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聴覚と視覚で想像の翼を広げた、朗読で描くミステリー『シャーロック・ホームズ~特別なあのひと~』

ミステリー小説に於ける「名探偵」の代名詞とも言えるシャーロック・ホームズの活躍を朗読劇に仕立てた 朗読で描くミステリー『シャーロック・ホームズ~特別なあのひと~』が、1月5日~11日まで新宿の紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYAで上演された。

朗読で描くミステリー『シャーロック・ホームズ~特別なあのひと~』は、19世紀後半に活躍したイギリスの小説家・アーサー・コナン・ドイルの創作した架空の探偵、シャーロック・ホームズの一代記を描いた朗読劇。今尚、世界中に「シャーロキアン」と呼ばれる熱烈なファンを持つ名探偵シャーロック・ホームズ、その相棒にして、医師であり彼の事件簿を書きとめる「伝記作家」でもあるジョン・H・ワトソンを中心に、巨大な犯罪組織を束ねるホームズの宿敵ジェームズ・モリアーティ教授、ホームズが敬意を込めて「あの人」と呼ぶアメリカ生まれのオペラ歌手アイリーン・アドラー等、ホームズシリーズの印象的な人物のエピソードを、土城温美上演台本・演出が巧みに紡いだ、90分のドラマが展開されていく。

天才的な観察眼と推理力とで、一目見ただけでその人物がどこから来て、どんな職業に就いているかを言い当てることに象徴される「名探偵シャーロック・ホームズ」は、探偵小説という一大ジャンルを花開かせた存在としてミステリーの歴史に屹立している。実際の犯罪捜査を警察組織でない「私」の探偵が担うことの現実味が、極めて薄くなった現代に於いてもその人気は衰えることがなく、「聖書に次ぐベストセラー」と呼ばれるほど、世界中で読み継がれているし、映像化、演劇化等、あらゆるジャンルで取り上げられることも続いている。

ただ、一方で情報を並べてくれればそれだけで事件の真相を看破できると言い放つホームズの事件簿を紐解くと、この名探偵が意外にもただ座って犯罪推理を行う、所謂「安楽椅子探偵」ではないことがわかる。真相を追求する為にホームズは各地を飛び回るし、しばしば相棒のワトソンすら別人と思いこむほどの変装術も披露する。ホームズシリーズに冒険小説の趣があるのもこの為で、自在に時や場所を移動し、人物のビジュアルも読み手の想像力に委ねている小説世界では容易なことが、殊に演劇の舞台では一気に難しさにつながってしまうことも多い。

けれども、今回土城温美が取った「朗読劇」というスタイルは、それらの困難を軽々と飛び越えるものだった。舞台に映し出される映像でキーワードを視覚化しながら、物語は自在に時や場所を飛翔していく。ホームズ初登場作品である「緋色の研究」からのワトソンとの出会い。ロンドンのベイカー街221Bにあるアパートでの共同生活のはじまり。ホームズに知力で対抗し得た唯一の女性とされるアイリーン・アドラーとの攻防「ボスニアの醜聞」。ロンドンに暗躍した巨悪として描かれる謎多い人物モリアーティ教授との対決を描く「最後の事件」そして…と、原作シリーズで重要な位置を占めるエピソードが詰め込まれて、尚無理がないのは嬉しい驚きだった。演劇の想像力に委ねる部分の多い朗読劇と、ホームズシリーズとの親和性の高さをこの作品は改めて感じさせてくれている。

そんな作品には5日~11日までの公演期間、日替わりのキャストが組まれた。舞台写真が撮影された7日のキャストはシャーロック・ホームズに伊東健人、ジョン・H・ワトソンに笠間淳、モリアーティ教授ほか数役に山中真尋、アイリーン・アドラーに阿澄佳奈が扮しているし、中澤まさとものように日時によってホームズとワトソンを演じ分けた例もあり、贅沢なその日限りの『シャーロック・ホームズ~特別なあのひと~』が披露された。

その中で10日の、シャーロック・ホームズ岡田浩暉、ジョン・H・ワトソン藤本隆宏、モリアーティ教授ほか数役・松田賢二、アイリーン・アドラー貴城けいの回を観たが、舞台俳優デーとも言える顔合わせだっただけに、視覚的な表現力がより強く、聞き応え、観応えがあった。

シャーロック・ホームズの岡田浩暉は、柔らかい二枚目のビジュアルが、役柄に没頭した時に歪みに似たものを垣間見せることに特段の個性のある人だが、その俳優としての特徴とこれぞ曲者であるホームズ像とがベストマッチ。頭の回転が速すぎるが為に、時に傲慢にも映るホームズの特異性を嫌味なく表出していた。

ジョン・H・ワトソンの藤本隆宏は、大柄な体躯と純朴さを感じさせる佇まいがまさにワトソンそのもの。全体のストーリーテラーも担う構成だが、ホームズとの出会いから互いが「特別なあの人」になっていく過程を温かく表現している。2021年は声を追求する年にしたいとの抱負があるそうで、聞きやすい深みのある声がこうした場でも生かされていくことに期待したい。

モリアーティ教授を中心に、数々の役を演じる松田賢二は、一つひとつの役柄の造形が色濃く、変身の妙が楽しめる。役柄によって自然に立ち姿から変わっていて、原作小説でも屈指の名場面と言われるホームズVSモリアーティの対決シーンの迫力が絶品だった。

そしてホームズが「あの人」と呼ぶ特別な女性アイリーン・アドラーの貴城けいは、一目でホームズの記憶に生涯残る女性が持つ美貌にまず真実味がある。更に、ホームズが唯一ある意味で裏をかかれたこれも原作小説で絶大な人気を誇る名シーンには、元宝塚宙組トップスターの出自が自然に生きていて、貴城が出演したことの意義を知らしめる好演だった。

こうしたプロの声優陣はもちろん、多彩なキャストの好演が楽しく、この朗読劇は「朗読劇ミュージカル」にすることも可能なのでは?と夢が広がる、様々な可能性を感じる作品になっていて、是非更に練り込んでの再演に期待したい舞台だった。

【公演データ】
朗読で描くミステリー
『シャーロック・ホームズ~特別なあのひと~』
作◇アーサー・コナン・ドイル
上演台本・演出◇土城温美
●1/5~11◎紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
出演◇中島ヨシキ 中澤まさとも 福島潤 阿澄佳奈(5日)、阿部敦  笠間淳 川原慶久 吉岡茉祐(6日)、伊東健人 笠間淳 山中真尋 阿澄佳奈(7日)、中澤まさとも 竹内栄治 安田陸矢 北原沙弥香(8日)、石谷春貴 神尾晋一郎 五十嵐雅 青山吉能(9日13時)神尾晋一郎 石谷春貴 狩野翔 大原さやか(9日19時)、岡田浩暉 藤本隆宏 松田賢二 貴城けい(10日)、羽多野渉 阿部敦 山中真尋 山崎はるか(11日)
〈公式サイト〉https://holmes.rodokugeki.jp/

 

【取材・文/橘涼香 撮影/阿部章仁】

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