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絶妙に繰り広げられる三人芝居!『オトコ・フタリ』上演中!

ミュージカル界でも大活躍を続けている山口祐一郎、浦井健治、保坂知寿による三人芝居『オトコ・フタリ』が、日比谷のシアタークリエで上演中だ(30日まで。のち2021年1月15日~17日大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、23日~24日愛知・刈谷市総合文化センターアイリスでも上演)。

『オトコ・フタリ』は、大ヒット作品となったNHK大河ドラマ『篤姫』の脚本で知られる田渕久美子が書き下ろし、山田和也が演出を手がけるオリジナルの三人芝居。抽象画家・禅定寺恭一郎を演じる山口祐一郎、禅定寺の家政婦・中村好子の保坂知寿、更に禅定寺のアトリエに突然母親を探しに踏み込んでくる若者・須藤冬馬の浦井健治が繰り広げる、ストレートプレイのコメディ作品となっている。

【STORY】
自身のアトリエでキャンバスに絵筆を走らせている抽象画家・禅定寺恭一郎(山口祐一郎)は、家政婦の中村好子(保坂知寿)が運んできた薔薇のお茶を口にしながら、しばし創作の手を休める。現在とりかかっている「闇が広がる」は順調に描き進められているが、アトリエ中央に位置した大きなキャンバスは手つかずのままだ。依頼された作品のテーマは「愛」。画家としての才能にも、ルックスにも恵まれている恭一郎を慕う女性はあとを絶たないが、いざ「愛」をテーマに、と引き受けたこの作品に、なぜか恭一郎は取り掛かることができずにいて、好子も作品が全く進まないことを気に病んでいた。

その時、好子が止める間もなく、突然の来訪者がアトリエに踏み込んでくる。須藤冬馬(浦井健治)と名乗った青年は、はじめ恭一郎のファンで弟子入りを志願しにきたと言うが、自分の絵を冬馬が全く知らないことにいち早く気づいた恭一郎が問い詰めると、冬馬は突然「僕は母を探しに来たんです。母を出せ、今すぐに!」と叫んで……

作品のほとんどの場面が、抽象画家・禅定寺恭一郎のアトリエ内で展開される舞台は、極めてテンポよく進んでいく。基本的にシチュエーションが重なっていく度に中央の盆が回り、暗転も多用されるという、ここ最近ではあまり見なくなっている古典的な演出を山田和也が取ったことで、登場人物たちが呆気にとられる瞬間や、深まる疑惑を観るものに印象深く残す「間」になっているのが面白い。特にあっと思わせたのが、去る9月に同じ山田演出により、帝国劇場で開催された山口祐一郎のスペシャル・トークショー『My Story─素敵な仲間たち─』の演出と、この『オトコ・フタリ』の演出がリンクして感じられることで、トークショーでも揃い踏みをした山口、浦井健治、保坂知寿の三人が、帝劇の大舞台からシアタークリエの濃密な空間にところを変えて、丁々発止の掛け合いをする楽しさが倍化されていた。

とにかく三人の台詞の応酬が絶妙な上に、一挙手一投足の全てに味わいがあって爆笑に次ぐ、爆笑を生んでいく。もちろん禅定寺の描いている絵のタイトルを「闇が広がる」にしていることに象徴される、所謂小ネタもふんだんに盛り込まれているものの、決してそうした遊び心に頼るのではなく、脚本の田渕久美子が三人の個性を役柄に丁寧に落とし込み、俳優たちそれぞれがきちんと役を演じることで生まれる笑いをベースに、意外にも奥深い心理描写やペーソスを書きこんでいるのが、当代の売れっ子脚本家の技を感じさせる。分けても1幕と2幕とで、ストーリーとしてはジェットコースターに乗ったかのような、意外性たっぷりの展開を見せていくのだが、役者三人の地力がその展開を乖離させずに役柄の中に昇華していくのが見事で、ラストシーンまで目が離せない。

中でも座長の山口祐一郎が、味わい深い芝居を存分に魅せて惹きつける。それこそ帝国劇場をはじめとした大舞台の、大作ミュージカルに欠かせぬ「ミュージカルの帝王」として長く活躍し続けている、何よりも「大スター」であることが前面に出る人だし、その稀有なスター性をこそ求められる役柄を非常に多く演じてきてもいる。更にそもそも、ストレートプレイ作品への出演自体が『そして誰もいなくなった』以来の十数年ぶりだと思うが、決して声を張る訳ではないながら尚明晰な台詞発声や、役柄の芸術家肌の中にある複雑な心理描写を巧みに表現していて、山口祐一郎という俳優がこれだけの長い期間様々な作品の看板として重用される理由、その真髄を見た思いがした。スターと呼べる魅力がないとまず成り立たない役柄だが、それだけではなく、役者としての深みを山口がここまで示した舞台として『オトコ・フタリ』は貴重な記憶になると思う。それほど、一人キャンパスに向かうシーンの全てを語り尽くした表情には忘れ難いものがあった。

その禅定寺のアトリエに飛び込んでくる須藤冬馬の浦井健治も、役柄の若さに任せた猪突猛進と、実は周りをちゃんと見ることができ、声も聴ける柔軟性と素直さを持った青年像を説得力を持って演じている。思えばかなり強引な行動に出る冬馬に、憎めないチャーミングさを加えるのは浦井ならではだし、ただ一人よがりなだけではない、冬馬の成長が作品の中で感じられるのが役柄を一際魅力的にしている。言葉で語るのが苦手だから、歌で伝えると言い出して、中島みゆきの「糸」、米津玄師の「Lemon」を歌うシーンがあるが、これがミュージカルで活躍する浦井のサービス場面ではなく、劇中の冬馬が大真面目で歌う場面になっているのも品が良い。全体に、浦井が持つ山口や、保坂知寿へのリスペクトが作品に自然とにじみ出る好感度も高かった。

そして、作品の製作発表会見で『オトコ・フタリ』の「・」だと自分を例えた保坂知寿の中村好子が、上手い、旨い、巧い、と全ての言葉を使いたくなる絶品ぶりで作品を底支えしている。おそらくは保坂でなければこんなに笑えないかも知れないと思うほど、彼女が生み出す間の良さに引き込まれて、気が付けば爆笑していることが一度や二度ではなく、保坂がいる空間に演劇を観る喜びが横溢している。三人の中でも役柄のふり幅が特に大きいが、それだけに保坂の天性の芝居勘が光り、同じ時代にいてくれて良かったと思わされるほど。これはもう是非一人でも多くの人に客席で確かめて欲しい。

更に、三人芝居の中に声の出演を果たすのが大塚千弘というのも、なんともスペシャルなキャスティングで、非常に重要なポイントを容姿が想像できる美しい声で担っていた。

何よりも、シアタークリエの空間を軽々と掌握する三人芝居が小気味よく、余韻ある幕切れを印象的なものにしていた。ストーリー展開上この登場人物たちで続編というのは或いは難しいかも知れないが、この三人での芝居をシリーズ化できないかとの夢も広がる、滋味深い舞台になっている。

【会見】

大塚千弘 浦井健治 山口祐一郎 保坂知寿

そんな公演の初日を前に舞台で会見が行われ、山口祐一郎、浦井健治、保坂知寿、そして声の出演の大塚千弘が公演への抱負を語った。

山口祐一郎 抽象画家の禅定寺恭一郎を演じます。エネルギッシュに様々な作品を作り出しているのですが、「愛」をテーマにと引き受けた作品を描き出すことができません。その謎は、この舞台で明らかになります。
今回は田渕久美子さんが、我々が出演することを前提に脚本を書いてくださった、その喜びはとても大きかったです。ここにいるそれぞれの役者のキャラクターや、今だから見せることのできるチャーミングなポイントなどを、これほど温かく描いて頂いた台本はなかなかないと思いますので、魅力的な世界を作り上げられたらと思っています。
ただ、いざお稽古が始まると、なるほど、これだけ面白い作品をやるんだからこんなに大変な、いえ全然大変じゃなかったのですが(笑)時節柄お稽古場の窓が全部開いていたので、まず大変寒かったことと、外の道路工事のドリルやハンマーの音や、トラックの音がよく聞こえました(笑)。僕たちはマスクとフェイスシールドをしていたので、ほとんどスポーツ選手の高地トレーニングみたいで。そんな中で懸命に演じている共演者たちを見て励まされました。

浦井健治 禅定寺恭一郎のお屋敷に、母を探しに訪ねてくる須藤冬馬という役どころです。その謎を楽しんで頂きたいですし、演出の山田さんに言われたことなのですが、この作品の中で冬馬自身も人として成長していくので、そこを見せられたらと思っています。
実は山田さんに稽古場で「三人の仲が良すぎて、それが板の上に出ちゃってるよ!」とご注意頂いたことがあって、座長の山口さんが「今日は稽古以外では喋らないようにしようね」とおっしゃるのですが、その5秒後にはもう山口さんの方からフレンドリーに話しかけて下さって(笑)。皆を温かく包み込んでくださる、山口さんの愛に溢れたカンパニーになりました。
山口さんも保坂さんもミュージカル界のレジェンドですから、そんなお二人と共演できて、お二人の様々な過去のエピソードを聞いて、僕はこの話をそのままエッセイ本にしたい!と思ったほどでした。話して下さることのすべてが勉強になりましたし、励みになりました。

保坂知寿 禅定寺恭一郎のお屋敷で家政婦をしている中村好子役です。家政婦としては完璧で、先生のお仕事がスムーズにいくようにいつも気を配っているのですが……という役どころです。
浦井さんもおっしゃっていましたが、お互いのお芝居が自然になればなるほど仲の良さが出てしまうので、そこは気を付けていますね。脚本はまさに当て書きで、田渕さんがお二人の魅力を感じて書かれたんだなというのが伝わってきました。お稽古を重ねてもそれは変わらず、軽いタッチのお話、コメディではありますが、深いテーマが描かれていて、それぞれが人生で背負ってきたものが垣間見えるよう作ってきました。
これまでお二人が揃っている現場にいたことがなかったので、このお二人は親戚同士なのかな?と思うほどの異常な仲の良さ(笑)が素敵だなと思っています。

大塚千弘(声の出演)お三方が出会うきっかけとなる女性を演じさせて頂いておりますが、これ以上はネタバレになるので、ぜひ劇場に確かめにいらしてください。お稽古場にも本読みの段階から参加させて頂きましたし、何度か稽古見学も致しました。本当に親戚の集まりなのかな?と錯覚するような温かい現場で。居心地良く見学させて頂きました。

最後に山口祐一郎から「演出の山田(和也)さんが個性を伸ばしてくださり、素晴らしいチームと出演できる、滅多にない素敵な作品です。先日お客様から『ここのところ笑っていないんです』とお手紙を頂いて、今は本当に大変な状況なのだなとつくづく思います。非日常が日常となってしまった今、せめて劇場空間では温かい気持ちになって頂き、お客様に1度でいいから『あっ、私、今日笑えた』と思える瞬間をお届けできたら幸いです」とのメッセージが語られ、クリスマスに向かう季節のプレゼントに相応しい舞台への意気込みを感じさせていた。

【公演情報】
『オトコ・フタリ』
脚本◇田渕久美子
演出◇山田和也
出演◇山口祐一郎 浦井健治 保坂知寿
●12/12~30◎日比谷・シアタークリエ
〈料金〉11,000円(全席指定・税込み)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777
〈公式サイト〉https://www.tohostage.com/otokofutari/

【2021年ツアー公演】
●1/15~17◎大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3888
●1/23~24◎刈谷市総合文化センターアイリス
〈お問い合わせ〉キョードー東海 052-972-7466

 

【取材・文・撮影(囲み)/橘涼香】

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