アーサー王伝説から生まれた、孤独な青年王が生きた時代を描く新たな物語。OSK日本歌劇団『円卓の騎士』


剣と魔法の物語としての「アーサー王伝説」は、おとぎ話ともファンタジーとも言える世界観の中で繰り広げられる冒険活劇であり、英雄譚であって、劇作家荻田浩一がそもそも誕生した場所である宝塚歌劇団でも、度々上演されてきた題材だ。そこにはもちろん史実としての正解はないし、特に騎士ランスロットとアーサー王の妃グウィネビアとが交わしたとされる不義の話し等は、幻想世界の中にあってはやや生っぽい香りがあり、様々な時代の価値観が重なりながら物語世界が構築されてきたのだろうという想像が容易に成り立つ。
そんな世界を荻田が、女性だけの歌劇団という共通項を持つOSK日本歌劇団で描くと聞いた時には、久々に歌劇の世界に広がる荻田ワールドへの夢が広がったものだが、そこはやはり一筋縄ではいかない鬼才のこと。紡ぎ出されたSTORYの中心になったのは、十分にファンタジーでありながらも、自らに課せられた使命や義務と、現実の自分とのせめぎ合いに悩み、苦悩する、極めて人間的で発展途上の青年王を中心に、次代の趨勢に抗う者と、真実の愛の行方とが複雑に絡み合う重層的な物語だった。ここでは人も、魔術師も、精霊も、誰もが自分の信念のもと、平坦ではない道を突き進んでいる。おとぎ話の「めでたし、めでたし」の展開は誰の上にも訪れないが、それでも誰もが悩み苦しみながら、自分の足で立とうとしている。
と書けばストレートにわかるように、この物語の筋立て自体が「OSK日本歌劇団」というオンリーワンの存在のあり方そのものに通じている。男役も娘役も確かに自立していて、誰かが誰かに寄り添うのではなく、実力真っ向勝負でぶつかり合い、それ故に団結もしている。すでにこの劇団でで大人数の大レビュー作品と、小劇場のレビューとを創っている荻田は、劇団独自の魅力をこの剣と魔法の世界にちゃんと具現して、新たな「アーサー王伝説」を生み出した。主要な登場人物がたっぷりと書き込まれている為、1幕の展開にはやや長さを感じさせるが、張り巡らされた伏線が綺麗に回収されていく2幕に勢いがあって、全体のバランスも良い。
そんな作品で苦悩する若き王を演じた楊琳の存在感が、更に大きくなっているのが頼もしい。この作品のアーサー王は英雄ではないし、むしろ「自分探し」に苦しむ極めて人間的な人物だ。親友と最愛の妃の不義の噂に心乱され、判断を誤っていく過程は、ある意味ではカッコ悪いとさえ言えるかも知れない。それでも様々な事柄に一喜一憂するアーサーを応援したい気持ちになるのは、楊自身がが十分に魅力的なのはもちろん、確かな演技力を有しているからこそだ。彫りの深い顔立ちからくる華やかさで、アクの強い役柄を演じることも多かった人だが、近年純粋な二枚目役や、ダンディーな大人の男も演じてきた蓄積が生きて、役幅が大きく広がっているのが素晴らしい。OSK次世代を担う期待の星と言われてきたのはもう過去の話で、今や新トップスター桐生麻耶に続く屋台骨の1人である楊が、ここまで大きく成長した姿を東京で見せてくれていることに深い安心感を覚えた。
その妃グウィネビアの舞美りらは、ひたすらに可憐な容姿の純娘役の風情の中にある現代感覚が、一気に生きる役柄に恵まれ、目が離せない魅力がある。勝気で活発で自分の想いを真っ直ぐに口にし、信じる道を王に進言もする「お姫様像」は、「白雪姫」から「アナと雪の女王」へと続いてきたディズニープリンセスの変遷に通じるものがある。つまり、「いつか王子様が」を夢見るのではなく「ありのままの」自分を肯定しようとする、「今の時代に受け入れられるお姫様」が舞美の資質を最も活かしたことは、今後のOSK日本歌劇団全体にとっても、大きな糧になるに違いない。
また前述したように主要な役柄の書き込みが極めて深い中で、ある意味では影の主役とも言える魔術師マーリンの愛瀬光は、登場した刹那から人ではない感を醸し出し、大きな衣装を自在に操る様が、アーサーを操ろうとするマーリンの思惑そのものとも感じさせて舞台に位置していた。楊をはじめ全員よく歌っているが、今回男役が歌うと考えると、相当に高いキーの楽曲が多い中で、持ち前の歌唱力も際立ち、貴重な実力派の本領を発揮していた。
歌唱力と言えばもう1人の雄がランスロットの翼和希で、抜群の歌声はもちろんだが、アーサーが「僕」と言いかけては「わたし」と言い直すのに対比するように、かなり現代的な話し方や立ち居振る舞いで、騎士の中の騎士を演じていたのが面白かった。仕える主であり親友でもある王の妃を、心の中で思うこともやはり不義と言えるのかどうか、というこの作品のグウィネビアとランスロットの関係は、幾多も編まれている「アーサー王伝説」の中で、非常に今日的でまた切なさもあり、その設定に相応しい騎士としてのスター性も十分。伸び盛りの勢いを感じる。
またモルガン・ル・フェイの城月れいは、一見これまでにも度々回ってきた、色気のあるポジションかな?と思わせて、実際は非常に純で真っ直ぐなアーサーへの愛を抱き続ける役柄を演じ、清心な雰囲気を纏って役幅が決して狭くないことを実証していたし、シルフィードの麗羅リコの、ダンサー揃いのOSK日本歌劇団の中にあって、更に際立つダンス力が、風の精霊の役柄にベストマッチ。重力を全く感じさせない踊りを堪能させてくれた。モードレッドの実花ももは、所謂ラスボスか!?とさえ思わせる役柄を、小柄な実花が演じるという意外性だけに留まらない地力を発揮。アーサーの臣下等の壱弥ゆう、椿りょう、雅晴日も戦士に妖精にと大車輪の活躍。壱弥と椿の1幕ラストの歌唱の確かさは、殊に印象に残った。グウィネビアに付き従う女官や妖精の凜華あい、純果こころの愛らしさも随所で目を引くだけに、女官のスカート丈はもう少し長めでも良かったように思うが、もちろんこれは本人たちの問題ではない。
そして、特別専科の朝香櫻子がはじめ名を隠して「湖の乙女」として登場する、その通り名に相応しい透明感を保っているのは見事の一言。代替わりしたOSK日本歌劇団の中でも、変わらぬ大きな力になっている。総じてOSK日本歌劇団ならではの、荻田浩一ならではのアーサー王の物語『円卓の騎士』になっていたのが嬉しく、短いながらも極めて充実感の高い麻咲梨乃振付によるフィナーレナンバーも含めて、見どころの多い舞台となっている。
〈公演情報〉
OSK日本歌劇団
『円卓の騎士』
作・演出◇荻田浩一
出演◇楊琳、舞美りら、愛瀬光、翼和希、城月れい、麗羅リコ、実花もも、壱弥ゆう、椿りょう、雅晴日、凜華あい、純果こころ、朝香櫻子(特別専科)
●1/24~27◎博品館劇場
〈料金〉SS席7,500円 S席6,000円 U-25(S席)5,000円 A席(自由席)4,000円
A席学割(自由席)2,000円
はじめて割(1組2名様/S席)2名6,000円
学生3人割(1組3名様/A席)3名4,500円
※当日券は前売価格に500円加算。各種企画券は要OSK日本歌劇団予約。1月27日(日)は適用なし。
今公演は先着順(各回20名)平日、土曜日限定で「高校生以下」A席(自由席)無料。要OSK日本歌劇団予約。(06-6251-3091、平日10時~17時)※観劇当日に要学生証提示。
〈問い合わせ〉博品館1階 TICET PARK 03-3571-1003(10時~20時)
〈公演HP〉http://www.osk-revue.com/category/schedule#