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serial number 06『hedge 1-2-3』詩森ろば・吉田栄作・岡田達也インタビュー

経済ドラマや金融ドラマと冠がつけば、難しそうだと腰が引ける人もいるかもしれない。
けれど、かつての時代の男たちが己の志のために刀を振るったように、現代の人々にとって信念を懸ける戦場が、経済であり金融の前線なのだと思えば、きっともっと身近に感じてもらえるはずだ。
そこにあるのは、誇りをもって働く人たちの生き様。そして、その気迫に観客の心も揺れ動く。serial numberの最新作『hedge 1-2-3』(ヘッジ ワン・トゥー・スリー)は、日本の経済を題材にした金融エンターテインメントだ。

2013年に上演された『hedge』、2016年に上演された続編『insider-hedge2-』をリライトし、2幕構成の『hedge/insider』として再構築。さらに、その後日談となる新作『trust-hedge3-』を書き下ろし、回替わりで上演する。

舞台となるのは、日本初のバイアウトファンド・マチュリティーパートナーズ。業績不振の企業を買収し、経営を立て直し企業価値を高めた上で、高値で売却し利益を得る。そんな金融のプロフェッショナルたちの使命と葛藤を、緻密なリサーチ力に定評のある社会派・詩森ろばが事実をベースに描き出す。

キャストには吉田栄作、岡田達也ら実力のある俳優たちが参戦。今ここに、胸焦がす人間ドラマが生まれようとしている。

岡田達也・詩森ろば・吉田栄作

金融の世界を芸能界と重ね合わせることで、見えるものがある

──吉田さんが演じるのは、世界一の投資銀行で日本人初の役員に上りつめたスーパーエリート・茂木です。言ってしまうと雲の上のような存在ですが、茂木の内面に近づくためにどんなことを試みましたか。

吉田 茂木は、あり得ないような世界で生き残り続けてきた男。そこを理解しようとすると、やっぱり芸能界と重ね合わせるしかないんですよね。

詩森 なるほど。確かに芸能界も、いつの間にかいなくなる人が山ほどいますもんね。

吉田 あるシーンで茂木が言うんです「一瞬で数十億が消えてなくなる世界で、僕は金を生み出し続けた」と。そんな世界でやっていくために茂木も壮絶な思いがあったことがわかるシーンです。僕も30数年、この世界でやってきましたけど、いろんなことがあったし、いろんな想いを経験した。そういうところに共通点を見つけて重ね合わせていくことで、茂木の背負っているものを分かち合えたらと考えています。

──『trust-hedge3-』の終盤に出てくる台詞ですね。

吉田 その後、「金融は本来の使命を忘れて堕落した」という台詞が続くんですけど、これも「金融」を「芸能」に置き換えたらよくわかる。このコロナ禍でエンターテインメントはどうあるべきなのか。芸能は本来の使命を忘れていないか。そういうことと重ね合わせていくと、リアリティは出るのかなと。

──そして、岡田さんは3役もあります。

岡田 そうなんです。最初は「え~、3つも役づくりしなくちゃいけないの~?」と思ったんですけど(笑)。カメレオンみたいにできればいいけど、引き出しをいっぱい開けられるわけでもないし。僕の役は、3役どれもマチュリティーパートナーズと対峙する側の人物。それぞれ違う人として、ちゃんとマチュリティーのメンバーと向き合うことが、まずは最低限の仕事だと思っています。

──3役の違いのつけ方にそこまで重きを置いているわけではないと。

岡田 お客さんに「どれも同じじゃないか」と言われたくないので、せめてそうならないぐらいには変化をつけたいなとは思いますけど。

詩森 でもあんまり演じ分けていますみたいになっちゃうと、それはそれで嫌味ですもんね。

岡田 そうそう。

詩森 そういう難しいところを、達也さんはもちろん、他のみなさんも素敵にやってくださっていて。

岡田 もともと僕自身、自分で勝手にああしようこうしようって芝居を考えるタイプじゃなくて。周りの人がそうやるんだったらこうしようかなと動くことの方が多いんですね。今回もみんなの出方を見ながら、その流れに乗っていくことで、自然とそれぞれの役になっていってるという感じです。

──詩森さんの演出はいかがですか。

吉田 すごくリアリズムを大切にされるんだなと思いましたね。役者の中にはわりと技師(わざし)みたいな人もいて。それがキレのある技ならありなんだけど、中途半端な技だとすぐダメが出るみたいな(笑)。

岡田 あはは。

吉田 それよりはちゃんとストレートを投げる人がお好きなのかなと。へっぽこ変化球を投げるんならストレートで勝負しなさいという演出家なのかなと感じています。

岡田 稽古の序盤で、ある人に「自分のために台詞を吐くんじゃなくて、相手役のために台詞を吐いて」とおっしゃっていたんですよ。まあ、演劇の基本といえば基本なんですけど。ろばさんは役者が自家発電して喋るのをわりと嫌がるところがあって。逆に言うと、台詞は相手役に影響を及ぼすという基本さえできていれば、多少どんなことを試しても。

詩森 気にならないですね。とは言え戯曲のコンテキスト(文脈)を無視して、遊んでもいいんだと思われちゃうのもあんまり好きじゃなくて。でも、そこをわかってくれていれば、もちろん演出家だから最終的に形は整えるけど、役者が稽古でトライするのは全然いいし、ある程度は自由に役者間でつくれている方が楽しいなと思います。

栄作さんは、この座組みの精神的支柱です

──詩森さんから見て、吉田さんと岡田さんはどんなところが素敵ですか。

詩森 おふたりの演技の素晴らしさはみなさんもいろんなところで見てご存じでいらっしゃると思うんですけど、私が今回素敵だなと思ったのが、稽古場での居方ですね。栄作さんは、この座組みの精神的支柱。栄作さんに来ていただいたら大丈夫という安心感があるんです。そして、達也さんはリーダーシップをとってくださる存在。もちろん私の考えを汲んでくれたうえですが、私以外でリーダーシップのある方がいる現場ってうまくいくんですね。その役目を今回達也さんが担ってくださっています。そして、この場にはいないけど、この子を支えてあげたいとみんなに思わせる力を持った原(嘉孝)ちゃんがいて。3人、立ち位置は違うけど、それぞれに座組みを支えてもらっている感じがしますね。

岡田 栄作さんは柔らかいですもん、稽古場での居方が。今回初めてご一緒するから、怖い人だったらどうしようって思っていたんですけど、全然そんなことなかったです。

詩森 わからないよ。心の中でむちゃくちゃ怒っているかもしれない(笑)。

吉田 原君と言えば、稽古場で原坊と同じテーブルを使ってるんだけど、必ず俺の方にまではみだして自分の私物を置くんだよ(笑)。

一同 (盛大に笑う)。

吉田 あいつは絶対に大物になる(笑)。

岡田 すいません、俺の教育が足りてなくて(笑)。

詩森 最近、原ちゃんが急に距離をつめてきはじめたんですよ。最初緊張して口もきいてくれなかったのに。いつこんなことになったんだろう。そろそろ締めなきゃいけないね(笑)。

岡田 あはは。居場所ができているってことじゃないですか?

詩森 達也さんにはあんなふうに言わないよ?

岡田 僕は彼が初舞台のときに共演しているんですよ。だから素直に頼ってくれているというのもあると思いますけど。

詩森 私にだけね、ぞんざいなの(笑)。ダメ出しされる。いろいろ。それがまた、まあまあ的確なの。スミマセンって言って、直す。(笑)

吉田 面白かったのが、稽古中にフォーメーションを組まなきゃいけないところがあって、ろばさんが原ちゃんに「裏でちょっとこういうのやってくれる?」って頼んだら、「いや、そこは台詞のチェックがあるからできません」って断ってたの。それ見て笑っちゃって(笑)。

詩森 からかってるんですよ、私を(笑)。

吉田 演出家が頼んでるのにですよ? あれは面白かった。

岡田 俺も演出家にあんなこと言ったことないですよ。よく言ったな?と思いました(笑)。彼は大物になりますね(笑)。

詩森 まあでも、そうなってから演技もさらによくなったんで、耐えることにします(笑)。

この作品は、金融をベースとした青春群像劇だと思っている

──私はいわゆる経済オンチなので、作品の大枠だけ読んだときに難しいのかなと怖じ気ついたのですが、台本を読むと内容がするする入ってくるし、金融業界を描いたお話というより、そこで生きる人々の生き様を描いたお話なんだなと思いました。吉田さんと岡田さんは、この作品のどんなところに魅力を感じましたか。

吉田 僕も当初は心配していたんですよ、経済に疎いとか、専門用語がよくわからないとか。でもそれはたぶん大丈夫だなと思います。僕らもみんなよくわかってないんですから。

岡田 言っちゃった(笑)。でもそうですよね、実際、僕だって一度も株を買ったことはないし、資産運用するほどのお金も舞台俳優にあるわけもないので。まあ、不勉強と言われたらそれまでなんですけど。

吉田 それよりも、ストーリーの面白さで十分に押していける。そこに男たちの熱さや優しさがあったり、社会で頑張る女性たちの想いがあったり。金融エンターテインメントと銘打っていますが、エンターテインメントの部分がかなりしっかりした作品になっていますので、まったく心配ないと思います。楽しみに観にきていただければ。

岡田 金融がベースではあるんですけど、僕の印象では青春群像劇のようにもとれるお話だなと思いました。年齢差はあるけど、出てくるのは自分の大切なもののために戦っている人たちばかり。金融だからとハードルを上げないで、群像劇を観にくるつもりでお越しいただければうれしいですね。

──『hedge/insider』の登場人物は全員男性ですが、今回、新たに書き下ろされた『trust-hedge3-』では女性も加わり、フェミニズムの視点も取り入れられました。個人的にはそこがすごくよかったなと思います。

詩森 私自身、フェミニストというわけではなかったんですけど、今の社会を見ていると、女性の立場ってやっぱりよくはなってないんですよね。私ももう年齢が年齢だから、次の世代に残していく社会について考えないといけない。そうすると、女性の権利については、フェミニストじゃないからなんて言ってないで、ちゃんと演劇として形にしていかなきゃいけないんだなと思います。

──『アンネの日』では女性開発者たちによる生理用ナプキン開発の物語を、『コンドーム0.01』ではコンドーム製造に情熱を注ぐ人々の物語を描いてきました。お仕事モノを書き続ける理由というのは何かありますか。

詩森 会社モノが好きだし、自分がずっと会社員だったからだと思います。演劇の人は忘れがちだけど、会社員は社会を構成するすごく大事な要素。フィクションの世界では会社=悪として描かれがちですけど、そうじゃないということを実体験で知っているので。会社で生きていく人たちが明日ちょっと頑張りたいと思えるようなものをつくりたいし、書きたいなという気持ちがあります。いろんな演劇がある中で、私は会社で働く人たちが元気になれるものをつくっていきたいなと。

──では、最後に新作のタイトルとなっている「trust」について。お三方は「信頼」という言葉についてどんなことを思いますか。

詩森 今って信頼というものが結びづらい社会ですよね。インターネットが世に出てきたときに、これいいものになるか、人を傷つけるようなものになるか、人間のやり方次第だねと思っていたんです。実際、今、インターネットってすごく役に立つ面と、すごく人が傷つかなきゃいけない面と両方が浮き彫りになっていて。いろんな疑念がインターネットから溢れ出ている。でも、信頼がなくなると、人は生きていけない。いつまでいっても、どこまでいっても、信頼が何かなんて答えは出ないけど、そもそも答え自体、ひとつじゃないから。この作品を通じて、いろんな信頼の形が見えるといいなと思います。

岡田 話が少しそれますけど、僕は鳥取の人間で、田舎なんでまだ家に表札がちゃんとかかっているんですよ。でも、東京のマンションでは表札を出さないのがスタンダードになっていて。きっとこの先、世の中全体はこっちの方向に進んでいくんだろうなと。第三者に対してどんどん懐疑的になって。ある意味、これも信頼の欠落だったりする。茂木の台詞に、そもそも昔は物々交換が主で、お金なんてものがなかった。それが信用というものを真ん中に置いて、ある日、紙1枚をお金にすると決めて、貨幣が生まれたんだというものがあって。じゃあその信用というものがなくなったら、この先世の中はどうなっていくんだろうって。いつもそのシーンを見るたびに考えるんです。失われつつある信頼を演劇で回復できるかと言ったら、全然そんな力は僕にはないけど。信頼とか信用とか、そういうものは絶対なくなっちゃいけないよなって。そんなことを考えながら、この作品に向き合っています。

吉田 岡田さんの言う通り、今は信用がどんどんなくなってきている時代でもあって。昭和から平成になって、平成から令和になって、どんどん便利になるのと引き換えに、どんどん人を信用しづらい世の中になっている。特に芸能界みたいなところにいるとさらに信用しづらくなって。この先、僕たちはどこへ行ってしまうんだろうということはよく考えます。そんな中で、こうした作品がエンターテインメントとしてできるのは本当に素晴らしいことだと思うんですよ。コロナによって経済が傷つき、ダメージを受けた人がたくさんいる今の世の中で、こうした強さと優しさを併せ持った作品をやれることは絶対に意味があるはずだと。

詩森 みんなで一緒に考えたいですよね。信頼はこれですよと答えを提示するんじゃなくて、自分にとっての信じるってなんなのだろうということをお客さんと一緒につくっていく。そういうことができたらいいなと。

吉田 考え続けることが大事なんでしょうね。信頼とは何か、僕らも、お客さんも、この作品を通して考えるだろうし、この先もずっと考え続けていかなければいけない。

詩森 そもそも演劇って信じることが真ん中にないとつくれないものですからね。お客さんと役者とスタッフが信じ合わないと、演劇はつくれない。私たちは演劇から命の水をもらっているし、演劇を通してお客さんに命の水を渡している。それって信じることを真ん中に置いているからできること。だから、安っぽい言い方になりますけど、演劇という場所が信じるということなんだと感じられる作品になればいいなと思います。そして、それはこのコロナ禍で演劇をやることへの、ひとつの責任だとも思います。

■PROFILE■

しもりろば○宮城県仙台市生まれ。1993年、劇団風琴工房旗揚げ。以後すべての脚本と演出を担当。 2018 年より俳優田島亮とのふたり体制となり、屋号を serial number と改める。全国どこへでも飛び回る綿密な取材をもとに、骨太な物語を編み上げ、独自の視点で立ち上げる。スピーディーかつ演劇知の塊のようなパワフルな演出で、扱う題材は、歴史劇から金融、福祉車両の開発から、アイスホッケーまで、ほかに例のない多彩さを見せる。2013年読売演劇大賞優秀作品賞、2016年紀伊國屋演劇賞個人賞、2018年芸術選奨賞文部科学大臣賞新人賞、2020年 映画『新聞記者』 で日本アカデミー賞優秀脚本賞、2021年読売演劇大賞優秀演出賞など受賞。

よしだえいさく○1969年、神奈川県生まれ。1988年に『ガラスの中の少女』でスクリーンデビュー。TVドラマ『もう誰も愛さない』や『武蔵』、『ブラックジャックによろしく』など、数々の舞台やドラマに出演し、その優れた演技で高い評価を得ている。また、「心の旅」「もしも君じゃなきゃ」でのNHK紅白歌合戦への出場や、デュエットソング「今を抱きしめて」で第36回日本レコード大賞の優秀賞を受賞するなど、歌手としても精力的に活動中。最近の舞台は、地人会新社『これはあなたのもの』、シーエイティプロデュース『カクタスフラワー』、世田谷パブリックシアター『メアリ・スチュアート』、こまつ座『私はだれでしょう』など。

おかだたつや○1968年、鳥取県生まれ。サラリーマン、トラックの運転手を経て、演劇集団キャラメルボックスの中心メンバーとして活動。劇団のみならず、数々の小劇場舞台で主役を務める。最近の舞台は、演劇の毛利さん-The Entertainment Theater Vol.0 音楽劇『星の飛行士』、同リーディングシアター『夜間飛行』、舞台『刀剣乱舞』維伝 朧の志士たち、『世襲戦隊カゾクマンⅢ』、U-18シアタープロジェクト『ant』、serial number『アトムが来た日』、『若様組まいる~若様とロマン~』、『スクアッド』、『アンフェアな月』など。

【公演情報】
serial number 06『hedge 1-2-3』
(『hedge 1-2』hedge/insider『hedge 3』trust)
作・演出:詩森ろば
音楽・演奏:〈hedge+trust〉鈴木光介、〈insider+trust〉後藤浩明
CAST:原嘉孝
岡田達也(演劇集団キャラメルボックス) 浅野雅博(文学座) 加藤虎ノ介 今奈良孝行 佐野功 根津茂尚(あひるなんちゃら) 酒巻誉洋 藤尾勘太郎 池村匡紀(クロムモリブデン)
石村みか 熊坂理恵子 笹野鈴々音 辻村優子
吉田栄作
※出演予定だった井上裕朗さんは体調不良のため降板となり加藤虎ノ介さんが出演します。

●7/8~19◎あうるすぽっと
※7/9(金)、7/12(月)休演
2作品回替わりで上演。男性キャストは AB 共に出演、女性キャストは B のみ出演。
A 『hedge 1-2』(hedge/insider)
B 『hedge 3』  (新作 trust)
AB の上演スケジュールは公式サイトを参照

〈料金〉前売・当日共/一般 6,000円 障害者 3,000円 学生 4,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※障害者、学生は劇団のみの取扱い。当日受付にて証明書を提示。
※車いすの方は事前にお知らせ頂けますと当日のご案内がスムーズです。
〈チケット取り扱い〉 https://serialnumber.jp/hedge123.html
〈お問い合わせ〉hedge@serial number.jp
〈公式サイト〉 https://serialnumber.jp/

 

【取材・文/横川良明 撮影/岩田えり】

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