お芝居観るならまずはココ!雑誌『えんぶ』の情報サイト。

迷宮の中に展開する藤田ワールド!ミュージカル『NINE』上演中!

フェデリコ・フェリーニの映画「8 1/2」を原作としたミュージカル『NINE』が城田優主演、藤田俊太郎演出という魅力的な陣容で、TBS赤坂ACTシアターで上演中だ(29日まで。のち、大阪・梅田芸術劇場メインホールで、12月5日~13日まで上演)。

ミュージカル『NINE』は2019年城田優が主演と同時に演出も務めたミュージカル『ファントム』で、日本でもお馴染みのアーサー・コピット脚本、モーリー・イェストン作詞・作曲によるミュージカル作品。フェデリコ・フェリーニの自伝的作品とも言われている映画「8 1/2」を原作にした、非常に実験性の高い作品として1982年ブロードウェイで初演。トニー賞10部門にノミネートされ、5部門で最優秀賞を獲得している。2009年には、ロブ・マーシャル監督によりダニエル・デイ=ルイス主演の映画版も公開され、更に多くの支持を得ている。日本では1983年に細川俊之主演で本邦初演されて以来、幾多のバージョンで上演を重ねてきた。

藤田俊太郎が演出を手がける今回の上演版では、主人公のグイドを城田優が演じ、より感性に強く訴えかけるある種謎めいた迷宮を感じさせる舞台が展開されている。

【STORY】
イタリアで名匠の名を勝ち得ていた映画監督のグイド(城田優)は、創作上のスランプに苦しみ、新作映画の撮影を間近に控えているにも関わらず、全くシナリオが書けずにいた。妻のルイザ(咲妃みゆ)はそんなアーティストである夫を理解しようと務めていたものの、彼を愛しまた創造の助けになってきた女たちの影が常に二人の会話の中にも忍び込んでいることに疲れ、結婚生活は危機を迎えていた。

妻との関係を修復すべく、彼女を何とか説得してスパのマリア(原田薫)の見守るベネチアの温泉へやってきたグイドだったが、そこにもマスコミや愛人のカルラ(土井ケイト)が追ってきて、気の休まる暇もない。更に、次回作のプロデューサーのラ・フルール(前田美波里)が、映画評論家のネクロフォラス(エリアンナ)を伴って現れ、次回作は必ずミュージカル映画を撮るように、だからこそ資金を出したのだとグイドに詰め寄る。何もかもに行き詰まりを感じたグイドの心のうちには、母(春野寿美礼)や少年期に衝撃的な出会いをした娼婦サラギーナ(屋比久知奈)らが去来する。精神の安定を欠いていきながらなんとか新作を撮ろうともがくグイドは、彼のミューズである女優クラウディア(すみれ)に出演を懇願するが……

同じクリエーターたちの手によるミュージカル『ファントム』がそうであるように、この作品『NINE』は演出家の創造力の余地が大きい。海外のミュージカルではセットや衣装、役者たちがこの音からこの音の間で移動するなどまでが、厳しく定められている作品もままあるが、『NINE』はそういった意味ではかなりの自由が与えられていて、今回の上演では、演出を担った藤田俊太郎の感性が舞台の隅々にまで生きているのを感じる。円形に仕立てられた鉄骨の装置は人力でグルグルと回り、どこかで円形闘技場コロッセオを連想させもする。また、しばしば舞台半ばまで降りてくる半透明の幕には、映画監督が主人公である作品らしく、その場のカメラで撮影されたキャストが大写しになったり、日本語のナンバーとそれ以外の言語で歌われるナンバーが作品に混在している中「字幕」を映し出す役割を果たす等、細かい仕掛けが多く、その全てが暗喩に満ちている。実際コンサート形式の作品以外で、ミュージカルナンバーや台詞の言語が統一されていないというのはかなりのレアケースだし、まさかというナンバーの大胆なカットもあって、舞台は驚きの連続だ。

ただ、その中で何よりも感じるのが、創作に行き詰っているグイドが抱える、クリエーターとしてのヒリヒリとした焦燥感だ。女性遍歴を繰り返すグイドの心象風景、タイトルの意味のひとつでもある9歳のグイドが娼婦サラギーナと出会い衝撃の体験をした。そのことを引きずり続ける彼が、女性たちに求めていくものや、葛藤も様々な形で表れていくし、時系列を自在に越え、現実と心象風景、或いは映画という虚構の中を行き来する作品には華やかさもあれば、コケティッシュな可笑しみもある。それでも、近作を立て続けに失敗し、新しい作品の構想も浮かばないというグイドが追い詰められていく逃げ場のなさが、今回の舞台では、あたかもコロッセオで戦い、傷つき、倒れていく剣闘士のように強く照射されていて胸が痛い。彼を突き放していく、つまりは自立していく女性たちが力強いだけに、グイドの切なさを倍加させていて、だからこそグイドに未来をつかみ取って欲しいとの気持ちも募る。ここには、これまでに観たどの『NINE』とも違う、2020年に藤田俊太郎が描き出した『NINE』の、人の業の深さや、惑いや、諸さを描きつつも、尚再生を信じる一筋の光が回り続けている。

その円環の中で城田優が、当代の当たり役とも思えるグイドを深く演じている。彫りの深いマスクと上背、恵まれたビジュアルがまずイタリアの映画監督という役柄の設定に打ってつけなだけでなく、多言語が混在している作品に違和感を与えないのは、城田の持つグローバルな感覚あってこそ。『エリザベート』『ロミオ&ジュリエット』『ファントム』等々、演じてきた役柄をその都度「当たり役」と感じさせる力量の持ち主だが、そうした過去の演技を観てきていて尚、このグイドが代表作になるのではないかと思わせる、魅力的な大人の男であり、傷ついたままの少年でもあるグイドに魂が共振した渾身の演技だった。言語だけでなく、ポップからクラシカルまで幅広いミュージカルナンバーも巧みに歌いこなして見事だった。

その妻ルイザの咲妃みゆは、宝塚歌劇団在団時から片鱗を見せていた、役柄に真っ直ぐに飛び込んでいく、役に憑依していると感じさせる演じぶりで、グイドに対する感情が次第に冷え切っていくルイ座の心情を的確に描き出している。特に、黙ってグイドを見つめる表情、視線の中に、愛情が擦り減っていく過程が表われていて心に痛いほど。様々な女性に囚われているグイドが、尚この妻を失うことに怯えるのを納得させるルイザだった。

グイドのミューズである女優クラウディアのすみれは、英語での歌唱がこれまでの芸歴の記憶に照らして特段に声が出ていて、これは大きな収穫。元々美しい人だから、立ち姿を更に進化させると、クラウディアさえいれば新作映画が撮れるに違いないと、グイドがすがるに相応しいオーラが発せられることだろう。期待したい。

グイドの愛人カルラの土井ケイトは、役柄が求める剥き出しの野性味ある種の品のなさを噴出させていて、いつもながら力を感じさせる。グイドに楔を打ち込んだ娼婦サラギーナの屋比久知奈は、ドラマチックな歌唱も含めて、まさに新境地を拓いた快演。

映画評論家ネクロフォラスのエリアンナの、思い切り良くアクの強い造形も目を引く。それにしてもこうした作品を観る度に、海外のジャーナリストというのは本当にここまで居丈高なのだろうか?とびっくりさせられる。語り部的な要素も担うスパのマリアの原田薫が、持ち前のダンス力に頼らない演技で勝負しているのも頼もしい。

またグイドの母の春野寿美礼、はあくまでも慈愛に満ちた優しい表情と声で話しながら、実はゾっとする言葉を発している効果に大きなものがあった。清貧な衣装で舞台高みにいることが多いにも関わらず、存在感を消さない居住まいも光る。

そして、映画プロデューサー、ラ・フルールの前田美波里が舞台を浚う様が圧巻。グイドに新作をミュージカルにすることを迫る凄味にブラックな可笑しみがあることの魅力に加え、レビュースターとして登場する抜群の脚線美と、スター登場の視線を集める力には絶大なものがあった。

他にも『NINE』に男性ダンサーが?とはじめ驚きがあったダンスカンパニー・DAZZLEの面々も意外なほどにすんなりと舞台に溶け込んでいたし、ラ・フルールの秘書として、更に劇中映画のスターとして、特段の働き場があった則松亜海をはじめ、女性アンサンブルの面々も大活躍で、何しろ趣向の多い舞台だから、再見することで更に気づきや発見が生まれると思う。そういった意味でもリピートしたいと感じさせる魅力にあふれていて、混沌とした迷宮のような懊悩の中から、未来に向かう希望が感じられる舞台になっている。

【公演情報】
ミュージカル『NINE』
脚本◇アーサー・コピット
作詞・作曲◇モーリー・イェストン
出演◇城田優 咲妃みゆ  すみれ
土井ケイト 屋比久知奈 エリアンナ
原田薫 春野寿美礼/ 前田美波里
DAZZLE(長谷川達也、宮川一彦、金田健宏、荒井信治、飯塚浩一郎、南雲篤史、渡邉勇樹、高田秀文、三宅一輝)
彩花まり 遠藤瑠美子 栗山絵美 Sarry 則松亜海  原田真絢 平井琴望 松田未莉亜
大前優樹・熊谷俊輝・福長里恩(トリプルキャスト)
●11/12~29◎東京・TBS赤坂ACTシアター
〈料金〉S席13.500円 A席9.000円(全席指定・税込み)
〈お問い合わせ〉0570-077-039
●12/5~13◎大阪・梅田芸術劇場 メインホール
〈料金〉S席13.500円 A席9.000円 B席5.000円(全席指定・税込み)
〈お問い合わせ〉06-6377-3800
〈公式サイト〉https://www.umegei.com/nine2020/

【DVD情報】
〈料金〉12,100 円(税込)
2021/4/16発売予定
〈インターネット先行予約〉https://www12.webcas.net/form/pub/umegei/ninedvd
〈DVD詳細情報〉https://www.umegei.com/nine2020/special.html#DVD

 

【取材・文・撮影/橘涼香】

記事を検索

観劇予報の最新記事

草彅剛・主演のシス・カンパニー公演『シラの恋文』ビジュアル公開!
数学ミステリーミュージカル『浜村渚の計算ノート』開幕!
『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』井上芳雄最終日の写真到着&再演発表!
 「池袋演劇祭」まもなく開幕!
加藤拓也の最新作『いつぞやは』開幕!

旧ブログを見る

INFORMATION演劇キック概要

LINKえんぶの運営サイト

LINK公演情報