平成最後の新春浅草歌舞伎で奮闘中! 中村鶴松・中村梅丸インタビュー
若手の大きなチャレンジの舞台であり、お正月の浅草名物でもある「新春浅草歌舞伎」。平成最後となる節目の公演が1月2日から上演中だ(26日まで)。
演目は、第1部が上方(関西)と江戸の廓話を洒脱に語る舞踊『戻駕色相肩(もどりかごいろにあいかた)』で開幕。源氏と平氏の駆け引きを大立廻りとともに見せる古典『源平布引滝 義賢最期』、ユーモラスな舞踊劇『芋掘長者』。第2部は、江戸の初芝居といえばコレ!の『寿曽我対面』に始まり、皿屋敷伝説をもとにした新歌舞伎の名作『番町皿屋敷』、花形俳優がオールキャストで華やかに見せる『乗合船惠方萬歳』。古典の名作あり、新歌舞伎あり、舞踊あり。若手のほとばしるエネルギーはもちろん、歌舞伎の豊かなバリエーションも感じられるラインナップとなっている。
開幕前に出演者が日替りで新年の挨拶をつとめる「お年玉〈年始ご挨拶〉」、地元浅草の芸者衆がお客様を出迎える「浅草総見」(1月11日の第2部)、「着物で歌舞伎」(1月20日の第2部)など、新春浅草歌舞伎ならではの楽しいイベントももちろん健在。
出演者は、尾上松也、中村歌昇、坂東巳之助、坂東新悟、中村種之助、中村隼人、中村橋之助、中村鶴松、中村梅丸といったフレッシュな若手花形歌舞伎俳優。そこに中村歌女之丞、大谷桂三、そして中村錦之助といったベテラン俳優が加わり、舞台に厚みを加えている。
開幕間もない時期に、稽古場にて期待の若手歌舞伎俳優の、中村鶴松と中村梅丸にインタビューを行った。鶴松の演じる役は『義賢最期』の御台葵御前、『芋掘長者』の腰元松葉、『番町皿屋敷』の腰元お仙、『乗合船惠方萬歳』の芸者。一方の梅丸は、『戻駕』の禿たより、『義賢最期』の待宵姫、『寿曽我対面』の化粧坂少将、『乗合船惠方萬歳』の子守。それぞれ、昼夜あわせて4役ずつ(!)と奮闘中の2人に、公演にかける思い、自身が演じる役のこと、新年の抱負などを語ってもらった。仲の良さが伝わるやり取りもあわせてお楽しみください!
昼夜で4演目
4役ずつの大役に挑む!
──「新春浅草歌舞伎」はそれぞれ何度目になりますか?
鶴松 僕、何度目なんだろう? 3年ぶりですね。最初が『一本刀土俵入』(2009年)です。お兄さん達(中村勘九郎・中村七之助)が色々な役に挑んで必死に頑張っている姿を見てきたので、そこに僕も加われるというのは非常に嬉しいです。
梅丸 僕は6年前だと思います。
鶴松 そこからずっと出演している?
梅丸 そうです。今回で7回目です。
鶴松 丸ちゃん(梅丸)ばっかり、僕、全然出してくれない(笑)。
梅丸 いやいや(笑)、それはほら他の劇場とか出てるから(笑)。
鶴松 直接「出してください」ってお願いしたんだけど(笑)。共演する事もあんまりなかったよね。
梅丸 そう。4年前に初めて浅草で共演して、それ以来ですね。
──昼夜でそれぞれ4役ずつですが、なかなか1日に4役というのはないのでは?
梅丸 しかも責任ある中での4役ですから、やはり重みが違いますね。
鶴松 どの役も1つ1つ大切ですが、『義賢最期』はやはり義太夫(狂言)ですし、歌舞伎俳優としてしっかり勉強していかなくてはいけません。僕は義太夫狂言は、歌舞伎俳優でありながらそんなに経験した事がないので、今回はありがたいですし、しっかりやらなければと思います。今は、世話物やコクーン歌舞伎・赤坂大歌舞伎などの新作が多く、古典をしっかり勉強する機会が限られてくるので。丸はしょっちゅうやってるよね?
梅丸 そうですね。義太夫狂言というのは「王道」で、それを皆さん若いうちに勉強されてきたわけで、そのチャンスを我々も頂ける事は、今後を考えてもすごく意味のある事だなと感じています。
──他の狂言と「ザ・古典」の義太夫狂言との最大の違いは?
鶴松 型にばかりとらわれ過ぎると心が見えませんし、かといって心を意識し過ぎて型が乱れてもいけません。リアルな心と型との兼ね合いが難しいですね。
──それぞれどなたに教わるのですか?
鶴松 僕は『義賢最期』は(市川)笑三郎さんに教わりました。
梅丸 『義賢最期』の待宵姫と、『対面』の少将は、以前もこの浅草でさせて頂いたのですが、待宵姫はその時中村壱太郎兄さんが小万をお勤めになっていたのですが、一緒にみてくださいました。少将は基本的には(中村)魁春旦那がみてくださいました。
──先輩に堂々と教わりにいける良い機会なんですね。
梅丸 そうですね。いくら教わりたくても、お役を頂かないとなかなか教わる機会はないですし、その教わる先生たちも毎月舞台がありますので。
鶴松 とくに僕は、中村屋となるとメンバーが決まっていますし、お兄さん達がやってきたお役を頂く事も多いので、そのままどちらかに教わる機会がほとんどで、もちろん教えていただく内容は正しいものなのですが、他の方に教わることで、色々な視野を持てるのはいいなと思っています。
舞踊から新作歌舞伎、
古典まで勉強できる場
──ほかの役についてはいかがですか?
鶴松 『芋掘長者』は以前、大名で出させて頂きました。楽しい舞踊です。今回は腰元なので下品にならないように上品に勤めたいと思います。『番町皿屋敷』の腰元お仙は、前に丸ちゃんがやっていた役で、昨日も聞いたりしていたのですが、こういう役も難しいよね。
梅丸 新歌舞伎ですからね。
鶴松 色々な役をやらせて頂いていて、それぞれ色が本当に違うので、細かいところでも役の違いを出せたらと思います。丸ちゃんは、わりと同じような役かな?
梅丸 そうですね。禿と子守はどちらも子どもの役で、どちらも常磐津ですが、舞踊としてのテイストは全然違います。『戻駕』は歌舞伎舞踊といわれる作品ですので、芝居の要素が高い古風な舞踊です。どこが面白いのか、どこに山場を持って行くか、作品を良く理解して踊らないとお客様に分かっていただけないと思います。それは (藤間)勘十郎先生も仰っておられるので、しっかりと勉強して踊らせて頂きます。各々の見せ場をどうするのか、まとまった時にどうなるのか、自分ではまだまだ見極めがつか
ず、古風だからこそ難しい踊りだと思います。「対面」もやはり古風な芝居で、基本が詰まった作品です。どなたが演じてもすることは閉じなのですが、座組によって舞台にのった時に違ってくるのが、 古典歌舞伎の面白いところであり、また、難しいところだと思います。最後の「乗合船」は総出演で、華やかに。
鶴松 僕は芸者はやった事がないんだよね。ある?
梅丸 芸者…うん、ある。ちょこっとだけ。
鶴松 芸者も初めてですし、(『義賢最期』の)御台様という役どころも初めてなので、まだ慣れなくて、戸惑いながらやっています。でも新しい役柄を勉強できるのは嬉しいですね。まさか葵御前をやるとは思っていなかった。
梅丸 そうだね。こんなに年の近い葵御前と待宵姫は今までにないんじゃないかな(笑)。僕も聞いた時、びっくりしました。
鶴松 (片岡)仁左衛門さんも来てくださって、色々細かいことを教えてくださっています。
お互いに刺激を受けながら
新春浅草歌舞伎で成長を!
──これまでの「新春浅草歌舞伎」で、とくに思い出に残っていることは?
鶴松 色々観ていますが、お兄さん(勘九郎)の『身替座禅』は覚えていますね。
梅丸 中村屋(十八代目中村勘三郎)さんが教えにきてた?
鶴松 そう。お兄さんに教えるために歌舞伎座から浅草に行くのに、僕も一緒について行って。
梅丸 そうなんだ。
鶴松 今回初めてポスターの9人の中に並ばせて頂いて、若い頃のお兄さん達と同じ立場になれたというのがありがたいなと。
梅丸 僕は忘れられないのは、1年目の時にも『対面』に少将で出させていただいたのですが、この舞台稽古がすごかったんです、客席が。
──ご指導の先輩方ですね。
梅丸 まずうちの旦那(梅玉)がいて、大和屋(十代目坂東三津五郎)さんが松也兄さんを教えに来て、出演者(坂東新吾、中村種之助、中村米吉)の父君達と指導した師匠達が一堂に会したので、まるで名題試験みたいな(笑)。
鶴松 それぞれの役の人が教えに来てというのは、浅草ならではだね。やる方は大変でしょうね。いくつで少将をやったの?
梅丸 16(歳)かな。
鶴松 すごいね。
梅丸 もう全然。ただ座ってるだけで精一杯でした(笑)。
──お互いのリスペクトできる点はどういうところですか?
鶴松 毎年「新春浅草歌舞伎」で勉強している分、自信をもってやっているよね。稽古を見ながらそう思った。やっぱり堂々としていたし、松也さんはじめ、皆さんがすごく自信をもってやっている。だからこそ大きく見えるんだなと。
梅丸 いや、僕もそれ言おうと思ってた。すごく自信をもっててすごいなと。それに自信があるのは当然ですけど、その中に一門のカラーが完全にあって、もちろん、そうじゃなければおかしいし、一門の事が好きでなければ絶対にそうならないのだけど。一門の方達と一緒の方向を見ているというか、エネルギッシュだよね、小さい頃から。
鶴松 あぁ、それはそうかもしれない。
梅丸 思い切ってやる感じがあって、お芝居を観てても、僕はここまで振り切れないやと思う事がある。
──鶴松さんはその自覚はありますか?
鶴松 いや、わかんないですけど。振り切りある?
梅丸 うん。僕だったらどうしても気にしちゃうところを、気にせずに、「ここは僕のしどころだからやってやる!」という感じでやれる。どうしても小さく綺麗にまとまってしまいがちなところだと思うのですが、それが全くない。大先輩の方達とフラットな感じで芝居しているのを観て、いつもすごい事だなと思います。
鶴松 では僕からも。丸はとにかく美少年です。本当に整ってるなと。
梅丸 何を言ってるんですか。ご自分だってどれだけ言われてるか(笑)。
鶴松 いやいや(笑)。
──最後に2019年の抱負を伺いたいのですが?
鶴松 2018年は学生を卒業して初めての1年の始まりだったのですが、毎月(公演に)出させて頂いてありがたかったです。本当に芝居漬けになってきているので、2019年もそうありたい。休みなく働いて、毎日毎日勉強したいと思っています。
梅丸 僕も3月には、一応もう大学生ではなくなるので…。
鶴松 含みがある言い方だね(笑)。
梅丸 こちら(鶴松)はちゃんと卒業されたんですけど(笑)。2018年は沢山の新しい事にチャレンジさせて頂きました。若手の皆さんと一緒に古典の勉強をする機会を頂いたり、大先輩達のお芝居に出して頂いたり、師匠(中村梅玉)と離れて出して頂く機会が多かった1年でした。2019年は、身につけたものが少しでも舞台で出していけるようになれたらと思っております。小さい頃から部屋子の1年上の先輩として、常に前を走っていっている鶴松さんを見ながら、これからも成長していきたいです。
鶴松 僕こそ稽古場で丸の事を見ていて、色々なところで勉強してきている分、僕が言ったら偉そうですけど、成長しているのが見えますし、僕ももっともっと頑張らなければいけないなと思っています。お互いに良い刺激を受けながら、この「新春浅草歌舞伎」で色々なことを身に着けられればと思っています。
〈公演情報〉
「新春浅草歌舞伎」
[第1部] 11:00~
お年玉〈年始ご挨拶〉
『戻駕色相肩』
『源平布引滝 義賢最期』
『芋掘長者』
[第2部] 15:00~
お年玉〈年始ご挨拶〉
『寿曽我対面』
『番町皿屋敷』
『乗合船惠方萬歳』
出演◇尾上松也 中村歌昇 坂東巳之助 坂東新悟 中村種之助 中村隼人 中村橋之助 中村鶴松 中村梅丸/中村歌女之丞 大谷桂三 中村錦之助
●1/2~26◎浅草公会堂
〈料金〉1等席9,000円 2等席6,000円 3等席3,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 0570-000-489
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/other/play/570
【取材・文・撮影/内河 文】
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