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相撲界を舞台に繰り広げる異色のエンターティメント!『両国花錦闘士』上演中!

日本の国技「相撲」を題材に、架空の1980年代後半から90年代初頭のバブル期に全てにハイな空気感と、スポーツではなく「神事」と位置づけられ荘厳な相撲界を融合して、ファンシーなワンダーランドに仕上げた舞台『両国花錦闘士』(りょうごくおしゃれりきし)が浜町の明治座で上演中だ(23日まで。のち、2021年1月大阪・新歌舞伎座、福岡・博多座でも上演)。

『両国花錦闘士』は、「ファンシイダンス」「陰陽師」など、博学で鋭い洞察力に裏打ちされた物語と、繊細にして流麗なタッチのイラスト、更に独特のユーモアで多くの熱狂的ファンを持つ漫画家・岡野玲子の同名漫画を原作に展開される舞台作品。1989年から90年にかけて、ビッグコミック スピリッツ(小学館)にて連載された原作漫画は、当時異色だった「相撲漫画」というジャンルを発掘し、所謂「スポ根」ものとは一線を画す、女人禁制の相撲の世界を乙女の視点でポップに描きながら、尚、相撲の真髄を描き出したと絶賛された作品。今回の舞台は、その「相撲」と「演劇」が共に神事を起源としていることに着目し、相撲の世界を、歌あり、ダンスあり、笑いあり、のエンターテインメント演劇として描こうとのエキサイティングな企画になっている。スタッフ陣には近年、歌舞伎の脚本から、劇団四季の演出までを幅広く手掛け、現代演劇のトップランナーの一人として活躍する青木豪脚本・演出、主題歌を相撲通として知られるデーモン閣下等が名を連ね、原嘉孝(ジャニーズJr.)、大鶴佐助、大原櫻子、紺野美沙子、りょうをはじめとした、多彩なキャスト陣が明治座の大舞台をところ狭しと駆け抜ける舞台となっている。

【STORY】
両国に爛漫と咲き乱れる力士たちの花舞台・国技館。その土俵の上では、宿命のライバルの取組が始まろうとしている。東はソップ(やせ)型で美形の昇龍[しょうりゅう](原嘉孝(ジャニーズJr.)。西はアンコ(ぽっちゃり)型の雪乃童[ゆきのわらべ](大鶴佐助)。何もかもが正反対な二人だが思いは同じ。「コイツにだけは負けたくない!」

熱戦を取材するのは、ワールドベースボール社の相撲雑誌の記者・橋谷淳子(大原櫻子)。野球雑誌記者を志望していながら相撲雑誌の担当になった彼女には、相撲の良さがさっぱりわからない。

稽古の合間の息抜きに、雪乃童は付き人たちとディスコへ繰り出すと、密かに想いを寄せる部屋の一人娘・沙耶香(加藤梨里香)と鉢合わせ。親方もおかみさん(紺野美沙子)も心配していますよとたしなめるが、雪乃童の想いも空しく沙耶香には全く相手にされない。

一方、昇龍も力士と分からぬようにオールバックにスーツでディスコを訪れるが、鬢付け油の匂いであっという間に力士と見破られる始末。ところがその甘い香りに誘われるかのように大手芸能事務所パピーズの女社長・渡部桜子(りょう)が現れる。数多の男たちを欲しいままにしてきた彼女は、出会ったことのないタイプの種族・力士の昇龍に強烈に惹かれ、篭絡せんと猛アピールを開始した。

勝利も美女も手に入れるかに見えた昇龍だが、次第に桜子の歪んだ愛情に翻弄され、不調の力士に惨敗を喫するなど心に乱れが生じる。昇龍は桜子の欲望に呑まれてしまうのか。雪乃童との勝負の行方は。淳子の見つめる土俵には愛と欲望が乱れ咲く。果たしてその先に見えるものは……。

もちろんこの企画が立ち上がったのは、世界を新型コロナウィルスが襲うなどとは想像もできなかった頃だったのだが、明治座、東宝、ヴィレッジというそれぞれ歴史もカラーも異なる三社から、同じ年齢の男性プロデューサー三人が集い、東京で最も長い歴史を持つ明治座を舞台に、先人たちの足跡に敬意を表し、演劇界の未来を見つめ、ケレン味とスペクタクル感満載のエンターティメントを作ろう!という趣旨の、名付けて「三銃士企画」が始動したと聞いた時のワクワク感は忘れられない。キャパ数十人の小劇場から何千人規模の大劇場まで、ひと晩に都内だけでもどれくらいの演劇が上演されているのか、その全てを把握するのも難しいほど、演劇界の表現形態は多岐に渡っている。その中で特に大規模な公演を打つ三社の、謂わばライバル関係にあるプロデューサーがタッグを組み、新たなエンターティメントを生み出そうという姿勢には、「演劇」という心のワンダーランドを大きく広げる可能性がたっぶりと感じられたからだ。ましてや作品が『両国花錦闘士』。相撲の世界を舞台で!?という、ある意味想像を超えた題材を引っ提げてきた着眼点と心意気に、期待は高まるばかりだった。

それが、コロナ禍に否応なく巻き込まれた2020年の演劇界にとって、更に力強い輝きを放つものになったのには、大げさではなく運命のようなものを感じずにはいられない。この期間に独立独歩が基本だった演劇界は模索を続け、「演劇の灯を守る」というただひとつの願い、信念をもって、様々な連帯が試みられている。その歩みの中に、この『両国花錦闘士』が“ぶっ飛んでいる”と言いたいほどのスピード感とパワーを持って上演されたことには、特段の力を感じる。角界というある種神秘の世界を、それこそおしゃれに、ユーモアとペーソスたっぷりに、華やかに表現していて、漫画原作作品ならではの良い意味の非現実感が三時間の魂のリフレッシュを提示してくれている。おそらくこのような時期でなければ、明治座自慢の舞台機構も華麗に使い尽くされたのだろうが、そこに制限がある中で、映像を効果的に使用しながら、ある種のアナログ感の中で役者の弾ける力を信じた青木豪の演出が当を得ていて、舞台から発せられる陽性のエネルギーが眩しかった。

そんな舞台で初座長を飾った昇龍役の原嘉孝の、初座長とは思えない堂々とした舞台ぶりに驚かされる。基本的に格闘技に分類されるもので(相撲をここに括るのはやや難しい面もあるものの)体重別になっていないことが海外の目には信じ難く映るとも聞く相撲の醍醐味のひとつに、小兵力士が大型の力士を様々な技を駆使して倒すことが挙げられるが、そうした魅力をたっぷりと持った「昇龍」を、原が実に説得力を持って演じて惹きつける。何より舞台姿に華があり、明治座のセンターにいることに安心感があるのが素晴らしかった。

一方ぽっちゃり型力士の雪乃童を演じた大鶴佐助は、こと相撲に関しては一途で真っ直ぐだが、自分に自信がなく、親方の一人娘に寄せる想いを上手く伝えられないでいる役柄を、おっとりした優しさと、勝負に向かう時の真剣さの双方をクッキリと表現している。肉布団をつけての熱演だが、次第に本当の体つきに見えてくるほど動きが自然で、まさに「お相撲さん」がそこにいると感じさせる高い地力を発揮していた。

野球記者志望だったのに、相撲雑誌に配属されてしまった橋谷淳子の大原櫻子は、組織に属している限り必ずあるだろうジレンマの前で失望しながら、嫌いだ嫌いだと言っていた相撲に対して誰よりもコアな知識を獲得していく様に真実味かある。音楽もたっぷりと入ってくる今回の作品にとって、大原の歌唱力が支えになるのは勿論だが、常に変わらぬ全身で表現する大原の活きの良い演技もまた、作品の大きな支えになっている。

昇龍に一目惚れする大手芸能事務所の女社長・渡部桜子のりょうは、「バブル期」を一人背負って立つような役柄を、独特のキレ味と凄味を持って演じている。役柄自体がかなりカリカチュアされているが、そこにピッタリとハマっていくりょうの個性が抜群に活かされていて、これはキャスティングの勝利。余人を持って代えがたい存在感だった。

雪乃童の部屋のおかみさんの紺野美沙子は、相撲を愛する女性「スー女」という言葉がまだ生まれていなかったのではないか?と思うほど早くから相撲ファンを表明していた人で、その相撲に対する愛が舞台の力士たちを見守るおかみさん愛に直結。年齢を重ねてもおっとりしたお嬢様感と気品を全く失わない紺野ならではのおかみさん像が温かく、りょうの個性との対比も非常に効果的だった。

また、特別出演の格で舞台に参加している昇龍の兄の清史の木村了が、全てが計算できると信じている頭脳派の、本人が意識していないまま表われている他人を見下した感を巧みに見せているし、雪乃童が思いを寄せる部屋の一人娘・沙耶香の加藤梨里香も、ある意味特殊な環境にいることへのいら立ちを嫌味なく表現している。須藤王の徳永ゆうき、花ノ園の岸本慎太郎、豪剛郷の根岸葵海など、ネーミングも楽しい力士たちを演じる面々が随所に活躍。大駄山としての出番はワンポイントで、主題歌を歌うデーモン閣下や、オペラ歌手にも扮した大山真志の秘密兵器的な起用法がやや贅沢すぎるほどで、もっと観たいと思わせるなどキャストも充実。ラストの展開も実に洒落ていて、「あぁ楽しかった!」という前向きなパワーを感じる舞台が、困難多い2020年の年末を飾ったことを喜びたい。

【取材会】

この公演の初日を前に原嘉孝、大鶴佐助、大原櫻子、紺野美沙子、りょうによる取材会が行われ、以下のように舞台への抱負を語った。

原嘉孝 様々な舞台がコロナで中止になったりしている中、こうして初日を迎えられるのは僕たちにとって本当に幸せなことで、やっとこの作品をお客様に届けられることが、いまとても嬉しい気持ちです。稽古場のキャスト、スタッフ全員が僕の事をすごく支えてくれて、このメンバーなどは毎晩のように連絡をくださって。「今日大丈夫だった?」とか「明日は大丈夫?」とかすごく支えられました。
昨夜はついに明日だと思って家で一人でいたら、いろんな気持ちがこみ上げて、(大鶴に)思わず連絡しちゃったんですけど。励まして頂きました。
まわしは結構見た目よりもキュッと締まるんですね。一人でつける訳ではなくて引っ張って頂いてグッと締まるので、同時に気持ちも引き締まるものがありました。
2月にプライベートで筋トレを始めて7~8kg筋肉が増えていたのですが、昇龍役をやることになって、そこから2kg絞りました。稽古前には週2回~3回はジムに通っていたのですが、稽古場の「相撲稽古」でずっと中腰だったりと、かなりキツイ稽古だったので、プロデューサーさんからは「もうこれ以上はやらないでほしい」と言われました(笑)。

大鶴佐助 本当に無事に初日が開けることが嬉しいですけれども、ここからだなという気持ちで、みんなで一丸となってこの作品を育てていきたいと思います。岸君とは、ライバルであると同時にバディの感じでもあるので、芝居については至らないながら色々話しましたし、さっきまわしを締めると気持ちもキュッとなるって言っていましたが、あれも二人で締めるのですが、僕がグッとやると、次にそれ以上の力で締めてくるので頼もしいです。

大原櫻子 いま本当に胸がいっぱいです。こういうご時勢でエンターテインメントを出来ることを嬉しく思います。今のところはキャスト、スタッフ全員、怪我無く体調も良く迎えられているので、最後まで駆け抜けられるように頑張りたいと思います。私は二回目の共演なのですが、ずっと原ちゃんの姿を見てきて、勤勉でマジメですし、人に優しいですし、座長をやるって聞いた時に泣き虫なところだけ大丈夫かなって思っていたんですけど(笑)、芝居に対する姿勢をすごく尊敬しています。今回(大鶴)佐助君と対戦のシーンが多いですけど、佐助君と(原)嘉孝君、二人の稽古場での雰囲気がすごく微笑ましくて、二人が支え合っているのを感じていました。

りょう あとは楽しむだけというか、とにかく皆さんに笑って頂きたいという気持ちでいっぱいです。楽しんで帰って頂きたいなと。そのためなら私達は沢山“どすこい”したり、四股を踏んだりするので(笑)楽しみに観に来て頂きたいです。岸さんは、初めて昇龍になって稽古場に立たれていた時に、稽古場に入った瞬間にとても安心しまた。本当に真っ直ぐで、お芝居が大好きというのが伝わってくる方なので、その瞬間に「ついて行こう!」と思いました。

紺野美沙子 初日を迎えることが出来てドキドキワクワクしております。ただ、初日の幕が下りるまで正直、実感がまだわかないという気持ちでおります。稽古場では最初皆さんトレーニングウェアだったので、原さんがいつ脱ぐのか?が楽しみで、楽しみで仕方がなかったんですが(爆笑)予想以上に素敵でした。(真ん中を示して)三人は二十代なんですね。りょうさんと私が上で。本当に三人が相撲で言う「心技体」が揃っているのが素晴らしいなと思って。角界で言うなら三役級で、更に大関、横綱を目指していくぐらいの実力のある三人なので、私はとにかく迷惑をかけないようにと、それだけをずっと考えていて、これからも皆さんについていきたいと思っています。

最後に原嘉孝から「無事初日を迎えて、千秋楽まで一致団結して僕ら突っ走りますので、応援よろしくお願いします」と抱負があり取材会を締めた。

【公演情報】
『両国花錦闘士』
原作:岡野玲子(小学館クリエイティブ「両国花錦闘士)
作・演出:青木豪
主題歌:デーモン閣下
出演:原嘉孝(ジャニーズJr.)/大鶴佐助、大原櫻子/木村了(特別出演)入江甚儀
徳永ゆうき 岸本慎太郎(ジャニーズJr.) 根岸葵海(ジャニーズJr.) 大山真志
橘花梨 加藤梨里香/市川しんぺー 福田転球 伊達暁/紺野美沙子/りょう
皇希 南誉士広 梅澤裕介 遠藤誠 中村味九郎 松田拓磨 遊佐亮介 近藤廉
●12/5~23◎東京・明治座
〈料金〉S席(1階席・2階席正面)12,000円 A席(2階席左右・3階席)5,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉明治座チケットセンター 03-3666-6666(10時~17時)
●2021/1/5~13◎大阪・新歌舞伎座
〈料金〉S席 12,000円 A席 7,000円 B席 6,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉新歌舞伎座電話予約センター 06-7730-2222(10時~18時)
●2021/1/17~28◎福岡・博多座
〈料金〉A席 13,500円 B席 9,000円 C席 6,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉博多座電話予約センター 092-263-5555
〈公式サイト〉https://www.ryogoku-oshare-rikishi.com/

 

【取材・文/橘涼香  撮影/田中亜紀】

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