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ノゾエ征爾演出、知の進歩と人間の倫理を問うデュレンマットの『物理学者たち』上演中!

ワタナベエンターテインメントの新プロジェクトDiverse Theater(ダイバースシアター)の第一弾となる舞台、『物理学者たち』が、9月19日から下北沢・本多劇場にて上演中だ。(26日まで)

Diverse Theaterとは、「多様さ」という意味をもつ「Diverse」を冠にして、様々なクリエイターやプロデューサーとのコラボレーションにより、演劇の可能性を拡げる新プロジェクト。今回の作品『物理学者たち』はその第一弾で、スイスを代表する作家・フリードリヒ・デュレンマットが1961年書いた代表作を、ノゾエ征爾が毒とユーモアを散りばめて演出している。

【あらすじ】
物語の舞台は、サナトリウム「桜の園」の精神病棟。そこに入所している3人の患者-自分をアインシュタインだと名乗る男(中山祐一朗)、自分をニュートンだと名乗る男(温水洋一)、そして「ソロモン王が自分のところに現れた」と言って15年間サナトリウムで暮らすメービウスと名乗る男(入江雅人)。3人は「物理学者」であった。そのサナトリウムで、ある日看護婦が絞殺された。犯人は通称“アインシュタイン”を名乗る患者であり、院長(草刈民代)は放射性物質が彼らの脳を変質させた結果、常軌を逸した行動を起こさせたのではないかと疑っていた。しかしさらなる殺人事件が起き、事態は思わぬ方向へ・・・。

一幕は、精神病のサナトリウムで次々に起こる看護婦殺人事件と、その捜査に訪れた警部を中心に話が進められていく。その中で、捜査を進めようとする警部とこの病院の院長や看護婦、患者たちとの噛み合わないやり取りが繰り広げられる。あるべき捜査の形が通用しない世界で困惑する警部と、狂気を逆手にとって捜査を撹乱していく病院側の人々。ミステリー小説の手法に不条理劇とコメディの要素を盛り込んだような、何が起きるかわからない展開が興味を惹きつける。

第二幕になると、物理学者たちの狂気の裏にあるものが見えてくることになる。
この戯曲が執筆されたのは1961年。原子爆弾という大量殺戮兵器が登場した第二次世界大戦がまだ記憶に新しく、アメリカとロシアの冷戦という新たな世界危機を迎えている時期で、「科学者の大発見がそれを使うものの倫理次第で人類の破滅にも繋がるとき、科学者はどうすべきか」という大きなテーマが浮かび上がってくる。作者のデュレンマットによって、いわば重い命題が提示された作品なのだが、その命題をシリアスな対話劇に落とし込まず、どこかブラックコメディのトーンでまとめあげたところがノゾエ征爾らしい感性で、観客は笑いの中で、科学が抱える闇の深さに思い至ることになる。

そのノゾエ演出に応えて、この戯曲の世界観を体現するキャストたちの嵌まり具合がそれぞれ見事だ。
切れ者警部に扮した坪倉由幸の佇まいには海外ミステリーの粋な味があって、この物語の全体のトーンに大きな役割りを果たす。また、登場から強烈なインパクトを見せる病院長の草刈民代が、誠実味の中に胡散臭さを醸し出す人間として快演、最後まで物語を引っ張っていく。

もちろん温水洋一、入江雅人、中山祐一朗という3人が、物理学者=患者=殺人犯という役割りを担い、作品世界の中で二転三転する狂気と正気を、自在に凄みとともに見せてくれることは、何よりも大きな力となっている。

看護婦の吉本菜穂子は奇矯さで、瀬戸さおりはニンフォマニア的なキャラクターで、このサナトリウムの異常さを感じさせて、それぞれ強い印象を残す。

また物理学者の妻の川上友里とその子供たちの竹口龍茶、花戸祐介、鈴木真之介、そして妻の再婚相手を演じるノゾエ征爾の5人は、サナトリウムとは遮断された外界を表現するような存在で、善人ばかりなのにどこか暴力的な怖ろしささえ漂わせるのは、この社会そのものを象徴しているようにも見える。今回、ノゾエ征爾によって書き直された上演台本は、リアリティとウィットに富んだ言葉による生き生きとした会話となって、この戯曲の奥深さを巧みに引き出し、2021年日本の『物理学者たち』として新鮮に立ち上がった。そこで暴き出される、学術的な発見や発明を巡って人間の倫理観や欲望がもたらすもの、その恐さ。それでも知の進歩は止まらない。では科学者は、そして人間はどうすべきかと、人類の未来へと思いを巡らされる作品だ。

【公演情報】
ワタナベエンターテインメントDiverse Theater『物理学者たち』
作:フリードリヒ・デュレンマット
翻訳:山本佳樹
上演台本・演出:ノゾエ征爾
キャスト:
草刈民代 温水洋一 入江雅人 中山祐一朗 坪倉由幸(我が家) 吉本菜穂子 瀬戸さおり 川上友里 竹口龍茶 花戸祐介 鈴木真之介 ノゾエ征爾
●9/19~26◎本多劇場
〈料金〉一般7,800円 プレビュー6,000円 U20 4,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※U20チケット(20歳以下・平日限定・枚数限定)
〈公式サイト〉https://physicists.westage.jp/
〈ワタナベ演劇公式ツイッター〉@watanabe_engeki
〈ワタナベ演劇 スタッフ公式インスタグラム〉@watanabe_engeki_staf

 

【文/榊原和子 舞台写真提供/ワタナベエンターテインメント 撮影/遠山高広】

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