鹿賀丈史&市村正親のコールテンコンビで5回目の上演!『ラ・カージュ・オ・フォール』製作発表会見レポート!
同性カップルを主人公に、「夫婦愛」と「家族の絆」を描いて1985年の日本初演以来長く愛され続けるミュージカル・コメディ『ラ・カージュ・オ・フォール』が、ゲイクラブのオーナー・ジョルジュを鹿賀丈史。クラブの看板スター“ザザ”ことアルバンを市村正親の2008年から続くゴールデンコンビにより、3月8日~30日東京・日比谷の日生劇場で上演される(のち、名古屋・愛知県芸術劇場 大ホール、富山・オーバード・ホール、福岡・博多座、大阪・梅田芸術劇場メインホール、埼玉・ウエスタ川越 大ホールでも上演)。
ミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール (La Cage aux Folles)』は、1973年ジャン・ポワレ作のフランス演劇として誕生し、仏演劇ストレートプレイ史上最長のロングランを記録。1983年アーサー・ローレンツ演出、スコット・サーモン振付によって、ミュージカル化された作品。その年のトニー賞6部門、ドラマ・デスク賞3部門を受賞するセンセーショナルを巻き起こし、ロンドン/ウエストエンドでもロングランを記録した。2004年にブロードウェイでジェリー・ザクス演出、ジェリー・ミッチェル振付でリバイバルされ、再びトニー賞2部門、ドラマ・デスク賞2部門を受賞。さらに2008年ロンドン/ウエストエンドでも開幕し、オリビエ賞『ベスト・リバイバル・オブ・ミュージカル』受賞、2010年にはブロードウェイで2度目のリバイバルとなり、トニー賞史上初の2度目の「ベスト・リバイバル・オブ・ミュージカル」受賞という快挙を成し遂げ愛され続けている。
日本では1985年、青井陽治演出、リンダ・ヘイバーマン振付で近藤正臣のザザ、岡田真澄のジョルジュのカップルで初演。その8年後の1993年から市村正親のサザが登場。当たり役のひとつとして上演を重ねてきた。そして2008年からはジョルジュ役に市村の劇団四季時代からの盟友・鹿賀丈史を迎え、『ラ・カージュ』史上最高のコンビとして、2008年、2012年、2015年、2018年公演とも、初日から千穐楽まで連日のスタンディングオベーションの大成功を収め、今なお衰えぬ人気を誇っている。
そんな作品の製作発表会見が、1月都内で開かれ、主演の鹿賀丈史と市村正親が登壇。公演への抱負を語った。
【登壇者挨拶】
鹿賀 『ラ・カージュ・オ・フォール』には5回目の出演なのですが、最初の出演から10何年経って自分自身いい歳になりましたものですから、前回までは黒いカツラをかぶっていたのですけれども、カツラをかぶっている場合じゃないだろうという思いがありまして、今回は地毛で出演いたします。色々な芝居を新しく考えていま稽古をしている最中です。かなり面白いものになると思いますし、この状況の中でお客様に訴える力、人との繋がりであるとか、人への愛、他人を思いやる気持ち、そういうものがふんだんに散りばめられた素晴らしいミュージカルでございます。少しでも多くのお客様にご覧いただければと思います。
市村 僕はこの作品と出会ったのが確か44、45歳で。そう考えるとなんのかんの30何年この役をやっているのですが、約30年前は非常に元気で、非常に美しく華やいでおりました。時が経つというのは、役をもっともっとリアルにしてくれるのだなと最近思います。今回また鹿賀くんと夫婦役をやれるということで運命的なものを感じますし、30年前には出せなかったぐらいの、よりザザに近いザザが出るんじゃないかなと、期待で胸が膨らんでいるところです。去りゆく美しさをどこまで自分の手元に置いておくことができるのか。最近はメイクの技術も発展しておりますので、色々な方からメイクの技を盗んで、束の間の嘘の輝きを放っていけたらと思っております。大変素敵な作品ですので、このコロナ禍、皆様に愛と喜びと感動をお届けできたらいいなと思います。
【質疑応答】
──ジョルジュはアルバンの、アルバンはジョルジュのどこに惹かれていらっしゃいますか?また鹿賀さんは市村さんの、市村さんは鹿賀さんのどこに俳優としての魅力を感じていらっしゃるのか、それぞれ教えてください。
鹿賀 アルバンのどこに魅力を感じているかと言えば、奥さんとして可愛かったり、二人で力を合わせてゲイクラブをやっていることにおいて、かけがえのない人だなということです。それと喧嘩したりですとか、普通の家庭にあるようなことがこの家族の中にも色々とあって、その辺がドラマを深めていく面白いところかなと。男性二人の夫婦ですが、僕(ジョルジュ)には実子がいまして、24歳になる息子を含めた家庭というものが出せたらいいですし、ゲイクラブ「ラ・カージュ・オ・フォール」で歌い踊る皆さんも、毎日マスクをして息を切らせながら稽古をしている、このチームにはとても強い絆が感じられます。この難しい時代に『ラ・カージュ・オ・フォール』をやることには、普段よりもより一層インパクトがあるのではないかと思っています。感染症によるところが大きいのですが、人と人との分断や国と国との分断が深みに入っていきそうな、嫌な予感も感じるこの頃です。でも僕らは俳優ですので、少しでもご覧になるお客様に周りの人間を大事にすること、更に自分は自分でいいんだと、強く生きていくというメッセージを伝えられたらいいなと思って稽古をしております。俳優としてのいっちゃん(市村の愛称)とは49年の付き合いになるのですが、20代の頃に劇団四季で一緒にやっていて、僕は20代後半で四季を退団して、映画や舞台を色々やっていましたが、その頃から市村正親という俳優の魅力はよく知っています。一番言えるのは芸の幅が非常に広いということと、舞台ならではの芝居の押し出しがとても強くて、的を外さないすごい役者だなと思っています。長く付き合っているということもありますけれども、やっぱり息が合うというのはやっていて気持ちのいいものです。
市村 ジョルジュの魅力はやはりダンディであること、品があって大人で、ザザのわがままを全て聞いて支えてくれる。いつ転んでも全部面倒をみてくれる。そういうところにアルバンは惚れているんじゃないかなと思います。俳優・鹿賀丈史については、僕が24歳で劇団四季のオーディションを受けたときから、常に舞台のセンターに立っていたのが鹿賀丈史でした。『ジーザス・クライスト=スーパースター』でも『ウエストサイド・ストーリー』でも『ヴェローナの恋人たち』でも『カッコーの巣をこえて』でも、常にセンターに立っていました。とても良い声で、良いダンスで、良い芝居で、手本でありました。僕はいつもその横でコバエのようにブンブン言いながら(笑)、丈史(鹿賀)からうるさいなと言われながらやってきました(笑)。そんなコバエのように生きてきた男が丈史となんとか夫婦になり、最近ではWキャストで同じ役をやってもいて、市村も随分頑張ってきたなと。それは全て四季の最初の頃から、僕にとって憧れの丈史がいたからここまで来られたのかなと思っています。今回、ジョルジュとアルバンにまたなるんですけれども、どこかで鹿賀丈史と市村正親にこの役がダブってくる場面もあるので、幕切れの二人が背中を向けて後ろで手を組んでいく姿を、私達の若い頃を知っているお客様がご覧になったら、涙、涙の世界ではないかと思っています。
──キャッチコピーに「鹿賀丈史ジョルジュ&市村ザザ ラブフォーエバー!」とあるのですが、これはどういう意味なのでしょうか?「フォーエバー」と言われますとファイナルという風に取れる向きもあるのですが。
鹿賀 いや、そういうことではないですね。僕たちは70歳を越えて、いっちゃんとも舞台の度に言うのですが、これから先も元気で芝居ができる限り、またこうやって一緒にやる作品もあるかもしれない。そういう意味でのフォーエバー(永遠)と僕は捉えているんですけれども。(市村に)どうですか?
市村 先日二人で占いの番組に出たのですが、その番組の占い師によると僕らは「ずっと舞台に立ったまま舞台の上で果てる」と(笑)。そういう意味でフォーエバーなんじゃないでしょうか(笑)。
──命ある限り、続けるということですね?
市村 オファーをいただける限りは、いつまででもやれるのではないかと思うので、そういう意味でもお互いに風邪に気をつけて、ラブだけでなくヘルシーの方も、身体の方もフォーエバーにしたいなと思っている次第でございます。(鹿賀に)ね!
鹿賀 でもねえ、舞台をやっている人は、舞台の最中に息を引き取るのが最高だとかよく言われますが、それは事実上無理だけど(笑)いまこういう時代だからこそ、一人の俳優として自分に何ができるのか?を考えて生きていくという意味でもラブフォーエバーとね。
市村 だからフォーエバーというのは気持ちの問題ですね。肉体はどんどん滅びていきますので。「歳を取るということは恐ろしいものだ」と『オリバー!』のセリフにもあったので実感を持って言っていましたけれども。気持ちはフォーエバー!で努力しましょう!
──お二人で特にお話になったことは?
鹿賀 いまのところは特にね。
市村 もう身体に入っているから。
鹿賀 まだ本番まで日にちがあるので、これから話し合うこともあるだろうと思います。
市村 本当に歳をとるごとに役に近づいている感覚があって、芝居というのは生ものだなとつくづく思うのは、やはり20年前のジョルジュとアルバンと、今の、現代の僕らのジョルジュとアルバンでは、いまの方がどんどん「実」に近づいていると感じるので、何が起きるのか、初演から出ている真島茂樹や、森公美子さんもいる『ラ・カージュ・オ・フォール』はひとつのビッグファミリーなので、稽古場に行くのが楽しみです。
──(司会)いまちょうど1985年の初演からご出演の真島茂樹さんと森公美子さん、オリジナルキャストのお二人のお話が出ましたので、ここでお二人からのメッセージを紹介させていただきます。
【真島茂樹(振付/ハンナ役)メッセージ】
実は市村さんとは若いときにバレエの学校が一緒でした。毎日スタジオの鏡や床を掃除し、お金がなくて先生にご馳走になりながら、一緒にダンスのレッスンに励んだ時期がありました。その後市村さんは劇団四季に入られて、僕は日劇ダンシングチームに入りました。鹿賀さんは若いときから活躍されていて、出演された舞台はずっと拝見していましたし、市村さんの舞台も何度も観劇させていただいています。このお二人がまさか『ラ・カージュ・オ・フォール』でコンビを組むなんて!最初にそう聞いたときは本当に驚きました。鹿賀さんはダンディな方で、市村さんは小鳥のように可憐で、本当にお似合いのカップルです。鹿賀さんはとても真面目な方で、踊りの稽古になると少年のような感覚になります。僕と手を取り合って踊るところがあるのですが、何故かその時だけ鹿賀さんの方が女性っぽくなり、僕は女装をしているのに男っぽくなってダンスをしています。市村さんとは昔から何度も食事に行っていますが、いつも話題は舞台のことです。気がつけば朝まで舞台について語り続けたこともありました。『ラ・カージュ・オ・フォール』に「ゲイ(芸)は無限よ!」という台詞がありますが、まさに市村さんそのものだと思います。僕も稽古場で自分の心と体にムチを打って汗を流しています。初演から37年、あっという間でした。僕が知っている全部を若い出演者のみなさんに伝授して、舞台に立つ全員が花開き、幸せな気持ちになれるよう、そしてお客様にもっと幸せな気持ちになっていただけるように情熱を注ぎます。こういう時期だからこそゴージャスで華やかな世界を通して、物語の中にある全ての愛をお客様にお届けしたいと思っております。
──今のメッセージを聞かれていかがですか?
鹿賀 真島さんは初演からやってこられていて、稽古場でダンスのメンバーの常に中心にいらっしゃって、彼の芸歴やテクニック、そして想いが稽古場を支配するような、それだけの力と存在感がある方です。僕はその姿を見て非常に頼もしいなぁと思いますし、あの人こそ舞台の上で死ぬんじゃないかなあと思っているくらいです(笑)。メッセージがとても嬉しいです。
市村 マジー(真島の愛称)は若い頃からバレエで一緒で、いつも酔うと彼は道の真ん中でザンレール(※バレエ用語のトゥール・アン・レールの略称。空中で回転する技)をするんですけれど、今やザンレールをすると舞台に立てなくなっちゃうんでね(笑)。とにかくムチを振るうハンナですけれども、とても高いヒールを履くんですよ。ですからマジーが無事大千秋楽を迎えられるよう、影になってサポートしていきたいなと思っております。
【森公美子(マリー・ダンドン役)メッセージ】
鹿賀丈史さんとは『レ・ミゼラブル』でもご一緒しているのですが、リハーサルではフランクで面白くて。演出のジョン・ケアードのワークショップの時に、スナイパーに狙われる日本人観光客という設定で、バスに乗っているだけの即興劇をやったことがありました。その時犯人役をやった鹿賀さんの「私が銀座の天ぷら屋のおやじです」に爆笑してしまいました。鹿賀さんはこのおやじになり切っていらっしゃいました!でも『レ・ミゼラブル』本番になるとあまりにも凛々しくて、近づけない存在でした。けれども『ラ・カージュ』では最近市村さんより女性っぽくなって、「(ジョルジュ役とアルバン役が)逆の日があっても楽しいかも」という思いもあります。『ラ・カージュ』のお二人は本当に最高です。世界一のコンビ、カップルです。市村さんとは『ラ・カージュ』で長いこと共演させていただいていまして、初めていっちゃんにお会いしたときから全く変わらなくて、歳を取っていないのですよ。特に『ラ・カージュ』のいっちゃんは舞台を降りると更に男らしくなっています。私と二人のアドリブもあるんですけど、それがどんどん長くなってきているのも気になっていて、袖に入った途端全員でいつも爆笑になってしまいます。私の中で、アルバンの市村さんは間違いなく可愛い人の代名詞です。時代と共にアドリブも変わってきていて楽しいです。毎回これで最後の『ラ・カージュ』と思ってここ5、6年を過ごしてきましたけれども、今回コロナ禍の中、この愛に満ちた、そして「今この時が何よりも素晴らしい」というメッセージ、歌詞と共に、みなさまと今を楽しみたいと思っています。ちなみに、私のわがままボディはますますわがままになり、今調整中です。
鹿賀 モリクミ(森の愛称)ちゃんはですね、自由なんだけれども、初演からずーっとやってこられて芝居も上手いし安定しているし、一番驚くのは体型をずっと維持されているということです(笑)。存在感も大きいですし、モリクミちゃんの役は「ゲイ反対」を唱える政治家の奥さんなんですけれども、モリクミちゃんの持っている優しさや、舞台にかける思いが、我々の世界に入ってきたときにも、反対している立場でありながらその場を包んでくれるような空気があって、彼女が出てくると非常に安心する。そういうところも非常に感謝しています。
市村 モリクミちゃんの“カジェル愛”(※カジェル=ナイトクラブ「ラ・カージュ・オ・フォール」のショーの出演者である「可憐な踊り子たち」の総称)がものすごく深くて。彼女の体はカジェルへの愛であんなに大きくなっちゃったのかなという感じがするんです(笑)。彼女は2幕からしか出ないのですが、1幕は袖にいて、特にプロローグでは毎回、毎回コスチュームを変えて、舞台上のカジェルが一瞬パッと袖の方を振り向くとき、その一瞬のためだけに不思議な格好をしてカジェルたちを喜ばせてくれるんです。本当に縁の下の力持ちで。またモリクミちゃんのとても可愛いハイレグが見られると思うので、しっかり目に焼き付けておきたいなと思います。
──長く再演を重ねている作品と新作とでは、それぞれ臨み方に違いがありますか?
鹿賀 初めての芝居に臨む時には、当然ですが役をどう捉えるかということや、ミュージカルであればこの歌をどう歌うか?ということを色々と思うのですが、『生きる』という、黒澤明さんの映画から舞台化した作品をやった時に、胃がんで余命半年を宣告された初老の男性役でしたが、特に再演で、僕はミュージカル作品で初めて「なるべく芝居をするのをやめよう、歌を歌うのをやめよう」と思ったんです。それは何故かと言うと、妻に先立たれ、一人息子夫婦と同居はしているけれども、あまり交流がない。一人でずっと生きてきた人間が余命半年と知らされた時の悲しさや怒りは、作品のなかで十二分に説明されているんですね。そこでそれ以上芝居をする必要はないんじゃないかと思ったし、2曲大ナンバーがありましたが、それを歌として歌い切る必要もないのではないかと思って。ですからなるべく芝居をするんだけれども芝居としてまとめない。歌うんだけれども歌としてまとめない。思いが言葉になり、歌に乗っているだけという作業をしました。これは自分でもとても刺激になりました。ただ今回の『ラ・カージュ・オ・フォール』では、ナンバーはナンバーとして歌う、そういう作りの作品だと思っているので、ちゃんと芝居をし、ちゃんと歌いますが、自分のなかではここで急に歌い出すという感覚ではなく、あくまでも気持ちから歌につながる、その空間を埋めていく作業を一番大事にしたいと思っています。
市村 僕も『オリバー!』という新作をやったばかりですが、新作をやるというのは、歌や台詞を覚えるのも、役作りをするのもとにかく大変で、イマジネーションを使いながら、映画を見たり、本を読んだりして段々イメージを膨らませて役を作っていく。そういう新しい役を作ることには楽しみもありますが、辛いものでもあります。それが再演ものの場合、僕は『屋根の上のヴァイオリン弾き』『モーツァルト!』『ミス・サイゴン』『スクルージ』この『ラ・カージュ・オ・フォール』と、ありがたいことに再演を繰り返す力を持った作品に多く携わらせていただいていて、『ラ・カージュ』も約30年近くやってきました。新しい役の時には色々な色をつけるのですが、再演の場合はそれをそぎ落としていって、何もない状態で生まれるものを大事にしたいなと思っています。俳優というのはひとつの職業ではあるのですが、僕にとって俳優という職業はある意味遊んでいる場所「Play」している場所なので、役を通じて幸せな気分になっています。役者が楽しんでいればお客様も楽しめると色々な機会で言われますので、再演に対しては、どうその時に気持ちが動くか、というのを大切にしています。
──49年の付き合いになるお二人ですが、お互いの変わらないところと変わったなと思うところを教えてください。
鹿賀 まぁこれだけの年月をやっていれば変わりますけれども(笑)、基本的に変わらないのは、市村正親という人は舞台が大好きで、表現することにものすごく貪欲であるということ。それは変わりませんね。若い頃のいっちゃんは非常に線が細くてね。僕が一緒にやっている時にはマザーコンプレックスの青年であるとか、『ウエストサイド・ストーリー』の時には一人だけ置いてきぼりにされる少年などの、社会についていけないような役柄が多かったんです。でもこの年月で何がきっかけだったのかわかりませんけど、非常に太くなったんですよね。肉体も表現も。それはいっちゃんが芝居を続けていくうちに自分で見つけたものだと思うので、その辺の変化というのは役者としてとても尊敬しています。そういう太くなったなりの演技の仕方、自分から出てくるものをとても大事にしているので、その意味では随分変わったなぁという印象があります。何もかもが大きくなったと思います。
市村 丈史の変わらないところは、相変わらず「ステーキだな」というところです。舞台の上にドーンと立っていると、色気があって華があって大柄で、やっぱりメインディシュだなと。僕は昔、鹿賀丈史の横にいると、ステーキの横のクレソンって言われたんですけれども、最近はミニッツステーキくらいにはなれたかなと(笑)。でも僕クレソンも好きですね!
──アルバンがゲイクラブのスター「ザザ」になっていく過程が舞台上でありますが、市村さんがアルバンになる瞬間はどういうタイミングですか?
市村 アルバンがザザになるのはマスカラをして、メイクをしはじめる瞬間なのですが、まさしく僕自身も楽屋でメイクをしていきながらだんだん役になっていきます。メイクをしてかつらをかぶり衣裳を着て役になっていくのは同じですね。ですから僕は自分の楽屋でアルバンになって、舞台でマスカラをつけながらザザになっていくので、市村も役も一緒だと思います。
──鹿賀さん、今回ジョルジュを演じる上で改めて大切にしたいと思っていらっしゃることは?
鹿賀 今までの僕は舞台でジョルジュのアルバンに対する思いを深く出そうという芝居をしていたのですが、今回はもっとだらしなくいて「何を考えているの!?」とお客様が思っても、言動の端々にアルバンに対する思いやりや、他の人間に対する思いやりが出るようにしたいです。だらしないと言うと語弊があるかも知れませんし、根本にあるものは変わらないのですが、全てをわかって、感じ取っているからこそのルーズさと言うものを今回は表現したいなと思っています。
──お二人はゲイ夫婦の役を演じていますが、この作品を長年続ける中で、セクシャルマイノリティの方を取り巻く環境の変化を感じることはありますか?例えば笑い声が起こる場面が変わってきたなどもあれば教えてください。
鹿賀 僕は『ラ・カージュ』の原案者であるハーヴェイ・ファイアスタインの自伝を舞台にした『トーチソング・トリロジー』という作品を1986年にやっているんですね。それは自分と母親、ゲイである彼の生き方をどうしても理解してくれない母親と、でも本当は愛し合っているという姿や、問題定義を描いている作品で。養子をもらうのですが、ゲイの養子であるということで子供が殺されてしまうという悲惨な話もある、社会的なことも考えた刺激の多いストレートプレイで、非常に面白かったんです。当時も観に来られたお客様のほとんどの方が大変喜んでくださいました。でも何人かの方が楽屋にいらして「いやらしい、何これ」と言うようなことも言われました。でも僕は演じていて本当に面白かったですし、理解してくださるお客様も非常に多かったんです。それから何年か経って『ラ・カージュ・オ・フォール』をやるわけですが、セクシャルなことや、アイデンティティなどの面から考えると、日本の理解は世界から非常に遅れているなと思います。政治家の方からも未だに「同性婚には反対である」というような意見が出るほどです。でも、この舞台をご覧になって「いやらしい」と言って帰ってしまうお客様は、今はいらっしゃらなくなりました。そういう意味では非常にお客様に感謝しているところでもありますし、我々がこういう世界をミュージカルとして取り上げていくのは意義あることだと思いますから、なるべく嘘のない芝居や歌をお届けして、お客様に喜んでいただけたらいいなと思っています。舞台の記者会見で何を偉そうなことを、と思われるかも知れませんが、やはり俳優としていまの日本に何を発信するかというのは、とても大切なことだと思っていますので、深く考えてやっていきたいです。
市村 30年前にザザとして初めて出演したときは、地下鉄を利用して稽古場まで通っていたので、電車の中でセリフを確認していたんですね。するとやっぱり足が閉じるし、肘は脇につくし、つい小指も立つしで、それを見た人が一瞬引くんです。30年くらい前はそういうムードがある中での上演でした。でもあるときから、自分がゲイであるから「ありのままの私」というナンバーを歌うのではなく、愛する息子、愛する旦那に、自分がゲイであることを隠すように言われた、愛する人に裏切られていたという事実に対して、「私は私よ」と歌っていたんです。そういう感情が生まれる瞬間を舞台の上で生きることが、僕は俳優という職業についていて、非常に嬉しいことだなと思っています。この30年間でいろんなものが変わってきているけれども、変わらないのはやはり愛だなと思います。
──では最後にお二人から、改めてご挨拶をお願いします。
鹿賀 今日はこのような状況のなかお集まりいただきまして感謝しております。エンターティメントを職業としている人間にとっては、いまは危機がしのびよっている時代だと感じています。それは日本だけではなく、世界的にもそうです。感染症もそうですが、見えないというのは大変恐ろしいものですから、こういう時代にどんな芝居をしていけばいいのか?は我々もずっと考えていかなければならないと思っています。そうしたなかで、『ラ・カージュ・オ・フォール』というのは問題提起も含んでいるんですけれども、おかげさまでミュージカルとして非常に楽しく面白くできていて、そしてまた考えていただける素晴らしい作品です。なんとかオミクロンも収束に向かってくれて、3月頭には舞台がちゃんとできるように、お客様も安心して劇場に足を運んでいただけるような状況になることを願うばかりです。自分はこの作品に真摯に取り組んで、どんなことがあろうと役者としての想いを曲げずに稽古を続けていきたいと思います。今日はありがとうございました。
市村 コロナ禍でこの2年くらい芝居が中止になったり再開したりしてきましたが、劇場はお客様が満杯に入って、舞台で表現されたことに素直に反応できる。そのときが一番、劇場が喜ぶはずなんです。声を出しちゃいけないとか、色々と規制が多い中で、とにかく感染者が出ないように俳優、スタッフ一同気をつけながら大千秋楽まで乗り切れたらいいなと思っています。舞台の上からの愛は、カンパニー一同ものすごい勢いで皆様に出し続けていくと思うので、それをしっかり受け止めて、マスクの中で笑ったり感動してくれたらいいなと思っています。そういう作品になるように一生懸命頑張りますので、どうぞよろしくお願いいたします。
【公演情報】
ミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』
作詞・作曲:ジェリー・ハーマン
脚本:ハーベイ・ファイアスティン
原作:ジャン・ポワレ
翻訳:丹野郁弓
訳詞:岩谷時子 滝弘太郎 青井陽治
演出:山田和也
オリジナル振付:スコット・サーモン
出演:鹿賀丈史 市村正親
内海啓貴 小南満佑子 真島茂樹 香寿たつき 今井清隆 森公美子 他
●3/8~30◎日生劇場
〈料金〉S席14,000円 A席9,000円 B席4,500円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉東宝テレザーブ 03-3201-7777
〈全国ツアースケジュール〉
●4/9~10◎名古屋・愛知県芸術劇場 大ホール
●4/16~17◎富山・オーバード・ホール
●4/22~25◎福岡・博多座
●4/29~5/1◎大阪:梅田芸術劇場メインホール
●5/7~8◎埼玉・ウエスタ川越 大ホール
〈公演サイト〉https://www.tohostage.com/lacage/
【取材・文・撮影/橘涼香 舞台写真提供/東宝演劇部】
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