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新たなる王と新生宙組の誕生が重ねあわされた『エクスカリバー』開幕!

新トップコンビ芹香斗亜&春乃さくらのプレ披露公演である、宝塚宙組公演ミュージカル『Xcalibur エクスカリバー』が、東京建物Brillia HALLで上演中だ(8月5日まで)。

ミュージカル『Xcalibur エクスカリバー』は、『マタ・ハリ』『笑う男』など数多くの作品を手掛けミュージカル界に躍進している、韓国の制作会社EMKミュージカルカンパニーが、世に名高い「アーサー王伝説」を基に作曲家フランク・ワイルドホーンを始めとする豪華クリエイター陣を世界から招聘して新たな解釈で描いた作品。2019年に韓国で初演されて以来、2022年のアンコール上演までで、韓国ミュージカル界の最高興行作品として親しまれた。今回の宝塚宙組公演は、そんな作品の日本初演で、前任トップスター真風涼帆からバトンを受け継いだ新トップスター芹香斗亜に、イングランドの新たな王となるアーサーの存在をなぞらえ、新生宙組の門出にスタートダッシュをかけるべく、稲葉太地が潤色・演出を施しての上演になっている。

【STORY】
六世紀のイングランド。各国の王たちが壮絶な領土争いを繰り広げている時代。
暴君と恐れられるウーサー・ペンドラゴン(雪輝れんや)の悪逆非道な行いが敵味方の別なく多くの犠牲を生んでいく様を憂いたドルイド教の預言者マーリン(若翔りつ)は、ウーサーに授けた聖剣エクスカリバーを取り上げ岩山に封印。聖剣の力を失ったウーサーは絶命する。

月日は過ぎ、イングランドの森の中で父親のエクター(松風輝)、実の兄のように慕うランスロット(桜木みなと)らに囲まれて育ったアーサー(芹香斗亜)は、戦乱の続く世にありながらも、いつか仲間たちと平穏な暮らしができる日がくると信じ懸命に生きていた。そんなアーサーの前に突如マーリンが姿を現し、アーサーが亡き王ウーサー・ペンドラゴンの遺児であり、イングランドに執拗に攻撃を仕掛けるサクソン族からこの国を守れるのはアーサーだけだと告げる。はじめは思いもよらなかった出自を信じることができず混乱するアーサーだったが、大切な人たちを守るために自らの運命を受け入れることを決意。誰も引き抜くことができなかったエクスカリバーを、岩山から苦もなく引き抜く。

イングランドの新たな王となるアーサーを人々が歓呼して迎え入れるなか、一人の美しい女性グィネヴィア(春乃さくら)がやってくる。彼女は度重なるサクソン族の襲撃で苦しむ女性たちのために、当の女性たちも立ち上がって戦うべきだとの強い意志を持ち、ランスロットとの手合わせでも互角の戦いを見せる。その勇敢さにアーサーは心を射抜かれ、新たな王にすべての希望を見出していたグィネヴィアもまたアーサーに敬愛の念を抱き、二人が互いに惹かれあうのに時間はかからなかった。ランスロットもまた勇気と聡明さを持ち合わせるグィネヴィアに思いを寄せるが、何より大切な二人のため自らの気持ちを押し殺す。

一方、アーサーの腹違いの姉であるモーガン(真白悠希)は、ウーサーの命により長く修道院に幽閉されていたが、侵略してきたサクソン族の王ウルフスタン(悠真倫)に、亡き父の居城ペンドラゴンへ案内できると持ち掛け、ようやく修道院から出ることに成功する。だがそれは同時に、幼き日に自分に魔術を教え、幽閉後もただひたすら再会の日を待ち続けていたマーリンから、死んだと聞かされていたアーサーが生きていると知ることでもあった。誰よりも信頼していたマーリンの裏切りに直面したモーガンは、復讐の念を募らせアーサーとマーリンを追ってかつてドルイド教の聖地であったキャメロットに向かう。突然現れて姉だと名乗るモーガンに戸惑いながらも、その不幸な境遇を癒したいと願ったアーサーは、すぐさま立ち去れと警告するマーリンを押しとどめ、モーガンをキャメロットに迎え入れる。

そのキャメロットの地でアーサーの戴冠式が行われる。愛するグィネヴィアが王妃となり、上座も下座もなく自由に意見を交換することのできる円卓に座る、ランスロットをはじめとした「円卓の騎士」と共に、エクスカリバーの力のもと誰もが平等に暮らせる世界を目指して戦うことを宣言するアーサー。だが、二人を祝福するランスロットの胸の奥に隠した複雑な思いを、モーガンは目ざとく感じ取っていた。その最中再びサクソン族が攻撃をしかけてきて……

「アーサー王伝説」は、5世紀から6世紀にかけて、ブリテン島で多民族の侵攻を撃退したと伝えられるイギリスの神話で、それを基にいまなお多くの作品が作り続けられている。宝塚歌劇でも、現在東京宝塚劇場で星組が上演中の『1789~バスティーユの恋人たち~』と同じ、ドーヴ・アチアによって2015年パリで初演された、フレンチ・ミュージカル『アーサー王伝説』を、珠城りょうの月組トップスタープレ披露公演として2016年に上演していて、こちらは『キング・アーサー』のタイトルで、今年2023年新国立劇場をはじめ全国で、浦井健治主演での一般ミュージカルとしても上演された記憶も新しい。また、2011年には真風涼帆バウホール初主演作品であり、作・演出家生田大和のデビュー作『ランスロット』が。更に遡って1998年には、宝塚歌劇団5番目の組として誕生した宙組の大劇場お披露目作品だった、小池修一郎の『エクスカリバー』も上演されるなど、多くの作品が生み出され続けている。基本的には「新たなる王の誕生」というテーマが、新トップスターを戴く度に「新生〇組」と称される宝塚歌劇の在り方にフィットすることと、魔法使い、精霊、そして人が当然の如く共に在る神話の時代のファンタジー世界が、作品に自由な解釈の余地を広げていることが、クリエイターたちの創作意欲を掻き立てるのだろう。

ただ、この時系列で言えば1996年小池修一郎の『エクスカリバー』から、今回のミュージカル『Xcalibur エクスカリバー』に至る道程に於いて顕著になっていったのが、神に王として選ばれたアーサーが自己の存在意義に悩み苦しみ、時には闇に堕ちながらも、未来を切り拓こうとする生き様に作品の焦点があってきたことだった。つまり、神の啓示や、言ってしまえばすべてがどうにでもなる魔道にドラマ進行を頼るのではなく、人が真摯に懊悩する姿を丁寧に描くことで、遥か神話の物語に現代性を持たせる作業がなされているのだ。特に今回のミュージカル『Xcalibur エクスカリバー』は、韓国の制作会社EMKミュージカルカンパニーによって制作されていることが大きく、アーサーが育ての親である父エクターに全幅の信頼を置き、彼を敬い続ける姿に象徴される「家族の物語」としての視点が強く出たのは、まさにお国柄を象徴するものだろう。湖の騎士として円卓に加わるランスロットに、はじめからアーサーと共にいる義兄の役割も担わせた極めて斬新な設定や、アーサーの腹違いの姉であるモーガンの思いが、アーサーではなくマーリンに向いていることも、そうした家族観や近親者に対する規範を重んじる思考の延長線上にあると思われる。また、これまで物語世界の「お姫様」としては活発で活動的、という描き方をされてきたグィネヴィアに、自ら弓を手に戦場で戦う女戦士の側面を持たせていることも、現代の価値観を強く感じる志向として興味深いものだった。

同時に、作品がどこかオペラを思わせるほど、フランク・ワイルドホーンのミュージカルナンバーの連続で紡がれているのも、それこそオペラやコンサート同様に、キャストの迫力の歌声でしばしばショーストップの喝采が起きる韓国ミュージカルの特性を表していて、従来の宝塚歌劇で慣れ親しまれた作劇とは少なからず構成が異なっている。特にこれは韓国生まれのミュージカルに限らず、海外ミュージカルを宝塚が上演する際に常に感じることだが、宝塚作品が基本的にはスターシステムのなかでソロナンバーが配置されるのとは違い、例えば年配の役柄にも大きなソロや、デュエットナンバーがあって、意外な人材の歌唱力に触れる機会になることが多い。特に今回は「コーラスの宙組」と称される、宙組選抜メンバーがワイルドホーンの楽曲のなかでも、古典を意識してかクラシカルな要素が強く感じられる大曲揃いのナンバーをよく歌っていて、多彩な発見があった。その一方で、この作品は、前述したようにトップスターを頂点とした宝塚歌劇が常に根底に置いているスターシステムと、役柄の比重にやや開きがあり、キャスティングに相当の苦心もあったと推察されるが、それが新トップコンビ芹香斗亜&春乃さくら率いる「新生宙組」の新鮮さとつながったのは幸運だった。

その新トップスター芹香斗亜は、花組で若くして二番手男役となり、宙組の前任トップスター真風涼帆就任と同時に宙組に組替え。二番手男役として長く真風を支えて組の中核を担ってきた間に培った数多の経験を、いったんそぎ落としたかのように、純粋な青年アーサーを表出してきたのに驚かされた。父親に対して、ランスロットに対して、またグィネヴィアに対して見せる信頼や、思慕の念がストレートに出る温かい笑顔が新鮮で、何より後半モーガンの誘導から闇に堕ちていく表現に、二番手時代に多く経験した主人公に立ちはだかる敵役にも通じる黒の魅力がふんだんにありつつ、こちらの方がニンだとは全く思わせなかった二枚目の資質の噴出がまぶしい。神話というより童話的なほどフェミニンな河底美由紀のパステルを基調にした衣装も着こなし、宝塚歌劇が新たなトップを戴く度に「新生〇組」と称されることのマジックを体現した、新宙組トップスター芹香斗亜の誕生を讃えたい。

その芹香の相手役、トップ娘役として初お目見えの春乃さくらは、実力派の娘役としてコツコツと積み上げてきたものを、現代性を多く持ったグィネヴィア役に投影させていて、颯爽とした登場に迷いがないのが美しい。本来はファルセットの娘役らしい歌唱により真価のある人だと思うが、音域の広いワイルドホーンメロディーにも果敢に臨んでいて、芹香とのデュエットもよく響き親和性の高さを感じさせた。まだまだ未知の魅力を秘めている、期待感の大きなトップ娘役デビューになった。

ランスロットの桜木みなとも、芹香に続く男役として、これまでにも作品のなかで大きな比重を占める役柄を務めてきた経験値が生きて、アーサーの兄貴分という異色の設定のランスロットを十二分に演じている。芹香をリードしていく役柄に無理を感じさせないのがまず大きいし、グィネヴィアへの秘めた思いや葛藤を、台詞のない場面でも繊細に表現している。なかでもそのグィネヴィアへの愛を、弟同然のアーサーのために封印しようとする「HOW DEEP THE SILENS」にはじまるソロナンバーの伸びやかさは、十全な歌唱力を改めて知らしめた恰好。新生宙組の未来は明るいと感じさせる存在だった。

さらに、今回の作劇のなかで、非常に大きな比重を占めているドルイド教の司祭で魔術を操るマーリンの若翔りつと、アーサーの異母姉モーガンの真白悠希の堂々たる演じぶりと、歌いっぷりに圧倒された。戯曲自体のドラマツルギーとしては確実にこの二人の役柄が鍵を握っていて、これまでも実力派として知られてきた若翔が水を得た魚の如き活躍ぶりを見せたのも目に立つが、更に鮮烈だったのがモーガンの真白。これまでにも例えば『HiGH&LOW-THE PREQUEL-』での宝塚オリジナルキャラクター、ロン役などの印象的な役柄はあったものの、ここまでの大役は新人公演でも演じていないのでは、と思わせるモーガン役を十二分に務めた姿に驚愕した。音域の果てしなく広いソロナンバー、デュエット、トリオも堂々と歌いきっていて、長身の男役揃いの宙組で、さほど大柄ではなかったことを、女性役を無理なく演じられる要素に好転させたのが素晴らしい。娘役が演じるとどちらがヒロインなのかが判然としなくなったやもしれぬ、宝塚独特の危険を回避した作品にとってまさしく影のMVP。若翔と共々、これからの活躍が楽しみだ。

また、宙組組長に就任した松風輝が、これも比重の大きいアーサーの育ての親エクターを滋味深く演じて、歌唱力の確かさとあわせて頼もしい新組長としての存在感を発揮。専科から特出のサクソン族の王・ウルフスタンの悠真倫の憎々しいと言いたい居住まいも作品に欠かせず、イングランドを狙う諸国をサクソン族に集約している作劇をよく支えた。その悠真率いるサクソン族のヘアメイクが攻めていて、アスガルの大路りせを筆頭に、それぞれよく似合い、個性を発揮していて面白い。一方、キャメロットの円卓の騎士は、衣装がどこか聖職者風で、ここは如何にも騎士という王道の衣装でも良かったように思うが、ケイの真名瀬みらをはじめ、演じる面々は真摯な騎士道精神を感じさせていて、一節ずつのソロや台詞は今後に向けての良い経験値になることだろう。

ほかにも出番こそ冒頭だけながら、ドラマのなかでずっと存在の影が続いている必要があるウーサー・ペンドラゴンの雪輝れんやの大きな演技や、アーサーの実の母の妃・花宮沙羅が、短い場面で発揮したたおやかな美しさも印象的。修道院長の有愛きいも難しいソロに挑んでいるし、キャメロットの団結を表す村人ビビアンの花菱りず、アイラの湖々さくらなど、個々の顔がよく見え、この公演で惜しくも退団するパーシヴァルの琉稀みうさも有終の美を飾った。何より、大劇場のような舞台機構が駆使できない分、スケール感を出すのに苦労も多かっただろう演出の稲葉を、「アーサー王伝説」定番の岩山に、羽を思わせる宝塚らしい要素を大胆に取り入れた國包洋子の装置や、石田馨の映像などのスタッフワークが支えていて、芹香を頂点とした、新たな宙組の豊かな可能性を感じさせる船出に拍手を贈りたい舞台になっている。

【公演情報】
ミュージカル『Xcalibur エクスカリバー』
Book by Ivan Menchell
Music by Frank Wildhorn
Lyrics by Robin Lerner
Original Music Arrangement and Orchestration by Koen Schoots
Original Production & Worldwide Stage Rights and Management by EMK MUSICAL COMPANY KOREA
潤色・演出:稲葉太地
出演:芹香斗亜 春乃さくら ほか宙組
●7/23~8/5◎東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
〈料金〉SS席 12,500円  S席 9,500円  A席 6,000円(全席指定・税込)
※7月29日(土)15:30公演 全国映画館でのライブ中継及びライブ配信あり。
〈お問い合わせ〉宝塚歌劇インフォメーションセンター 0570-00-5100(10時~18時・月曜定休)
〈公式サイト〉 https://kageki.hankyu.co.jp/revue/2023/xcalibur/index.html

 

【取材・文/橘涼香 撮影/岩村美佳】

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