温泉ドラゴン『続・五稜郭残党伝~北辰群盗録』いよいよ開幕! シライケイタ インタビュー
温泉ドラゴンが『五稜郭残党伝』に続く第2弾『続・五稜郭残党伝~北辰群盗録』を本日、12月17日から27日まで、すみだパークシアター倉で上演する。
今回の『続・五稜郭残党伝~北辰群盗録』は、2019年に上演した『五稜郭残党伝』に続いて、直木賞作家・佐々木譲の小説の舞台化第2弾となる。
1869年6月27日、五稜郭が開城。これをもって新政府軍と旧幕府軍との最後の戦闘である戊辰戦争がようやく終結となった。本作『続・五稜郭残党伝~北辰群盗録』は、この五稜郭開城から5年後。開拓が進みつつある北海道で、共和国騎兵隊を名乗る盗賊団が各地で跋扈し始める。明治政府に対して「戦争は続いている」と主張する頭目は、五稜郭で旧幕府軍として戦っていた兵頭俊作。そして討伐隊として元幕臣の矢島従太郎が送り込まれる。兵頭と矢島はかつて五稜郭でともに理想の国「共和国」を夢見て新政府を相手に闘った同志である。時代の転換期に全く異なる立場として生きることになる2人、理想郷建国の志し半ばに終わった2人が、再び対峙する──。
北の大地を舞台に繰り広げられる男同士の闘い。時代の大きな転換期に生きた人々、それぞれの生き様が熱く迫ってくる作品だ。その舞台の初日も近いある日、脚本・演出・出演のシライケイタに話を聞いた。
仲間たちと楽しく作っていた原点に戻ろうと
──この作品は、2019年に上演した『五稜郭残党伝』に続く佐々木譲さんの蝦夷地三部作の第三作ですが、このシリーズを舞台化したいと思ったきっかけは?
原作者の佐々木譲さんが温泉ドラゴンの芝居を、いつも観てくださっていて、『BIRTH』の韓国公演(2015年)でも日本から沢山の仲間を連れて観にきてくださったりしたんです。そういうご縁と、若松孝二監督が生前、『五稜郭残党伝』を映画化しようとしていたこと、実際に北海道にロケハンにも行っていたということを、譲さんから聞きました。僕は若松監督が亡くなられた後に、若松プロダクションの制作で、『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』を舞台化していますので、お二人にご縁のある僕が演劇にしようと思ったわけです。
──佐々木譲さんとシライさんは、共通項として作品にピカレスクロマンの匂いがありますね。
あると思います。温泉ドラゴンは男ばかりで立ち上げて、初期の作品はハードボイルド的なものを作っていたんです。それがいつのまにか社会派作家みたいな側面で語られるようになった。それは人の見方なので別にかまわないのですが、ただ気の合う仲間たちと楽しく作っていたはずなのに、社会的な意義とか意味ばかりで語られるとちょっと違うんだけど、という気持ちもあって。だから原点に戻ろうと思って、『五稜郭残党伝』を取り上げたんです。ただ、これもアイヌ民族の迫害などが織り込まれていますので、そこがクローズアップされたりしますが、もともとはチャンバラをやりたかったし(笑)、男のロマンを久しぶりにやってみたかったんです。
──『五稜郭残党伝』は西部劇とか北海道ウェスタンと言われますね。
もともと譲さんが西部劇が大好きなんです。前作も今回も、小説ではガンマン同士の対決になっていますが、舞台では見せ場にならないので、むりやり刀の決闘にしています(笑)。
──今回の『続・五稜郭残党伝~北辰群盗録』の原作である『北辰群盗録』は、前作よりも思想性が強く描かれている作品で、いわゆる「共和国」と革命の夢のために戦う人たちが出て来ます。
譲さん自身が連合赤軍事件をモチーフにしていると言っています。理想を掲げて世の中を変革しようと思った人たちが、全く違う理由で内部崩壊していって、殺人にまで手を染めていく。僕は『北辰群盗録』をやろうと思ったときに、譲さんに「連合赤軍だと思って読みました」と言ったら、「バレましたか」と(笑)。
──五稜郭から落ちのびた人たちで北海道に独立国を作って、ロシアと日本の緩衝地帯にしようと夢見る。そのロマンは共同幻想を掻き立てます。
実際にほんのちょっとしたボタンのかけ違いがなかったら、実現していたかもしれないわけです。1年弱ですが「北海道共和国」は存在していたので。そして榎本武揚がそのキーパーソンだったわけです。榎本武揚に関してはいろいろな評価がありますが、佐々木譲さんは大好きで極めて好意的に彼を描いていて、『武揚伝』という彼を主人公にした長編小説も書いています。ただ一方でその時代は先住民族への迫害はあったわけで、意図したものではなくても、少なからず内地から人間が入り込んだ時点で起こり得ることだった。そういう意味では「共和国」という理想のもとに踏みにじられた人たちもいた。物語の中では先住民族の人たちとの友情も描かれていますが、それが総てではないし、一緒に助け合う姿もこちら側から見れば美しいかもしれませんが、あちら側から見て、はたしてどうなのだろうかと常に突きつけられます。
過剰さは意味を超えて劇的効果になる
──今回の主人公は、「共和国騎兵隊」の頭目となる兵頭俊作と、討伐のため彼を追う矢島従太郎の2人ですが、どちらかと言えば新政府に雇われて討伐隊に加わる矢島の葛藤に焦点が当てられていますね。
譲さんも矢島の心情にページを多く費やしています。それはわかるんです。人間みんな若い頃は理想に燃えていても、現実が襲いかかってくると心ならずも理想を捨てて生きていく。それは大人になったらいやでも抱える葛藤ですから。
──そして矢島は、一度は世捨て人のようになっていたのに戦いに血が騒ぎます。
討伐隊に誘いにきた陸軍省の参謀少佐の隅倉兵馬が、「戦争になればあの高揚やときめきが戻ってくるぞ」と。それで矢島は決心する。恐いことですが人間にはそういう本能があるんだと思います。それは兵頭も同じで、2人とも武士の最後の生き残りですから、そこに美しさを見る。先ほども言いましたけど、最後の決闘は、舞台ではピストルを持っているのにわざわざ刀で闘います。馬鹿馬鹿しいと思う人もいるかもしれませんが、そこに彼らのカッコよさを見せられたらと思っているんです。
──たしかに刀のほうが人間同士の血の通い合いがある気がします。
ある意味で演劇を作るということにも重なるんです。僕はこの舞台ではバンバン雪を降らせようと思っているんですが、俳優たちにとっては物理的にすごくたいへんです。立ち廻りをしながら目や口に入ってくる。でもそのたいへんさを補って余りある演劇としての効果があるんです。僕自身が蜷川(幸雄)さんの舞台で体験しているのですが、ある過剰さというのは意味を超えて劇的効果になっていくんです。
──シライさんの作品に感じる熱いエネルギーは、そういう過剰さにあるのでしょうね。
そのことはいろいろな人に言われます(笑)。
作る課程も含めて良い時間にしたい
──温泉ドラゴンを旗揚げしてもう11年目ですね。ここは変わらないというところと、変わってきたというところは?
変わらないところは、三つ子の魂百までといいますが、最初に出会ったのが蜷川さんなので、それは大きいと思います。他の人だったら今の自分はいないと思うので。そして、次に出会ったのが鐘下辰男さんで、鐘下さんの魂も僕の中にあると思います。
変わってきたところは、関わってくれる人が増えました。長く、ちゃんとやっているとそれだけ支えてくれる人が増えるんだなと。最初は阪本篤と筑波竜一が2人だけで旗揚げして、僕は友だちとして本を書いて演出をしました。それこそ稽古場も何もないところで作っていた。今はこうして支えてくれる人が増えて、作品を好きだと言ってくれる人が増えて、そのことが一番嬉しいです。劇団員の関係も家族みたいになりました。最初はケンカばかりしてましたから(笑)。僕は脚本家とか演出家になろうと思っていなかったので、稽古場でも自分が俳優として体験してきたことしかわからない。それをそのままぶつけることしかできなくて、仲間のことを追い詰めたり怒鳴ったりして、ずいぶん傷つけたと思います。でもそこで解散せずに乗り越えてきたことで、劇団員同士の関係が強くなったと思います。
──出来上がった作品に納得したから、付いてきてくれたというのもあるでしょうね。
つらい思いをしても作品がよければ解消されるということはあると思います。でも僕自身は、今はそう思っていないんです。作る課程も含めていい時間にしたい。映画の白石和彌監督が、スタッフや俳優にハラスメントの講習をして、スタッフの怒鳴る声が飛び交う現場はやめようと。白石さんは若松監督のお弟子さんで、若松監督は現場に緊張感をもたせるために怒鳴っていたけれど、それは違う、緊張感を作り出さなくても緊張感のある絵は撮れると。だから絶対怒鳴ることは禁止だし、自分も含めて映画の世界からハラスメントをなくしたいと言っているんです。僕も、演劇界もそうしたいと思っていて、できればハラスメント講習を取り入れたいと思っています。
──舞台上では大雪にいためつけられますから、稽古場ぐらい楽しく、ですね。
(笑)やはり参加してよかったと思ってもらえる現場がいいので。今回参加してくれている人たちも、ほとんどこれまで僕を支えてくれた人ばかりです。
──個性的で面白い俳優さんが揃っていて楽しみです。最後にお客様へのメッセージをぜひ。
僕らも40代後半になって、ここまで熱い芝居を体を使ってやるのは、今後はないんじゃないかと思うくらい、ストレートに熱い作品を作っています。ゲストの皆さんがみんな素敵ですし、劇場となるすみだパークシアター倉もすごくいい空間です。そこで僕がやりたいと思っていたことを全部やるつもりですので、ぜひ観に来てください。
しらいけいた○東京都出身。桐朋芸術短期大学在学中に、蜷川幸雄演出『ロミオとジュリエット』(彩の国さいたま芸術劇場)のパリス役で白井圭太としてデビュー。テレビドラマ、CM多数。2011年よりシライケイタとして劇作・演出を開始。現在、温泉ドラゴン座付き作家・演出家、日本演出家協会会員、日韓演劇交流センター委員として活躍中。演出を手がけた舞台『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程(みち)』『袴垂れはどこだ』の2作が高く評価され、第25回読売演劇大賞「杉村春子賞」を受賞。最近の外部作品は、シーエイティープロデュース『BIRTH』(作)名取事務所『獣の時間』(演出)A4プロデュース『オーファンズ』(演出)流山児☆事務所『客たち』(演出)トムプロジェクト『モンテンルパ』(作・演出)KAAT神奈川芸術劇場プロデュース『湊横濱荒狗挽歌〜新粧、三人吉三。』(演出)『ジョルジュ』(出演)。
【公演情報】
温泉ドラゴン第16回公演『続・五稜郭残党伝~北辰群盗録』
原作:佐々木譲 『北辰群盗録』
脚本・演出:シライケイタ
出演:阪本篤、筑波竜一、いわいのふ健、シライケイタ(以上温泉ドラゴン)
香川耕二(グループK)、五十嵐明(青年座)、成田浬、内田健介、
伊原農(ハイリンド)、坂本岳大、佐藤銀平(サスペンデッズ)、浅倉洋介、
林明寛(mitt management)、近藤修大、山崎将平、山口祥平(PRAY▷)、
遊佐明史(演劇塾 SCARACROWS・LEG)、秋谷翔音(青年劇場)
土井ケイト
●12/17~27◎すみだパークシアター倉
※受付開始は開演の45分前、開場は30分前
〈料金〉一般4,800円 U25/3,500円(全席自由席・税込・未就学児童入場不可)
※初日割 4,300円(12月17日(金)19:00の回のみ)
〈公式サイト〉https://www.onsendragon.com/next
【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】
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