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『Secret War-ひみつせん-』いよいよ開幕! 詩森ろば・三浦透子 インタビュー

詩森ろばの新作書き下ろしの舞台、serial number07『Secret War-ひみつせん-』が、いよいよ6月9日から東京芸術劇場シアターウエストで幕を開ける。(19日まで)

第2次世界大戦時、731部隊における人体実験を含む戦時研究を行っていた登戸研究所。この作品はその研究所をモデルに、そこで行われていた科学戦争のための研究や、それに携わる科学者たち、そこで働く人々の姿を通して、戦争というものの実体と残酷を伝える。

主人公となるのは研究所で和文タイピストとして働いていた女性で、その役を、映画『ドライブ・マイ・カー』で大きな注目を集めた三浦透子が演じるのも大きな話題だ。

【ものがたり】
村田琴江(三浦透子)はタイピストとして登沢研究所で働き始めた。そこは、戦争のための研究をする日本軍の施設であった。偽札作り、風船爆弾、一見荒唐無稽な研究者たちの研究は、人体実験を含む細菌兵器にまで及ぶ、それを人は秘密戦と呼んだ。そこで琴江は、細菌や病毒を研究する研究者、市原(坂本慶介)や桑沢(宮崎秋人)たちと儚い関わりを持つ。
半世紀後、中国北京に暮らす王浩燃(大谷亮介)のところに、科学ライターを名乗る津島遥子(三浦:2役)が訪ねてくる。遥子は、登沢研究所について調べていると名乗り、男が第二次世界大戦当時、登沢に勤めていたのではないか、と切り出す……。

この舞台の作・演出の詩森ろばと主演の三浦透子が、稽古場で本作への思いやお互いについて語ってくれた。

詩森ろば 三浦透子

裏側でどれだけのことをしているかというのを知っているから

──三浦さんのserial numberへの出演は二度目で、最初は2019年6月の『機械と音楽』でした。出会いの印象はいかがでした?

詩森 オファーした役は20代~40代の手前まで演じなければいけなくて、透子ちゃんはまだ22歳でしたから、そこだけが心配でした。でも心配だった場面をやってもらったら、とても素敵だったので、本当に22歳なの?と。

三浦 (笑)。

詩森 すごく大人だった。ちょうどそのあと『天気の子』の主題歌で名前が知られて。

──本当に綺麗な歌声ですね。今年3月のミュージカル『手紙』でも感動しました。三浦さんは、なんと芸歴20年なんですね。

三浦 そうなんです。ただ舞台は初めて出たのが20歳のときで、今回の作品でまだ5本目です。

──舞台でも自然で伸び伸びしていて、天性の役者という感じがします。

詩森 どうなんでしょうか。裏側でどれだけの努力をしているかというのを私は知っていて、どんなふうに本(台本)へのアプローチをしているかも知っているので。それを天性と言ってしまっていいのかどうかは正直わからないですね。

三浦 決して感覚の人間ではないので。

詩森 ただその努力を当たり前みたいにできるということが天性だとしたら、天性だと思います。

三浦 そう言っていただけるのは嬉しいです。でも、その方法しか私はできないんです。

──それは具体的にはどんなことですか?

三浦 すごくシンプルなことです。ちゃんと本を読むという。

詩森 ものすごくスタンダードで、奇を衒ったことではないですよね。ロジカルに本を読んで、ロジカルに理解したことを体で見せる。役のコンテキストを生理に落とし込んでいくことができる俳優さんなんです。子供のころからやっているから、演技に対しての自意識が低いのかもしれないです。もちろんよい意味で。

三浦 役者を始めてから今に至るまでずっとそのことを考えてきたと思います。動物的に感覚でやってうまくいった瞬間と、ちゃんと頭を使ってうまくいった瞬間、どちらもあるんですが、そのどちらかだけでも足りないような気がして、2つをうまく持ち込んでやれないかなとか、どうやったらそれがうまく実践できるか、みたいなことをずっと考えてきたと思います。

詩森 それを一番間近で見てきたんです。あ、こういうふうに読むんだ、こういうふうにやるんだというのを。だからかんたんに天性とは言えない気持ちではあります。

同じ台詞を100回言ったときにしか見えない景色がある

──早くから映画やドラマの脚本などに触れる機会が多かったと思いますが、本を読むこと自体は好きでしたか?

三浦 好きでした。でも読書が楽しいということと脚本や台本の読解は少し違うと思います。小さい頃から俳優を始めたので、興味が先にあったのか、後からついてきたのか自分でも判断できないのですが、演じる本を読み解いていく作業がたぶん私は好きなんです。「ここを通るんだったらこっちの道にたどり着くだろう」という道筋のパターンをいくつか考えて、それにひとつずつチャレンジしてみて、「これが一番いい」と思えることを稽古場で発見するんですけど、その作業が私は楽しいんです。

詩森 だからディスカッションしながら本を直したりできる。わたしも楽しいですね。

三浦 私もめちゃめちゃ楽しいです(笑)。それをやらせてくれるというのもすごくありがたいですし。

詩森 透子ちゃんがそれをやってくれるので、他の人も言いやすくなっているんです。自分の役についてはそれぞれがスペシャリストじゃないですか。私は全体を見ていく役割ですから。新作は、1人1人の生理の通し方とかロジックが甘いところがあったりするので、それをみんなでブラッシュアップしてくれました。劇作家としてはごめんなさいと思うんですが(笑)、演出家としては俳優の言ってるほうが正しいねって思って、きっぱり直す。すごく楽しい作業です。

三浦 どこまで何を言っていいか、どこまで何を求めるかということに関しては、人それぞれ基準があると思うんですが、詩森さんの現場に関しては、私はこう思いましたとまず率直に伝えたうえで、「それはいいね」とか「じゃあ、こう整理してこういうふうにやりましょう」と話し合える。それは、健全なコミュニケーションだとは思うのですが、実現するのはなかなか難しいことでもあります。

詩森 やはり2回目ということや、透子ちゃんがこの3年の間に積んだキャリアもあるし、私自身の変化もあるし、とても良い関係が成立していると思います。

三浦 頭の中にある言語感も近いので、これを伝えるのにどの言葉を選ぼう?みたいな迷いがなく、そのまま伝えてキャッチしていただけるのが本当にありがたい。

詩森 透子ちゃんだけでなく、今回のメンバーはきちんと読んで解釈したうえで違和感を伝えてくれるので、「あ、それはそうですね!」みたいに受け止められるし、作品がどんどん磨かれていってるなと思います。

──三浦さんは舞台は5作目ですが、映像の場合とアプローチや向き合い方に違いはありますか?

三浦 基本的な準備の仕方みたいなことは変わらないです。違いという意味では、お芝居は1回目か100回目が良いみたいな話をよく聞くのですが、その100回目の良さみたいなものを突き詰めていける感覚があります。台詞を初めて言ったときにしか感じられない何かはあって、それを残していく良さもありますが、同じ台詞を100回言ったときにしか見えない景色もあって、それを体験できるのが舞台だなと思います。

詩森 それは確かに舞台ならではかもしれないね。

三浦 映像でそれを目指している人ももちろんいらっしゃるのですが、舞台と比べると時間をかけられないので、どちらかを取るのなら1回目をという選択肢になる場合も多いと思います。それはそれの良さがあるんですが、でもその先にあるもの、それは10回目ではまだダメで、100回目のときに「あ、この台詞はこういう意味だ!」と、ふとわかる瞬間がある。それは解釈をすごく大事にするということとは矛盾して聞こえるかもしれないんですけど、私の中では両立できるものでもあって。解釈をきちっとした上での余白を残すというか。本を信じてその通りそのまま言っていて、ふとその台詞に気づかされる瞬間ってあるんですよね。

詩森 それはもう俳優にしかわからない世界だね。もちろん観ていれば結果としての演技が違うというのはわかるんだけれど、内側でどういう運動が起こっているのかとかはわからない。

三浦 それが面白いし、それは舞台をやるまで知らなかった感覚だなと思って、だから今すごく舞台をやりたいんです。

透子ちゃんの出演が決まったことで上演できる!と

──この作品の内容についても伺いますが、実在した登戸研究所という場所での物語で、書くうえで大事にしたことは?

詩森 今回は事実を大切にしつつ、資料からどう物語を飛ばせるかということを考えました。ですから名前も登沢研究所にして、フィクションとして力のあるものにしていきたいと思いました。

──その核になるのが、三浦さんが演じる現代に生きる津島遥子であり、1945年まで研究所に勤めていた村田琴江ですね。琴江は和文タイピストとして働く女性で、彼女の存在で物語に入りやすくなっているなと。

詩森 それがなかったら書けなかったです。凛として聡明な役なので、透子ちゃんにやってもらいたいと思ったし、透子ちゃんの出演が決まったことで上演できる!と。ただ自立した女性であればいいということでもなくて、あの時代だったらこのぐらいの視点しか持ちえなかったんじゃないか、というようなことまでいっしょに考えられるひとじゃないと、と思っていました。そして、男性中心の科学研究所の話だからこそ女性を主人公にしてやりたかったんです。

三浦 今おっしゃっていただいたように、私もこれを透子にと言っていただいた理由が不遜かもしれませんが、とても理解できるんです。最初の『機械と音楽』から3年経っていますが、詩森さんとはその間もコミュニケーションしてきたので共有できるものがあって、人生観とまではいきませんけど、「こうありたいよね」みたいな人間の姿についても、お互いに大事にしたいものが近いので、この本が届いたとき、ぜひと言われたことが納得できたんです。これはやらなくてはいけないなと思いました。

詩森 私は透子ちゃんの仕事は出来るだけ観るようにしていて、今回のホンはその成長も上乗せした作品にしたいと思っていたし、透子ちゃんからも「成長した私を見てほしい」と言われたので、それに応えなきゃいけないと思って、私もがんばって書きました(笑)。とは言え、米国アカデミー賞ですからね。成長しすぎ、困る、とも思いましたけど(笑)。

──三浦さんありきで書かれた作品ということですが、役にイメージが反映されているということですか?

詩森 透子ちゃんの普段のパーソナリティに合わせているかというと、違います。

三浦 違いますね(笑)。

詩森 私の場合はまずは物語の中で必要な人を俳優には忖度せず書きます。当て書いてる部分があるとしたら、コアになる部分は絶対にわかってくれると信じる量かもしれません。

──琴江について三浦さん自身と通じる部分は?

三浦 人として大事にしていることとか、哲学の部分で自分と通じるものはあると思います。自分もこうありたいと思う姿がある。言葉の選び方とか感情の表現の仕方とかいうのは、役のキャラクターの部分になってくるので違うとは思いますが。

詩森 表面の部分は当時の女性ですから、そんなに合わせては書いてないですね。透子ちゃんはもっと明るいし(笑)。

三浦 (笑)。

──琴江は、焼却されそうな資料のコピーを持ち出すという、当時の女性ではなかなか出来ないことをやってのけます。

詩森 モデルになったその女性は、もう少し素朴な気持ちだったのかもしれないです。フィクションにしていくうえで、持ち出すことについてのアクチュアリティとか理由を持たせて、今やる意味を構築したということです。

三浦 琴江は、ある種の現代的な感覚を持っていた女性だと思うんです。そういう感覚を持った女性があの時代に生きることの難しさもあって、難しいからこそそこで闘った琴絵の姿というのが、人の心を動かすんじゃないかと思います。そこに、今この題材で舞台をつくる意味があるのではないかと。観た人が「自分がもしここにいたら、なにを感じただろう」と考えるきっかけになれば嬉しいです。実際、今の情勢も含め、決して遠いところにあるお話ではないと思います。

詩森 同時に、あの時代だからここまでが限界だね、というような話もしながら稽古しました。都合よく今の私たちの価値観で1945年から飛びすぎてしまわないように。

三浦 そのバランスはすごく気をつけながらやっていますね。そこでへんに不自由になってもいけないし、自由になりすぎてもいけない。

情熱を利用して目的が歪んでしまうことへの警鐘

──科学戦争の研究所ということで暗いイメージを思い浮かべますが、登場する若い科学者たちは、それぞれ科学への熱い思いを持って研究していて、それだけにつらいですね。

詩森 だから繰り返してはいけないという思いと、そこにあった情熱みたいものまでは否定したくないという気持ちがあるんです。情熱を利用して目的が歪んでしまうことには警鐘を鳴らしたいと思って書いた作品ですが、うつくしい部分もあったということをフェアに書きたいと思ったんです。科学戦争を研究していたからみんな極悪人ということではなく。

三浦 そうですよね。

詩森 楽しいこともいっぱいあったと思いますし、ちょっとした恋もあっただろうなと。私たちが見知っている感情もいっぱいあるなかで、それが握り潰される瞬間もあって、そういう日常と戦争が地続きにあったことこそ書かないといけないなって。

三浦 これを読んだとき、恐ろしいなと思いつつ、「科学って面白いな」って思ってしまったんです。相反する感情が同居する。それはこの話に出てくる人たちの感情と重なるところがあるように思います。

──三浦さんは理系の大学だったので、気持ちがわかる部分もあるのでは?

三浦 文系とか理系とかあまり関係ない気もするのですが、突き詰めて学問をやっている人の目の輝きとかは見たことがあると思うので、そこは舞台の上でも生かせると魅力的な人物になるのかなとは思っています。

──最後に観てくださる方へのアピールをいただけますか。

三浦 戦争のお話、科学のお話と聞くと難しいものを想像されるかもしれませんが、描かれている感情みたいなものは、とても普遍的で身近にある心の機微だと思います。フィクションとしてとても面白い作品なので、ラクな気持ちで観ていただきたいと思います。

詩森 大好きなお芝居になっています。本番に向けてさらにみんなでより良いものに作っていきますので、ぜひ沢山の方に観ていただければ嬉しいです。

詩森ろば 三浦透子

しもりろば○岩手県出身。1993年、劇団風琴工房旗揚げ。以後、2017年まですべての脚本と演出を担当。2018年よりserial numberとして活動中。他劇団への劇作も多数。これまでに作家協会新人戯曲賞優秀賞、読売演劇大賞優秀作品賞、第51回紀伊國屋演劇賞個人賞、芸術選奨文部科学大臣賞新人賞など多数受賞。2020年には映画『新聞記者』で日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞した。

みうらとうこ○1996年生まれ、北海道出身。2002年、SUNTORY「なっちゃん」のCMで2代目なっちゃんとしてデビュー。最近の主な出演作に、【映画】『私たちのハァハァ』『月子』『素敵なダイナマイトスキャンダル』『スパゲティコード・ラブ』、【テレビ】大河ドラマ『鎌倉殿の13人』 連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』『いないかもしれない』【舞台】『機械と音楽』てがみ座『燦々』『染、色』ミュージカル『手紙』など。歌手として90年代名曲カバーアルバム「かくしてわたしは、透明からはじめることにした」でCDデビュー、新海誠監督映画『天気の子』の主題歌のメインボーカルに抜擢され、2020年には、自身初のオリジナル1st Mini Album「ASTERISK」を発売。6月1日には、新曲「intersolid」が配信リリースしている。映画 『ドライブ・マイ・カー』(21)で個人としては第45回日本アカデミー賞新人俳優賞、第43回ヨコハマ映画祭助演女優賞、第95回キネマ旬報ベスト・テン助演女優賞など多数受賞。

【公演情報】
serial number 07
『Secret War~ひみつせん~』
作・演出:詩森ろば
出演:
三浦透子/坂本慶介 宮崎秋人 松村武(カムカムミニキーナ)北浦愛 森下亮(クロムモリブデン) 佐野功 ししどともこ(カムヰヤッセン)/大谷亮介
●6/9~19◎東京芸術劇場シアターウエスト
〈料金〉前売・当日共/一般6,000円 障害3,000円 学生4,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※障害者、学生は劇団のみの取扱い。当日受付にて手帳をご提示下さい。
〈お問い合わせ〉secret@serialnumber.jp
〈公式サイト〉https://serialnumber.jp/

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

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