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井上芳雄×伊藤沙莉 初共演 舞台『首切り王子と愚かな女』初日舞台挨拶&ゲネプロ公演レポート

蓬莱竜太が新作のオリジナル作品を携え5年ぶりにPARCO劇場に登場する舞台『首切り王子と愚かな女』が6月15日~7月4日、PARCO劇場にて上演中だ。

主演はミュージカルを代表する俳優・井上芳雄。そして共演にはテレビや映画で活躍する伊藤沙莉、圧倒的な存在感を魅せる若村麻由美をはじめとして、高橋努、入山法子、太田緑ロランス、石田佳央、和田琢磨ら個性的な面々が揃った。
初日に先立ちマスコミ向けのゲネプロ公演が行われた。

【あらすじ】
時代も場所も架空の王国・ルーブ。英雄で人格者だった先王・バルが亡くなってから20年、女王のデン(若村麻由美)が永久女王として統治していたが、第一王子のナルが病となって以来、国のことを顧みなくなっていた。国は呪われ、民は貧しさに苦しみ、国への不満から反乱の気運が高まっていた。

そんな時、かつて「呪われた王子」として城から追放されていた第二王子トル(井上芳雄)が、反乱分子たちを鎮圧するため突如呼び戻された。使命感に燃えたトルは、次々と首を切り落としていくため「首切り王子」と恐れられるようになる。

一方、リンデンの谷に住むヴィリ(伊藤沙莉)は、生きることに意味が見いだせず、最果ての崖で死のうとしていた。ちょうどその時、トルが次々と首を切っていく処刑の場に居合わせる。トルに対して無礼を働いたヴィリは、トルの怒りを買いその場で処刑されそうになるが、もともと死ぬことを希望していたヴィリは、怖気づくことなく受け入れる。死を恐れないヴィリに興味を持ったトルは、自分の召使いとして仕えることを命令。城での生活が始まったヴィリが目にしたのは、野心や愛憎、陰謀渦巻く人間の醜い姿だった…。

劇場に入り、舞台を見てアッと驚く。そこには木で組み立てられた簡易な舞台装置があり、それを囲むように役者たちの楽屋が設置されているのだ。今回の作品は、稽古場そのものを観客に見せるという試みで、感染症対策がされた個々の楽屋で、役者たちがそれぞれの出番を待つ。出番前の役者たちがどのような表情を見せるのか、なかなか見ることができない貴重な機会となる。

開演時間になり、ヴィリ役の伊藤沙莉がおもむろに手を上げ、物語がスタート。舞台上には目つきが鋭いトル役の井上芳雄が、横柄な姿で座り込んでいる。

久しぶりに井上の王子役を見ることができると喜ぶ人もいるだろうが、今回の王子は少し勝手が違う。傍若無人で癇癪持ち、コンプレックスの塊で、名君とは程遠いキャラクターだ。とにかく目つきが悪い。鋭く相手を睨みつけ、気に入らないことがあると大声を出してまくしたてる。

恐らくこれまで井上が演じてきた役の中でも、5本の指に入るであろう悪全開のキャラクターだが、物語が進んでいくうちに、このような人間になってしまった悲しい生い立ちが明らかになる。なぜ呪われた子と呼ばれるようになったのか。そしてトルに仕えるドーヤネン(石田佳央)、兵士長・ツトム(高橋努)、近衛騎士・リーガン(太田 緑ロランス)兵士・ロキ(和田琢磨)らが、自分のことを全く尊敬していないことに気付いてしまう繊細さ、母親である女王のデン(若村麻由美)に認められたい一心の悲しい行動に胸がつまる。

そんな難しいキャラクターを井上はまさに体当たりで演じており、終盤の演技に息をのんでしまう。そして、物語の全編で流れるメロディアスな曲を歌う場面は、まさに井上の真骨頂だ。この作品で井上の新たな「王子像」が誕生したといってもいいだろう。

傍若無人な王子・トルに本音でぶつかっていくヴィリを演じる伊藤は、なんと清々しいことだろう。物語はヴィリが死のうとするシーンから始まるが、伊藤が演じるヴィリはバイタリティーがあり、生命力に満ち溢れている。トルのことを冷静に見つめ、時折「ダッサ!」と悪態をつくところはクスッと笑える。トルと同じくヴィリも家族に関しては悲しい思い出があるが、そんな陰の部分を演じる時は、それまでの溢れる生命力が嘘のようにしぼんでいくところが見事だった。

女王デンを演じる若村は、どこかの国にこういう女王がいるなあ…と思ってしまうほど、見た目がぴったりハマっていた。しかし、高貴な雰囲気を醸し出しつつも、どこか冷たい雰囲気が隠せないところも。それはトルの母親らしく癇癪を起すことがたびたびあり、エキセントリックに怒っているからかもしれないが、物語のキーパーソンとなるデンの企みを、若村が物語の中でじわじわと上手く演じているからだろう。

本作では、人間の欲望や愛憎というものはかくも醜いものなのか…と思い知らされる場面が多々あるが、トル、ヴィリ、デン以外の登場人物も、それぞれの欲望や愛憎に翻弄される。

トルに仕え、命令どおり実直に処刑者たちの首をはねるという辛い仕事をこなす兵士長・ツトムの高橋努、トルの妻なのに関心を持ってもらえず、イライラしている王女・ナリコの入山法子、病に伏している第一王子・ナルを尊敬しているため、トルを疎ましく思っている近衛騎士リーガンの太田緑ロランス、毎日トルの傍若無人ぶりに付き合い、のらりくらりとかわしている大臣・ドーヤネンは石田佳央、一見何も考えずお気楽な雰囲気だが、実は人妻との不倫をダラダラ続けている兵士ロキを和田琢磨。

それぞれ心の中にフラストレーションを抱えた人物を丁寧に演じていた。一途に自分の想いを通すことが、不幸につながってしまう、状況に応じて身の置きどころをうまく考える人が得をする…、なんともやるせないこの5人の登場人物が繰り広げるそれぞれの物語にも注目だ。

物語が終わった時、タイトルにある「愚かな女」が誰を指すのか、観る人によって感じることは違うことだろう。蓬莱が手掛ける大人のためのダーク・ファンタジーを多くの人に堪能してもらいたい。

【舞台挨拶】

舞台公開前に舞台挨拶が行われ、作・演出の蓬莱竜太、出演者の井上芳雄、伊藤沙莉、若村麻由美が登壇した。

──初日を迎えた今の想いと意気込みをお願いします

井上 初日はいつもドキドキしていますが、一人も欠けることなく今日を迎えられたことが一番うれしいです。まだ想像がつかないですが、完全な新作なので早く観てもらいたいと思っています。

伊藤 舞台は4年ぶりなので、シンプルに吐きそうです(笑)。この作品はとても大切だし大好きなので、たくさんの方々に観ていただきたいですし、今、この時代だからこそたくさんの方に届いてほしいと思うので精一杯頑張ります。

若村 ファンタジー初出演ですが、ファンタジーというにはあまりにも深くて、今の時代を反映しているなと感じています。蓬莱さんのワールドを楽しんでいただきたいと思います。

蓬莱 芳雄くんも言ったとおり、初日を迎えられない公演があまりにも多いこの時代で、初日を迎えられるという喜びと、演劇をやることが許されている以上、最大限遊んで、一生懸命一日一日を楽しみたいと思っています。

──蓬莱さんのオリジナルの新作ですが、あらすじを見るとかなり悲惨なお話のようです。どのようにして生まれたのでしょうか?

蓬莱 芳雄くんと沙莉ちゃんというキャラクターがあり、今はこういう時代なので、現代劇というよりはお客さんをフィクションの世界に誘いたいという気持ちがありました。芳雄くんは、プライベートでもよく知っているのですが、本当にいいヤツで、逆の芳雄くんを観客に見せたいという気持ちがありました。沙莉ちゃんはこの小さい身体のどこにそんなエネルギーがあるんだろうと思う素晴らしい女優さんですし、この二人が格闘し合えるようなシチュエーションにしたいと思い、二人が出会うところからラストまで、どうなるのか楽しんでもらえる舞台を…と思い、悲惨な話を作りました(笑)。

──井上さんは、当初からこのお話に関して蓬莱さんと一緒に話をしていたと聞いています。どんな提案を出しましたか?

井上 蓬莱さんとはPARCO劇場で4作品に関わらせていただいて、PARCOイコール蓬莱さんみたいなイメージが自分の中にあります。ちょうど1年ぐらい前、この劇場で「来年どうしようか」というお話をしたことがありました。その時は1年後どうなっているんだろうという感じでしたが、「こういう時だからこそ楽しいものがいいよね」と話していました。ファンタジーはファンタジーでも、蓬莱さんの作品なので、ただ楽しいものにはなっていないです。ミュージカルや他のお芝居では体験できない世界を見せてくれる人ですし、蓬莱さん的には、僕のフィールドに寄ってくれたという話もあるんですが、全然そんな気はしていなくて…。設定が王子ということぐらいかなと(笑)。でも、演じていくうちにこれこそ王子なんじゃないかと思っています。僕の王子役の集大成という気持ちでやりたいし、やれるのかなという気がしています。

──皆さん、初共演とのことですが、それぞれの印象をお聞かせください。

井上 沙莉ちゃんはこの小さい身体で、よく走っていて、すごく走る姿が印象的な女優さんで、なんとも形容しがたい「走ってるなー」という。走っているのを見るだけでエネルギーがもらえる人ですし、一緒にお芝居をしてもたくさんのものをくれる女優さんです。若村さんももちろんそうで、みんなと一緒に目を見ながらお芝居をすれば、きっと最後まで、絶対いけるという確信があるカンパニーです。

伊藤 芳雄さんは、私がこの作品で取材を受けている時にわざわざ挨拶に来てくださって、本当に王子さまだなと。見た目も中身も王子さまだと思うのですが、この物語の中の王子をやっているのも違和感がないです。それは傍若無人だと言っているのではなくて、切ない感じがすごく似合う人だなと。芳雄さんは笑顔も素敵ですけれど、そういうところにも注目してほしいなと思います。麻由美さんは稽古が始まったら、日に日に元気になっていった感じがします。最初はすごく静かだったけど、どんどん私たちが迷っているところに入ってきてくださって、アドバイスしてくださり、生き生きとしていく感じになって。

若村 人見知りなの。

伊藤 やっぱりそうなんですね。

井上 基本的にみんな人見知りですよね。

伊藤 そうやって、どんどん皆さんと打ち解けていけてうれしかったです。

──若村さんはお二人の印象はいかがですか?

若村 王子は王子です。首切りだろうがなんだろうが王子は王子で、蓬莱さんがおっしゃった「いいヤツ」というのがにじみ出ています。舞台にきてから、スーパースターパワーを出していますね。沙莉さんは、生きているエネルギーを感じさせてくれるヒロインですね。生命体が舞台の上を走りまわっているという。本当にチャーミングで、私は沙莉さんの声が昔から好きなんですけれど、誠実にストレートに生きている彼女にぴったりのヒロインなので、毎日二人を見て、ほのぼのしています。

──役に共感できるところはありますか?

井上 ありますね。首を切るところは共感できないですが、なぜそこに至ったかという背景もありますし、二人が決断する結末は共感します。今の年齢だからこそ分かり、重ねられるところがあると思います。自分が頑張らなきゃ、引っ張らなきゃというだけじゃなく、演劇はみんなでやっていくものなので、自分の年齢が上がってくると若い人たちに託したり、上の世代からしてもらったように、下の世代につないでいっていくことをしていかなければいけないんだなと思うような結末です。ファンタジーで、架空の国・時代の設定ではありますが、きっと観ている人それぞれに刺さる部分がたくさんある作品だと思いながらやっています。

──癇癪持ちで、傍若無人みたいなところはありますか?

井上 実際の僕には全然ないですけど、願望はあるんだなって気がします。(演じていて)すごく気持ちがいいというか。舞台上でそれをやっているので、普段はより優しくなれるかなと。役者って面白いなと思います。

──伊藤さんはどうですか?

伊藤 ヴィリの言っていることや、やっていることに違和感がないので、全体的に共有できている部分があると思います。ヴィリの家族に対しての感覚、どういう状況にあっても、家族の前では素の部分が出たりするようなところは共感しました。

──若村さんは役への共感はいかがですか?

若村 王国の話ですが、家族の話でもあって、親子の話、そして姉妹の話です。たぶんいろいろな人がいろいろなせりふに刺さるところがあると思います。私は大切な人が失われていくことに耐えきれない、ある意味悲しい母親です。(私自身は)母親ではないので、想像力でそれがどんなに辛いことなのかというのは分かります。今、こういう時代でいろいろな人とお別れをする機会が多いので、命、生きていくということを改めて考えさせられています。

──舞台セットが独特な感じがしますが、どういうシチュエーションですか?

蓬莱 ファンタジーを観に来た人には、いきなりこういうセットから始まるというのは少し衝撃的ですが、演劇の想像力の豊かさをそのまま舞台に上げたいなと思ったとき、一番良いのは稽古場をそのまま再現するということだと感じました。稽古場からスタートして、このシンプルなセットがどういうふうにお客さんにファンタジーの世界に見えていくのかという演出をしたいというのがありまして、もちろん帝国劇場とかでは絶対にあり得ないセットなので…。ここでは役者が稽古場を見ているという状態で始まり、そこから出たり入ったりするのですが、オフの役者がオンになる瞬間の姿を同時に見ることができます。こういうことをやりながら演劇というのは作っていくんだと、そして観てくれる人がだんだんファンタジーの世界に見えてくる、見えてきたらいいなという仕掛けにしているので、ここもぜひ楽しんで観ていただきたいポイントの一つです。

──役者の皆さんがずっと舞台上にいらっしゃるんですか?

蓬莱 はい。基本はずっといます。トイレに行きたくなったりしたらいなくなったりするでしょうが(笑)、基本的には、稽古場通しと同じような感じです。鼻をかんだり水を飲んだりするかもしれないし、台本をめくったりするかもしれない。それは各々の在り方で、この中の世界を見ているということになるので、そこも見どころだと思います。

──役者の皆さんもなかなか経験がないですよね?

若村 役としてずっといることはありますけど、ないです。

井上 開演前からいるんですよね。5分前ぐらいから。

蓬莱 芝居の準備を初めていく5分間なので。

若村 ちゃんと間に合うように来たのに、「あの人、遅れてきた」って他のお客さんに思われないよう、5分前から私たちが舞台上にいるということを皆さんに伝えてあげてほしいなと思います(笑)。

──歌はありますか?

井上 テーマソングみたいな歌があります。基本的に全編、BGMも含めてその曲のバリエーションなんです。すごく印象的な曲で、僕も歌っています。

──最後に井上さんが代表してメッセージをお願いします。

井上 こういう状況ではありますが、とても刺激的な作品が生まれていると思いますし、セットのアイデアも含めていろいろなチャレンジがあるので、どうお客様に届くのか、受け取ってもらえるのか、すごく楽しみです。そこで何が生まれるのかというのはお客さんが入ってみないと分からないので、決して長い公演期間でもないですし、「皆さん来てください」と大声で言える状況でもないですが、普通の声で「来てください」と言いたい作品です。
やっぱり演劇は劇場に来て、体験してもらわないと伝わらないことがたくさんあると思うので、僕たちは今日から力いっぱいこの劇場でやりますので、皆さんに会えるのを楽しみにしております。

【公演情報】
PARCO Produce 2021 『首切り王子と愚かな女』
作・演出:蓬莱竜太
出演:井上芳雄 伊藤沙莉/高橋努 入山法子 太田緑ロランス 石田佳央 和田琢磨
小磯聡一朗 柴田美波 林大貴 BOW 益田恭平 吉田萌美/若村麻由美
●6/15~7/4◎PARCO劇場
〈料金〉12,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
U-25チケット6,000円(観劇時25歳以下対象、要身分証明書、当日指定席券引換 「パルステ!」、チケットぴあにて前売販売のみの取扱い)〈お問い合わせ〉サンライズプロモーション東京 0570-00-3337(月~金 12:00~15:00)
〈公式サイト〉https://stage.parco.jp/

●7/10・11◎大阪公演 サンケイホールブリーゼ
〈料金〉12,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉キョードーインフォメーション 0570-200-888(11:00~16:00/日曜・祝日は休業)
●7/13◎広島公演 JMSアステールプラザ 大ホール
〈料金〉12,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉TSSイベント事務局  082-253-1010(平日10:00~18:00)
●7/16・17◎福岡公演 久留米シティプラザ ザ・グランドホール
〈料金〉12,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉ピクニックチケットセンター  050-3539-8330(平日12:00~15:00)

 

【取材・文/咲田真菜 撮影/加藤幸広】

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