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ダンスの熱量が希望を開く『ODYSSEY 2021』上演中!

選び抜かれたすべてのダンサーが主役を務め、またアンサンブルとして主となるダンサーに寄り添い、お互いの魅力と個性を生かして創り上げられるダンスパフォーマンスシアター ENTERTAINMENT SUPER DANCE THEATER『ODYSSEY 2021』が、銀座博品館劇場で上演中だ(13日まで)

選りすぐりのダンサーの競演で綴るステージの2年ぶりとなる上演で、リーダー東山義久と、全体の構成を統括する中塚皓平をはじめとしたDIAMOND☆DOGS(以下D☆D)のメンバーに、DANIEL、長澤風海、木村咲哉、HILOMU。そして、『ODYSSEY』初となる女性ダンサーである元宝塚歌劇団の舞羽美海、宇月颯が参加。より華やかに、ジャンルレスに、身体表現で物語を綴るスピード感あふれる舞台が展開されている。

第一幕は「タイムトラベル」をモチーフに、夢や希望を見出せないまま現代を生きる青年が、不思議な本に導かれて、過去をめぐり様々な時代の英雄・偉人たちに出会い、その信念に触れて、未来を照らす一条の光を見出していくまでを、多種多様なダンスシーンで展開していく。

特に、咲山類のアインシュタインを中心に東山義久以外のD☆Dメンバーで展開されるコミカルな場面。DANIELと木村咲哉のライト兄弟の決して諦めずに空を飛ぶ様。舞羽美海のクレオパトラと東山の蛇の化身の濃厚な死の影。宇月颯のジャンヌ・ダルクが神の啓示を受け、旗を取る荘厳な決意。東山の織田信長の信念を貫いて散る背中等々、様々な場面が中塚演じる現代の青年に衝撃と影響を与え、時間旅行のなかで人生の光を見出していく過程が鮮明に伝わってくる。

基本的に言葉を持たないダンス表現のなかで、わかる人だけわかってくださいとは決して突き放さず、おそらくは誰しもが一度ならず見聞きしたことがある歴史上の大スターたちを持ってきた発想が親切だし、それでいてもし違う解釈をしたとしても構わない、というイメージの飛翔もあるのがダンス表現同様の自由さを感じさせる。特に、D☆Dの中でもヒップホップに秀でる和田泰右とHomerがゲストのHILOMUとパワフルに踊ったり、長澤風海が舞羽とファンタジーの世界でデュエットするなど、ダンサーの個性と得意なダンスジャンルが、全く無理なくしかも流れるように展開される醍醐味は大きく、メリハリのある時間旅行の旅が続いた

その時間旅行を促した不思議な本が「アリス」の書く物語の絵本として引き継がれた第二幕は、アリスの世界をモチーフに、多彩なキャラクターがODYSSEY流に活躍するダンスアクト。舞羽演じるアリス自身が物語を紡ぎ、キャラクターたちが動き出すという発想がシャレていて、更にポップでカラフルな展開が楽しい。白うさぎ、イモムシ、チェシャ猫、マッドハッター、イタズラ双子、トランプの兵士たち、そしてハートの女王。ところせましと暴れまわり、賑やかなパーティのような時間が続き、そこに異変が訪れる。でも諦めずに、新たな一歩を踏み出すことで、物語は決して終わらない。夢見ることを諦めるな!希望に向かって前に進もう!とあくまでもエンターティメントのなかで訴えてくるステージは、いまコロナ禍による閉塞感のなかで、どうしても頑なに、狭くなる心を解きほぐしてくれる魔法に満ちて美しい。

そんな舞台の中でD☆D不動のリーダー東山義久が、守りに入らず大胆に表現していけ!と言わんばかりに、カンパニーを自由に羽ばたかせて、最後の最後に自らが締めるという在り方をしているのが新鮮だ。「D☆D第二章」とも言える再スタートを切ってから、その存在感はますます大きくなっているし、D☆D以外のステージでは、非常にチャレンジングな役どころでの出演も続いていて、そうして培ったものをD☆Dのステージに還元していくという姿勢は変わらない。ただそれを貫きながらも、新たなリーダー像を構築しつつあるのが興味深い。だからこそD☆Dの舞台でも遊び心たっぷりのキャラクターにも扮していて、その挑戦心が言うまでもない東山流とも呼びたいダンスの魅力と共に輝いていた。

そのD☆Dのメンバーでは、全体の統括にあたった中塚皓平が、様々なカラーを内在しつつ、最終的には光ある希望に全体を帰結させていくのが、中塚の持つ純粋なものと美しい世界への憧憬を表してD☆Dに新しい風を吹かせていく。それはコロナ禍の今とても尊い、どこか涙が出るようなもので、中塚自身の夢の成就なんだろうな…という幻想性に満ちたデュエットダンスも美しく踊り切った。

また長く親しまれたD☆Dの末っ子ポジションから、逞しい兄貴分に成長した和田泰右は、ある時はゲストとD☆Dを結び、ある時はD☆Dをリードするという、作品に欠かせない力強さを発揮。それでもどこかで茶目っ気は残すのが和田ならではだ。

咲山類はここぞというところではもちろん美声も聞かせるが、「選び抜かれたすべてのダンサーが主役を務める」という『ODYSSEY』の中で、ダンサーのひとりとして大奮闘。舞台に立ち続けることで一人のパフォーマーが進化し続けて行く姿を観られるのは何よりの喜びだ。

そんな咲山と共に歌うシーンも用意された廣瀬真平は髪型にも新鮮な工夫があり、歌、ダンス、芝居力とオールマイティな表現者として各場面で大活躍。前に出るべきところ、気配を消すべきところの立ち位置の取り方が巧みで、全てのダンサーが主役でありアンサンブルである『ODYSSEY』の在り方を体現していた。

今回はむしろダンサーとしての活躍が目に立つ新開理雄は、身体能力の高さを改めて感じさせる。また破顔一笑の笑顔の魅力と、憂いを感じさせる表情変化がくっきりしていて、物語の重要なキーアイテムである本を手渡すという、場面としてはそれだけのシーンでも強い印象を残せる強みが光った。

そして、作品の振付の多くに関わったというHomerは、個性派ぞろいのD☆Dメンバーの中でも、更に個性が際立つ持ち味を如何なく発揮。ダンスももちろんだが、芝居力に優れていることを、D☆D参加以来強く感じさせているが、得意のブレイクダンスだけではない、様々なダンスシーンで重要な担い手になっている。

そして、ゲスト参加の6名のダンサーいずれもが、良い意味でゲストであり、またなんらの隔てなくカンパニーの一員であることが、この舞台の根幹を支えている。

今回の『ODYSSEY』には滞空時間の長い、実は背中に羽根を隠し持っているのでは?と思わせるダンサーが次から次へと登場するが、分けてもどこまでも高く舞い上がるDANIELが舞台に爽快感と共にノーブルな香りも醸し出して魅了する。近年バレエ作品でもキャラクター性の濃い役どころで新境地を開いているが、それにはDANIELとしての活動も大きく寄与していることだろう。2幕の洒脱でアンニュイな表現も面白く、良い循環が感じられた。

ミュージカル『王家の紋章』博多座大千秋楽からの、非常にタイトなスケジュールを乗り越えて参加した長澤風海は、そのハードさを全く感じさせず、生き生きと舞台で舞い続けた。この世ならぬ者の表出も得意な人だが、今回はどこかコケティッシュな表現が多く、ジャンプもダイナミックで、DANIELとの個性の違いが鮮明になっただけでなく、舞台全体にも良い効果になっていた。

『ビリー・エリオット』の鮮烈デビュー以降、D☆Dの舞台にも数多く出演している木村咲哉は、少年から青年へと変わりつつある時期の、そのどちらにも寄せられる香りを、場面によってキャラクターによってそれぞれ醸し出したのが、2021年いまの木村咲哉を感じさせて貴重だ。DANIELと二人で果敢にバレエシーンも踊れば、HILOMUともバトルのように力強く踊る、木村の逞しい守備範囲の広さが感じられた。

そのHILOMUは中空を飛ぶダンサーを多く有するカンパニーの中で、フロアーと一体になって次々とアクロバティックな振りを繰り出すダンススタイルが、作品の貴重なスパイス。D☆Dメンバーとのダンスバトルも楽しく、HILOMUの個性が起こす化学反応が、作品の色合いをより多彩なものにしていた。

そして、『ODYSSEY』初の女性ゲストのひとり、舞羽美海は元宝塚歌劇団雪組で娘役トップスターを務めた人。その愛らしさ、ストレートにチャーミングな持ち味が、アリスや長澤とのダンスに集約されている一方で、クレオパトラやプロローグなどで見せる、大人の色合いや、むしろキリリと引き締まった表現も惜しみなく出せるのが、このショーにとってはもちろん、舞羽美海という表現者にも強みになっている。フィナーレのデュエットダンスも舞羽がいるからこそ実現したもので、中塚の夢の結晶が観る者にも甘い感懐と、新しい夢を見せてくれる貴重な時間だった。

もう一人の女性キャスト宇月颯は、同じく元宝塚月組で名ダンサーの誉れ高き男役として数々のダンス場面を支えてきたが、プロローグからマニッシュなスーツ姿で踊り出すと、宝塚時代のキレにキレたダンスシーンの感触が蘇るのと同時に、その姿のまま女性側として組んで踊ることも難なくこなす、宇月の表現の進化が感じられる。ジャンヌ・ダルクが選び取る人生は気高く、マッドハッターは洒脱に粋に踊る表現の幅も魅力で、様様な経験からセンターで全体を率いることが宇月の中に確かに親和しているのも嬉しい。フィナーレナンバーでは男性ダンサーに伍して一歩も引かないシャープなダンスも披露して、今後も是非踊り続けて欲しい人だ。

この13人のメンバーひとり一人が、得意のスキルをよどみなく発揮して尚途切れない、プロローグ、フィナーレの醍醐味も素晴らしく、これは音楽、振付も全てオリジナルで創作されている『ODYSSEY』だからこその強みだろう。総じて爽快感と希望に溢れた作品で、アーカイブ付の配信も含め、この豊かな世界観をひとりでも多くの人に触れて欲しいステージになっている。

 

【公演情報】
ENTERTAINMENT SUPER DANCE THEATER『ODYSSEY 2021』
構成・演出・振付:D☆D
音楽:la malinconica TAKA
振付:長澤風海 木野村温子
振付協力:DANIEL
出演:DIAMOND☆DOGS(東山義久 中塚皓平 和田泰右 咲山類 廣瀬真平 新開理雄 Homer)
DANIEL 長澤風海 木村咲哉 HILOMU
舞羽美海・宇月颯
●10/6~13◎銀座博品館劇場
〈料金〉9,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉博品館劇場 03-3571-1003
〈公式サイト〉http://www.hakuhinkan.co.jp/theater/archives/event/entertainment-super-dance-theaterodyssey-2021

【ライブ配信情報】
ライブ配信時間:
10月9日18:00~15日(金)23:59(アーカイブ視聴期間)
10月13日14:00~(ライブ配信・のち~19日23:59までアーカイブ視聴あり)
※ 途中から視聴した場合はその時点からのライブ配信となり、生配信中は巻き戻しての再生不可。
※ アーカイブ配信はライブ配信後に再配信処理の為、一部視聴できない時間あり。
視聴券料金:3,500円(税込)
販売サイト:https://eplus.jp/odyssey2021/
販売期間:9月30日~視聴終了日21:00まで

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

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