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「良い意味でイメージを裏切る作品」 小松台東『左手と右手』松本哲也インタビュー

劇団「小松台東」の新作公演『左手と右手』が、2022年10月29日から11月8日まで、下北沢 駅前劇場にて上演される。前回公演『シャンドレ』(再演)は、停滞感・閉塞感渦巻く地方都市の日常を、哀愁漂うハードボイルドな作風で描いたが、作・演出の松本哲也によると、今作は「そのイメージを裏切る作品」になるらしい。このインタビューは、小松台東を未見の読者の為に、劇団の代名詞でもある「宮崎弁」に関する質問から訊いてみた。小松台東の、原点及び現在地を、ぜひ目撃して欲しい。

キーワードは「松本哲也が見た風景」「閉塞感」「どこか寂しげな街」

──松本さんの戯曲は全て宮崎弁で書かれているとか。

はい、自分の劇団では全編宮崎弁です。

──ご自身にとって、宮崎弁はどのようなものでしょうか?

一言で言えば「僕の身体に染み付いているもの」。僕は33歳で戯曲を書き始めたので、まず自分が体験したことをしっかり書いていこうと。それで必然的に宮崎弁になりました。僕にとって「当たり前の言葉、自然にあるもの」です。

──宮崎にいた頃と上京後で、宮崎への印象は変わりましたか?

変わりました。特に宮崎弁で台本を書くことで、より変わったと思います。18歳まで宮崎にいましたが、当時あまり感じてなかったこと、例えば閉塞感であるとか、それを文字にすることで、より強く意識するようになりました。ただ、「宮崎を出たい」とか、そういう気持ちは当時からありましたね。

──逆に、上京して「やっぱり宮崎がいいなぁ」と感じることは?

勿論あります。「地元いいな、宮崎あったかいな」に寄り添った作品もありますし。

──松本さんが描く「宮崎」とは、どんな場所と説明できます?

小松台東で書く台本は「家族の物語」か「電気工事士」という、ふたつの軸が多いんです。どちらも僕が実際に見てきた風景を描いています。僕は電気工事の現場で働いた経験があるので。そうですねぇ……、宮崎は、どこか寂しげな街、の印象かなぁ。工事現場で働いている男性の背中とか、寂しげに見える瞬間があって。

──「これは宮崎弁だからこそ描けた」という作品の一例を教えて下さい。

小松台東の作品なら、どれもそういう感じですが、でも、今回の『左手と右手』がそうかもしれない。宮崎を舞台に、宮崎弁だからこそ描けた、と思いますね。

劇中のカップルをどう捉えるか?

──では、新作『左手と右手』に関するお話を。物語の中心的存在として、吉田久美さん演じる「由美」と、松本さん演じる「誠司」のカップルが登場します。この二人の様子を俯瞰して見ることが、今作の魅力のひとつだと感じました。松本さんご自身は、このカップルをどう捉えていますか?

僕は宮崎出身なので、太平洋を見て育ったのですが、5年くらい前に初めて日本海を見たんですよ。真冬の新潟で、ロープウェイで山に登り、山頂から遠く離れた日本海を。その日は天気も悪く、暗く、静かで、少し寂しげで、まるで静止画のようでした。僕は唖然と見惚れていて、寂しさと美しさを感じました。でも、海岸近くまで降りて行けば、普通に波も立っているし、そこに暮らす人々は悲しげでもない。由美と誠司の関係は、そのイメージに近いです。遠くから見ると、暗くて悲しげな様子だけど、家の中へ入り、間近で二人を見ると、決して悲しげではない。静止画ではなく、街の人々の営みもある。

──なるほど。

一言で言うと「幸せなカップル」です。

──えっ!? 幸せですか?

本人たちも「これでいいよね? これが幸せだよね?」と思っている、むしろそう思いたい二人。外から見る人は「幸せじゃない」と感じるけれど、いざ家に入って二人に触れると、すごく信頼し合って、幸せに見える。そういうイメージ。

──松本さんは作・演出・出演と、一人三役の活躍ですね。

前回公演の『シャンドレ』もそんな感じで、芝居もそうだし、劇団としても、自ら先頭に立ってもう一段階グイッと引っ張り上げたい気持ちがあります。

──誠司役も、ある程度ご自身に当てて書いている?

そうですね。自分が演じることを想定しながら書いています。

大人の方々へ向けた作品になりそう

──ご自身は、由美と誠司の様子からどんな雰囲気を醸し出したいですか?

10代で知り合い、いま40前後になった二人なので、本当に長い付き合いなんです。ずっと一緒にいた訳じゃないし、離れた時期もあったけれど、改めてまた一緒になった。大人になり、言葉数は少なく淡々としているけれど、多くを求め過ぎず、二人静かに暮らしていこう──。そんな風に見えたらいいですね。

──その雰囲気を感じ取れる観客は、人生の挫折を経験した年齢層の方々かもしれません。

老若男女が楽しめることを意識する創作もありますが、今回は大人の方々へ向けた作品になりそう。あるいは、若い方が観て、いつか「……そういえば!」と思い出す作品になれば。

──今作で挑もうとしていること、目標にしていることがあれば教えて下さい。

そうですね……、直接的な言葉で語りかけるのではなく、ひとつの風景を見ているような、そういう上演になれば嬉しいです。

──先ほどの日本海の例えが、作品の魅力を象徴するのかもしれませんね。では最後に、この記事を読んでいる方へ、松本さんから一言メッセージを。

今回の公演チラシの印象や、近年の小松台東で僕がやっている役をご存知の方は、僕が「ものすごくひどい男」というイメージを持たれているかもしれません。そのイメージを良い意味で裏切る作品です。観劇後は「このチラシ、そういう意味か!」という着地をすると思います。それを楽しみに、ぜひ観に来て頂ければ。

■PROFILE■
まつもとてつや◯76年生まれ、宮崎県出身。劇作家、演出家、俳優、劇団「小松台東」主宰。10年に全編宮崎弁の戯曲を上演する団体を立ち上げ、13年に「小松台東」に改名。全ての公演で作・演出・出演を担う。近年は外部公演での作・演出や、俳優活動にも力を入れている。

【公演情報】
小松台東
『左手と右手』
作・演出:松本哲也
出演:吉田久美(演劇集団 円)/桜まゆみ 藤堂日向/佐藤達(劇団桃唄309)/今村裕次郎 小園茉奈 松本哲也
●10/29~11/8◎下北沢 駅前劇場
〈チケット問い合わせ〉Mitt:03-6265-3201(平日12:00~17:00)
〈公演問い合わせ〉070-8560-1703(10/29~11/8のみ)
info@komatsudai.com
〈公式サイト〉https://www.komatsudai.com/next

 

【取材・文/園田喬し 撮影/田中亜紀】

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