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serial number『すこたん!』ついに開幕! 詩森ろば・鈴木勝大・近藤フク インタビュー

詩森ろばのユニットserial numberの最新作『すこたん!』が、10月28日から中野ザ・ポケットで開幕した。(11月7日まで)

昨年6月に上演予定だったこの作品は、1994 年「すこたん企画」としてふたりのゲイの男性が設立し、かたちを変えながら、現在も活動しつづけているセクシャルマイノリティ支援団体「すこたんソーシャルサービス」と、その設立者で長年のパートナー、伊藤悟さんと簗瀬竜太さんをモデルに、20年来の知人でもある詩森ろばが書き下ろした。だがコロナ禍により上演中止になり、2021年度への延期を決めた後、ゼロベースから書き直し、まったく新しい作品として生まれ変わった。

ネットもアプリもなかった 1990 年、ゲイ雑誌の通信欄を通じて知り合ったサトルとリュウタ。誰にでも起こりうるような家族や自身の抱える問題に直面しながら、活動を続けてきたふたりの、出会いからこれまでの 30年の軌跡を軸に、彼らと関わった 8 人の男性たちそれぞれの物語。

その作品でサトル役とリュウタ役を演じる鈴木勝大と近藤フクが、作・演出の詩森ろばとともに稽古場で語り合ってくれた。

鈴木勝大・詩森ろば・近藤フク

性的マイノリティだけの話としては読まなかった

──昨年上演しようと思っていた作品から、今回はだいぶ変化したそうですね。

詩森 出演者が14人から10人になっています。でもそれだけでなく内容自体も大きく変わったので、ほとんどゼロベースから作り直しました。モデルになった伊藤悟さん、簗瀬竜太さんとも内容について話をすることができたこと、また、私自身がコロナ禍を体験して、その中で『All My Sons』と『hedge 1-2-3』を作ったことで、今私が書きたいもの作りたいものと、去年書いた『すこたん!』はマッチしてないなと思ったので。

──作品のモデルであり作劇のモチベーションになった伊藤悟さんと簗瀬竜太さんは、詩森さんにとって20年前からの関わりだそうですね。

詩森 私は以前から性的マイノリティのお芝居を書いていて、その最初になったのが2000年に作ったお芝居で、「性分化疾患」という性別が男女のどちらとも分類できない方を主人公にしたお芝居だったんです。そのときにいろいろ勉強会をしまして、その勉強会で同性愛者の方とかトランスジェンダーの方たちにお話を聞く中で、「すこたん企画」のおふたりと知り合ったんです。そこから私が性的マイノリティのお芝居を創るときに意見を伺ったり、相談に乗ってもらったりという交流があったんです。そして、2019年に千葉市で「パートナーシップ宣誓制度」が始まったとき、おふたりがその第1号になったことで、改めておふたりについての話を芝居にしたいと思ったんです。

──その作品を演じる鈴木さんと近藤さんは、台本に初めて出会ったときにどんな感想を持ちましたか?

鈴木 僕の場合、台本を読むとまずは自分が演じる役について考えてしまうので、性的マイノリティの話ということよりも、あるカップルの愛情の話として読みました。もちろんその中には世の中との闘いの歴史もあるわけですが、いかに伊藤さんと簗瀬さんが愛情を育んでいったかということで言えば、性的マイノリティだけの話としては読まなかったです。ただ、上演が1年延期になったおかげで、性的マイノリティについて勉強する時間があったことは有り難かったです。こんなに当たり前というか、みんながそうなったらいいよねということが、社会ではまだまだ実現していないんだと思ったし、同性婚は普通に認められるべきだと思うのに、まだその制度も出来ていない場所が沢山あるんだと、かえってびっくりしました。

近藤 僕は詩森さんが書かれた台本を拝見する前に、「すこたん企画」を題材にした作品に出るということで、伊藤さんと簗瀬さんが書かれた本を読んだんです。そしてほぼ読み終わったときに台本を読んで、おふたりの愛情についても描かれていますが、その愛情を通して、おふたりが抑圧されていたところから力を取り戻していく話だなと思って読みました。

いろんなペアがあるという多様性みたいなものが伝われば

──この作品では、彼ら2人を軸に10人の登場人物が出て来ますが、それぞれいろいろな形の関係性が描かれていますね。

詩森 ひと色ではないということなんです。去年の台本はカップルだけではなく友だちだったり仲間だったりという関係も出て来たのですが、今回ははっきりペアになってもらって、一口に同性愛といってもいろんな形があるという多様性みたいなものが自然に伝わればと。抱えている問題はもちろん、愛情の形も若い人と年配の人では違ったりしますよね。でも大事なのは、観ている方たちに「叶えたい」という気持ちになっていただくことだと思うんです。問題について考えてもらうというより、「うまくいきますように!」とどの人たちについても思ってもらう。身体が10人なので、その10人それぞれに愛情を持ってもらえる作りの話になればいいなと思いました。

──台本を読ませていただきながら、ちょっとテレビの恋愛ドラマを観ているときのようなドキドキ感がありました。そんな普通に恋愛に起きることプラス、伊藤さんと簗瀬さんが体験してきたであろう性的マイノリティであるがゆえの生きにくさや苦しみなどが、10人のドラマの中に映し出されています。演じるおふたりは同性との愛をどう捉えていますか?

鈴木 今回の芝居でも年代の違うカップルが出て来ますよね。昭和か平成かという時代の違いで同性愛についての捉え方は違うと思うんです。ただ、そうは言ってもまだ過渡期で、10年後に『すこたん!』を上演したら逆に驚かれるぐらい当たり前になっていてほしいし、性的マイノリティとして苦しむことがなくなればいいなと。でも振り返ると僕も中学生の頃は知識さえなかったので、もしかしたら知らずに傷つけていたこともあったかもしれない。そういう意味ではやっぱり知ることが大事で、この作品も考えが広がるチャンスになればいいなと思いますね。

近藤 僕は昭和生まれなんですけど、僕も知らないことで傷つけていたことはきっといっぱいあっただろうなと。伊藤さんの本を読んだりすると、僕が知らなかったことで衝撃的なことが沢山書かれていて、それを舞台を観てくれた人に伝えられたらいいなと思います。

──おふたりはモデルになった伊藤さんと簗瀬さんにはお会いになりましたか?

鈴木 お会いしました。書かれた本は読んでいたので、なんとなく人となりのようなものは想像はできました。先に伊藤さんにはお会いしていたのですが、揃って稽古場に現れたおふたりを見て、たとえば一緒にいるときの体の向きだったり、相手を見る視線の中などに歴史を感じて、そういう姿を間近で見ることができてよかったと思いました。それに、おふたりが見ている目の前で一度芝居をしたのですが、自分が演じる役のモデルの方を目の前にして演じるのは初めてで、目の前にいる人がその当時感じた鬱屈だったり葛藤だったり鬱憤だったりを、同じレベルもしくは自分のほうがより抱えるぐらいじゃないと、演じるのは逆に失礼だなと感じました。すごく背筋を正すような機会でしたし、「ちゃんと抱えなくては、ラクにならないようにしよう」と思いました。

近藤 僕も、それまでも真摯に取り組んでいるつもりだったんですけど、やっぱりご本人を前にして、ご本人が体験したであろうことをやるのは、「あ、まだご本人に負けちゃってるな」と思う部分がいくつもありましたね。

詩森さんの中にいっぱい詰まってて溢れ出すものがある

──詩森さんが今回、リュウタとサトルを鈴木さんと近藤さんに決めた理由は?

詩森 勝大くんはリュウタで探していたわけではなく、たまたま出ている作品を観に行ったとき、この人がリュウタなら書けそうだなと思ったんです。

──そのままアイドルでもいける感じなのに、ちゃんと自我があって芯が強いところはリュウタにぴったりですね。

詩森 むしろアイドルからは撤退したい人だよね(笑)。サトル役については、構造が変わってリュウタを一役で勝大くんにやってもらうことに決めた時に、より現実の伊藤さんとリンクする方を探したいと思ったんです。フクさんは私は一方的にいろいろな作品で観ていて、もしかしたらピッタリかもと思って、知り合いでもなんでもないのにいきなりオファーしたんです。びっくりしたでしょ?

近藤 びっくりしました(笑)。

詩森 でも「あ、伊藤さんだ」と思ったから(笑)。伊藤さんってカッコいいんですけど、ちょっとオタク気質なところもあるし、すごく簗瀬さんのことを好きなんです。そういうところを楽しく演じてくれる人がいいなと思ったので。

──おふたりは詩森さんの作品は?

詩森 フクさんは観てないんだよね(笑)。

近藤 すみません(笑)。映像では拝見してますが、タイミングが合わなくて。今回初めてお会いしたんですが、詩森さんの中にいっぱい詰まってて、溢れ出すものがあるのを感じています。

鈴木 僕も今回の稽古場で、詩森さんの指導で本当に貴重な経験を沢山させてもらっています。伊藤さんと簗瀬さんに稽古を観てもらったこともそうですし、ハラスメントの講習会もしていただいたり、詩森さんのおかげでいろんなことに新鮮に向き合えています。いろいろなことをもっと吸収したいという気持ちで稽古場に来ているし、頭を柔らかくして稽古場にいようと思っています。

──自分の役についてはどう演じたいと思っていますか?

鈴木 実在の簗瀬さんの要素をどのくらい意識するかは、まだ計りかねているところもあるのですが、お客さんにどう捉えてもらいたいかをベースにやっていくということだけは決めています。そしてさっき言ったように簗瀬さんが当時抱えていたことなどを、少なくとも同じレベルで抱え込めるように、ラクしないように生きてこうとは思っています。

近藤 伊藤さんにしても簗瀬さんにしても本当に凄い方たちで、たいへんな思いをされている中で、自分たちで「すこたん企画」を始めて、今もやり続けている。すごく強い方たちだから、それを僕もちゃんと表現できればと思っています。

私の中で在庫不足の胸キュンを全部投入したので

──相手役についてお互いに話していただきたいのですが。

鈴木 フクさんはお芝居のおじょうずな方ですから安心できますし、芝居の包容力のある方なので、自由にやらせてもらっています。伊藤さんは簗瀬さんをいつも見ているし、その表情や動きなどから見えてくるものを見ようとされている。その通りに芝居の中でフクさんがいつも見てくれているので安心感があります。

近藤 勝大くんはカッコいいから、僕のことをじょうずだとか包容力があるとか言われて嬉しかったんですけど(笑)、でも本当にカッコいいから僕は若干びびってるところもあって(笑)、でも伊藤さんはリュウタくんのカッコよさに負けずにぐいぐい行く人だから。

詩森 ぐいぐい行くけど、ずーっと気を遣ってるのよね。大好きだから。

──カッコよさに若干びびってるところは、気を遣っている部分と重なりますね。

近藤 ただ、なんか先輩と喋ってるときのような感じもあって。

詩森・鈴木 (爆笑)。

詩森 勝大くん堂々としてるよね、動じない。

鈴木 いやいやいや(笑)。

──そんなおふたりを中心に魅力的な役者さん10人で繰り広げられる『すこたん!』を、改めて詩森さんからアピールしていただけますか。

詩森 文字で書けることは台本に書きましたけど、俳優の身体でしか表現できないものがあってそれを稽古で作っています。そしてみんなの間にそういうものが出来てきていると思います。微笑ましたかったり、ハラハラしたり、私の中で在庫不足だった胸キュンを全部投入したので、もう在庫がまったくなくなりましたが(笑)、そのぶん物語の中にいっぱいありますから。身近な人たちの大切な話を見るという気持ちで観ていただけると嬉しいし、帰るときには登場人物全員が友だちの誰かみたいな気持ちになってくれるといいなと思っています。

鈴木勝大・詩森ろば・近藤フク

■PROFILE■

しもりろば○宮城県仙台市生まれ。1993年、劇団風琴工房旗揚げ。以後すべての脚本と演出を担当。 2018 年より屋号を serial number と改める。全国どこへでも飛び回る綿密な取材をもとに、骨太な物語を編み上げ、独自の視点で立ち上げる。スピーディーかつ演劇知の塊のようなパワフルな演出で、扱う題材は、歴史劇から金融、福祉車両の開発からアイスホッケーまで、ほかに例のない多彩さを見せる。2013年読売演劇大賞優秀作品賞、2016年紀伊國屋演劇賞個人賞、2018年芸術選奨賞文部科学大臣賞新人賞、2020年 映画『新聞記者』 で日本アカデミー賞優秀脚本賞、2021年読売演劇大賞優秀演出賞など受賞。

すずきかつひろ○神奈川県出身。2009年、第22回ジュノン・スーパーボーイ・コンテストにて、準グランプリを受賞。2012年、スーパー戦隊シリーズ第36作目『特命戦隊ゴーバスターズ』にて、テレビドラマ初主演。以来、映像と舞台で活躍中。近年の主な出演作は、【ドラマ】『あなたの番です 第8話・第9話』『ドゲンジャーズ~ナイスバディ~』『きれいのくに 第3話』、【映画】『翔んで埼玉』『午前0時、キスしに来てよ』、【舞台】『岸 リトラル』『貴方なら生き残れるわ』『ハッピーマーケット!!』『絢爛とか爛漫とか』『犇犇』など。

こんどうふく○福井県出身。2005年ENBUゼミナール(倉持クラス)を卒業後、2006年からペンギンプルペイルパイルズに参加、以降全ての公演に出演、2008年に劇団員に。近年の主な出演作は、【ドラマ】『TOKYO ストーリーズ』『麒麟がくる』連続テレビ小説『エール』、【映画】『いしゃ先生』『東京ウィンドオーケストラ』『美しい星』『この道』、【舞台】『百年の秘密』『家族の基礎~大道時家の人々~』『地を渡る舟』『粛々と運針』『逢いにいくの、雨だけど』『一九一一年』など。

【公演情報】
serial number
『すこたん!』
作・演出:詩森ろば
原作:伊藤悟・簗瀬竜太  全著作
出演:
鈴木勝大・近藤フク(ペンギンプルペイルパイルズ)・根津茂尚(あひるなんちゃら)・佐野・大内真智(水戸芸術館専属劇団 ACM)・中西晶・辻井彰太(シヅマ)・工藤孝生・河野賢治・吉田晴登
演奏:後藤浩明
●10/28~11/7◎中野ザ・ポケット
〈料金〉一般/前売 4,500円 当日 5,000円 学生(大学生以下  前売・当日共)3,500円 障害者(前売・当日共)3,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※学生・障害は劇場にて要手帳提示
〈ギフトチケット〉 大切な方に観劇体験をプレゼント!
チケットのみ 4,500 円/パンフレット付き 5,500 円
ギフトチケットとは? http://fringe.jp/gift/

〈配信チケット〉(アーカイブ配信)検討中
〈チケット取り扱い〉serial number 公式サイトhttps://serialnumber.jp/nextcheck.html
CoRich チケット  https://ticket.corich.jp/apply/114303/

〈公演公式サイト〉https://serialnumber.jp/next.html

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

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