PARCO PRODUCE 2022『ホームレッスン』紀伊國屋ホールで間もなく開幕! 田中俊介インタビュー
今注目の作・演出家、谷 碧仁が書き下ろし、シライケイタが演出する舞台『ホームレッスン』が、9月24日~10月9日、紀伊國屋ホールにて上演される。二人の初タッグで描くのは“100の家訓”を持つ奇妙な家族の物語。
中学で現代国語を教える伊藤大夢(田中俊介)は三上花蓮(武田玲奈)といわゆる「出来ちゃった結婚」で結婚。三上家でともに暮らし始めるが、三上家の日常の中には当たり前のように奇妙な 100 の家訓が存在していた。なかでも花蓮の母親・奈津子(宮地雅子)は、家族が家族でいるために家訓が必要なのだと語り、頑なに家訓を守らせようとする。父親の歳三(堀部圭亮)も家訓は守っているが、どうやら奈津子に引っ張られているようだ。
自分は施設で育ったから、「社会適合のプロ」なのだと自負する大夢は、懸命に奈津子についていく。だが大夢が家訓になじんできたある日、家訓を破って懲罰のために部屋に閉じ込められている花蓮の弟・朔太郎(堀 夏喜)を発見する。家訓に従わない朔太郎が現れたことで、三上家のバランスはひずみ始め、やがて三上家の秘密が浮きぼりとなっていく…。
共に生きるために他者を受け入れるとは、どういうことなのか? ルールで縛ることでしか、社会は成立しないのか? そこにある幸せの価値観とは?
この作品で、三上家の家族となって家訓に必死で従おうとする伊藤大夢役の田中俊介に、本作への取り組みと俳優としての今を語ってもらった。
大夢が夢に見ていた家族という居場所ができたと
──まず作品を読んでの印象はいかがでしたか?
すごく衝撃を受けました。今、毎日のようにニュースを賑わせている「信仰と家族」というような問題に、まさに重なっているなと。そんな作品にこのタイミングで出会えたことに、思わず鳥肌が立つような思いになりましたし、ぜひこれを舞台で演じてみたいと強く思いました。
──物語は三上家という小さな単位の中で起きる事として描かれますが、その中で個人の考え方や自由などがあるルールで縛られていく様子は他人事ではないなと。
僕らが暮らしているこの社会も多様性の時代ということで一見自由ですし、さまざまな意見がいろいろな声で聞こえてきます。その選び方を間違えるととんでもない方向へ行ってしまうのではないかという恐さを感じますし、日常で僕らが感じる生きづらさや難しさが詰め込まれていると思いました。本当にものすごい本だと思います。
──三上家には100の家訓があるのですが、一家の中でも受け止め方はそれぞれで、厳守するのは母親で、父親と娘はなんとなく従い、息子は反抗していますね。田中さんが演じる大夢はそこに新しく家族として入ってきます。
大夢は幼少期につらい思いをしたので、家族というものに強い憧れがあるんです。だから結婚相手の花蓮の家族に挨拶することになって、三上家の一員になるということが嬉しくて仕方ないんです。夢に見ていた居場所ができたわけですから。だから100個の家訓があると言われても、家族というものを知らないので、これが家族なんだとしか思わないんです。
──そんな大夢が、言葉の1つ1つに条例違反を指摘されて、必死で家訓をマスターしていく姿が、可哀想でもあり恐くもあります。
本当にそう思います。まさに現実の日本で起きている出来事とシンクロするし、ドキッとするような台詞がどんどん出て来ます。
──ただこの作品は笑える場面もありますね。母親の条例チェックなどは理不尽すぎて、バカバカしさも感じます。
ブラックコメディのようで笑える場面もけっこうありますね。でもそのコメディ部分が恐くもあって刺さってくるんです。観ている方も、笑っていたはずなのに気がついたら笑えなくなってきたり、この家族どうなっていくんだろうとドキドキしながら観ていただけると思います。
シライさんは否定をしない方で、全キャストの意見を尊重してくれる
──稽古中ということですが、シライケイタさんの演出はいかがですか?
優しい方で、否定をしない方で、僕を含め全キャストの意見を尊重しながら提案をしてくださるんです。ですから伸び伸びと稽古をさせていただいています。そして、ヒントになることをポロッとおっしゃってくださって、それをもとに、例えば僕の演じる伊藤大夢なら、これがもし田中俊介だったらどうするかと、自分を役に近づけていくように促してくださるんです。ですから僕自身も大夢を演じながら改めて自分自身を見返している感じがありますし、新たな自分を発見している感覚です。そして自分を投影しながらこの芝居全体を見ていく、そういうことができている気がします。
──田中さんは、大夢とは育った環境などは違うと思いますが、現代の日本で生きている青年という面では共感する部分もあるのかなと。
大夢の気持ちはすごくわかります。毎日生きている中で何かに縋りたくなったり、どこか違和感を持っても、それを信じて従えば安心できるんだと思うと信じてしまう。そういう場所を自分で求めて作ってしまうような、その感覚は少しはわかります。ただ大夢はそこにのめり込んでしまう。そして家訓に縛られていくうちに、花蓮への愛と家訓の優先順位も狂っていく。そこも恐いですよね。
──人間は自分なりのルールもあるので、家族を作ることはそのぶつかり合いでもあるわけですが、田中さんは自分のルールは多いほうですか?
ちゃんとしているかだらしないかということでは、僕はちゃんとしたいほうなんです。遅刻とか一切しないし、時間は守るし、ちゃんと起きて朝ご飯作って食べて、そこから仕事に行くというのをちゃんとやる人なんです。僕はそれが自分のサイクルだし自分のルールになっていると思います。だからそうじゃない生き方の人から見ると息が詰まるかもしれないですね(笑)。そう考えると家族を持つって大変ですよね。誰かと一緒に生きて行くのはルールのぶつかり合いになるかもしれないので。
自分が抱えているものは自分だけじゃないと
──俳優としての田中さんについて伺いますが、映像でのキャリアは長くて映画の主役も数多く経験されていますが、演劇の舞台はわりと最近になってからですね。
ストレートプレイの舞台は、2019年のパルコ・プロデュース『転校生』の男子校版が最初でした。
──映像との演じ方の違いなどは意識していますか?
映像は顔のアップがあるので、ちょっとした感情の揺れなどは表情で伝わりやすいと思うんです。でもそれは舞台ではまったく伝わらないので、劇場の一番後ろの席の人まで届くような伝え方、それはいつも意識しています。それから演劇はみんなで作り上げていく過程が映像より長いので、一緒に積み上げていく中で、共演する皆さんがアプローチを変えてきたり、違う芝居を見せてくださるのがすごく刺激になりますし、それに反応していくことで自分も変わっていきます。それは映像ではなかなかないことだと思います。
──『転校生』の次に『ピサロ』という大作にも出演しましたが、どちらも人数が多い作品ですね。そのぶん刺激になったのでは?
やはり大人数の中での芝居は鍛えられますし、沢山刺激を受けました。僕は、舞台は俳優としての修業の場だと思っているんです。まだ経験値が少ないので、とにかく毎回そのときの田中俊介の100%を出そうと思っていて、100%が出せたら自分が気づかないところで120%が出ているかもしれない。だから最低でも100%は絶対に出さないといけないと思っていますし、1作1作全力でぶつからないとダメだと思っています。
──今回は5人という少人数のカンパニーですが、いかがですか?
僕はずっと喋っている役ですし、家族全員と会話をしているので、1人1人の方から貰うものが沢山あります。それにこの家族はすごく居心地がいいんです。皆さんが自分の役割を全うするということを第一に思っていて、かつすごく優しい人ばかりで、喋ると笑顔で笑い合えるような、そういう素敵な空気感を持っている。役への集中力の高さもすごいし、だから頼もしいし格好いいなあって。もちろんそれは年下の武田玲奈さんや堀夏喜くんもそうで、同じ役者として皆さんをすごく尊敬できるんです。
──そういう話をしている田中俊介さんはすごく爽やかな青年なのですが、役によってその笑顔の中に狂気が見えたりしますね。
昔からそれは言われていて、怒ってないのに「怒ってる?」と言われたり。最初は接しづらいと言われがちだったんです(笑)。子ども時代も普通にみんなと仲良くする明るい子だったんですけど、でも考えてみるとその頃から自分の中で、どこか踏み込ませないバリアみたいなものがあったのかもしれません。
──あまり人に踏み込ませなかった何かが、大人になって表現の世界を欲したのでしょうか?
そこはよくわからないのですが、この世界に入ってから、役のさまざまな感情を味わうことで自分を見つめなおしたり、役と向き合うイコール自分と向き合う、みたいな中で、自分のことも少しずつわかってきた気がします。映画や演劇でいろいろな役を経験してきたからこそ、ようやく今、自分というものを客観視できるようになってきたし、そういう僕自身の変化がこれから出会う作品にうまく反映されていけばいいなと思っています。
──そういう意味では良い時期に面白い作品と良いカンパニーに出会いましたね。
そう思います。むちゃくちゃ幸せです(笑)。
──最後に『ホームレッスン』を観にいらっしゃる方へのメッセージをぜひ。
僕自身も感じているのですが、生きていて不自由の苦しさもあると思うけど自由の苦しさもあると思うんです。誰もがそういう生きづらさを抱えていると思うのですが、この舞台を観ていただいて、舞台上の人物たちも同じような苦しみを抱えていたり、そこからなんとか這い上がろうとしていたり、それを助けようとしていたりしている、そういう姿に「自分だけじゃないんだ、よし自分も踏ん張ってみようかな」と思ってもらえたら嬉しいです。とにかく100%で演じさせていただきます。
■PROFILE■
たなかしゅんすけ○1990年生まれ、愛知県出身。映画、ドラマ、舞台など多方面で活躍。17年、映画『ダブルミンツ』で初主演。近年の主な出演作に、【舞台】『銀河鉄道の父』『ピサロ』(20年)、『転校生』(19年)、【映画】『僕と彼女とラリーと』『FUNNY BUNNY』『彼女』(21年)、『恋するけだもの』『タイトル、拒絶』『ミッドナイトスワン』(20年)、【ドラマ】『鎌倉殿の13人』『妻、小学生になる。』(22年)、『群青領域』(21年)など。
【公演情報】
PARCO PRODUCE 2022 『ホームレッスン』
作:谷 碧仁
演出:シライケイタ
出演:田中俊介 武田玲奈 堀 夏喜(FANTASTICS from EXILE TRIBE) 宮地雅子
堀部圭亮
●9/24~10/9◎紀伊國屋ホール
〈料金〉8,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈チケット取扱い〉各プレイガイドでのチケット取扱はWebのみ。
PARCO STAGE スマホアプリ「パルステ!」検索!
〈お問い合わせ〉サンライズプロモーション東京0570-00-3337(平日12:00~15:00)
〈公式サイト〉https://stage.parco.jp/program/homelesson/
【取材・文/榊原和子 撮影/渞忠之】
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