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「人はいつからでも変われる」ミュージカル『SUNNY』上演中!

大ヒット映画が80年代 J-POPSに乗せてミュージカルとして生まれ出たミュージカル『SUNNY』が、6月26日~7月5日までの東京建物 Brillia HALL公演を大盛況のうちに打ち上げ、7月9日~13日には大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演される。

ミュージカル『SUNNY』は、2011年に韓国で公開され観客動員740万人の大ヒットを記録した、カン・チョンヒル監督による「サニー 永遠の仲間たち」を原作に、世界初のミュージカル化を果たした作品。青春時代に強い絆で結ばれていた高校生たちが、30年の時を経て再会し、それぞれの人生、生活の違いを超えて永遠の友情を再び結んでいく様を、幅広いジャンルで活躍する西田征史の脚本・演出のもと、80年代 J-POPSで紡ぐジュークボックスミュージカルとなっている。

【STORY】
一家の主婦として平穏に過ごしている奈美(花總まり)は、その一方で、出張の多い夫の和弘(片桐仁)との気持ちのすれ違いや、反抗期の娘・愛莉(寺田彩乃)とのままならないコミュニケーションに悩み、家庭内での自分の存在価値に満たされないものを感じていた。
そんなある日、入院している母を見舞った病院で、高校時代に「SUNNY」と名乗っていたグループのリーダー千夏(瀬奈じゅん)と再会。偶然の邂逅に喜んだのも束の間、千夏が余命僅かと宣告された大病を患っていることを打ち明けられる。もう一度「SUNNY」の仲間たちに会いたいと願う千夏。奈美の胸にも青森から転校してきたばかりで、方言をバカにされていた自分をグループに加えてくれた千夏がいたからこそ「SUNNY」の一員として過ごせた眩しい青春時代と、ある事情から卒業後バラバラになってしまった「SUNNY」のメンバー、快活で気さくな桜(馬場園梓)、可愛い顔で口の悪いみどり(小林綾子)、おっとりして優しい好恵(佐藤仁美)、アイドルとしてデビューが決まっていた芽衣子(伊藤友惠)の思い出が蘇る。
千夏にもう一度「SUNNY」のメンバーを会わせたい。そう強く願った奈美は、最初に連絡が取れた桜の発案で、探偵事務所を訪ねかつてのメンバーたちを探し始めるが……。

「冬ソナ」現象とまで呼ばれた、2002年製作の韓国ドラマ「冬のソナタ」の爆発的ヒット以降、日本でも一過性のブームを遥かに超えてひとつのジャンルとして定着している韓国ドラマのなかで、非常に印象深いひとつが女性同士の友情が真っすぐに描かれていることだった。波乱万丈の人生や恋に翻弄されるヒロインは、しばしば窮地に陥ったり、心ならずも他者の信頼に背いたりする結果になることがままある。けれどもそれがどんなシチュエーションでも、客観的には確かにヒロインの行動に非難されても仕方のないものがあっても、あくまでも彼女の味方であり続ける親友が、必ずと言っていいほど韓国ドラマのなかには登場してくるのだ。それは、もちろんそんな設定ばかりではないものの、日本で作られるドラマやコミック作品のなかで、ヒロインの一番の味方だと思われていた親友の女性が、実は事件の黒幕だったり、密かにヒロインを誹謗中傷していたり、というパターンが往々にして見られていたのとは異なる新鮮さだった。つまるところ、そんな親友の存在が高確率で描かれているのは、それが現実なのか、理想だからこそドラマに登場してくるのかは寡聞にしてわからなかったが、その設定の温かさが常にドラマに夢を加味してくれているのは確かで、様々な作品から美しさが感じられたものだ。

そうした夢や美しさが全編に詰まっているのが、今回、初めてミュージカル化された『SUNNY』だった。強い友情を育んだ6人の高校生女子が、ある事情から卒業後連絡を取り合えなくなり、音信が途絶えた30年を経て集まってくる。当然ながらそれぞれの置かれている環境も、経済状態もまるで違ってしまっていて、高校時代のそれとは激変を遂げている者もいる。青春時代の思い出が美しいからこそ、会いたくない、いまの暮らしに触れて欲しくないという思いも生まれて当然だろう。けれどもこの作品のなかで、仲間探しに奔走する奈美と、傷ついた仲間がいるなら、必ず寄り添うと誓っていたリーダーの千夏を中心に、止まっていた時計が動き出し、彼女たちは長い空白の時間と現実を超えて、再びかけがえのない友情を取り戻していく。そのキーワードが「人はいつからでも変われる」。この大人になればなるほど、信じるのが難しくなる希望が、いつか静かに胸に落ちてくる。それが、これから何にでもなれる、無限の可能性が煌めいていた高校生時代を、現在の彼女たちがただ眩しい哀惜を持って振り返るだけに終わらない作品の前向きなカラーを生んでいて、観ている側にも人生の応援歌に等しいパワーを届けてくれる。二階建ての美術(伊藤雅子)を使い、高校生時代と現在とが行き来する物語を、奇をてらわずにシンプルに表現した西田征史の演出が、80年代 J-POPSのメロディをふんだんに盛り込んだ作品世界によく合っていて、病室の窓のブラインドから差し込む幾筋もの光を表した佐藤啓の照明や、時空を飛ばす横山翼の映像など、さりげなく緻密に計算されているスタッフワークも舞台の精度を高めた。

そんななかで、ドラマを動かしていく奈美の花總まりが、ほぼ出ずっぱりの舞台で躍動している。金銭的に恵まれた専業主婦のどこかおっとりした部分と、だからこその怖いもの知らずの勢いが花總の個性にピッタリで、あっと驚く初登場シーンは独壇場の趣。コメディー作品にも果敢に取り組んできている近年の仕事が、奈美役に良い作用をもたらしているのだろう。得意だったカラオケを突然歌いだす場の可笑しみなども支えて、ひたむきな一生懸命さと共に物語の核になっていた。

「SUNNY」のリーダー千夏の瀬奈じゅんは、余命僅かという設定から病室のシーンが極めて多いが、それでもやる時はやる!の颯爽としたたたずまいが瀬奈あってこそで、純粋にカッコいいなと思わせる芝居で場面を浚っていく。懐かしい80年代 J-POPSの数々は、劇中の登場人物が実際に歌っている「音楽劇」の作りで登場することが多い中で、瀬奈がソロで歌う楽曲は純粋にミュージカルナンバーとして使用されていて、いずれも大ヒット曲だけに難しさも多かったと思うが、きちんと千夏の心情として聞かせたのもさすがだった。

「SUNNY」の仲間たちみどりの小林綾子は、所謂セレブの暮らしをしていても、必ずしも幸せではないというみどりの心情を、きちんと表して持ち前の演技巧者ぶりを発揮して頼もしい限り。桜の馬場園梓は、明るくざっくばらんな性格でメンバーに愛されているからこそ、本音を言ってしまっても許されるキャラクター造形に真実味がある。好恵の佐藤仁美は、高校生時代に描いていた夢と、遠く離れた暮らしをしている荒んだ雰囲気をきちんと見せるからこそ、仲間との再会で変化してく好江を応援したい気持ちにさせられた。

また、この作品は高校時代のパートが大きなウエイトを占めていて、高校時代の奈美の渡邉美穂が、青森から出てきたばかりで、全てにテンポが合わない奈美の焦りや、純粋な恋心をストレートに表現。同じく高校時代の千夏の須藤茉麻は、「SUNNY」のエンジンとしての自覚と度量の大きさを堂々と演じ、長じた瀬奈とのシンクロ率も高くストーリーを円滑に運ぶ役割も果たしている。他のメンバーの高校時代を演じるみどりの川村咲季は、言葉遣いは荒いが友情に厚いみどりの心根をよく見せたし、桜の横岡沙季も天真爛漫な明るさが大人の桜に綺麗につながった。逆に境遇が激変している佳恵の古沢朋恵は、少女らしい夢いっぱいの演技を前面に出したのが物語世界の展開をスムーズにする効果になっている。ミステリアスで、アイドルとしてデビューが決まっている芽衣子の伊藤友惠の、美少女だからこその懊悩に説得力があり、大人びた芝居が終幕の展開につながる「こう来たか!」感も印象的だった。

他にも「SUNNY」と対立するグループのリーダー美樹の伊藤彩夏が、大きな意味のある役柄を体当たりで演じたし、奈美の反抗期の娘・愛莉の寺田彩乃が、親にだからこそ言えない悩みの屈折をよく表現。池田晴香、飯沼帆乃佳、菊田万琴、浅倉智尋も、それぞれの持ち場で活躍。ダンスシーンもダイナミックだった。

一方大人キャストでも、奈美の母、高校教師などを演じ分ける鈴樹志保が、いくつもの役柄を印象的に見せているし、奈美が淡い恋心を抱く宗田の井阪郁巳の、目の覚めるような二枚目ぶりが憧れの人にピッタリ。現代の出番にも注目して欲しい。

そして、これは韓国ミュージカルの「マルチマン」を彷彿とさせる片桐仁が、数々の役柄を演じ分けて八面六臂の大活躍。マルチマンと異なるのは、早替りそのものの面白さを追求した役柄がほとんどないことで、どれも作品に必要な役を猛スピードで演じ分ける片桐の自力が作品を支えていた。

全体に、ベタと言われてしまう部分も多いだろう展開を、敢えて直球勝負で投げてきた潔さを感じる作品になっていて、1幕、2幕それぞれの鮮やかなラストと共に、人生の応援歌と言える作風にパワーをもらえる舞台だった。

【公演情報】
ミュージカル『SUNNY』
脚本・演出:西田征史
振付:akane
出演:花總まり 瀬奈じゅん 小林綾子 馬場園梓 佐藤仁美
渡邉美穂 須藤茉麻
片桐仁
川村咲季 横岡沙季 古沢朋恵 伊藤友惠 伊藤彩夏 池田晴香 飯沼帆乃佳 菊田万琴 浅倉智尋 鈴樹志保 井阪郁巳 寺田彩乃
●6/26~7/5◎東京・東京建物 Brillia HALL(豊島区立芸術文化劇場)
●7/9~13◎大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティ
〈料金〉12,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉梅田芸術劇場 06-6377-3888(10:00~18:00)
〈公式サイト〉https://www.umegei.com/sunny/

 

【取材・文/橘涼香 『SUNNY』舞台写真撮影/岸隆子(Studio Elenish)】

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