殺人事件をテーマに坂本昌行と海宝直人が躍動するミュージカル『MURDER for Two マーダー・フォー・トゥー』上演中!
二人の役者が合計13人のキャラクターを演じ分け、全編生ピアノで展開される捧腹絶倒のオフ・ブロードウェイ・ミュージカル『MURDER for Two マーダー・フォー・トゥー』が、東京渋谷の Bunkamuraシアターコクーンで上演中だ(23日まで。のち、26日~2月1日大阪・森ノ宮ピロティホール、2月8日~9日仙台・仙台電力ホール、2月12日~13日松本・キッセイ文化ホール 長野県松本文化会館 大ホールにて上演)
2013年にオフ・ブロードウェイのニュー・ワールド・シアターで上演されたこの作品は、ニューヨーク・タイムズ紙に絶賛されるなど大評判を呼び、2016年に東京・大阪にて日本初演。二人のキャストが13役を演じ、同時にピアノの弾き語りも披露する今までにないミュージカルスタイルが大きな話題を呼び、第24回読売演劇大賞にて優秀男優賞及び優秀スタッフ賞を受賞した。そんな作品の6年ぶりの再演となる今回は、初演時に第24回読売演劇大賞優秀男優賞を受賞した坂本昌行の続投に、今最も勢いのあるミュージカルスターの一人海宝直人との新たなコンビによる上演となった。
【STORY】
ニューイングランド地方にある人里離れた邸宅。偉大なアメリカ人作家アーサー・ホイットニーが、自らのバースデーパーティーの席で、何者かが放った拳銃によって殺された。現場から1時間と、最も近い町にいた警察官マーカス(海宝直人)は、寡黙な相棒のルーを引き連れ現場に向かう。だがマーカスの前には、アーサーの妻で有名女優のダーリア(坂本昌行)をはじめ、第一容疑者と目されているプリマドンナのバレット(坂本)、馴れ馴れしい態度で接してくる精神科医のグリフ(坂本)ら、パーティに招かれたくせ者揃いの容疑者たちが立ちはだかる。ベテラン刑事が到着するまでの限られた時間の中で、果たしてマーカスは真犯人を突き止めることができるのか!?そして真犯人は見事マーカスから逃げおおせるのか!?
人里離れた邸宅で殺人事件が起き、現場に居合わせた全ての人々が容疑者となるなか、警察が到着するまでの間に探偵(この作品の場合は、刑事になる夢を持っている警察官)が事件を解決しようとする。これは本格ミステリーの一ジャンルである「クローズ・ド・サークルもの」と呼ばれる形式で、『MURDER for Two マーダー・フォー・トゥー』はその定型を踏襲して作られているミュージカルだ。だが、ステージの中心に据えられたグランドピアノが一番に目に入るほどシンプルな舞台面で、全ての登場人物をたった二人の役者で演じようというアイディアが、このミュージカルを大定番の設定を用いながらなお、全く独自の個性を持った作品へと押し上げた。実際、ピアノの生演奏からはじまる休憩なし1時間50分の舞台で、その演奏も自ら担う二人の役者が数々の役柄を瞬時にして演じ分けていくための、極めてアナログな創意工夫の数々は、人が目の前で演じているからこその、演劇だけが持つ輝きに満ちて飽きさせない。これはどんな特殊効果も可能になった、あらゆることができてしまう映像では逆に生み出せない醍醐味で、作品の全てから演劇を見る喜びがあふれ出てくる。その分キャストにかかる負担には、想像を絶するほど大きなものがあるが、舞台をところ狭しと駆け回りながらその困難をやりこなしていく、2人の役者の力量が素晴らしい。
初演からの続投となった坂本昌行は、この作品で大きな評価を得たのも当然と思える、縦横無尽な大活躍で魅了する。邸宅に居合わせた容疑者たち、老若男女合わせて10人を一手に担うだけに、各役どころでめがねをかける、前髪をあげる、ツバのある帽子のかぶり替えるなど、極々些細なビジュアルの変化しかつけられないにも関わらず、例えば顔の向きを変えただけで、夫婦げんかの会話の夫と妻が入れ替わったことがちゃんとわかる離れ業を、次々と披露してくれるのにはただただ感嘆させられる。役柄のなかにプリマ・バレリーナもいることからダンスシーンも自然に展開されている上に、そのダンスも美しさだけでなくコミカルにも自在に持っていける力量が作品の彩りをより豊かにした。坂本がどこで役柄をスイッチしていくのかを確かめる為だけにでも、もう一度観劇したいと思わせる、盤石の演じぶりが見事だった。
一方、刑事になりたいとの夢を持ち、この事件に遭遇したことを自身の能力を示す最大のチャンスと捉える警察官・マーカスを中心に、マーカスの上司と、元恋人を演じる海宝直人は、グランドミュージカルで常に感じさせてきた、この世代では頭ひとつ抜けている鉄壁の歌唱力をむしろ意識させず、ある意味トリッキーな作品のなかで奮闘している姿を前面に出したのが理にかなっている。どこか生真面目な雰囲気を持つ海宝だからこそ、刑事になろうという野心を持つマーカスの立ち回り方に嫌みがない上、プリマ・バレリーナのバレットに心をときめかせる心の機微も微笑ましい。何より、変幻自在の坂本の投げる球を全て受け止めてまた打ち返していく誠実な姿が、この2人のコンビ独特の『MURDER for Two マーダー・フォー・トゥー』を生み出していて、新たな再演の妙味を深めた。
総じて殺人事件を扱いながらウェットさとは無縁に推理を楽しむミステリーの要素と、人が奮闘して妙技を見せてくれる2人ミュージカルの楽しさとが見事に合体した舞台になっていて、その合わせ技を大いに楽しみながら、あっと驚く終幕も待っているという、観劇の喜びに満ちた、初春のお年玉感満載の舞台だった。
また初日を前に開幕直前取材会も開かれ、大熱演を披露したばかりの坂本と海宝が登壇。感染拡大が収まらない状況のなかで、初日が迎えられる喜びと期待を語った。
その中で、お互いの魅力に関する質問があり、坂本は「海宝くんはとにかくクレバーなんです。(僕が)適当なことをやったとしてもすぐに反応してフォローしてくれるので、僕は舞台上では自由にやらせてもらっているので頼もしいです。初演では演出家から「毎回変えていいよ」と言われていたとあるキャラクターがあったのですが、初演の時には僕のキャパシティが追いつかず、一回も変えずないままでしたが、今回は稽古場から結構変えていました。それくらいに自由にやらせてもらったので、本当に感謝しています」
と、海宝への信頼を語ると海宝は「坂本さんは演劇に対して、そしてこの作品に対して、すごくストイックな方です。最後まで稽古場に残って、ピアノはもちろん自分の動きや色々なことを追求されていて。僕は今回から新しく入らせていただきましたが、その姿に接して足を引っ張るわけにはいかないと思い、坂本さんの背中を見ながら必死に頑張ってきました」との表現で、経験者の坂本へのリスペクトを語った。
また出ずっぱりの2人芝居、まして何役もを務める坂本に対して、通常の舞台より疲労度も激しいのではないか?と質問が飛んだが、坂本は「体力的にはどの作品も同じですが、やはり脳の回転は他にないくらですね。ピアノをブラインドタッチ(鍵盤を見ないでピアノを弾くこと)で弾きながら、お芝居して歌いながらなのでそこは神経を使います」と答えたのに対して、その坂本のブラインドタッチが如何に完璧かを、海宝がマイムで示すなど、2人の関係性の良さが随所に感じられた。そんな和気藹々とした雰囲気から、2人がここまで息を合わせるために、特別なことをしたのかとの問いに、海宝は「稽古を終えた後も、その日の稽古や次の日の部分を一緒に残って練習するなど、とてもいい時間を過ごさせてもらいました」と語ると、坂本が「稽古終わりになんとなく復習をやってみようかとはじめて、予習もとなっていって」海宝「その流れで半分以上通し稽古になったことがありましたね」との会話に更に大きな笑いが広がった。
最後に2人からメッセージが寄せられ、「今の大変な状況を忘れて、笑って楽しんで帰っていただける作品になっていると思います。そのために僕たちは必死で演じますので、楽しみにしていただけたらと思います」(海宝)「僕らはエンターテインメントのパワーを皆さんにお届けして、日本中、世界中を笑顔にできたらと思っています」(坂本)との力強い宣言に、この時期だからこそのエンターティメントの力を2人が信じ、この作品にその信念をこめていることがたくまずして伝わる、心地よい時間になっていた。
【公演情報】
オフ・ブロードウェイ・ミュージカル『MURDER for Two マーダー・フォー・トゥー』
作:KELLEN BLAIR
音楽:JOE KINOSIAN
演出:SCOTT SCHWARTZ & J.SCOTT LAPP
出演:坂本昌行 海宝直人
●1/8~23◎Bunkamuraシアターコクーン
〈料金〉S席11,000円 A席9,000円 コクーンシート5,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉チケットスぺース03-3234-9999(平日 11:00~14:00 ※営業時間変更の可能性あり)
●1/26~2/1◎森ノ宮ピロティホール
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーション:0570-200-888(月~土 11:00~16:00 ※日祝休業)
●2/8・9◎仙台電力ホール
〈お問い合わせ〉ニイタカPlus 022-380-8251(平日11:00~15:00)
●2/12・13◎キッセイ文化ホール 長野県松本文化会館 大ホール
〈お問い合わせ〉サンライズプロモーション北陸 025-246-3939 (火~金 12時~16時、土曜 10時~15時)
〈公演HP〉https://www.murderfortwo.jp/
【取材・文・撮影/橘涼香】
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