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4年ぶりに全国各地へ! 公文協松竹大歌舞伎東コース 尾上松緑 製作発表レポート

 大都市だけでなく、日本全国、津々浦々の公立劇場やホールを巡演する「松竹大歌舞伎(いわゆる「巡業」)」は、なかなか日常的に歌舞伎の舞台にふれる機会がない人々にとって、大きな楽しみの1つでもある。前回の巡業(公文協西コース)は2019年8~9月に行われたが、その後にコロナ禍が始まってしまい、開催のめどが立たなかった。今回、6月30日の鎌倉芸術館を皮切りに、全国21箇所で行われる松竹大歌舞伎(公文協東コース)は、4年ぶりの巡業再開となる公演である(千穐楽は7月31日の穂の国とよはし芸術劇場PLAT)。

出演は、尾上松緑をはじめ、坂東亀蔵、中村梅枝、中村萬太郎、坂東新悟、尾上左近と、若手を中心とする座組みで、演目は義太夫狂言の名作『鬼一法眼三略巻 菊畑』と、土蜘蛛退治の伝説をモチーフにした松羽目物(能や狂言を基にした)舞踊の傑作『土蜘』の2作品。どちらも歌舞伎の醍醐味あふれる、初心者も歌舞伎好きも楽しめる演目である。

6月上旬、この製作発表が都内で行われた。リーダーとなる尾上松緑、巡業を主催する公文協の岸正人専務理事、松竹の山根成之取締役副社長が出席し、それぞれの挨拶の後に質疑応答が行われた。

松緑にとってはコロナ禍が始まってから初めて東京を飛び出す公演となり、また自身の巡業も2017年以来となる。「本当に楽しみにしています。コロナが落ち着いてきて初めての公演で、声をかけていただいてありがたい。派手な演目2つなので、お客様にも喜んでいただけるのでは」と期待をふくらませた。

『菊畑』では、これまで祖父の二代目松緑も父の初代尾上辰之助もよくつとめた奴智恵内(実は吉岡鬼三太)を松緑自身も演じているが、今回は初役で鬼一法眼をつとめる。鬼一は兵法家で、風格と威厳があり、総白髪の鬘からもわかるように、歌舞伎の立役(男性の役)のなかでは老け役である。「智恵内は、演じていて気分が晴れやかになる、いわゆる気のいい役です。本来なら智恵内をやりたいが、後輩たちが第一線で活躍するようになってきた今、私たち世代が老け役に回り、歌舞伎を盛り上げていくことも大切だと思う」と、歌舞伎の将来を大きく見据える。

鬼一役については「懐が深い、かっこいいおじさんの役。本心を隠しているので、ある意味では辛抱立役(受け身を通して、肚で演じる役柄)に近いかもしれない。今はまだ歌舞伎役者としては若造ですが、10年20年後に説得力のある鬼一をつとめられるよう、勉強して、ゆくゆくは智恵内も鬼一もお客様に喜んでいただける役者になりたい」と力強く語った。印象に残っているのは、1985年11月に国立劇場で上演された『菊畑』。「(十七代目市村)羽左衛門のおじさんが鬼一、父が智恵内、(尾上)菊五郎のにいさんが虎蔵をなさった時に、出てくる登場人物が全員素敵で、私のバイブルのようなものです」と松緑。少年の頃の憧れは今も心に息づいて、新たな舞台に繋がっている。

今回は珍しく、智恵内を坂東亀蔵と中村萬太郎がダブルキャストで演じる。松緑、亀蔵、萬太郎はもちろん、虎蔵の梅枝、皆鶴姫の新悟、湛海の左近まで、主要キャストが全員初役という点にも注目したい。

『土蜘』では、今回で6回目となる僧智籌(ちちゅう)(実は土蜘の精)。「歌舞伎座でも何度もやらせていただき、松緑襲名でもつとめさせていただいた。師匠である菊五郎にいさんに初めて巡業に連れて行っていただいた時にされていた演目で、とても心に残っていて、自分がリーダーで巡業をする時は絶対に上演したいと思っていた」と、念願が叶った形だ。作品の魅力を尋ねられると、「頼光はずっと品位を保ちながら舞台を進行する、胡蝶は女方の踊りを見せるなど、登場人物それぞれに見せ場があり、最後にはモンスターの土蜘が正義の味方によって退治される物語です。最後まで観て、すっきり気持ちよく帰っていただけると思う」と答えた。

『土蜘』は、祖父は本興行で(戦後)16回も演じた当り役。父も数回つとめ、松緑家三代に受け継がれた代表作ともいえる舞踊だ。祖父最後の『土蜘』は1984年11月の歌舞伎座で、当時9歳の松緑は、二代目左近として太刀持の役で共演している。ただ、祖父も父も早くに亡くしたため、稽古をつけてくれたのは菊五郎である。「今月の狐忠信(『義経千本桜 川連法眼館』)も『土蜘』も、若い頃からにいさんに本当に手取り足取り教えていただいた、大切な役の1つです」と、感謝を口にした。『土蜘』の役について「最後の派手な立廻りもあるし、前シテの僧に化けている間の妖気、殺気が難しい。また、蜘蛛の糸を撒くテクニックも必要です。(共演者の)皆さんと相談しながら、お客様に喜んでもらえるような芝居作りを目標にしたい」と語った。

この日、都内の八王子から北海道、福井県、岡山県など、巡業先の各地からも報道陣が詰めかけた。ご当地にまつわるエピソードや、公演を楽しみにしている観客へのメッセージなどの質問が寄せられ、巡業を心待ちにしている、わくわくムードが感じられる製作発表となった。

 

【公演情報】

令和5年度 (公社)全国公立文化施設協会主催
東コース
「松竹大歌舞伎」
2023年6月30日(金)~7月31日(月)巡業

鬼一法眼三略巻
一、菊畑(きくばたけ)

吉岡鬼一法眼 尾上松緑
奴智恵内実は吉岡鬼三太 坂東亀蔵(Aプロ)/中村萬太郎(Bプロ)
笠原湛海 尾上左近
皆鶴姫 坂東新悟
奴虎蔵実は源牛若丸 中村梅枝

河竹黙阿弥 作
二、新古演劇十種の内 土蜘(つちぐも)

叡山の僧智籌実は土蜘の精 尾上松緑
源頼光 中村梅枝
渡辺源次綱 中村萬太郎
坂田公時 尾上左近
侍女胡蝶 坂東新悟
平井保昌 坂東亀蔵

※『菊畑』の交互出演 【Aプロ】初日より7月15日(土)公演まで 【Bプロ】7月16日(日)公演より千穐楽まで
〈料金〉会場ごとに異なります。会場およびチケットWeb松竹でご確認ください。
〈お問い合わせ〉チケットWeb松竹の取り扱いがあるものは03-3545-2200、その他は各会場にお問い合わせください。
〈公式サイト〉https://www.kabuki-bito.jp/theaters/jyungyou/play/817

 

【文/内河 文 写真(C)松竹】

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