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女性7人の会話から現代を照射する舞台『楽園』 山田佳奈インタビュー

新国立劇場の演劇公演『楽園』が、6月8日に小劇場にて開幕した(25日まで)。

□字ックの主宰で演出家、映画監督など幅広く活動する山田佳奈の新作で、日本の劇作家の新作を届けるシリーズ【未来につなぐもの】の第三弾となる。

演出は、劇団俳優座に所属し、劇団外でも幅広く活躍する注目の眞鍋卓嗣。出演者は幅広い年代の実力派女優7人が顔を揃えている。

物語の舞台は、日本のどこかの島。年に一度の神事の日。世話役の「おばさん」(中原三千代)は、「村長の娘」(清水直子)と「区長の嫁」(深谷美歩)の鉢合わせに、気が重いと自分の「娘」(西尾まり)にこぼしている。 村民の高齢化で、「若い子」(豊原江理佳)ら移住者に頼らざるを得ない昨今、旧来の村長と革新派の区長が対立しているからだ。そんな中、テレビ局の「東京の人」(土居志央梨)は、神事を撮影しようと隠しカメラをしのばせる。カメラに気づいた神職の「司さま」(増子倭文江)は……。

伝統継承と変化に揺れる地方都市の姿を通して、現代の日本を照射し、女性たちの会話の中にこの国の今が抱える問題が、シビアにユーモラスに浮かび上がる。

この戯曲を書き下ろした山田佳奈に、本作への思いと作家としての自身を語ってもらった。

今の社会や人間について自分のありのままで書いた

──山田さんがこの作品を書こうと思ったきっかけは?

何年か前に私の先輩にあたる映画監督が、沖縄の離島の1つでドキュメンタリー映画を撮ることになって、その取材に同行することになったんです。私たちが島に行った時期にたまたま女性たちの神事があって、それに立ち合わせていただくことができて、監督はその神事を映画に撮ったのですが、私も何らかの形で残したいなと思って。私が残すとしたら演劇しかない。戯曲にしたいなと思ったのがきっかけです。

──山田さんにとってその神事は印象深いものだったのですね。

そうですね。ちょっと集会所みたいな何もない場所なんですけど、そこに祭壇が組まれていて、普通のお母さんみたいな女性たちが集まって、神事(かみごと)をしていくというのが、とても新鮮でした。でもその島に暮らしている人たちも、その神事の神様を祀ってあるお宮がどこにあるのか知らなかったり、島の中に何カ所あるのかも知らないんです。島にはもともとの島民は2割ぐらいしかいなくて、残りの8割は内地からきた人だそうで、村長さんはそのままでは島の神事やそれに伴う行事も消えてしまうことを危惧していて、なんらかの形で残したいという思いで、私たちが取材することを許可してくれたんです。

──その経験について、今書きたいと思ったのは?

「今だから」というより、取材してしまったものをアウトプットしたいと思っていたところに、受け皿としてこの新国立劇場の「未来へつなぐもの」というテーマがあったということですね。でも同時に「今だから」という意味では、今だからこそこの作品がどう思われるかが、ちょっと恐いところがあります。島の狭い世界を書くうえで政治的な部分を書いていたり、今の社会や人間についての私の考え方を書いていて、着地点も「わからないものはわからない」と、今の私のありのままを出しています。ただ、人の考えというのは立場によって善悪が変わるし、答えが1つではない。誰かを傷つけたりすることもあるし、自分が傷つく畏れもある。でもどうにかしなくてはいけないという気持ちで書きました。

昔の人が1つの柱に込めた思いのその壮大さ

──登場する島の女性たちはそれぞれ世代や立場が違っていて、そこに島の現実の縮図のようなものが浮かび上がります。さらに島に取材にきた東京のテレビ局の女性も出てきますが、彼女の立場は山田さんに重なるのかなと。

皆さんにそう言われるのですが、自分を重ねているかということではちょっと違います。彼女のほうが前に進もうとしていて、私のほうが俯瞰視は強いです。ただ、この戯曲においては外部からの目が必要で、冷静な目であり、どこか滑稽に見てしまうような視線を入れたかったということでは、私の斜めから見てしまう性格は投影されていますね(笑)。

──それに加えて、島の女性たちの中には、一度島を出て戻ってきた人や、島の外から移住してきた女性もいたりします。そのことで島と島外の人間という2極ではなく、さまざまな立場からの目線があり、それぞれが自分の立ち位置から意見を言うのが、会話劇として実に面白くできているなと。

会話部分は私の真骨頂だと思っていて、これまでの□字ックの公演などでも女の人たちがガヤガヤするのは、ある意味得意な部分なんです(笑)。ただ今回は絶対に大事なもの、揺るがない根幹というか、劇中で出てくる「逆柱」というものがどっしりとあったことで、いつもとはまたちょっと違う出来上がりになったかなと思います。

──「逆柱」とは拝所で1本だけ根本を上に向けてある柱のことで、あえて未完成な部分を作ることで災いを避けるという伝承ですが、その話が出てくることで作品全体に原初的な奥行きを感じさせてくれます。

私は以前、日光の東照宮に行ったときに「逆柱」を見て、その意味を知ったのですが、昔の人の1つの柱というものに込めた思いが壮大すぎて、なんてすごいことを考えたんだろうと。でもそういう壮大な思いを、呪術的に、でも当たり前のこととして「もの」に託していたのでしょうね。そういう意味では今の人もそういう思いは持っている気がしますが、もっとライトでファスト的ですよね。占いにしろ、そういうものを生活の中で身近に利用しているのかなと。それは私の中にもあるので、「逆柱」のように強い思いを込めることがとても新鮮に感じられたんです。

生きづらかったけど、すごく大きな宝が残った

──演出の眞鍋さんとは台本作りの過程でいろいろ話されたそうですが、「山田さんが演出しなくていいのですか?僕が演出していいのですか?」とおっしゃったとも聞いています。

そんなふうにおっしゃったのは、女性の作品に触れることについてなのか、それとも物語や人物についてなのか、私にはわかりませんが、いろいろなことにすごく繊細に触れる方です。そして自分のイメージで決めない。すごく理性的な人だなと思いました。

──その理性的な視線で、それぞれの女性像をきちんと落とし込んでくれそうですね。

そう思いますし、眞鍋さんでよかったと思っています。もし私が演出したとしたら、見聞きしてきたそのままのパッションで演出してしまうと思うので。そしてそのことで観る人の感性をある1つの点に向かわせてしまう。でも眞鍋さんなら戯曲から読み取った物語を、冷静に整理しながら俯瞰視して演出されると思います。ある意味こういう社会への問いかけを持つ作品は、熱を持たないで演出されたほうが観る人に受け入れやすいと思いますし、その意味でも眞鍋さんに演出していただいて正解だったと思います。

──演出するうえで男性としての目線も生かされるかもしれませんね。山田さんは作品を作るとき自分のジェンダーにこだわりますか?

やはり感覚としてはあると思っています。というのは私を育てた親が男尊女卑の考えが強くて、そのせいで私は大人になってから自分の考え方について、1つ1つ古いのか新しいのか考えざるを得なくて、プリセットをしていくのがなかなか難しかったんです。でも親の考え方は時代がそうさせていたわけですし、過去から受け継いできたものがあるからこそ、今の局面に立てていることを忘れてはいけないと思っています。そして、今どこに流れが向かっているのか、冷静に見なくてはいけないとすごく感じながらこの本を書いたので。そういう意味ではジェンダーのことにすごくこだわっているわけではないですけれど、どうしても出てしまっていると思います。

──山田さんの作品の中では、女性が言いたいことを喋り続けるシーンがよく出てきますが、それを書くことで自分自身も開放してきたということでしょうか?

かなり演劇で自分を開放してきたと思います。もともと自分に備わった女性性が嫌いで、引け目があったんです。とくに嫌だったのは、自分の女性性を理解して利用している人のほうが得をするということで。でも自分はそれはできなかったし、容姿や体型も含めてコンプレックスがありました。今、過去のそういう台本とか読むと、私はこの頃こんなことを思っていたんだと思うんですが、結局、演劇という表現によって自分の怒りを昇華していたんですね。そして次第に認知してもらったり評価してもらったりする中で、自分自身に自信を持てるようになったんです。今、過去の作品を読むとその当時の感情はもう忘れているんです。そういう意味では10年前の私にしか書けないオリジナルであり、すごく生きづらかったけど、すごく大きな宝が残ったなと思っています。

自分にしか出来ないものの最上級が書けたなと

──会話劇が得意という話も出ましたが、この作品も神事などが出てくるのでシリアスな作品かと思っていたら、笑えるシーンも沢山出て来ますね。

真剣な場面ほどちょっと笑えてしまうとかありますよね。松任谷由実さんがファミレスでケンカしている男女の歌を書いた感覚なども近いと思うんですが、ひとの会話をつい気になって聞いてしまったり、ツッコミたくなったり。それに作り手としてのサービス精神というか、真面目な会話だけで2時間やったら観ている人もつらいじゃないですか(笑)。

──そういう部分も含めて登場人物のリアリティや会話の妙など、とても成熟した本だと。それは山田さんがこれまでの生き方の中で獲得したものかなと。

先ほどもお話ししたように、育った家庭内でもバランスをとる役割を担わされていたり、年上とばかり遊んで、年上の動向をずっと窺っているような子どもだったわけですが、その特技がたぶん演劇で生かされて、研がれていったのでしょうね。またそれとは逆に、最近は人のことをまるごと受け入れるという作業ができるようになってきたんです。どうしても言いたいことが多い人のほうが勝っちゃうじゃないですか(笑)。でも私はそれに委ねるようになってきて、本当はもっと我が強かったはずなんですが、受け入れるほうが面白いなと思うようになって、そういうことの合わせ技が作品に生かされているのかもしれません。

──人を受け入れるという作業は、劇作にも役に立ちそうですね。

ずっとガードしていたのがガードするものがなくなっちゃって、でもこれはこれで楽しいかなと(笑)。そういう意味で寄り添いすぎちゃって、どんどん相手のほうに寄って行っちゃうんですが、でも本を書くにはすごく良い材料を得られるので。やっぱり自分自身が消耗するようなことからしか良い本は生まれないんだなと(笑)。

──この『楽園』も本当に面白い本なので舞台を拝見するのが楽しみです。では最後に観てくださる方へのメッセージをぜひ。

今、自分自身が書き切れる集大成になったのではないかと思っています。私はこれまで演劇をわりと好き勝手に書いてきて、その中でそのときどきの課題にちゃんと向き合ってきたつもりだし、それを一生懸命クリアしてきました。ただ今回の課題はすごく大きくて。でもそれを一生懸命考えて、キャッチアンドエラーを重ねた結果、自分にしか出来ないものの最上級が書けたなと思っています。大人としての成熟も、自分らしい意地悪な視点やユニークな視点も入っています。このような作品はたぶん10年後は書けなくなっていると思いますので、現時点の私の最上級と言えるこの作品を、ぜひ観に来ていただければ嬉しいです。

■PROFILE■
やまだかな○1985年生まれ。神奈川県出身。脚本家・演出家・映画監督。2010年3月に□字ックを旗揚げ。以降全ての脚本・演出を手掛けている。2020年、自身初の長編デビュー映画『タイトル、拒絶』が東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門に選出、更に東京ジェムストーン賞を受賞。近年の主な作品は、Netflixオリジナルドラマ『全裸監督』(脚本)、水戸芸術劇場ACM劇場プロデュース舞台『ナイフ』(脚本・演出)など。外部作品の書き下ろしも積極的に行っている。初小説『されど家族、あらがえど家族、だから家族は』を双葉社より出版。モーニングツーにて漫画『都合のいい果て』が連載中。

【公演情報】
未来につなぐものⅢ
『楽園』
作:山田佳奈
演出:眞鍋卓嗣
キャスト:豊原江理佳 土居志央梨 西尾まり 清水直子 深谷美歩 中原三千代 増子倭文江
●6/8~25◎新国立劇場 小劇場
〈料金〉A席7,700円 B席3,300円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※そのほかZ席[各日10席]1,650円や各種割引サービスあり。
〈チケット問い合わせ〉新国立劇場ボックスオフィス 03-5352-9999(10:00~18:00)
新国立劇場Webボックスオフィス https://nntt.pia.jp/
〈公式サイト〉https://www.nntt.jac.go.jp/play/blissful-land/

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

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