猪八戒の役です。

犬飼 僕は先ほど話に出た大谷さんの公演を観ちゃってるんです(笑)。でも僕は大谷亮介さんではないので、自分なりの、この年齢になったからこそ自分にしかできない芝居をするしかないと思っています。

横内 大谷さんってちょっとしたことをすごく面白く見せることができる人だからね。それを今回、犬飼には超えてもらいたい。

犬飼 すごいプレッシャーです(笑)。

──台本を読んだ印象はいかがでした?

犬飼 僕は入団して28年ぐらいになるんですが、横内さんは毎回新しいものを目指していて、「あ、今回はそういうものを目指しているんですか!」といつも驚かされるんですが、今回もそうです。でも、劇団が毎回同じ傾向の作品をやることは、演じるほうも観る方も安心感があると思いますが、やはりマンネリになってしまう。横内さんは絶対に同じようなものは作らないのでいつも新鮮なんです。

形はデコボコだけど滋味豊かな役者たち

──北村由海さんは、妖怪三姉妹の長女役です。

北村 メダカです。次女でどんこ役の大川亜耶と三女の金魚役の佐々木このみと一緒に、沙悟浄や三蔵法師一行のエピソードを繋いでいくような役割を担っています。

──長女役ということで妹たちを引っ張っていく役割ですが、普段の北村さんは?

北村 劇団では私が少し先輩なのですが、一番しっかりしているのはどんこ役の大川亜耶かもしれません。今、3人でそれぞれ意見を出し合いながら、自分たちの場面を作っていて、観てくださる方たちが妖怪三姉妹が出てくるのを楽しみにしてくれるように作っていきたいです。

──昨年末の『最後の伝令 菊谷栄物語-1937津軽~浅草-』の再演では、北乃祭という大役に抜擢されましたね。

北村 今まで演じたことがないような大きな役でしたから、緊張もしましたが、逃げずにちゃんと向き合っていこうと思って取り組みました。すごく楽しかったし、自信がつきました。

横内 劇団を農場として考えると、うちの農場の特産物としては、形はちょっとデコボコだけど滋味豊かなジャガイモとかカボチャとか(笑)、そういう役者を育てたいと思っていて。北村の先輩にあたる中原三千代とか伴美奈子などは、今回ほかの舞台に出演していて、この『kappa』には出られないんですけど、僕は彼女たちは重要文化財と言ってもいいとさえ思っているんです。そして今回妖怪三姉妹になる3人は、それを継承できる人たちだと思っていて、3人で作れる場面がいっぱいあるので、ここで一緒に成長してくれたらいいなと期待しています。

──犬飼さんから見て北村さんはいかがですか?

犬飼 実は北村は研究所での教え子なんです。1公演演出したこともあったので、こうして劇団に残って一緒の舞台に立てることがとても嬉しいんです。それだけに『最後の伝令』で抜擢されたときは自分のこと以上に嬉しかったし、がんばってほしいなと思いました。

──及第点でしたか?

犬飼 主役の1人ですからね。それをちゃんとやれていたので、たいしたもんです。

北村 ありがとうございます!

──自分でも成長した感覚はありますか?

北村 いろいろな役を演じるためには、そのための技術を身に付けていかないといけないし、できることを広げていかないといけないと思うんです。それに、自分の中で使い回しできるものとできないものを見つけることも大事なのですが、私はそういうことがすごく遅いほうなので。

犬飼 いや、自分で言うよりちゃんとできているよ。僕は心配してないし、劇団外でもちゃんとやっているので頼もしい限りです。

──犬飼さんも役の幅が広くて、しかもどの役もいつも作り込みが徹底していて見事です。

犬飼 そんなことないです。ただ、劇団に入ったばかりの頃、先輩の杉山良一さんから言われたことがあるんです。「岡森(諦)や六角(精児)は強烈な個性があるからそのまま出ればいいけど、お前みたいな個性がないやつはちゃんと作っていかないとだめだ」と。

横内 さすが杉山だな、良いこと言ってくれた。彼も犬飼と同じようなタイプだったからね。

一巡遅れて逆に先頭を走っているように

──今回の『Kappa』の物語ですが、「わが西遊記」に「山月記」も絡めているのですね。

横内 岡森が演じる魚怪先生という存在は、「山月記」に出てくる隴西(ろうせい)の李徴(りちょう)という人がモデルなんです。「山月記」は教科書にも載っていましたが、僕がちゃんと出会ったのは、高校の演劇部の先輩にすごく大人びた人がいて、その人と「山月記」について話したことがあったからで。その人は「俺は人と馴染むことが苦手だし、どうやって生きていったらいいのかわからない。李徴の気持ちがよくわかる」と。僕自身はよくわからないながらも、そのときの話はずっと残っていたんです。そしてこの年齢になってみたら、中島敦の屈託みたいなものがよくわかる。若いときのような頭だけでわかるというのではなく、止まって考えることの意味とか、そういうものがしみじみとわかるんです。「考える」ということについての演劇なんて、面倒くさいんだけどね。でも、たとえばある種の噺家の人たちが、ふっと話しはじめる何ていうことのないネタの中に、そういうものが滲みでたりする瞬間があって。(立川)志の輔さんなんかも独演会の中で、「ちょっと好きなネタなんですけど」とか言ってやるようなそういう噺に、自分で何かを見つけられる部分があって、わりと好きなんです。そういうものを今回は作ってみたかった。それは作る側も成熟しないとできないことだから。そして今なら「山月記」についてちゃんと伝えられるなと。

──「考える」という意味では、思想も哲学も見失ったようなこの時代ですが、それでも人は、自分とは何か、何のためにここにいるのか考えずにはいられない。中島敦の文学は、その何かを探るための道筋の1つになる気がします。

横内 僕らの世代には、原点としてそういうものを考えないといけないというのがあった。でもそれだけでは古くさいということで、新しいものを追いかけたりもしたけど、でも原点はそこにあるから演劇をやっているわけで。今回、沙悟浄を演じる有馬(自由)なんかも同じ世代なので、ウソのない芝居をしてくれるんじゃないかと思っています。若い世代にどう伝わるかはわからないけれど、僕にはこの作品が今すごくしっくりくるんです。

──やはり表現活動を長く続けてきた横内さんのアンテナが、この時代に必要なものをキャッチしているのを感じます。今はすでに次の世界大戦の戦前に入っているとも言われますが、中島敦がこれらの作品を書いたのは、まさに第二次世界大戦の戦前という時期でした

横内 自分の感覚を信じるということで言えば、今、明治座で7月終わりから上演する『隠し砦の三悪人』の脚本を書いているんですけど、この映画の脚本を読むと、超娯楽作品なんだけど人間の品格を外さないストーリー作りとか、人に観せるものを作る誠意とは何かとか、黒澤明のヒューマニズムとかが見えてくる。そういうものについて安直だとか否定することは勝手だと思うけど、僕はそこに共感するし、そういうところで育ったのだなとしみじみ思うんです。だから古い新しいではなく、自分にとって大事で心地よいところで作っていきたい。そして、そうやっているうちに一巡遅れて逆に先頭を走っているように見えたりしたら面白いなと(笑)。

愛することと行うことが、すなわち考えること

──では最後に改めてメッセージを。

北村 人を食べるグルメツアーをしている妖怪三姉妹の長女メダカとして、どんこと金魚と一緒に、沙悟浄さんの自分探しの合間にちょこちょこ出てきますので、見逃さないでいただければ嬉しいです。がんばります。

犬飼 今回の作品には思想とか哲学の話が出てきます。僕は横内さんたちの世代より一回り下なので、そういうことはあまり考えずにきたのですが、今、この作品を通して考えさせられている毎日です。ただ、この舞台はそれに加えて扉座ならではのエンターテインメントもありますし、アクションもあります。皆さんがよく知っている「西遊記」という世界に、また新しい形でスポットを当てた面白い舞台になっていると思います。楽しみにしていてください。

横内 まず、中島敦という作家がこの作品でまたスポットが当たればいいなと。この物語の中で彼は「傍観者であることを恥じよ」みたいなことを書いていて、それは自分自身を含めて、インテリに対する痛烈な批判なんです。歴史にせよ物事にせよ、愛することと行うことが、すなわち考えることなのだと彼の結論として書いていて、「西遊記」からそんなことを引っ張ってくること自体がすごいことで。それは1990年頃に世界に影響を与えたヴィム・ベンダースの映画『ベルリン・天使の詩』のテーマでもあって、中島敦は1910年代にそういう話を書いて、戦争に突入しようとしている時代に傍観者であることの悲しみと寂しさと至らなさを、自分に突きつけていた。その思いみたいなものを今の自分たちにうまく重ねられたらと思っています。それと、今回、残念ながら文化庁からの予算が下りなくて、小道具や衣装など自分たちで作っています。それは劇団だからこそできることで、みんなで一丸となって作品づくりをしていることが、きっと今後に生かされると思っています。とにかく扉座総出でがんばっていますので、ぜひ劇場に足をお運びください。

犬飼淳治・北村由海・横内謙介

■PROFILE■

よこうちけんすけ○東京都出身。82年「善人会議」(現・扉座)東京都出身。1982年「善人会議」(現・扉座)を旗揚げ。以来オリジナル作品を発表し続け、スーパー歌舞伎や21世紀歌舞伎組の脚本をはじめ外部でも作・演出家として活躍。92年に岸田國士戯曲賞受賞。扉座以外は、ミュージカル『奇想天外☆歌舞音曲劇げんない』(脚本・演出・作詞)、『HKT指原莉乃座長公演』(脚本・演出)、スーパー歌舞伎II『ワンピース』(脚本・演出)、スーパー歌舞伎II『オグリ』(脚本)、パルコ・プロデュース『モダンボーイズ』(脚本)、坊っちゃん劇場『ジョンマイラブージョン万次郎と鉄の7年ー』、歌舞伎『日蓮』(脚本・演出)歌舞伎『新・三国志』(脚本・演出)、『スマホを落としただけなのに』(脚本・演出)。7月に明治座『隠し砦の三悪人』(上演台本・演出)が控える。

いぬかいじゅんじ○北海道出身。95年劇団扉座入団。俳優として舞台・ドラマ・映画などに出演、劇団公演以外でも活躍中。ドラマ『水戸黄門』(TBS)『相棒IV』(テレビ朝日)、映画『ハナミズキ』、外部舞台「椿組・新宿花園野外劇」、ミュージカル「刀剣乱舞」~江水散花雪~など。最近の扉座公演は『解体青茶婆』『扉座版 二代目はクリスチャン-ALL YOU NEED IS PASSION-』『ホテルカリフォルニア -私戯曲 県立厚木高校物語-』『神遊(こころがよい) ―馬琴と崋山―』『最後の伝令 菊谷栄物語-1937津軽~浅草-』など。ユニット「道産子男闘呼倶楽部」でも活動中。

きたむらゆみ○京都府出身。2014年扉座研究所(第18期生)入所、16年扉座入団。最近の扉座公演は『リボンの騎士2020~県立鷲尾高校演劇部奮闘記~』『ホテルカリフォルニア-私戯曲 県立厚木高校物語-』『神遊(こころがよい) ―馬琴と崋山―』『最後の伝令 菊谷栄物語-1937津軽~浅草-』。外部舞台は『スマホを落としただけなのに』など。

【公演情報】
劇団扉座第75回公演
『Kappa ~中島敦の「わが西遊記」より~』
作・演出:横内謙介
出演:岡森諦 有馬自由 犬飼淳治 累央 鈴木利典 新原武 松原海児 紺崎真紀 小川蓮
砂田桃子 小笠原彩 北村由海 佐々木このみ 大川亜耶  ほか
(※出演予定だった客演の菊池均也さんは体調不良で降板、代役は劇団員の小川蓮がつとめています。)
●5/13・14◎厚木市文化会館・小ホール
〈料金〉4,500円 2,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈チケット問い合わせ〉扉座 03-3221-0530
〈扉座公式サイト〉http://www.tobiraza.co.jp
●5/17~28◎東京公演 座・高円寺1
〈料金〉前売・当日共5,000円 学生券3,000円[扉座でのみ取扱・当日学生証持参](全席指定・税込・未就学児童入場不可)
★ミナクルステージ<5月17日(水)19:00の回>3,500円(前売・当日共)
〈チケット問い合わせ〉扉座  03-3221-0530
〈扉座公式サイト〉http://www.tobiraza.co.jp

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

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