加藤拓也・翻訳戯曲初演出、吉田羊・大原櫻子らの出演でシス・カンパニー公演『ザ・ウェルキン』いよいよ開幕!
本作は世界がまだ深刻なコロナ禍に見舞われる直前の2020年1月下旬。注目の劇作家ルーシー・カークウッド待望の新作として、英国ロイヤル・ナショナルシアターにて、開幕した。そのサスペンスフルなストーリー展開と女優陣の白熱した演技が連日大喝采を浴び、大きな人気を集めていた。しかし、コロナの猛威が英国演劇界を急襲。ロックダウンのため2カ月にも満たない上演で全公演が中止に…。
英国で一番注目されている若手作家の意欲作としても人気を集めていた作品だっただけに、多くの人たちの思いを残したまま、惜しまれながら幕を下ろしたが、今でも再演が期待されている。
タイトルの『ザ・ウェルキン The Welkin』は、英語の古語で「天空」を意味する。神の使いなのか、科学の予見なのか、、、75年ぶりに「天空」に舞い戻る大彗星を待つ18世紀半ばの英国辺境地を舞台に、絞首刑を宣告された一人の少女の真実を巡る物語が、パワフルなキャスト陣と演出・加藤拓也の手により、サスペンスフルに展開していく!
【STORY】
1759年、英国の東部サフォークの田舎町。
人々が75年に一度天空に舞い戻ってくるという大彗星を待ちわびる中、
一人の少女サリー(大原櫻子)が殺人罪で絞首刑を宣告される。
しかし、彼女は妊娠を主張。妊娠している罪人は死刑だけは免れることができるのだ。
その真偽を判定するため、妊娠経験のある12人の主婦たちが陪審員として集められた。
これまで21人の出産を経験した者、流産ばかりで子供がいない者、早く結論を出して家事に戻りたい者、
生死を決める審議への参加に躊躇する者など、その顔ぶれはさまざま。
その中に、なんとかサリーに正当な扱いを受けさせようと心を砕く助産婦エリザベス・ルーク(吉田羊)の姿があった。
サリーは本当に妊娠しているのか? それとも死刑から逃れようと嘘をついているのか?
なぜエリザベスは、殺人犯サリーを助けようとしているのか…。
法廷の外では、血を求めるかのように処刑を望む暴徒の声が激しさを増し、そして…。
「12人の陪審員」と聞いて思い出すのは、映画でも有名なレジナル・ローズの戯曲『十二人の怒れる男』。しかし、「陪審員の審議」の基本は同じでも、女性だけの陪審員たちは、いわば男性側の「勝手」から生まれた制度。そもそも中世から20世紀に至るまで、法制度は男性が支配するものでしたから、男性には不可能な「妊娠の判断」のときのみ、妊娠経験、出産経験があり、それに基づいたのが今回の劇作で、決して女性に門戸を開いたという意味合いではなかったことは、この戯曲の重要な背景となっている。
この戯曲の特徴として、殺人犯と陪審員の女優陣全員は、法廷の審議室に集まって長い時間を共に過ごす。そこでは、女性同士のアケスケな会話から意地の張り合い、喧嘩まがいの議論が繰り広げられていくが、この「審議」の議題は18世紀半ばの妊娠判定であるため、ほとんどが迷信や民間伝承、自分たちのリアルな妊娠や出産の経験談が頼りのやりとりとなる。現代の人間にしてみたら滑稽きわまりない荒唐無稽な話題も多く、そこについつい爆笑してしまうが、この女性たち全員の存在感と生命力は魅力的と言える。そして、その魅力に引き込まれていくうちに、300年近く前の女性たちを取り巻く状況が、実は現代にも重なる場面が多いことが浮き彫りになり、そこに21世紀の劇作家ルーシー・カークウッドの視点を感じることができるのだ。
この注目作を演じる女優陣は、物語の発端となる殺人犯サリーを演じるのは大原櫻子。そして妊娠を主張するサリーに向き合いながら自分自身とも葛藤していく12人の女性陪審員たちは、ベテラン勢から期待の若手まで力強いメンバーが勢ぞろいした。
陪審員の中心に立ち、サリーを助けようと努力する助産婦エリザベス(リジ—)には吉田羊。凶暴さをむき出しにするサリーに対峙するリジ—の言動が、この物語の推進力となっていく。
さらに、年齢も階層もさまざまな他の陪審員たちには、長谷川稀世、梅沢昌代、那須佐代子、峯村リエ、明星真由美、西尾まり のベテランチーム。一方、那須凜をはじめ、豊田エリー、土井ケイト、富山えり子、恒松祐里が加わる若手チーム。陪審員室にズラリと並んだこの12人の女性たちの手に、1人の少女の命が委ねられるのだ。
また、土屋佑壱、田村健太郎 の男優陣が女性陪審員たちに絡み、声の出演の段田安則 の存在と共に、男性支配社会の象徴的な姿を映し出し、物語のクライマックスに向け重要なポイントを担っていく。
英国演劇界の明日を担う劇作家ルーシー・カークウッドと、日本で注目の若き才能・加藤拓也との出会いが生み出すものは?そして、何が起きるのか、ワクワクが止まらないキャスト陣が描き出すものは?ついに『ザ・ウェルキン』の幕が開く!
【コメント】
吉田羊 (助産婦 エリザベス)
稽古を積み上げるごとに新たな発見があり、役やシーンがどんどん深化していく様に心震える日々でした。
小さな陪審員室は社会の縮図さながら。人や立場、境遇を変えれば男女皆等しく時代を超えて当てはまる構図に唸ったのは一度や二度じゃありません。そして、嘘とまこと、現実と妄想の向こうに透けて見えたのは今を精一杯生き、幸せを掴もうとする人々の姿でした。物語後半、ある陪審員が言います。「一日家を空けるってなんて楽しいのかしら」。
どうぞ日常をしばし忘れ、彼女たちと一緒に心を解放し、観劇後、ああでもないこうでもないと議論を交わして頂けたら幸いです。
大原櫻子 (殺人犯 サリー)
男女差別、女性の身体ゆえの生理、妊娠、そして生と死、親と子、愛、、とても多くのテーマを孕んだこの作品への挑戦は、とても高い壁でした。スパルタ演出家、加藤拓也さんを筆頭に、約 1 ヶ月半、とても丁寧な稽古を重ねてきました。
サリーは囚人なので、陪審員にとっては“敵”のような存在ですが、実際演じる役者の私達は、手と手を取り合って、阿吽の呼吸を大切にしてきました。今の時代にこの作品を届ける意味を、常に自分の心に握りしめ、本番に臨んでいきたいと思います。
【公演情報】
シス・カンパニー公演 『ザ・ウェルキン』
作:ルーシー・カークウッド
演出:加藤拓也
翻訳:徐賀世子
出演:吉田羊 大原櫻子 長谷川稀世 梅沢昌代 那須佐代子 峯村リエ 明星真由美 那須凜 西尾まり 豊田エリー 土井ケイト 富山えり子 恒松祐里 神津優花 田村健太郎 土屋佑壱
声の出演:段田安則
●7/7~31◎東京 Bunkamura シアターコクーン
〈料金〉S席11,000円 A席8,000円 コクーンシート5,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
●8/3~7◎大阪 森ノ宮ピロティホール
〈料金〉S席11,000円 A席8,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈公式サイト〉https://www.siscompany.com/welkin/
〈シス・カンパニー舞台制作公式 Twitter〉 @sis_japan
〈YouTube 公式チャンネル=SIS チャンネル 〉 youtube.com/c/SISチャンネル
〈シス・カンパニー舞台制作 Instagram〉 #siscompany_stage
【撮影/宮川舞子 写真提供/シス・カンパニー】