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『お勢、断行』いよいよ開幕! 倉持 裕 インタビュー

世田谷パブリックシアターで、倉持裕の作・演出による舞台『お勢、断行』が、5月11日より開幕する。(24日まで。そののち兵庫、愛知、長野、福岡、島根公演あり)

この作品は当初は、2020年2月~3月に上演を予定していたが、新型コロナウイルス感染症の拡散防止のため、ツアー公演含め全公演がやむなく中止となった。その舞台が2年の時を経ていよいよ幕を開ける。

物語は、2017年に上演した『お勢登場』の原作者、江戸川乱歩の極彩色の迷宮世界を踏襲して、倉持裕がオリジナルに書き下ろしたもので、悪女お勢を再び主人公に、善悪せめぎ合う人間世界を描き出している。

【あらすじ】
大正末期、資産家の松成千代吉の屋敷に身を寄せた女流作家、お勢(倉科カナ)がいる。その屋敷には、千代吉の娘(福本莉子)と住み込みの女中(江口のりこ)、そして千代吉と小姑(池谷のぶえ)からの圧力に苦しむ後妻(大空ゆうひ)がいた。
ある日、千代吉に屈辱を受けた代議士(梶原善)は、後妻と結託し、松成家の財産をすべて奪い去ろうと、千代吉を狂人に仕立て上げる計画を練る。
女中、精神病院の医院長(正名僕蔵)、貧しい電灯工事夫(堀井新太)らを巻き込み、首尾よく進むかに見えたが、第一の殺人がおき、計画は思わぬ惨劇へと突き進む──

今回、ついに観客の目の前にその姿を現すことになった『お勢、断行』。2020年の中止時の心情も含め、今回の上演にかける思いを、作・演出の倉持裕に語ってもらった。

作りかけのものを目に入れないようにしてきた

──この舞台が2年前に中止になった際のコメントで、倉持さんが思わず泣いてしまったと書かれていました。やはり大きなショックだったのでしょうね。

何がショックだったかというと、中止になったことよりも、中止と決まってから最後のゲネプロを行ったのですが、前日に通し稽古をしたとき役者とスタッフにダメ出しをした、それを本当に真摯な態度でみんなが聞いてくれて、それで臨んだゲネプロが、当然なんですけれどすごく良くなっていて。でも中止は決まっている。こんなに良くなっているのに公演できない。今、何のためにこれをやっているのだろうと考えたら悲しくて涙が出ました。

──その時点では、いつ上演できるかわからないという状況だったわけですね。

もちろん、いつか上演しようという話はしましたが、具体的にそれがいつ頃になるということは見えていませんでした。ただただ、まだ作りかけで放り出してしまったという感覚で、最初は悔しいとか悲しいとかいう気持ちでしたが、そのあとはずっとモヤモヤしていて、負い目みたいなもの、中途半端で責任を放棄してしまったという感覚でした。この2年間は、作りかけのものが目に入るところにあるのを、見て見ぬふりをして過ごすという気持ちだったのですが、今やっとそれを真正面から見られるようになりました。

──そして今回上演が決まって、当時のキャストとは2人の方が入れ替わりましたが、すでに一度作ったことで出来上がっている部分も多かったのでは?

そうですね。台詞や動きなどは、稽古の最初からほぼ2年前と同じものが立ち上がってきました。ただ稽古始めにみんなにも話したのですが、まず第一目標は2年前に戻すことだと。あの域というか質まで戻すのは、それなりに時間がかかると思ったし、まずは2年放っておいたことで傷んでしまったところなどを修復して元に戻したいと思いました。一方で、コロナ禍という異常な世界をそれぞれに生きてきたわけですから、みんなの内側にも変化はあって、この作品に対する捉え方や感じ方も自ずと変化したものはある。それによってより時代に添ったものになるはずだと、そこは期待できると思いました。

お勢を悪女たらしめているのは行動に移すスピード

──本作は『お勢登場』に続いて、人間の中にある悪について描いていますが、2022年の世界はますます混沌として、善悪の意味もどんどん相対化されています。

何が正しいのかわからないというようなことを作品でも言っていますが、みんなが相反する正義を声高に言って対立するような世の中になってきているのを感じます。コロナやウクライナだけでなく、今起きているいろいろな出来事に対して、自分の正当性を主張するために何か自己暗示みたいなもの、自分が正しいと無理なく言えるような暗示を自分にかけているなと。これはそういった人たちが出てくる芝居だと思います。

──『お勢登場』は原作が江戸川乱歩でしたが、今回は倉持さんのオリジナルですね。主人公のお勢のどこに倉持さんは魅力を感じていますか?

原作の中で乱歩自身も書いていますが、お勢を悪女たらしめている最たるものは、何か悪事を思いついてそれを行動に移すスピード、速さだと。普通なら思いついても躊躇するタイムラグがあるはずですが、そこをエイと飛び越えてしまう。そしてやってしまったあと、平然としているかというとやっぱりドキドキしている。ばれるんじゃないかと恐がっているところも人間的で、単なるサイコパスではない。そういうギャップに惹かれます。

──乱歩もお勢を気に入っていてシリーズ化の構想もあったようですね。他の乱歩作品の主人公たちと同様に、悪の美学のようなものがあるのを感じます。

美学は乱歩作品のそれぞれの犯罪者にあると思います。でも、たとえば本当に自分の妄想をなんとか実現させたいと思って、それに執着する偏執的キャラクターもいれば、ほんの出来心から後戻りがきかなくなって、雪だるま式に事が大きくなってしまうパターンもある。ただ、どちらもやってることはすごく人間的だなと。そういう意味では、今回も欲望を満たすために、止められない、引き返せなくなってしまうという人たちが沢山出て来ます。

普通の人間がふとした拍子に暗い穴に落ちてしまう

──そんな乱歩の世界をオリジナル戯曲として書くうえで何を大事にしようと?

まずショッキングな死に方とか殺し方はケレンとして持っていたいなと。あまり単純な殺し方ではない、ちょっとエキセントリックな死に方をさせたかった。そしてモンスターの犯罪ではない人間味のある犯罪ということで、市井の人として普通に暮らしていた人間がふとした拍子に暗い穴に落ちてしまう、足を踏み入れてしまう、そういう導入は乱歩の得意技だったりするのでそこは使っています。それと文体を大事にしました。江戸川乱歩の文体は『お勢登場』のときにさんざん短編を読んで、自分の中に入っていたので、それで台詞を組んでいきました。

──大正末期という時代独特の言葉づかいやリズムで書かれていて、そこに気持ち良さを感じます。

当時の人からみたら違うと言われるかもしれませんが、書いていて面白いし、好きなんです。乗って書ける。乱歩の小説を読んでいつも感じていたのは、品があるんです。1つ1つの言葉をニュアンスで伝えずに、その意味の言葉を探してきて喋る。乱歩は小説家ですからそうなるんでしょうけど、僕としても相応しい言葉を使っての会話は書いていて楽しいし、美しいなと思います。それにあの時代は衣装やヘアスタイルなど、ビジュアル的にも楽しいし、それによって俳優の身のこなしも違ってくる。観ていて楽しめる部分も大きい。そういうビジュアルも含めて、些細な事件でもドラマチックに描くことができるんです。

2年間背負ってきたものをついに降ろすという気迫

──今回の座組ですが、倉科カナさんのお勢の魅力は?

美学を持っているお勢の強さがあると思います。基本的にブレずに堂々としている。他の登場人物はみんなどこかで汗をかいているんですが、お勢だけは汗をかかずにいろんなところに出入りしている、その姿がかっこいい。そういうお勢にぴったりです。

──『お勢登場』では、お勢の最初の殺人は半ば偶然でもありましたが、そこから犯罪者となって、今回はさらにステップアップしたというか覚醒した感があります。

あの作品で、文字通り「登場」して「誕生」した。そこから数年経ってのお勢なので、ちょっと客観的に自分のことも犯罪についても分析するようになっています。何が人を駆り立てるのか、どういった犯罪が美しいのか醜いのか、自分の中で分析して、そこから許せない犯罪に対して罰を与えなければという感じで動き出していく。

──一方で登場する男性たちは、ちょっと情けない悪ばかりで。

男たちは狡いですよね。それに時代背景もあって女性をどこか見下していて、自分の思い通りになるだろうというところから出発している。結局のところやり返されちゃうんですが。ただ2年前はそういう部分もかなりコミカルに描いていましたが、2年経ってその狡さがそれなりの怖さに見える瞬間も作りたいと考えています。

──女性たちの中では、後妻のお園がお勢と対極に位置する存在かなと。

お勢が観念的な問題の周りで動いているとしたら、お園は現実的な問題に一生懸命に対処している、それで振り回されて損をしている。ある意味描きやすいし、演出しやすい人です。でもお勢は扱っていることが曖昧なので、描くことも演出することも難しい人。でもそこが僕としては一番描きたいところで、わからないことをつかまえたいと思いながら稽古もしているんです。

──つまりお勢の中に倉持さんの視点がある?

というよりも、お勢がこの芝居の目的でもあるんです。作品を作るうえでわからないこと、言葉で説明できない部分を、完全にわかりやすくはできないけれども、それでもなんとか少しでもわかりやすく可視化して伝えられないかと思いながら芝居をやっているところもあるので。そのわからないものを、倉科さんと稽古している中で、もう少し輪郭をつかまえたいと思っているんです。

──それは江戸川乱歩と出会ったことで生まれたものですか?

いや、もともと僕が演劇で表現したいのは、わかっていることを表現したいのではなく、わからないことを少しわかりたいからで。初めからわかっているものは作る必要はないと思っていて、わからないけれどこれは面白いんだというものを作りたい。わからないということで、面白いことを排除してしまうのはもったいないので。すべてを説明はできないけれど、これ面白いでしょと提示したいんです。

──そういう作り方の中で、男優の方たちだけでなく、江口のりこさんや池谷のぶえさん、大空ゆうひさん、千葉雅子さんという力のある俳優さんたちの存在は大きそうですね。

その通りです。それに2年という時間の中で、彼女たちが演じるドラマも僕の中ではっきりしてきて、本人たちも2年前より俯瞰して見えていると思うので、人物造型としてはより深くなっていると思います。

──さらに豊かになった『お勢、断行』とやっと出会えるのが本当に楽しみです。

2年前にゲネだけで中止になってしまったあのときの悲しみは、カンパニー一同が経験しているので、今回のみんなの気迫は物凄いと思います。僕はとにかく責任を果たさなくてはという気持ちで向き合っていますし、出演者のみんなも2年間背負ってきた荷物をついに降ろすというか、ぶん投げるというか(笑)、そういう気迫と意志はなみなみならぬものがあるので、そういうものに満ちた芝居をお見せできると思っています。

くらもちゆたか○1972年生まれ。神奈川県出身。2000 年劇団ペンギンプルペイルパイルズを旗揚げ、主宰。以降すべての劇団作品の脚本・演出を手がける。 『ワンマン・ショー』にて第48回岸田國士戯曲賞受賞。舞台脚本・演出作品多数、近年では、映画、TV ドラマの脚本も手がけ、活動の幅を広げている。最近の作品は作・演出を手掛けた舞台『DOORS』『イロアセル』、映画脚本「十二人の死にたい子どもたち」、「ゾッキ」など。

【公演情報】


『お勢、断行』
原案:江戸川乱歩
作・演出:倉持 裕
音楽:斎藤ネコ
出演:倉科カナ 福本莉子
江口のりこ 池谷のぶえ 堀井新太 粕谷吉洋 千葉雅子
大空ゆうひ 正名僕蔵 梶原 善
●5/11~24◎世田谷パブリックシアター
〈料金〉S席[1階席・2階席] 7,500円 A席[3階席] 5,500円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※ほか高校生以下、U24など各種割引あり
※託児サービスあり ※車椅子スペース取扱あり
〈お問い合わせ〉 世田谷パブリックシアターチケットセンター 03-5432-1515 (10~19時)
〈オンラインチケット〉 https://setagaya-pt.jp/
〈『お勢、断行』公式サイト〉https://setagaya-pt.jp/performances/202205osei.html
〈『お勢、断行』公式 Twitter〉@osei_sept_2020
〈世田谷パブリックシアター公式 Twitter〉@SetagayaTheatre

●5/28◎兵庫 兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
〈チケット取扱い・お問合せ〉芸術文化センターチケットオフィス  0798-68-0255(10:00~17:00 月曜休/祝日の場合翌日)
https://www1.gcenter-hyogo.jp/contents_parts/ConcertDetail.aspx?kid=5022412306&sid=0000000001
●6/4・5◎愛知 春日井市民会館
〈チケット取扱い・お問合せ〉公益財団法人かすがい市民文化財団 0568-85-6868 (9:00~21:30 月曜休館/祝休日の場合翌平日)
https://www.kasugai-bunka.jp/
●6/12◎長野 まつもと市民芸術館 主ホール
〈チケット取扱い・お問合せ〉まつもと市民芸術館チケットセンター 0263-33-2200 (10:00~18:00)
https://www.mpac.jp/event/37473/
●6/16◎福岡 福岡市民会館 大ホール
〈チケット取扱い・お問合せ〉スリーオクロック 092-732-1688(平日 10:00~18:30)
https://3pm-net.com/
●6/19◎島根 島根県民会館 大ホール
〈チケット取扱い・お問合せ〉島根県民会館チケットコーナー 0852-22-5556(10:00~18:00)
https://www.cul-shimane.jp/hall/event/?fid=8347

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

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