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未来は自分の手で変えられる!希望を運ぶハートウォーミングステージ OSK日本歌劇団『天使の歌が聞こえる』上演中!

OSK日本歌劇団のトップスター桐生麻耶を中心に、才能を見出された歌手が、激変する環境の中で目指すものを見失いかけながら、最も大切な愛を取り戻していく姿を描いたハートウォーミングなファンタジーステージ『天使の歌が聞こえる』が銀座の博品館劇場で上演中だ(26日まで)。

『天使の歌が聞こえる』は、振付家として活躍を続けている麻咲梨乃が作・演出・振付を手掛ける作品。クリスマスからクリスマスまでの一年間の季節を通して、惑いながらも希望を見出して歩んでいく人々の姿が、守護天使も登場するファンタジーワールドの中で描かれていく。

【STORY】

NYのパブで歌うジェームズ・ハミルトン(桐生麻耶)は、屈託のない人柄と、妻で作詞家のメアリー(城月れい)の詞と彼の曲で生み出されるオリジナル曲の素晴らしさと、何よりその温かく包み込むような歌声で、聞く人の心に勇気を届け愛され続けている。店を取り仕切るアンソニー(雅晴日)をはじめ、常連の人々はいつかジェームズの歌が全米で評価される日がくると信じていた。

そんなある日、大手音楽エージェント代表ヘンリー・ベネット(朔矢しゅう)が店を訪れ、この不安な時代にこそ人々は歌で癒しや勇気を届けるジェームズの歌を欲しているはずだと、専属契約を申し出る。突然の話に耳を疑うジェームズだったが、メアリー、妹でデザイナー志望のエマ(千咲えみ)、要領は悪いが誠実でジェームズに憧れるマシュー(京我りく)らと共に、新たな世界に踏み出していく。

メジャーデビューを前に、ジェームズは同じエージェントの大人気シンガー・ロバート(楊琳)に引き合わされる。実はジェームズとロバートはかつて共に「俺の歌で世界を変える」と競い合った仲で、先にスターダムを駆けあがっていたロバートは、ジェームズがついに才能を見出されたことを歓迎する。

メジャーデビューから間もなく、ジェームズの歌はヒットチャートを上昇。矢継ぎ早に仕事が舞い込み、その生活は一変。メアリーとの音楽創りの時間さえままならない状態に陥っていく。はじめて味わう名声の美酒の中で、次第に自分を見失っていくジェームズ。更に追われる立場になったロバートの焦燥が絡み、事態は思わぬ方向へと進んでいき……

このところ東京での公演にも積極的に取り組んでいるOSK日本歌劇団だが、やはり本拠地関西だけの公演も数多く、東京で観られる芝居ものの作品は約1年ぶり。こちらは2019年のクリスマスシーズンに関西で初演された作品だけに、クリスマスにピッタリとハマっている内容だったが、そのクリスマスの奇跡をちょっと遅れて楽しめることが独特の妙味を生んでいる。特に、やはりOSK日本歌劇団と言えば誰しもがレビューを連想するところだろうが、実はこうした芝居ものでも非常に高い水準の舞台を創り出し続けている劇団でもあって、豊かな演技力を誇るメンバーが多くいることが、この作品でも顕著に表われている。

特に、今回の作品『天使の歌が聞こえる』は、主演の桐生麻耶以下13名というコンパクトな陣容の中、ほとんどのキャストが2幕では天使が見せる「ifの世界」で役の全く別の人生を演じることを含めて、多くの役柄を見事に演じ分けていて、作品の温かさと共に出演者の変身の妙も楽しめる舞台になっている。何よりも「過去は変えられないとしても、未来は自分の手で変えることができる」という力強いメッセージが、温かく届けられるのが魅力の舞台になっていて、セットや衣装もよく考えられ、フィナーレまでを含めた全体のテンポ感がとても良い。

その中で、主人公ジェームズを演じる桐生麻耶が、癒しの歌声を持つ歌手をあくまでも自然体で描き出していることが、作品の根幹を支えている。妻メアリーの書く詞に曲をつけて歌い続け、いつかは自分の歌が世界を変えることを夢見ている。そんな彼の歌を愛する人々が周りには多くいて、メジャーな歌手とは言えないけれども、彼のいる環境はまさに小さな幸せそのものだ。だからこそ、効率史上主義で疲弊しきっている時代がジェームズの歌を求めたという設定に説得力があるし、激変した環境の中で何が幸せなのかを見失っていくという如何にも人間らしい流れが、桐生本人が醸し出す人間味あふれる男役像にピタリとあった。こういうある意味で普通の男性を歌劇の男役が演じるのは、実はそう簡単なことではないが、キャリアを重ねて、トップスターの地位につき、男役を創るという枷から既に自由になっている桐生が、その困難を全く感じさせずに舞台に位置しているのが素晴らしい。その意味でも桐生主演公演に実に相応しい作品になっていた。

 

ジェームズと共に切磋琢磨しながら音楽の道を志し、先にブレイクしていたロバートの楊琳は、まるでロックスターのような初登場から大きなインパクトを発揮している。近年多くの作品で主演を務めていて、演技力、歌唱力共に飛躍的な進化を遂げている楊の存在感が、桐生と拮抗する役柄に全く遜色ないのが頼もしい。それでいてちょっとダークな影も持つ役柄が、男役楊琳が注目されはじめた頃の、際立ったエキゾチックな個性も彷彿とさせていてなんとも魅力的だった。社会に勢いがある時期にロバートがブレイクし、不安な時代にジェームズが求められるという流れがよく伝わり、だからこそ築き上げた地位を守ろうとするロバートの心理にも納得がいく、余人に代えがたい好演だった。

そのロバートに憧れを抱いているジェームズの妹エマの千咲えみが、機転が利き行動力もある女性を溌剌と演じれば、ジェームズの妻メアリーの城月れいが、詞を書くことで自己表現はしたいものの、決して社交的ではない慎ましい女性の複雑な心理をきちんと表現して、二人の個性に合った適材適所がハマっている。「ifの世界」ではエマが利用できる者はすべて利用する!というブティックのオーナーデザイナーとして小気味よいナンバーを聞かせれば、メアリーが対人恐怖症気味の図書館職員となっているのもさもありなんで、ジェームズとメアリーはもちろん、ロバートとエマにもなんらかの後日談があるのではないか?と想像を膨らませられる余韻も良い。

この作品の肝を握っているジェームズの守護天使イブリンの実花ももは、主な活躍は二幕からだが、雪に絡めた印象的な登場をしているのが、その二幕に生きてくる。イブリンがいるから起こるクリスマスの奇跡が、全体にそこまでファンタジー色が強い作りではないのに、作品の中で浮かないのは実花の軽やかさが効果を発揮しているからこそだろう。羽根のない二級天使だというイブリンが、作品の中でどう変化していったかが、フィナーレにつながる構成も実に洒落ているので、この転換には注目して欲しい。

ジェームズを見出すエージェント、ヘンリーの朔矢しゅうは音楽業界の切れ者という面よりも、真に力のある音楽を広めようとしている情熱を感じさせるのが朔矢の個性故で、スーツ姿もスッキリと美しい。その妻ジュリアの凜華あいが、グッとビジネスに徹した女性に見えるのも、夫婦の対比として面白かった。「ifの世界」でも夫婦役の二人だが、その変化のインパクトは絶大。ジェームズが歌っているパブのマスター、アンソニーの雅晴日は、はじめ誰だかわからなかったほどの思い切った作り込みで、常連客から「おやじさん」と呼ばれるマスターをきちんと演じて役者魂を披露した。アンソニー以外に、ジェームズとロバートに関わる訳アリのアダムスと、「ifの世界」の大スターも演じているが、いずれもまさに別人に演じ分けられていて、地力を感じさせた。更に雅には幕間にもお楽しみがあるので、休憩時もちょっと客席に残ると楽しい時間が過ごせる。そして、地力と言えばもう一人、特筆すべきがマシューの京我りくで、少し記憶力に劣り、だからこそ純粋にジェームズを崇拝し、ひたむきにつき従う青年を、歩き方、話し方から決してあざとくならずに演じていて、この芝居力はたいしたもの。今後のOSK歌劇団にとって貴重な戦力になりそうだ。「ifの世界」のブティックの店員の思い切った造形も目を引いた。

その同じ店員役、パブの常連客、記者、セレブなどを演じる純果こころ、叶望鈴、優奈澪もそれぞれ多くの役割や台詞があり、さぞやりがいも大きいことだろう。ジェームズに過密になる一方のスケジュールを淡々と告げながら「タフに、笑顔で!」と爽やかに言い切るマネージャー、ライアンの空良玲澄の姿の良さも印象に残り、今後が楽しみだ。

総体に、ジェームズとロバートがそれぞれの苦悩の中で、翻弄されていくダンスシーンにも大きな迫力があり、この世に生を受けたものは、必ず誰かの人生に影響を及ぼしている、かけがえのない存在なのだという、前向きなメッセージに心を温められる、OSK日本歌劇団の力量を感じる佳品となっている。

【公演情報】
OSK日本歌劇団『天使の歌が聞こえる』
作・演出・振付◇麻咲梨乃
出演◇ 桐生麻耶
楊琳 千咲えみ 城月れい 実花もも 朔矢しゅう 凜華あい 雅晴日 京我りく 純果こころ 叶望鈴 優奈澪 空良玲
●1/23~26◎銀座・博品館劇場)
〈料金〉SS席 前売8,000円/当日8,500円
S席 前売6,500円/当日7,000円
A席(自由席) 前売4,500円/当日5,000円
(全て税込み)
〈お問い合わせ〉OSK歌劇団 06‐6251‐3091(平日10:00~18:00)
〈公式ホームページ〉http://www.osk-revue.com/

 

【取材・文/橘涼香 写真提供/OSK日本歌劇団】

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