新作ミュージカル『怪人と探偵』怪人二十面相役に挑む!中川晃教インタビュー
日本に探偵小説の歴史を拓いた江戸川乱歩が生み出した、大怪盗・怪人二十面相と名探偵・明智小五郎。日本文学史上に燦然と輝く好敵手が華麗な対決を繰り広げる新作ミュージカル『怪人と探偵』が、9月14日~29日、KAAT神奈川芸術劇場で上演される(10月3日~6日、兵庫県立芸術センター 阪急中ホールでも上演)。
新作ミュージカル『怪人と探偵』は、日本を代表する作詞家であり、ミュージカル界でも顕著な活躍を示している森雪之丞が作・作詞・楽曲プロデュースを手掛け、その優れた演出力で常に高い評価を集め続ける白井晃が演出するオリジナル・ミュージカル。音楽にWEAVERの杉本雄治、テーマ曲に東京スカパラダイスオーケストラが揃い、江戸川乱歩独特のミステリアスな世界が、極上のエンターテインメントとして幕を開ける。
そんな作品で怪人二十面相を演じる中川晃教が、新たに生まれるオリジナル・ミュージカルと役柄への熱い想いと、明智小五郎を演じる加藤和樹、ヒロイン役で登場する大原櫻子ら、カンパニーへの信頼を語ってくれた。
オリジナル・ミュージカルを発信し続けなければいけない
──新作ミュージカル『怪人と探偵』ですが、まず作品に対しての印象はいかがですか?
色々なミュージカルがしのぎを削っている現在、この作品が上演されることにワクワクドキドキしています。僕は『SONG WRITERS』という、作詞・作曲家コンビを主人公に森雪之丞さんが書かれたミュージカルに、13年の初演と15年の再演に出演させて頂いているのですが、従来のクラシカルなミュージカルとは違い、日本のJ-POPの錚々たるメンバーが作曲したポップスやロックテイストな楽曲満載のミュージカルだったんです。その再演の際に雪之丞さんから、今回の『怪人と探偵』の構想を聞かせて頂きました。
僕は2002年にウィーン・ミュージカル『モーツァルト!』でミュージカルデビューをさせて頂きましたが、そこから2年間くらいの間に、宮本亜門さんが演出されたレナード・バーンスタインの『キャンディード』、「靴の中の小石」と評されたくらい難曲揃いの作品にも起用して頂いたり、一方で日本のオリジナル・ミュージカルでは島健さんの作曲で小池修一郎さんが『ロミオとジュリエット』を基に書かれた『PURE LOVE』や、劇団☆新感線さんが天草四郎を題材に創られたロック・ミュージカル『SHIROH』など、様々なテイストの作品に出させて頂いていたんです。
でもミュージカル界がものすごく盛り上がっているここ数年を振り返ると、意外にオリジナル・ミュージカルとのご縁があるようでなかったなと思っていて。その中で『SONG WRITERS』は僕にとってもとても大切なものでしたし、雪之丞さんがまた新しいオリジナル・ミュージカルを創りたいと言ってくださる情熱に応えたい!と、素直に思いました。やっぱり日本の「ミュージカル」というジャンルが発展していく為には、国産のオリジナル・ミュージカルを発信し続けなければいけないという想いが、僕の中に強くあるので、この作品が舞台に立ち現れる様を僕自身も楽しみにしています。
──確かにこれだけミュージカルに注目が集まっている時だからこそ、日本でなければ創れない作品の創造は大切になってくると思いますが、その意味でもこの『怪人と探偵』というのは、素晴らしい題材に着目したと感じます。
そうですよね! 特に雪之丞さんは子供の頃に図書館にあった江戸川乱歩の「怪人二十面相」や、少年探偵シリーズを読み漁って夢中になられていたそうです。ただ、そこにちょっとジェネレーション・ギャップがあって(笑)、僕らの世代でももちろん読書好きの少年・少女は読んでいたと思いますが、僕はあまりそのタイプではなく(笑)、正直「怪人二十面相」と言われてすぐにイメージが浮かぶという状態ではなかったんです。でも、作者の江戸川乱歩その人を追ったドキュメンタリー作品を観た覚えはあって、エドガー・アラン・ポーから発想して「江戸川乱歩」という筆名をつけた作者の、どこか僕にとっては不可思議で、ミステリアスなものがすごく良いなと思いました。
実際に作品は昭和34年の東京が舞台ですが、高度成長期に向かう、とにかく欧米に追い付こうと頑張っていた日本の人たちの正義の裏に、何の為に頑張っているのか?の「何」が見えなくて心がすさんでいく、というようなものも感じられるんですね。そこに、江戸川乱歩の小説というだけではなくて、描かれている時代とも重なっている感覚がありました。端的に言うと僕はカラーテレビが当たり前にある時代に生まれましたが、日本のテレビがモノクロだった時代の空気をこの作品が醸し出しいて、この時代から自分が産まれた時代、そして現代へと続いていく、「令和」になった今「昭和」の匂いを感じる、歴史も追体験できる作品になっていると思います。
「きっとそれは愛なんじゃないか」にたどり着く
──そんな世界観の中で、はじめはパッとイメージが結ばなかったとおっしゃった「怪人二十面相」役を演じることについてはどうですか?
怪人二十面相ってこの物語の中では「盗めないものはない」と思われているんです。名探偵・明智小五郎にも、世間にもすでにそう信じられている大怪盗で。その名声に酔っている中で、怪人二十面相が恋をした。しかも彼が愛を知ったが故に、追う者と追われる者だった名探偵・明智小五郎との関係性の中に、恋のライバルであるという新たな面が浮上してくるのが、この作品のすごく面白いところだと思います。明智小五郎の守っている規範は、世間の常識の中での規範、常識の中での正義なのですが、そこが時代性を映してもいて、「何が悪で何が正義なのか?」という価値観が、戦後の日本はほとんど逆転してもいるので、その揺らぎの中で明智小五郎も疲弊しているんだな、と。そういう世界の中で、怪人二十面相と明智小五郎が対峙していることで、物事が色々な見え方をするし、その対立軸に愛を置いて二人が拮抗していくのが、今回の作品の新しい解釈でとても面白いですね。だからこそ二十面相と明智も今の社会に置き換えて考えることができるんです。もちろん二十面相は謎めいたところ、超越したものは持っているけれども、極普通に人を愛する人間でもあるというところが、演じていく上でのポイントだと思っています。
さっきジェネレーション・ギャップと言いましたけれど、僕たちから更に下の世代って「愛」という言葉にすごく敏感で。『天気の子』等もまさにそうなんだけど、今の時代を生きていく中で様々なことがあっても「でも僕はまだ大切なものは失っていないはずだ」「僕は人間だ」「僕にだってできることがあるんじゃないか」「僕たちが今気づくべきことはなんなのだろう」と二周、三周めぐっていった後に「きっとそれは愛なんじゃないか」にたどり着く。そんな今の時代の「愛」が音楽や、作品を通して届けられていっている。この作品も答えのない世界で「愛」を見つけたが故に、二十面相はどうするか?明智はどうするか?が描かれているので、時代背景は昭和34年でも、今の若い世代の人たちにも、とても近くに感じて頂ける物語になっていると思います。しかも東京スカパラダイスオーケストラによるテーマ音楽も、杉本雄治さんのミュージカル・ナンバーも、良い意味でミュージカルっぽくない楽曲でとてもPOPなので、ミュージカルがはじめての方にも観て頂きやすい、新しいミュージカル作品が生まれるという手応えがありますね。
皆が主役です!と言いたい強力なカンパニー
──二十面相の好敵手となる明智小五郎を演じる加藤和樹さんについてはいかがですか?
彼は今非常に多岐に渡る作品に出演しながら、音楽もしっかりやり続けている。その活動が僕にとってはミュージカルシーンの中で同志のような、もっと言うと自分の分身かのようなシンパシーを感じています。お互いが持っている資質は違うと思うのですが、とても愛すべき俳優である加藤さんと、明智小五郎と怪人二十面相という、相手役と言ってもよい関係性で対峙できるのが嬉しいです。『怪人と探偵』というタイトルからすれば、僕が怪人で加藤さんが探偵ですが、明智小五郎という名探偵の中には多分に怪人的な要素があるし、二人で一人の人間の表と裏、光と影を表現していくようにも思えて。そこから「あなたにとって、わたしにとって、もっとも大切なものはなんなのか?」というクライマックスに集約されていくので、その物語に向かっていく為の最高のパートナーですね。加藤君自身がしっかりしていて、包容力があって、真面目で、何よりもとてもピュアで素敵な人なので、僕も彼からたくさんのパワーをもらっているし、教わることも多い存在です。
──また、大原櫻子さんをはじめは共演者の方々も多彩ですね。
櫻子ちゃんは初共演なのですが、一緒に歌っていてものすごく歌が上手いのがわかります。彼女も音楽をやっている人で音楽の表現力に長けているという印象だったのですが、一緒にやってみて芝居の表現力がすごくある方だ!とわかって。話してみたら、音楽はあまりに好きなもの過ぎて仕事にするというイメージがわかなかったのだけれど、子供の頃からご両親に連れられて生の舞台を観ていて、芝居をしたい、女優になりたいという気持ちが根底にあったそうです。そういう彼女が、映画に主演すると同時にCDデビューをするという形でこの世界に入ってきた。音楽と芝居の両方をとても大切にしている方だということを知れば知るほど、今、共演できることに必然を感じます。しかもカンパニーの方達、水田航生さん、フランク莉奈さん、今拓哉さん、樹里咲穂さん、高橋由美子さん、六角精児さんと、もう誰が主役とも言えない、この座組全員が主役です!と言いたいほどの強力なメンバーが揃っているので、皆さんに期待して頂きたいです。
──新たな作品への期待が高まりますが、では改めて意気込みと、楽しみにしている方達にメッセージをお願いします。
怪人二十面相を演じると決まった時に、俳優として色々な顔を演じられるんだ!ということに触発されたところが大きくありました。この役の中には僕がこれまで経験してきたものだけではなくて、全く未体験のものも多く詰まっているので、それはひとつの見どころとして楽しみにして頂きたいです。更にミュージカルですので、音楽で役と作品を表現していきますから、今海外の作品を含めてたくさんのエンターテインメントがあふれている中で、確固たるオリジナル・ミュージカルとしてこの作品を立ち上げられるかどうかが勝負です。「怪人二十面相VS明智小五郎」という日本発のミュージカルならではの題材を完成させる為に、音楽や歌も含めた僕のすべてを注ぎ込んでいきます。雪之丞さんも、演出の白井晃さんも「スタイリッシュでカッコいい舞台になる!」とおっしゃっていますし、江戸川乱歩独特のトリック、答えを導き出す複雑な道筋、謎の世界を体感しに、是非劇場にいらして下さい!お待ちしています!
なかがわあきのり○宮城県出身。01年自身の作詞作曲による「I WILL GET YOUR KISS」でデビュー。02年日本初演のミュージカル『モーツァルト!』の主役に抜擢され、初舞台にして第57回文化庁芸術祭演劇部門新人賞、第10回読売演劇大賞優秀男優賞、杉村春子賞を受賞。以後音楽活動と共に数々のミュージカル、ストレートプレイに出演。近年の主な舞台・ミュージカル出演作品に『SONG WRITERS』『HEADS UP!』『ジャージー・ボーイズ』『サムシング・ロッテン!』「『銀河鉄道999』~さよならメーテル、僕の永遠」等がある。2016年のミュージカル『ジャージー・ボーイズ』にて、第24回読売演劇大賞最優秀男優賞、第42回菊田一夫演劇賞受賞。2020年1月ミュージカル『フランケンシュタイン』への出演が控えている。
【公演データ】
新作ミュージカル『怪人と探偵』
原作◇江戸川乱歩
作・作詞・楽曲プロデュース◇森雪之丞
テーマ音楽◇東京スカパラダイスオーケストラ
作曲◇杉本雄治(WEAVER)
音楽監督◇島健
演出◇白井晃
出演◇中川晃教 加藤和樹 大原櫻子
水田航生 フランク莉奈 今拓哉 樹里咲穂 高橋由美子 六角精児 ほか
●9/14~29◎KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉
〈料金〉S席12,000円 A席8,000円
〈お問い合わせ〉パルコステージ 03-3477-5858(月~土11時~19時、日・祝11時~15時)
〈公式ホームページ〉 https://stage.parco.jp/web/play/kaijintotantei/
●10/3~6◎兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
〈料金〉12,000円
〈お問い合わせ〉芸術文化センターチケットオフィス 0798-68-0255(10時~17時、月曜休み・祝日の場合翌日)
【取材・文/橘涼香 撮影/友澤綾乃】
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