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加藤拓也の最新作、シス・カンパニー公演『いつぞやは』間もなく開幕! 橋本淳インタビュー

今もっとも注目される劇作家・演出家、加藤拓也が、『たむらさん』『友達』『ザ・ウェルキン』に続いて、シス・カンパニーと4度目のタッグを組む新作『いつぞやは』。その舞台が8月26日にシアタートラムで幕を開ける。(10月1日まで。のち大阪公演あり)

加藤拓也はまだ29歳という若さながら、岸田國士戯曲賞、読売演劇大賞優秀演出家賞などを受賞。主宰する劇団た組公演では、現代日本が抱える様々な問題を彼らの世代ならではの視点から焙り出してみせる。

《ものがたり》
かつて一緒に活動していた劇団仲間のところに、一人の男が訪ねてきた。
故郷に帰る前に顔を見にやって来たというのだが、淡々と語り出した彼の近況は──。

出演は窪田正孝、橋本淳、夏帆、今井隆文、豊田エリー、鈴木杏という6人で、同世代としての感覚で紡いでいく緻密な会話劇だ。そんな新作公演『いつぞやは』について、加藤作品はこれが4度目の出演となる橋本淳に話してもらった。

信頼関係を深めたコロナ禍での『たむらさん』

──加藤拓也さんの作品には、いつも劇団員的なおなじみの俳優さんが何人か出演していて、橋本さんも今回が4度目になります。

有り難いことに何度も出演させてもらっています。でも平原テツさんとか豊田エリーさんのほうがもっと多くて、僕はまだまだ少ないほうです(笑)。たぶん僕は重めの作品が多いので、印象が強いというのはあるかもしれませんが。

──加藤さんにとってそういう方々がいることで安心できるのかなと

加藤さんの考えていることや欲しいものには針の穴を通すような細かさが必要で、彼のそういう演出をわかってくれる人がポイントにいてくれるとやりやすいのだと思います。『もはやしずか』のキャスティングでも「ここはテツさんじゃないと」ということがあったり、そこはすごく大事なんだと思います。

──橋本さんが加藤作品に初めて出演したのは、『在庫に限りはありますが』(2019年)でしたね。そこから20年10月の『たむらさん』、22年4月の『もはやしずか』、そして今回の『いつぞやは』とほぼ毎年のように出演しています。

とても有り難いし、オファーをいただくと毎回すごく嬉しいです。それだけに、僕の出ていない加藤さんの作品などを観るとちょっと口惜しいのですが(笑)。でもやはりいつも面白いし、いいものを観たなと思わされるので、自分が出ていない寂しさは浄化されます(笑)。

──とくにコロナ禍の中で、急遽、シス・カンパニー企画製作で『たむらさん』を一緒に作り上げた。その信頼関係は大きいでしょうね。

そうですね。すごくたいへんな作品でしたから。ちょうどシス・カンパニーさんが新国立劇場の小劇場で3人芝居を2本上演することになって、そのまま劇場が1週間空いているからと加藤さんに新作を1本書いてもらった。その作品に出演のオファーをいただいたわけですが、台本もすぐに送られてきて、読んでみたら僕の役がほとんど1人でしゃべっていて。こんな恐い本をどうしたらいいんだと震えました(笑)。

──共演は豊田エリーさんでしたが、同じ空間にいるのにほとんど会話はなかったですね。

会話は後半に少しだけで、最初から50分間ぐらいは僕だけがしゃべっているという(笑)。稽古もみんなでできたのは全部で1週間ぐらいで、あとの3週間ぐらいは落語家さんのようにひとりでぶつぶつと、散歩とかしながら1日7時間ぐらいかけて覚えました。

──ひとりの男性が過去を振り返る話でしたが、その内容が衝撃的で、公演も3日間限定だったのですが、観た人の間でたいへん評価の高い作品でした。

なによりも加藤さんの本が素晴らしかったです。ただちょっと特殊なかたちの公演だったので手探りで、みんなでアイデアを出し合う部分もありました。それに劇場で4日間ぐらい稽古ができたのが大きくて、そのとき床に落書きとかしたら面白いんじゃない?と言ったら、それも採用してくれたり、楽しみながら作れた公演でした。そのおかげでいまだにほかの現場で、『たむらさん』を観たという話が出たり、たしか1年ぐらい配信もしていたので、わりといろんな方に観ていただけたことも大きかったと思います。

──いろいろな収穫があったのですね。

忘れられないのは、公演の初日に劇場にアクセスする鉄道で事故があって、15分とか20分とか遅れてくるお客さんがけっこういたんです。そういう状態をなんとかしたくてちょっとしたお客いじりをしたんですが、そういうことをできるのも作品にいい感じで余白があったからで、そういう意味ではバランスが絶妙な作品だったと思います。とくに初日はあの時にしかできなかった公演で、本当に楽しかったですし、俳優としても自信が付いたことで、僕の中でも大きな意味のある公演になりました。

覚悟が必要な作品だった『もはやしずか』

──そこから1年半後に作られたのが『もはやしずか』で、当て書きというか橋本さんありきで書かれたような作品でした。

当て書きと言われるのは褒め言葉として有り難いんですが、わりと早くできていた本なんです。それだけ役に馴染んでいたということなので嬉しいですけどね。やはり演じてないように演じるというのがいつも命題で、そのためには作り込みをしっかりしなくてはいけなくて、作り込みをしたうえで、どう感情が流れるかというのが大事なんです。あの康二という役は、稽古中はそれなりにシンドかったですけど、本番中にお客さんの反応とか共演者の顔とかを見たら、これをやれてよかったという思いはありました。とにかく反響がすごかったし、今でもまた観たいと言ってくださる人が多いんです。でもやはりあのときにしかできなかった作品じゃないかなと思っています。

──不妊治療をしている夫婦の話で、そこから出生前診断や障害について、さらに精子提供やお互いの結婚観などへ問題が広がっていって、まさに今日的なテーマが次々に提示されました。演じる側としても抱えるものは大きかったのでは?

覚悟が必要な作品でしたね。とくに今おっしゃったように扱っているテーマが重いので、ついそこに目が行きがちなんですが、そこから人間というものの本質について踏み込んでいる作品で、それこそが加藤さんの裏テーマみたいなものですから。それに自分自身も経験のないことばかりだったので、自分の中で噛み砕くのに時間がかかって、初日の1週間ぐらい前にやっと完成の兆しが見えたという感じでした。ただ幕が開いてからは、実際に障害を持つ家族がいる方が、自分のことだと思ったと言ってくださったり、実際にそういう生活をしてきた方たちからみてリアルだったという言葉をいただいて、本当に有り難かったです。覚悟を持って臨んだ結果が、本当にそういう立場にいらっしゃる方たちから見てウソじゃなかったということで、ちょっと安堵する瞬間がありました。

──若い観客が多いのも加藤さんの作品の特徴ですが、他者との絶望的なまでのディスコミュニケーションを突きつけてくることに共感するのかなと。

シンドイ時代ですよね。それぞれが正論を持っているだけにすれ違ってしまう人たちを書いているのですが、いろんな意見があって、誰もが発言力のある時代ですから、自分の足で立つ必要があるし、でも闘わなくていけないということで壊れてしまったり。そういう「今」を書いた作品だと思いました。

『いつぞやは』をどこまで自分事だと思ってもらえるか

──そして、今回の『いつぞやは』ですが、ある青年が若くして末期癌に罹患しているということから物語が始まります。この台本に出会ったときの印象は?

それこそ黒澤明監督の映画『生きる』ではないですけど、自分のリミットがわかった瞬間から、人が「生きる」ということはよくわかりますし、その反面、周りの人たちは今の仕事、今の関係性、今の生活があることで、人間として大切にしなくてはいけないものをどうしても見逃してしまっている。そういう現実を生きる人たちを描いていると思いましたし、普遍性ではこれまでの加藤さんの作品では一番描かれていると思います。とくに僕が演じる松坂は、現代社会を生きている人の代表となるような、マジョリティが感情移入しやすい人物だと思います。松坂は今忙しいし、苦しいけど楽しい。未来が先に見えている。そういうなかでちょっと希薄にしてしまった昔の友だちとの関係性があって、今はそこに重きを置けないと思っていたときに相手に癌が発覚して…。それによって後悔したし、気づきがあったけれど、そういうものが全部後出しであって、そして今度はそれを全部抱えて生きなくてはならない。そういう残された側の誰しもが経験する普遍性が描かれているので、演じるうえでは彼に今起きていることと普通の生活について、どうリアルに演じるかというのを、自分の中のテーマとして今回挑戦しています。

──物語の核となる癌の当事者、窪田正孝さん演じる一戸については、松坂をはじめとする周りの人友人たちによって語られますが、それも含めて一戸という人間の変化が、とても客観的かつ丁寧に描かれていますね

そうですね。「俺、もうやることやってきたからいいんだよ」みたいな、だからみんな困った顔しないでよ、明るく見送ってよ、みたいなところから、次第に余命が迫ってくるなかで、人間としてやっておきたかったことが出て来る切なさとか、そこで見えてくる人間というものの残酷さとか愚かさとか滑稽さとか…。なんで20代の加藤さんがそういうものを書けるんだろうと思います。

──本当に! まだ20代ということに改めて驚かされますね。

僕の中では実は70代なんじゃないかと思ってますが(笑)。それぐらい人間をよく見ているんですよね。だから彼の芝居を観た人たちがみんな、これは自分の話だと思うのもわかります。この『いつぞやは』についても、僕は祖父母が亡くなっていますから、もっと会いに行けばよかったとか思いますし。そういう後悔ってきっと誰にでもあると思うんです。だから観た人にどこまで自分事だと思ってもらえるか、演じる人間としてそこに真摯に向き合って作っていけたらと思っています。

──そういう意味では松坂をはじめ友人たちにとっては、一戸の闘病と死は結局は他人事なのですが、そこをことさら非難するでもなく肯定するでもなく、俯瞰して描いているのが加藤さんらしいですね。

問題提起して突きつけるんですけど、それを押し込まないんです。提起して、考えたらどうですかとだけ置いておく。それが言われた側の救いになる。現代社会の問題を提起しつつ責めきらない優しさは、彼の作家としてのセンスで。突きつけすぎずに観る人にも役者にも考えさせる余地を残す、そのバランス感覚が彼の魅力だと思います。

──では最後に改めてこの作品のアピールをお願いします。

今回は同年代の俳優たちだけで加藤作品に取り組んでいるわけですが、このメンバーにしかない共通認識から生まれるグルーブ感が出るのではないかと思います。そして、そこから生まれる人間同士の機微などは、シアタートラムという劇場だからこそ感じていただけるのではないかと。1人1人の吐息とか醸し出す雰囲気、匂いがお客さんに真っ直ぐに伝わればこの公演は成功すると思っています。稽古でそれぞれが役にきっちり肉付けをしたうえで、加藤さんのリアルな台詞をいかに吐けるか、そしてライブ感を大事にすればお客さんにいろいろな感情を伝えられる作品です。とにかく何も考えずに劇場にいらしていただければ、思いがけない感情になれるのではないかと思っています。

■PROFILE■
はしもとあつし○東京都出身。2014年ドラマ『WATER BOYS2』でデビュー。『連続テレビ小説 ちりとてちん』でヒロインの弟・正平役。以降、TV、映画、舞台と幅広く活躍中。舞台では、栗山民也、永井愛、白井晃、鄭義信、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、宮田慶子、山内ケンジ、小川絵梨子、森新太郎、加藤拓也など、さまざまな演出家の作品に出演。最近の舞台作品は『サンソン-ルイ16世の首を刎ねた男−』『ザ・ドクター』『温暖化の秋 -hot autumn-』。加藤拓也作・演出の舞台は『在庫に限りはありますが』『たむらさん』『もはやしずか』に続いて4作目となる。

【公演情報】

お知らせ:窪田正孝さんが降板のため、 平原テツさんにキャストが交代いたします。 また、この事態に伴うスケジュールの都合により 8月27日(日)公演は中止とさせていただきます

シス・カンパニー公演『いつぞやは』
作・演出:加藤拓也
出演:窪田正孝、橋本淳、夏帆、今井隆文、豊田エリー、鈴木杏
●8/26~10/1◎シアタートラム
〈料金〉一般9,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉シス・カンパニー03-5423-5906 (平日11:00~19:00)
●10/4~9◎森ノ宮ピロティホール
〈公演サイト〉https://www.siscompany.com/itsuzoya/

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀 ヘアメイク/片桐直樹(effector) スタイリスト/岡本健太郎】

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