三田誠による小説のが舞台化「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿」松下優也インタビュー
主人公、ロード・エルメロイⅡ世役を松下優也が演じる。ミュージカルからストレートプレイ、映像作品までジャンルレスに活躍する松下だが、ミュージカル「黒執事」など2.5次元舞台でも代表作を残している。原作という存在とどう対峙し、彼は役を生きているのか。俳優のみならず、音楽活動にも積極的に取り組む中で、どうやって自らを磨き続けているのか。
その問いに対する真摯な答えに、様々なステージで松下優也が求められている理由を見た気がした。
男性像としてはあまりいないタイプ
──キービジュアルを拝見しましたが、見事な再現度でした。
人間ってやっぱり格好から気持ちが入るところってあるなと思っていて。ビジュアル撮影のときも原作そのままといった衣裳を用意していただいたおかげで、すっとスイッチが入りましたね。
──松下さんの目から見て、こだわりを感じたところはありますか?
前髪のあの束感とかすごくいいですよね。あとはグローブと袖の間に少しだけ手首が見えるんですけど、あそこはすごく衣裳さんもこだわっていました。ファンの方にとってはそういうディティールが大事。ほんのちょっとした違いで、一気に受け入れられなくなる。ビジュアルを見たときに、「本物のロード・エルメロイⅡ世だ」と言っていただけるよう、僕も葉巻の持ち方とか、細かいところに気をつけました。
──ロード・エルメロイⅡ世の好きなところを教えてください。
ビジュアルだけ見るとものすごく完璧なキャラクターに思えるんですけど、実際は人間味に溢れていて男臭い。ちょいワル親父感が漂う感じがいいですね。こういった作品に出てくる男性像としてはあまりいないタイプの気がして。そこが面白いなと思いました。
──松下さんと似ている部分はありますか?
正直あんまり似ているとは思わないですね。でもその分、つくりがいがあるんじゃないかなと。
──自分と距離のある役をどのようにものにしていくのでしょう?
役と一緒にその世界に飛び込むことで、自分が潜在的に持っている引き出しを役に開けてもらうような感覚なんです。こう話すと他力本願に聞こえますけど、ある意味まさに他力本願でやることが重要だと思っていて。そうやって役に委ねることで、自分先行じゃない表現が生まれてくる。それがお芝居をやっていて楽しい瞬間のひとつなんです。
──じゃあ、稽古に入るときはわりとフラットなことが多い?
そうですね。ただ、今回のように原作がある場合はまた別で。原作は、ある種の答え。声とか表情とか仕草とか、そういう表面的な部分は出来る限り近づけるようにします。その上で、どうやってその表面的な部分にリアリティをプラスできるかが、稽古で僕らがやるべきこと。原作という答えに辿り着くための式をきちんとつくることが今回のような作品では重要かなと思います。
──「2.5次元」という名が広まる前から松下さんはこうした原作モノの舞台に挑戦してきました。原作に「寄せる」作業はその頃から意識していましたか?
ミュージカル「黒執事」の頃は特に意識していました。やっぱりどれだけお芝居がよくても、原作ファンのみなさんから見て原作の世界観が壊れるものだったとしたら、それはその方たちにとってはアウトなんです。こうして舞台にできるのは原作をずっと応援してくれる方たちのおかげ。だから2.5次元に関しては、「俺はこう演じたい」という自分の欲や「芝居とは」という固い考えは捨てて、まずは原作に近づくこと。ちゃんと役を生きなくちゃ、舞台の上で演じる意味はない。僕も時々その役になりきっていると感じられる瞬間があって。それは、ストレートプレイでもミュージカルでも2.5次元でも変わらないです。今回も、ロード・エルメロイⅡ世になりきれたと思えるところまで、しっかり世界観をつくっていきたいですね。
──ロード・エルメロイⅡ世はビデオゲームが好きという設定ですが、松下さん自身はどうですか?
僕も好きなんですけど、どちらかと言うとゲーム実況を見る方が好きです。小さい頃から、自分がプレイするより友達がやっているのを横で見る方が楽しかったんですよ。その性格は今も変わらなくて。FPSとか、ああいうゲームはやるより見ている方が面白い。自分はそんなにテクニックがあるわけじゃないから、やっててもすぐ死んじゃうんです(笑)。だから、うまい人がやっている動画を見て、ストーリーを楽しんでいます。
──本作は魔術ミステリーですが、推理は得意ですか?
全然得意じゃないですけど、でも犯人は誰かとか考えるのは好きですよ。今回の作品は、そういう意味でもすごくお客さんが入り込める作品だと思うんですよね。生の舞台でやることで、その面白さをさらに膨らませられたら。
1日1歩でも進めれば1年で365歩分成長できる
──今作は「音楽劇」と銘打っています。
まだどうなるのかまったく聞いていないのですが、楽しみですね。きっとミュージカルとはまた違うものになるだろうし。ロード・エルメロイⅡ世が歌う、ということを大事にできたらと今のところは考えています。
──松下さんはお芝居に歌にダンスに本当に多彩なジャンルで活躍中です。忙しい中で、どうやってスキルを磨く時間をつくっているんですか?
そこは真面目にやるしかないですよね。この仕事をやっている限り、ステージでは完璧なものを見せたいという気持ちはあります。でも、人間のやることですから、完璧なんてものはない。少なくとも僕にとって完璧だと思える瞬間って、死ぬまで一生訪れない気がしているんです。その上で僕のやるべきことは、常に前進を心がけることだけ。一気に全部を改善するなんて不可能ですからね。今日はこれをやろうって小さな目標を立てて、毎日積み重ねていくしかない。そうやって1日1歩ずつでも進んでいければ、1年で365歩分成長できる。自分を磨くために必要なことって、そういうことなんじゃないかなと思います。
──今もレッスンを受けたり?
レッスンよりは、とにかくインプットを大事にしています。こういうふうに踊りたいとか、こんなラップができるようになりたいっていう人の動画を見て、ひたすら自分で繰り返したり。
──憧れに追いつきたい気持ちが原動力に?
追いつきたい気持ちはありますけど、でも自分に合うスタイルって人それぞれだから。最後に大事になってくるのは、自分とは何かを探し続けることなんじゃないかな。僕は俳優もアーティストであるべきだと思っています。そのためには、役だけじゃなく、自分の生き様を通して見ている人たちに何かを伝え続けることが大切。この世にはたくさんの俳優がいて、別に僕がいなくたって十分成り立つ世界。だからこそ、じゃあ自分は何をするんだ、何をするべきなんだって問いかけを忘れないようにしています。
──今思う、松下さんの「自分だからできること」を聞かせてください。
こういう人がいるから、自分も頑張りたいと思える相手って、みんないると思うんですね。僕も今年で29歳になって、今回のように年下の子たちとやる機会も増えてきた。だからこそ、下の子たちが僕のことを見て、頑張りたいと思ってもらえる人間になることを、これからは意識していきたいと思っています。あとは、僕自身、昔から反骨精神の塊みたいなところがあるので。何でも忖度したり空気を読んだりする今の時代の流れに対する反発心は正直ある。来年は2020年ですしね。変化の時代だからこそ、そういう空気を打ち破る何かをやっていきたいなと。後々、誰かを見て「俺もああいうことしたかった」って羨ましがる前に、先に自分でやってやろうって頭の中でいろいろ考えています。
まつしたゆうや〇兵庫出身。俳優活動と共にダンスボーカルユニット「X4」のメンバーとして、またソロとして音楽活動も行う。近年の主な出演作品は新感線☆RS『メタルマクベス』disc1、ミュージカル『Romale』~ロマを生き抜いた女カルメン~、『僕だってヒーローになりたかった』、『暁のヨナ』、ミュージカル「黒執事」シリーズ、Broadway Musical『IN THE HEIGHTS イン・ザ・ハイツ』『黒白珠』など。
【公演情報】
音楽劇
「ロード・エルメロイⅡ世の事件簿–case.剥離城アドラ-」
原作◇三田誠/TYPE-MOON
キャラクター原案◇坂本みねぢ
総合演出◇ウォーリー木下
脚本◇斎藤栄作
演出◇元吉庸泰
出演◇松下優也 青野紗穂/納谷 健(劇団Patch) 伊崎龍次郎 浜崎香帆(東京パフォーマンスドール)/百名ヒロキ 木戸邑弥/松田慎也 木村風太 種村梨白花・ソニア(Wキャスト)/植田慎一郎/玉置成実 花王おさむ/壮 一帆 他
12/15◎市川市文化会館 大ホール(プレビュー公演)
12/19~23◎なかのZERO 大ホール
12/26~28◎サンケイホールブリーゼ
2020/1/11・12◎久留米シティプラザ ザ・グランドホール
2020/1/17~19◎新宿文化センター 大ホール
〈お問い合わせ〉サンライズプロモーション東京 0570-00-3337
〈公式サイト〉https://stage-elmelloi.com/
【構成・文/横川良明 撮影/岩田えり】
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