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人が生き抜く尊さを伝える『いつか~one fine day2021』上演中!

2019年に世界初演され高い評価を得たオリジナルミュージカルの待望の再演となる『いつか~one fine day2021』が渋谷のCBGKシブゲキ!!で上演中だ(20日まで)。

『いつか~one fine day』は、イ・ユンギ監督の韓国映画を原作に、ストレトートプレイからミュージカルまで幅広い作品を手掛ける板垣恭一の脚本・作詞・演出、近年ミュージカルの世界で確かな足跡を残している桑原まこの音楽によるオリジナルミュージカル。藤岡正明演じる妻に先立たれた男性と、皆本麻帆演じる昏睡状態の中で心だけ目覚めた女性との奇跡の交流を軸に、誰もが死に向かっている人生のなかで、如何に生ききるか?を描いた美しさが高い評価を得た。今回の再演は、藤岡と皆本以外の登場人物全員に新キャストを迎え、新たな『いつか~one fine day2021』が展開されている。

【STORY】
保険調査員のテル(藤岡正明)は後輩タマキ(大薮丘)の担当だった仕事を引き継ぐよう新任の上司クサナギ(藤重政孝)から命じられる。それは交通事故に遭い、昏睡状態に陥った盲目の女性エミ(皆本麻帆)から示談を勝ち取れというものだった。だが、エミの代理人マドカ(松原凜子)には冷たくあしらわれ、彼女のソウルメイトだと名乗るトモ(西川大貴)からは罵られ、話を聞くこともままならず、テルは病室を追い出されてしまう。

仕事が進まないなか、数か月前に亡くした愛妻マキ(浜崎香帆)のことをまだ整理できずにいるテルは酒に酔い、再びエミの病室を訪れる。そもそも目が不自由なエミが、なぜたった1人で事故現場にいたのか、持ち物にあったカセットテープには何が入っているのか。答えるはずのないエミに問いかけながら、テルはうっかり眠りこんでしまう。ところが翌朝、目覚めたテルの前に現われたのは、なんとベッドで眠り続けているはずのエミだった。
俄かには信じがたい出来事に混乱しながらも、自分にしか見えないエミと交流を重ねるテルは、いつしか事故の陰に消息不明のエミの母親サオリ(土居裕子)の存在があることに気づいていき……

この作品が産声をあげた2019年初演当時のことを思い返すと、全てが遠い蜃気楼の彼方にあるような気さえするほど、2020年、瞬く間に世界を覆った新型コロナウィルスの感染拡大は、世界を一変させてしまった。毎日どこかの劇場で上演されているのが当たり前だったパフォーミングアーツは「不要不急」なものとされ、人と人が話すこと、接することそのものが感染を助長するというやっかいなウィルスの前に、人々は長い「自粛」を余儀なくされた。しかも残念ながら今も尚、その状況はとても収束したとは言い難い。ゴールが定かでないまま続いていく日々の閉塞感に乾いた心は、どうしても狭量になり立場を異にする人と人との断裂を進めていく。けれども、どこかではそれも無理がないと思ってしまう。人は誰でもこの世に生を受けたからには、必ず死に向かって歩んでいるのだが、幸いにして戦時下を知らずに生きてこられた世代にとって、姿の見えないウィルスと、不確かになるばかりの収入の道の危うさが落としている「死」の影には、拭い難い重さがある。誰もが自分を守ろうとするのを軽々しく責めることはできない。

そんな2021年に観る『いつか~one fine day2021』が、初演とはある意味で全く違う景色を映し出したのは、この作品の登場人物たちが、決して異世界の住人ではなく、日常と地続きに生きている、いま、隣に座っていても不思議ではない人々だからだ。彼らがそれぞれに抱える悩みは、言葉を失うほど重いものから、クスリと笑ってしまう若さゆえの懊悩までと様々だ。けれどもそれぞれの苦悩を心に秘めながら、彼らは日々を生きていく。捻じれる心を宥めすかし、実は正しいと思うものを見ないふりもして、やっと一日をやり過ごす。そうしないと前に進めない彼らの姿は、とてもリアルで、だからこそまるで古い友人のように感じられる。

その彼らの思いが重なり合い「死ぬことは終わりではなく生き抜くこと」という地平にたどり着く。それは胸を突かれるとしか言いようがない、時代の暗雲に差し込む光だった。彼らを愛おしく思う心が、自分だけを守ろうとすることは、やはりそれでも違うのだと気づかせてくれる。「でもいつか、いつか、いつか晴れる日がくると信じて」ほんの少しでもいいから、昨日より優しくなって今日を生きよう、そう思わせてくれる力がこの『いつか~one fine day2021』の舞台からは確かに伝わってくる。この作品の初演時に脚本・作詞・演出の板垣恭一が提唱した「社会派エンターテイメント」が、現代を映し出しただけでなく、希望の明かりを灯したことに感謝したい。初演とは奥行も間口も異なる劇場空間に合わせ、更に簡素化されたセットやキャストの動きも、作品の芯をむしろ鮮やかに照射する効果になったのも、まさに板垣マジック。2019年読売演劇大賞上半期スタッフ部門(音楽)にノミネートされた桑原まこの音楽も、新曲を加えて、初演と同じ精緻さに、豊かな深みを増し、ミュージカルとしての充実を感じさせた。

そんな作品に生きる8人のキャストが、それぞれの人生を舞台に息づかせている。

テル役の藤岡正明は、初演から変わらずほぼ出ずっぱりの舞台の中で、テルという人物が抱える喜怒哀楽、更にそれらを表すことができなくなっている状態までをも繊細に表現して惹きつける。近年の仕事の中ではなんと言ってもミュージカル『ジャージー・ボーイズ』のトミー・デーヴィット役が、ブロードウェイミュージカルだということを忘れて、藤岡へのあてがきなのでは?と錯覚させるほどの当たり役ぶりを示していたが、その一種強面でちょい悪な雰囲気を醸し出す藤岡のミュージカルデビューが、『レ・ミゼラブル』のマリウスであること。とても伸びやかな二枚目ボイスの持ち主だという事実が、テル役の誠実さと愛に通じていて、分けても「うつしおみ=現人」のソロの美しさは絶品だった。

多くの場面でそのテルにしか見えない存在として躍動するエミの皆本麻帆が、やはりこの役どころはこの人しか考えられないと思わせる、ファンタジー性と透明感で魅了する。心だけ自由になったエミが、初めて見る世界に感じる美しさは、まるで世の中に生まれ出たばかりの子供のようで、目に入るもの全てが輝いて見えるエミの視線に立つことで、観る側にも当たり前の日常の尊さを改めて知らしめてくれる。シリアスとコケティッシュの塩梅も絶妙で、より心に深く迫るエミ像になった。

ここからのキャストは全員2021年版への新登場で、総じてミュージカル度の深まりに寄与した布陣となっている。

エミの親友マドカの松原凜子は、事故によって意識不明になっているエミを守ろうとする責任感の強さ故に、ドライな態度を貫くマドカの心情が手に取るように伝わってくる細やかな芝居力が素晴らしい。そんなマドカが、終盤に向かってテルの言葉を信じるようになる、その変化の表現も胸に染みるもので、言わずもがなの歌声の力強さも併せて、作品の貴重な戦力になっている。

エミのソウルメイト・トモの西川大貴は、非常に突き詰めたエキセントリックな演技も得意としているが、トモ役ではその片鱗を残しながら、日常生活の中に自然にいる人物として役柄を見せているのが面白い。どうにでも色濃く作れるだろうゲイのストリートミュージシャンという設定を、市井の人として描いているのが初演から続く作品の矜持だが、西川の個性にある微かに尖った部分が、役柄に適度なスパイスを与えた。

テルの上司クサナギの藤重政孝は、数字が全ての仕事人間を地に足のついた人物として描き出していて、だからこそクサナギが後半で吐露する想いに、展開を知っているにも関わらず目を開かれる思いがする。こういう人いる、うちの会社にもいると思わせるからこそ、誰にでも語らない何かがあるのかもしれない、と気づかせてくれる藤重の演じぶりが際立った。

テルの後輩タマキの大薮丘は、もっと大きな夢を持っていたはずなのに、こんな人生でいいのか?でも収入も生活水準を落とすのもイヤだし、という若さ故の空回りに真実味がある。恵まれているよ、悩みのうちに入らないよ、は年齢を重ねた側が言えることで、若いからこそ感じている頭を打つ思いがよく出ていた。トモとの会話もひょっとしたらスーッと受け入れるのかも?と思わせたのは大薮の素直さがにじみ出る演技故で、端正なマスクもこの役どころに打ってつけだった。

テルの愛妻マキは、テルとの幸せな結婚生活と、病に伏してからの心情とが入れ子細工のように描かれる、この作品の中でもかなりの難役だが、演じた浜崎香帆のまっしぐらな体当たり感が、役柄の場面ごとの変化をくっきりと浮かび上がらせている。溌剌とした演技が輝くからこそ、影も深くなるマキの造形が印象に残った。

そして、エミの母サオリに土居裕子が登場したことが、『いつか~one fine day2021』の色を決めたと言っても過言ではない。音楽座の主演女優として、この人が日本のオリジナルミュージカルの発展に寄与してきた歴史が、そのまま『いつか~one fine day2021』に投影されていて、初演の鮮烈な歌声が忘れ難い和田清香とは全く異なるアプローチの、繊細な歌声と経てきた経験の全てが役柄の陰影を深めていた。

総じて、演劇は時代を映す鏡だと言われてきた言葉以上の、いま、この時にどう生きるべきかを指し示した上演で、願わくは劇場で、それが叶わずとも全公演24時間アーカイブつきの配信上演を通じて、是非多くの人に触れてほしい、今だからこそ観るべき作品になっている。

【公演情報】
『いつか~one fine day 2021』
原作◇映画『One Day』
脚本・作詞・演出◇板垣恭一
作曲・音楽監督◇桑原まこ
出演◇藤岡正明 皆本麻帆 松原凜子 西川大貴 藤重政孝 大薮丘 浜崎香帆 土居裕子
●6/9~20◎CBGK シブゲキ!!
〈料金〉一般10,500円 平日ソワレ割9,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈公式サイト〉https://www.consept-s.com/itsuka2021
〈公式Twitter〉https://twitter.com/consept2017
〈公式Instagram〉https://www.instagram.com/consept2017/
〈公式Facebook〉https://www.facebook.com/consept2017/

【配信情報】
●3カメ(スイッチング)配信 :3,890円(税込)
6月13日(日)12:30公演
6月19日(土) 12:30公演・17:00公演
●1カメ(定点)配信:2,480円(税込)
6月15日(火)14:00公演・19:00公演
6月16日(水) 19:00公演
6月17日(木)14:00公演・19:00公演
6月18日(金) 19:00公演
6月20日(日) 12:30公演
配信チケット販売:conSept movie http://consept-movie.myshopify.com/
※配信開始60分後まで購入可能。
※配信開始から24時間アーカイブ視聴が可能。
【conSeptオフィシャル YouTubeチャンネル】https://www.youtube.com/c/conSept
【「いつか~one fine day」リリックブック】
https://consept-movie.myshopify.com/products/lyricsbook

【取材・文/橘涼香 写真提供/conSept 】

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