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駆け引きと裏切りと夢が交錯するSHOW ACT 『夜想曲─ノクターン』上演中!

東山義久と唯一の女性キャスト北翔海莉を中心に、男性パフォーマンス集団DIAMOND☆DOGS(以下D☆D)のメンバーに加え、川原一馬、長澤風海、小寺利光、若松渓太が繰り広げる、フィルムノアールにも似たKIRARI SHOW ACT☆PARADISE THEATER『夜想曲─ノクターン』が、銀座の博品館劇場で上演中だ(12日まで)。

KIRARI SHOW ACT☆PARADISE THEATER『夜想曲─ノクターン』は、結成以来様々なコンテンツの作品を生み出してきたD☆Dが、新たに取り組む役柄の心情や夢と幻惑をショー場面として差し挟みながら進めるドラマ作品。これまで基本的にはダンスと歌が中心の作品を多く発表してきたD☆Dの、新しい挑戦が浮かび上がる作品になっている。

【STORY】
架空の街トーキョー
闇カジノ「夜想曲」の賭博で莫大な借金を抱える男たちバルゴ(咲山類)、スコーピオ(廣瀬真平)、サジ(新開理雄)、タウラス(Homer)、アクア(川原一馬)が、ある夜、とある倉庫へ集められる。
彼らはそれぞれの借財を返済する為、レオ(東山義久)を筆頭にライブラ(小寺利光)、キャンサー(中塚皓平)、カプリ(和田泰右)、ビスケス(長澤風海)、ジェミニ(若松渓太)が立てた、桐嶋組が今夜移送する大金を強奪する計画に、互いに本名は明かさず、闇カジノでのコードネームを名乗ったまま加担させられる。

危険は百も承知で人生大逆転の一攫千金にかけた男たちだったが、強奪計画が成功したかに思えた刹那、警察のサイレンが響き渡る。動揺したバルゴが発砲した銃弾はアクアを傷つけてしまい、事態は思わぬ方向に転がっていく。そもそも計画を立案したレオの目的は、金銭ではなく5年前に桐嶋組に弟を殺害された復讐だった。そのレオに手を貸す「夜想曲」の歌姫アリエス(北翔海莉)の謎めいた存在も加わり、彼らのなかに裏切り者の潜入者がいるという疑惑はやがて確信に変わっていき……

1920年代の禁酒法時代のアメリカで暗躍したイタリアンマフィアを強く想起させながらも、架空の街トーキョーの一夜に起こる物語は、SHOW ACTという言葉から想像していた以上に台詞劇の趣が濃厚で、駆け引きと探り合いの会話の応酬に、観る側にも相当な集中力を要求してくる。特に、脚本・演出の宇治川まさのりが、キャストにあて書きをしたというそれぞれのキャラクターや設定に、フィルムノワール的なダークファンタジー、ある種の異国情緒感が強いことで、彼らのコードネームがしっくりと耳に馴染む。だからこそふいに現れる「桐嶋組」や「洸太」というワードの方にむしろ一瞬ドキッとするような感覚があり、その混乱が舞台の幻惑感を増していく。

だが、それこそが日本の東京ではなく、架空の街トーキョーを舞台にした物語に相応しい香りなのだろう。ここには、急逝した森新吾が独自に立ち上げ、シリーズ化が予定されていた「アクト・カンタービレ」を彷彿とさせる趣があって、新メンバーを加えて再始動したD☆Dがこの世界観、スタイルを提示してきたことにも深い感慨が募る。実際、D☆Dを主体にした舞台で、ここまで台詞劇の展開を見せた作品は多くないだけに、発展途上を感じさせるものもまた多いが、だからこその可能性もまたあって、全く不自然でなく空洞を含んだ壁から倉庫の外にいる人物の影が見えたり、縦に激しく明滅しながら動くライトなど、作品を構築するクリエーターの仕事も非常に面白い。中でも、台詞の応酬が極まったところで繰り広げられるダンスシーンのエネルギーは圧巻。タンゴ、フラメンコ、ラテン、ジャズなど異なるテイストで踊られる各場面が面白く、「SHOW ACT」と提示された新たなステージの可能性を強く感じた。

その中心になるレオの東山義久の存在感がやはり頭抜けていて、作品の異国感を強めている。元々「唯一無二」「東山義久というジャンル」と称されることも多い個性の持ち主の東山だが、今回のレオ役では犯罪組織のリーダーであること以上に、殺害された弟「洸太」への思いの強さが際立っていて、深い苦悩の表現に観ていて痛みを感じるほど。それがアリエスに対した時の粋なダンディーぶりとのコントラストを生んでいて、作品の謎を深めた。

一方、歌姫アリエスの北翔海莉は、カンパニーのなかで唯一の女性キャストというばかりでなく、最も「トーキョー」を感じさせる在り方に個性がある。ファンタジー世界の代表格と言っても過言ではない、宝塚歌劇団でトップスターを務めた人だけに、非現実世界のなかの現実感が読めるのだろう。非常に複雑な役柄を演じながらも、北翔がいることで「トーキョー」が浮かび上がるのが目を引いた。明晰な台詞発声も心地良い。

キャンサーの中塚皓平は、まずメイクから役柄を作り込んでいて、ひと目で危険な人物と感じさせるのが面白い。男たちのなかで特段に狂気をはらんでいることが、作品の理解を助ける役割も果たしていて、東山、北翔、中塚の三人で繰り広げる港ゆりか振付のダンスシーンのドラマ性に満ちた緊張感も抜群だった。

カプリの和田泰右は、イタリアに婚約者がいるという設定がベストマッチ。と言うよりも、この役柄だけはイタリア人だと言われたら納得しただろうほど、あくまでも明るいからこそ、いつキレるがわからない危なさがよく表れている。中塚とはまた違った怖さがあり、和田の芝居力の深化を感じさせた。

バルゴの咲山類は、気の弱いサラリーマンをこちらも非常に思い切った作り込みで表現していて、生来の整った顔立ちを歯牙にもかけない役者魂が炸裂。物語を動かす役柄をよく支えていた。一転、歌声は堂々と力強く劇場を支配していて、このギャップを或いは最も楽しんでいるのは本人なのかな?と思わせるふり幅が貴重だった。

また、D☆D再始動から加わった新メンバーが、芝居に一直線に取り組んでいる姿が新鮮で、スコーピオの廣瀬真平が、ホストという設定を「チャラい」感覚を強調して演じれば、老舗の蕎麦屋の跡取りサジの新開理雄の、ひたすらな一生懸命が微笑ましい。更に、かなり意外な設定だったタウラスのHomerが、D☆D加入以来発揮してきた芝居心を軽やかに見せて、それぞれ個性的だった。

そしてゲストの面々。アクアの川原一馬は東山との共演のイメージが強いだけに、D☆D中心の舞台に初参加というのがむしろ意外なほどだが、やはり芝居力が突出していて、二転三転する役柄を鮮烈に見せている。ライブラの小寺利光は、言うまでもなくD☆Dの元メンバー。東山のレオの右腕的存在が、同じ時間を過ごしてきた人ならではのあうんの呼吸でピッタリとハマり、舞台を引き締めた。川原と二人で競演するタップシーンも見応えがあった。エンターテインメントショーをやりたいと夢見るビスケスの長澤風海は、登場シーンの展開が特に印象的。芝居面での充実も顕著な人だからこそ「ダンサーってふとした隙間にも踊り出すよな」に、説得力を与えていた。ジェミニの若松渓太は、レオの東山が弟を重ねている重要な役どころ。こちらも非常に複雑な設定があるが、そうしたものをどこかストンと超えて自然に舞台に存在しているのが、役柄にとって効果的だった。咲山と真正面から歌い合う、高い歌唱力も作品の大きなアクセントになっていた。

全体に裏切り、裏切られと展開が次々に転がっていくだけに、ここに帰結するのかというレオの語る、ある著名な名台詞に至る終盤を知って観ると、また冒頭からの展開が全く違って見えてくるだろう。そういう意味でもアーカイブ付の配信も用意されているのは親切で、D☆Dが新たに目指すコンテンツの熟成を期待したい舞台になっている。

 

【公演情報】
『夜想曲─ノクターン─』
脚本・演出◇宇治川まさなり
音楽◇la malinconica
振付◇港ゆりか 木野村温子 Homer D☆D
出演◇東山義久 北翔海莉
DIAMOND☆DOGS[中塚皓平 和田泰右 咲山類 廣瀬真平 新開理雄 Homer]
川原一馬 長澤風海 小寺利光 若松渓太
●12/5~12◎博品館劇場
〈料金〉9,800円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉博品館劇場 03‐3571‐1003
〈劇場公式サイト〉http://www.hakuhinkan.co.jp/theater/?post_type=event

【ライブ配信情報】
12/8 18:30~(14日23:59までアーカイブ付)
12/12 14:00~(18日23:59までアーカイブ付)
〈視聴券料金〉各公演4,000円(税込)
販売サイト:https://eplus.jp/nocturne/

 

【取材・文/橘涼香 写真提供/博品館劇場】

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