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世田谷パブリックシアター音楽劇『ある馬の物語』白井晃・別所哲也・小西遼生 インタビュー

「戦争と平和」「アンナ・カレーニナ」などで知られるロシアの文豪トルストイの小説を、1975年に演出家のマルク・ロゾフスキーが舞台化して初演した音楽劇『ある馬の物語』が、本年6月21日~7月9日、世田谷パブリックシアターにて、同劇場芸術監督の白井晃による新演出で上演される。今作は人間の所有欲に焦点をあてながら、「この世に生を受けて生きる意味とは?」という普遍的なテーマを、人間と馬を対比させながら詩情豊かに、そしてストイックに問いかけてくる。

不遇な運命をたどるまだら模様の馬・ホルストメールに成河。その馬の中に潜む才能を見出すセルプホフスコイ公爵に別所哲也。美しい馬のミールイをはじめ、将校、ボブリンスキー伯爵といった美と若さの象徴ともいえる役に小西遼生。彼らの運命を変えていくファムファタールともいうべき女性や牝馬に音月桂、といったキャストが集結した。

本作は2020年6~7月に上演予定だったが、コロナ禍による公演中止を経て、3年後にようやく上演が叶うことになった。その舞台への思いを、白井晃、別所哲也、小西遼生に集まってもらって話してもらった。

白井晃、別所哲也、小西遼生

48年前の戯曲から新しさを感じるような芝居に

──まずは、この戯曲を読んだ最初の印象を教えてください。

白井 歯に衣着せずに言うと「おっと、こういう形の戯曲か」と思ったんです(笑)。70~80年代にたくさん見てきたようなタイプの作品だな、さすが48年前の戯曲だな、と。でもちょっと待てよ、今はこういう作品が少ないから、むしろ今これをやるのは新しいかもしれない、と発想を転換させて、今どきなかなか見なくなったスタイルとして新しさを感じるような芝居にしよう!と闘志が湧いてきました。3年前は、その闘志が湧いてきたところで第一回目の緊急事態宣言発令により、稽古に入る前に公演中止となってしまったのですが。

別所 僕は大学2年のときに『エクウス』という、馬に執着を持つ少年が主人公の作品を英語劇でやったことがあったので、馬が登場する話と聞いて、戯曲を読む前は『エクウス』みたいな話なのかな、と先入観を持っていたのですが、読んだら全然違いましたね。読む前の先入観としてはもう一つ、「トルストイか」というのもありました。きっと難解なんだろうな、と思いながら読んでみたら、トルストイが描きたいと願ったであろうことは非常にわかりやすかったです。白井さんがこれをどういうふうに再構築するのか、ということにものすごく興味があって、その気持ちだけでこの作品をお受けしました。

小西 まずはト書きにすごく興味を持ちました。このト書きが具現化されるには、よほど実験的なことを入れていくんだろうな、と。トルストイの作品ということで、非常に詩的な言葉なので捉え方の難しさはありますが、内容的には日常にこういうことあるな、と思える部分が多いと感じました。馬が主人公なのに僕ら人間にとって日常的なことが繰り広げられていく中で、突然真理を突いてくる、という印象を受けました。決して難しくはない、むしろわかりやすい物語の中に、トライがたくさんあるような作品になるのかな、楽しみだな、というのが最初の印象でした。

──音楽についてはいかがでしょうか。

別所 音楽劇であるということで、ミュージカルとは違う、演劇的な音楽の存在の仕方でどういうふうに作っていくことができるかな、というワクワク感をまず抱きました。演奏楽器はサックスのみと白井さんがお決めになった。管楽器は馬のいななきにも通じると思いますし、それ以外の楽器を全部排除してやるという、そぎ落とされた世界感が広がるのではと思っています。

小西 やはり管楽器って、一瞬で引き付けるものがありますよね。音が鳴った瞬間に「聞けよ!」と言われているような。例えば弦楽器だったらメロウで柔らかい旋律で徐々にうっとりさせるようなイメージがありますが、管楽器は音圧がすごくて、一発で届くように感じます。稽古場でも実際のサックスの音を聴いた数分間に「おぉ!」と一瞬で気持ちが高揚しましたし、それは作品においていい効果になるんじゃないかなと思います。

──サックスのみにしたというところには、どのような演出の意図があるのでしょうか

白井 ロゾフスキーさんの曲を今アレンジするならばどういう形がいいかな、と思ったときに、ちょっと思い切った展開をしないと、ということを国広さんと話している中で、舞台を建築現場にも見えそうな空間にしたいというイメージから、金属でできた管楽器というイメージが思い浮かんだんです。国広さんも「それは面白いですね」と言ってくださったので、そっちの方向にシフトしてみよう、ということになり、サックス4管のみという思い切った選択をしました。別所さんがおっしゃったように、サックスのリードの音が馬のいななきにも聞こえる、というところも決め手としては大きかったです。

馬を通して「人間」を見せたい物語

──振付に山田うんさんが入っているので、フィジカル的な演出も楽しみです。

白井 僕はうんさんの作品をいろいろ拝見してきましたが、群舞を作るのがすごくお上手な方だなと思っていたんです。今作の馬の群れの動きをどう作ろうかと考えた際に、「あ、これはうんさんにお願いしたい」と思ったのが出発点でした。

──今回主役は馬ですし、他の役者さんたちも馬の役で出てくる方も多いですし、どのような身体表現になるのかな、というところは気になります。

白井 馬をどのように表現しようかとみんなで模索しているところで、うんさんが体の反らす角度とか、伸ばし方とかを「こんな感じで」と実際に示してくれるのですが、話を聞いたら「昔、ずっと馬をやっていました」っておっしゃったんです(笑)。詳しく聞いてみたら、うんさんは暗黒舞踏のアリアドーネの会に在籍されたことがあって、土方巽さんのワークショップの中で、死ぬほど馬をやらされたそうです(笑)。

小西 『ある馬の物語』出演者で、うんさんのカンパニーの一員でもある山根海音さんに今回稽古場で初めてお会いしたときに「馬やったことありますか?」と聞いたら「馬はないけどヤギはあります」と言っていて、それもすごいなと思いました(笑)。

──小西さんは馬の役は初めてでしょうか。

小西 初めてです! なかなかないでしょう、馬をやるって(笑)。

──初めての馬役に挑む思いはいかがでしょうか。

小西 いやもう、今はまだ本当にみんなで探り探りやっていますよ。この作品はあくまで、馬を見せたい物語ではなく、馬を通して人間の存在を見せる物語。邪魔にならず、でもいい効果をもたらすにはどうすればよいのだろう、と試行錯誤しています。しかも、馬だけれど会話をしていて、大切な話をしている場面もあるので、そこであんまり馬の身体を押し出すのもな、でも全く馬をやらないのもな、という加減も探っているところです。

白井 ぐっと持ち上げて馬の身体として見せるところと、身体的にはちょっと抜いて人間的にしゃべっているところという、そのコントラストが効けばいいなと思ってはいるんですけどね。

──白井さんは今回、別所さんとも小西さんとも初めてご一緒されるそうですが、お2人をキャスティングした経緯を教えてください。

白井 別所さんは、公爵を演じるための気品と貫禄があって、歌唱力をお持ちの方。そういう方はなかなかいないですから、これはぜひ別所さんにお願いしたいと思ったんです。そうしたらよきお返事をいただくことができてありがたかったです。今までご一緒したことはなかったのですが、新しく出会えたら嬉しいなという思いでオファーさせてもらいました。ラジオ番組などでは何回もお世話になっていて面識はあったんですけどね。小西さんの役は、ミールイとボブリンスキー伯爵と将校なのですが、この3つの役は同じ俳優がやらなければならない、と戯曲に指定があったのです。美しい容姿でホルストメールの恋人を奪ったり、公爵の恋人を奪ったりと、ちょっと憎まれ役なところもありつつ、ジゴロ的な感じを出してもらいたいな、と思ったときに、小西さんの、何と言いますか、ちょっとすかした笑顔っていうのが今回の役どころにぴったりではないかと思いまして(笑)、お願いしました。

──別所さんは、白井さん演出ということで今回のお話しが来たときはいかがでしたか。

別所 先ほども少し申し上げましたが、この作品に参加しようと思った理由が、脚本の面白さもありますが、この作品を白井さんがどう再構築するのかということに非常に魅力を感じたからだったんです。今、僕は一生懸命白井さんの話を聞いて解釈して、そこに自分を持っていけるように必死になっているところですが、これまでの舞台作品とは全然アプローチが違うので楽しいです。心情とか、様式的・形式的なことも含めてとても丁寧に緻密に説明してくださるので、頼りにしています。

──小西さんは白井さんと初めてご一緒してみていかがですか。

小西 この戯曲をどう料理していこうかとみんなで一緒に実験を繰り返しながら、僕たち出演者が楽しみながらお客さんにも楽しんでいただけるものに仕上げよう、と考えていらっしゃるのを日々感じていて、大変に信頼に足る方だと思っています。ああしたいな、こうしたいな、といろいろ考えることができて、みんなが発見をしていけるような現場作りをしてくださって、とても頼もしいです。

──皆さんで一緒に考えて探りながら作品を作っている様子が伝わってきます。どのような舞台になるのかますます楽しみになりました

白井 「どうするんだこれ」と思うような戯曲の方が、宝物を潜めている感じがして、みんなで探す楽しさがありますね。この作品はそういった隙間がいっぱいあって、様々に発見できるのが面白いです。これから稽古を重ねて行く中で、別所さんにも小西さんにも、さらに役柄にエッジを効かせて研ぎすましてください、とお願いしていくことになると思いますが、それが俳優さんと一緒に作業するときの面白さでもあるし、俳優さんの中でそれがピタッと一致した瞬間を見るのが僕は大好きなんです。そこに到達できるように、皆さんをうまく引っ張っていけたらなと思います。

■PROFILE■
しらいあきら○京都府生まれ。早稲田大学卒業後、1983~2002年、遊⦿機械/全自動シアター主宰。現在は演出家として、ストレートプレイから音楽劇、ミュージカル、オペラまで幅広く手掛ける。世田谷パブリックシアター開場時より『こわれた玩具』『アナザデイ』『ラ・ヴィータ』『ピッチフォーク・ディズニー』『宇宙でいちばん速い時計』などを上演。世田谷パブリックシアター企画制作公演では『偶然の音楽』音楽劇『三文オペラ』『ガラスの葉』『マーキュリー・ファー  Mercury Fur』『レディエント・バーミン Radiant Vermin』『住所まちがい』ほか多数演出。第9・10回読売演劇大賞優秀演出家賞、05年演出『偶然の音楽』にて湯浅芳子賞 (脚本部門)、12年演出のまつもと市民オペラ『魔笛』にて佐川吉男音楽賞、18年演出『バリーターク』にて小田島雄志・翻訳戯曲賞などを受賞。2014年~16年、KAAT神奈川芸術劇場のアーティスティック・スーパーバイザー、16年~21年、同劇場の芸術監督を務めた。22年4月、世田谷パブリックシアターの芸術監督に就任。

べっしょてつや○1990年、日米合作映画でハリウッドデビュー。米国俳優協会(SAG)会員。その後、映画・ドラマ・舞台・ラジオなどで幅広く活躍中。99年より、日本発の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア」を主宰し、文化庁長官表彰受賞。観光庁「VISIT JAPAN  大使」、映画倫理委員会委員、外務省「ジャパン・ハウス」有識者諮問会議メンバーに就任。内閣府・世界で活躍し『日本』を発信する日本人の一人に選出。第1回岩谷時子賞奨励賞受賞。第63回横浜文化賞受賞。主な舞台出演作に『チェーザレ 破壊の創造者』、『マイ・フェア・レディ』『デスノート THE MUSICAL』『南太平洋』『コースト・オブ・ユートピア』『ユーリンタウン』『ナイン ザ・ミュージカル』『ミス・サイゴン』『レ・ミゼラブル』など。

こにしりょうせい○東京都出身。2003年から活動開始。05年の特撮テレビドラマ「牙狼〈GARO〉」シリーズで主人公・冴島鋼牙役を演じ好評を得る。主な出演作に、舞台:『キングダム』『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』『ピーターパン』『ジョセフ・アンド・アメージング・テクニカラー・ドリームコート』『SLAPSTICKS』『魍魎の匣』『ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812』『フランケンシュタイン』『オリエント急行殺人事件』『生きる』『ブラック メリーポピンズ』『十二夜』『スリル・ミー』『レ・ミゼラブル』など。映像ではドラマ: NTV「ファーストペンギン」にレギュラー出演、他「家政夫のミタゾノ」「ドクターX」など。音楽活動も CD「The sparkle of life is like a bubble」「空想改革」「飛魚」のリリースや、ソロライブや無観客配信ライブの開催、サブスクリプション配信など、幅広く活躍している。

【公演情報】
音楽劇『ある馬の物語』
原作:レフ・トルストイ
脚本・音楽:マルク・ロゾフスキー
詞:ユーリー・リャシェンツェフ
翻訳:堀江新二
訳詞・音楽監督:国広和毅
上演台本・演出:白井晃
出演:成河 別所哲也 小西遼生 音月桂
大森博史 小宮孝泰 春海四方 小柳友
浅川文也 吉﨑裕哉 山口将太朗 天野勝仁 須田拓未
穴田有里 山根海音 小林風花 永石千尋 熊澤沙穂
演奏:小森慶子(S.Sax.)  ハラナツコ(A.Sax.) 村上大輔(T.Sax.) 上原弘子(B.Sax.)
●6/21~7/9◎ 世田谷パブリックシアター
〈料金〉一般S席8,800円 A席5,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※ほか高校生以下、U24など各種割引あり
〈チケット問い合わせ〉世田谷パブリ、ックシアターチケットセンター  03-5432-1515(10~19 時)
世田谷パブリックシアターオンラインチケット  https://setagaya-pt.jp/
〈お問い合わせ〉世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515  https://setagaya-pt.jp/
〈公式サイト〉https://setagaya-pt.jp/stage/1829/
《ツアー公演》
●7/22~23◎兵庫公演 兵庫県立芸術文化センター

 

取材・文/久田絢子 撮影/中田智章
ヘアメイク/白井晃:国府田圭、別所哲也:森川英展(NOV)、小西遼生:茂手山貴子
別所哲也スタイリング/千葉良(AVGVST)
小西遼生スタイリング/尾後啓太

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