松本白鸚・松本幸四郎襲名披露公演『四国こんぴら歌舞伎』製作発表レポート
旧金比羅大芝居「金丸座」において、第36回『四国こんぴら歌舞伎大芝居』が、本年4月11日から26日にかけて上演される。今回は平成30年から始まった「二代目松本白鸚・十代目松本幸四郎襲名披露」の最終公演、そして琴平町町政130周年記念公演となる。
演目は、第一部で墨田川続俤『法界坊』、浄瑠璃『双面水照月』、第二部では『寿式三番叟』白鸚と幸四郎の襲名披露口上、源平布引滝『義賢最期』となり、高麗屋が代々引き継ぐ『法界坊』、そして幸四郎が初役に挑み、高麗屋として初となる『義賢最期』に注目が集まっている。
この公演の製作発表が2月中旬、都内で行われ、松本白鸚、松本幸四郎、琴平町の片岡英樹町長、松竹株式会社代表取締役の安孫子副社長が登壇した。
最初に琴平町の片岡町長が、町政130周年の節目に高麗屋の襲名披露公演を行うことに期待していると挨拶。安孫子副社長は、平成30年歌舞伎座から始まった襲名興行のラストランになることにふれ、白鸚が『法界坊』で押し戻しの役で出演すること、『義賢最期』で初役に挑む幸四郎に関しては、金丸座で時代物と世話物を上演することは、これから歩んでいく道を暗示しているのではないかと述べた。
続けて白鸚が挨拶に立ち、歌舞伎座から始まった襲名披露公演から足かけ4年で金丸座に招かれ、襲名公演の最後が無事に済むことが念願だと語った。また本公演で、初役に挑戦する十代目幸四郎に対して、襲名披露公演が行われてきた4年間で大きく成長して嬉しく思うと親心をのぞかせた。
幸四郎は、9年前に『鯉つかみ』を上演した金丸座で、当時の町長をはじめ、地元の多くの人たちが裏方になり『鯉つかみ』が復活したエピソードを披露、たくさん思い出がある金丸座で襲名披露公演ができることを幸せに感じていると語った。また襲名披露興行が始まった時、父である白鸚が言った「この三代の襲名披露は奇跡だ」という言葉を出し、その意味が分かったような気がするとしつつも、奇跡が実現するのは金丸座の千穐楽だと思っていると気を引き締めた。そして、最後の襲名披露公演ということを受け、「これで引退するわけではありません」と笑いをとりつつ、今回の役はどれも憧れだった述べた。『法界坊』に関しては、小学生の頃に丁稚で出演したことにふれ、自宅の廊下を花道に見立て、芝居をしていた思い出を語った。そして片岡仁左衛門の『義賢最期』に憧れていたとし、自分の体を通して、『義賢最期』を知っていただくために一生懸命務めたいと意気込んだ。
質疑応答で、4年間の襲名披露公演で、何か変化を感じたかという質問がされた。白鸚が「歳を取りました。それが変化でございます」と笑いを誘い、「名前は変わっても芸はなかなかうまくはなりませんで、毎日一生懸命励んでおります。白鸚という名前が決まります前に、冗談半分で、これからの人生はアディショナルタイムだと申しましたが、これはバカになりませんで、70歳過ぎて初めてのお役や、20年30年ぶりぐらいのお役をやらせていただきました。つくづく白鸚になってよかったなと思っております」と笑顔で語った。
幸四郎は、「多少は幸四郎さんと呼ばれて自分のことだと分かるようになりました。幸四郎になってから、襲名披露興行以外にも舞台に立たせていただいておりますけれど、出番が多くなっている、役の数が増えているという感じはしております。自分自身はあえて変わったということは思わずに、今までがあったから、こういう大きなお許しをいただいたと思っておりますので、今までと変わらず舞台に立ち続けることができているのは、とても幸せに感じています」と語った。
父として幸四郎に変化は感じているかという質問に対しては「(幸四郎が)小さい頃は親子という感覚でしたが、今はもうございませんね」ときっぱり。「そんな気持ちでいるとどんどん蹴飛ばされて、追い越されて、そういう世界でございます。いったん舞台に立ったり、皆さまの前に出たりするときは、俳優同士でございます。先ほど幸四郎が舞台に立ち続けると申しましたが、親としてこの言葉は『なに、くそ!』という気持ちになります。とにかく負けたくないんです」と力強いコメントを発した。そんな白鸚の言葉を聞いて、幸四郎は「仲良くできればいいなあって、思います」と言い、会場の笑いを誘った。
製作発表の数日前に、二人の娘であり妹である松たか子がアカデミー賞でパフォーマンスをしたことに触れると、白鸚は「素晴らしいことだと思います。私自身も50年前にブロードウェイへ行って『ラ・マンチャの男』をやったことを思い出しました。本当にいい仕事をしてくれました」と目を細めた。幸四郎は、「すごい人だなって思います(笑)。ただ、僕の妹です! 小学生の時に芝居ごっこをやっていた時は相手役にしていましたので、彼女の芝居の原点は僕の芝居です。だからあそこにいることができるんです。…これは妹には伝えないでください」とさらに会場を爆笑の渦に巻き込んだ。
また、襲名披露公演の最後に『寿式三番叟』で翁を演じる白鸚に対して、そして『法界坊』『義賢最期』で全く違う役を演じる幸四郎に対して、現時点でどのように感じているかという質問がなされると、白鸚は、「『寿式三番叟』の翁は、新しい歌舞伎座ができたときや御園座のこけら落としで舞わせていただきました。今回4年越しの襲名の最後の公演で舞わせていただくというのは、感無量でございます」とし、幸四郎は「『法界坊』は、とても面白いというイメージがありますが、私は不思議なお芝居だと思っています。もちろん見やすくて楽しい場面はありますが、そこをいかに真面目にやるか、真面目に面白くやることに徹したいと思います。『義賢最期』は、金丸座でも上演しておりますけれど、やはり義太夫ものの重厚さ、重さ、迫力、音楽的、色彩的な美しさ、すべてが必要なお芝居だと思っています。自分自身襲名披露の演目として、やらしていただくので、これが初演といたしまして、再びこの役ができることを目標にスタートしたいという思いでいっぱいです」と答えた。
そして金丸座で初めて通しで上演する『法界坊』の現時点での構想を聞かれると、幸四郎は、金丸座のコンパクトさを逆手にとって、どうすれば近く見えるか、怖く見えるか、また面白く見えるかを研究中だと語った。
白鸚は4回目、幸四郎は5回目となる金丸座への出演だが、それぞれ想いや思い出があるかという質問に対して、白鸚は「いつも琴平町の方々には温かく、本当に歓迎をしていただいています。私は歌舞伎座で芝居をすることはもちろん好きですが、旅でお芝居をするのが大好きです」と答え、第3回公演で十七代目中村勘三郎が『沼津』を上演した際に、1カ月前に十兵衛を演じろと急に言われたエピソードを語った。その流れで、昨年の9月に幸四郎が叔父である中村吉右衛門の代役で急遽十兵衛を演じたことにふれ、「安孫子副社長が開演1時間前に十兵衛をやってくれと幸四郎に打診した際、間髪を入れず幸四郎は、『させていただきます』と言ったそうです。役をやれと言ったほうも言ったほうだけど、それを間髪入れずやりますと言ったほうも(笑)。その時に金丸座で演じた『沼津』を思い出しました」と語った。
幸四郎は、「讃岐うどんが好きなので、美味しいところを紹介していただくのですが、地元のお店は、うどんがなくなったら店を閉めてしまうので、12時か1時には終わってしまうのが残念です。もっとうどんを作っておいたらいいのに…と思うのですが(笑)」としながら、「うどんの話ばかりになってしまいましたが、金丸座は、天気の悪い時がとても印象深いです。外とは障子一枚だけで仕切られていますから、雨の音が聞こえるんです。雨の音を聞きながらお芝居をするのは初めての経験でしたので、それこそ江戸時代にいるんじゃないか、そんな気持ちになったりしました。金丸座は、ストーリーを追うだけではなくて、歌舞伎見物の空気感も楽しんでいただける空間ではないかと思っていますので、そういうのを十分に生かしたお芝居になるといいかなと思っています」と締めた。
【公演情報】
第一部
『隅田川続俤(すみだがわごにちのおもかげ)』
法界坊
浄瑠璃 双面水照月
第ニ部
一、『寿式三番叟(ことぶきしきさんばそう)』
二、『襲名披露 口上(こうじょう)』
三、『源平布引滝 義賢最期(よしかたさいご)』
令和2年4月11日(土)~26日◎金丸座
〈料金〉A席15,000円 B席11,000円 特別席17,000円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
〈お問い合わせ〉チケットホン松竹 ナビダイヤル0570-000-489(10:00~18:00)
「四国こんぴら歌舞伎大芝居」事務局 0877-75-6714
〈HP〉https://www.konpirakabuki.jp/schedule/index.html
【取材・文・撮影/咲田真菜】
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