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文学座公演『ウィット』間もなく開幕! 木場允視インタビュー

文学座ではアメリカの作家マーガレット・エドソンによる『ウィット』を、6月5日~13日、紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYAで上演する。

本作は1995年にアメリカ・カリフォルニア州にて初演、1998年にはオフ・ブロードウェイで NYデビューを果たし、翌年にはピューリッツァー賞を受賞している。

内容は末期癌を宣告された厳格な英文学教授・ビビアンと、彼女を取り巻く医者、看護師たちの物語で、ビビアンは入院生活の中で、これまでどう生きてきたか、そして今をどう生きるかを反芻する。

日本でも2人に1人が癌を患う時代であり、また新型コロナウイルス感染症が蔓延し、「生と死」を意識せざるを得ない中で、科学の進化とともに高度化する現代医療、そして “尊厳死“という深淵なテーマなどが問いかけられる。また劇中では、ビビアンが研究する17世紀の孤高のイギリス詩人、ジョン・ダンの詩について語られるとともに、アイロニーに満ちたセリフやシチュエーションが随所にちりばめられている。

この物語の中で、ビビアンの医療チームの一人として登場する医療腫瘍学の臨床助手、ジェイソン・ポスナーを演じるのが木場允視。文学座の次世代を担う1人として期待されている木場に、作品の内容と役柄などについて、稽古入りしたばかりの時期に話してもらった。

医学用語は現役の専門医のレクチャーを受けて

──最初にこの作品に出会ったときの印象はいかがでした?

医学の話と英文学の話、詩や宗教のことなどが出てきて、日常であまり触れることのないジャンルばかりでしたので、どんな舞台になるか想像がつきにくいというのが第一印象でした。またビビアンの研究テーマであり、ビビアンの死生観のベースになっているのが、英国の形而上的な詩人として知られるジョン・ダンで、劇中でもソネットの「死よおごるなかれ」が引用されたりしますが、僕は馴染みのない人だったので、今、彼の詩などを読んだり、もっとよく知ろうとしているところです。

──木場さんが演じる臨床助手のジェイソン・ポスナーは、かつてビビアンの教え子でもあったのですね。

ジェイソンが学んでいた大学では、医者を目指していても文学などの単位を取ることも重要で、ジェイソンはビビアンの英文学のクラスも受講していて、とても優秀で成績もよかったんです。ジョン・ダンについての講義も受けていて、ジェイソンなりに彼の詩に対する見解も持っています。茶化して「いかれたソネット」と言ったりもしますが、最終的にはシェイクスピアよりも評価していて、そういう部分も含めてジェイソンはなかなか面白い人間だと思います。

──ジェイソンという人が木場さんと重なる部分などは?

重なる部分はあまりない気がしますが、年齢も近いですし、まったく想像がつかないという人ではないです。ただ医者の役はこれまで演じたことがないので、今まで自分のやってきた役とは違う新しいアプローチが必要だと感じています。

──ジェイソンは臨床助手ですが、医療腫瘍学の研究者でもあるのですね。専門用語などが難しいのでは?

やはり学術用語は難しいです。でもそれについては稽古場に現役の専門医の方に来ていただいて、直接レクチャーしていただいたので、少しはわかるようになりました。その来てくださった方が、日本の有名な大学の医学部を卒業してからハーバード大学に行かれたという方で、すごく知的なんです。言葉とか受け答えに落ち着きとか冷静さがあって、へんな頭でっかちではない本当の頭の良さがあって、なるほど知的というのはこういうことなのだなと。いろいろ参考になることが多かったです。

研究者という意味では、共感する部分もある2人

──この作品では、末期癌のビビアンが亡くなるまでの2時間の中に、彼女の回想や病院での生活が描かれますが、医学用語だけでなく、そこに人間の「生と死」を読み解くための文学や哲学の話も出てきて、演劇とも遠くない世界だなと。

そう思います。詩の解説で「カンマ」や「感嘆符」「間(マ)」の話などが出てくるところなどは、演劇の表現にも通じるものを感じますし、また、ビビアンがジョン・ダンの詩について引用するときは、そのまま「生と死」について考えさせられます。とくに印象的なのは、「死よおごるなかれ」の最後に「短いひと眠りが過ぎ、私たちは永遠に目覚める そして死はなくなり、死よお前は死ぬ」という一節があります。ビビアンは、「死んだら魂が解放されるから、もう死ぬことはない、死の負けだ」と解釈していて、それを心の支えにしているのですが、本心からそう思っているのか、強がりなのか、そのどちらにも捉えられるような気もしています。

──ビビアンとジェイソン、2人だけの場面が多いのですが、形而上的な詩という精神世界の研究者と、腫瘍学という科学の研究者という意味では、扱う世界は対照的ですし、解り合えないような2人ですが、ともに知の探求という意味では共通する気もしますね。

この作品のタイトル『ウィット』は、知性とか知的才能という意味で、ジェイソンはあまりコミュニケーションがうまくない人に思えますが、ウィットは持っていると思います。それにビビアンとの関係ではボタンの掛け違いもあるけれど、それぞれ腫瘍学と詩を深く追求しているという意味では、共感する部分もあったと思います。そして、死を目の前にしたビビアンも、ジェイソンについて理解しようと歩み寄ることもあったのではないかと。それをジェイソンがどう感じとっていたのか、演じる側としてもっと考えていきたいです。この作品はストーリー自体はよくある話といいますか、そんなに特殊ではないのですが、その中にとても複雑な関係だったり、感情だったりが織り込まれているのを感じます。

──ジェイソンとビビアンも、患者と医師、教師と生徒、研究対象であり人間同士でもあって、いろいろな関係性が瞬間瞬間に出てくるのでしょうね。

そのことは演出の西川(信廣)さんが、ジェイソンについておっしゃっていました。「一面的な人間に見えないように」、「患者をモノ扱いする冷たいだけの人間には見せたくない」と。ジェイソンがビビアンを尊敬しているのは本当だし、ジョン・ダンを評価しているのも本当で。それは戯曲全体にも言えることで、一面的には見せたくないし、多面的に見えないとこの作品の本当の意味が伝わらないと。

尊厳死は自分が決断を下す立場になったら難しい

──ビビアン役の富沢亜古さんについても話していただきたいのですが。

とにかく膨大な量の台詞ですし、一度舞台に立ったらずっとそこにいる役なので、すごく大変だと思います。でもそこに僕も追いついていかなくてはという意味では、ちょっとプレッシャーもあります。そしてサポートというとちょっと違うのですが、舞台上でちゃんと力にならないといけないと思っています。2人だけの場面では一緒にその空間を支えていかないといけない。そこはがんばらないといけないなと。また、稽古していく中で、この芝居の構造を改めて考えたりすると、質として繊細に作っていきたいなと思います。僕はこれまでけっこう過剰だったり、わかりやすい芝居をするタイプだったのですが、もっと相手の細かい目線とか表情に、敏感に反応していかないとこの作品はだめだろうなと。そこを亜古さんと一緒につくっていければと思っています。

──この作品には尊厳死の問題も出てきますね。

自分ならどうしたらいいんだろうと考えさせられます。自分自身ならそれもありだと思えても、自分の大切な人がそうなった場合、そして自分が決断を下す立場になったら、どうするか。難しいですね。西川さんはヨーロッパでは医者が決めるとおっしゃっていて、家族には決めさせないと。そのほうが遺族の心のダメージは少ないそうです。

──ビビアンも一度は迷いますが、尊厳死を選びますね。そして最期を迎えますが、そのシーンでジェイソンが日頃の冷静さを失う場面があります。彼の心の何がそうさせたのかなと。

研究対象を失うことへの焦りなのか、あるいは教師でもあった1人の人間を失う動揺なのか、その時の彼の気持ちについてはいろいろ考えています。たぶん初日にはその答えは自分の中に出ていると思いますが。あとは観た方それぞれに考えていただければいいかなと思っています。

稽古場は極端に言えば何をやってもいいところ

──最後に木場さん自身についても話を聞きたいのですが、2011年に文学座に入所、2016年には座員に昇格という順調なコースを歩いてきましたが、文学座に入ってよかったことは?

僕は文学座に入る前に5年ぐらい小劇場に出ていたのですが、ちゃんと演劇の勉強をしたいと思って文学座の研究所に入ったんです。そしてすごい衝撃を受けました。たとえば高瀬久男さんに教わっていた台本の分析、そのときは松田正隆さんの書いた『坂の上の家』だったんですが、その授業が刺激的で鳥肌が立つぐらいの感覚で。それから先輩たちと芝居するとそこからも沢山教わることがあって。その頃に学んだことは全部面白かったし、どれも大事なことを教わったと思っています。

──今では劇団公演だけでなく外部でも活躍していますが、木場さんにとって文学座というところは?

外部でいろいろなジャンルの舞台に出て、自分の演技にしろ見せ方にしろ、どこまでやっていいのか、これ以上やると品がなくなるとか、そういうことの基準になるのがやっぱり劇団なんです。劇団の稽古場って極端に言えば何をやってもいいところで、そこでいろいろ試せる。それは劇団のみんなの共通認識でもあるし、それが劇団の歴史というものかなと思っています。

──個々の個性も生かしながら伝統も伝えていくところなのですね。劇団の次世代を支える1人とも言われています。

少なくとも僕が生きている限りは、文学座はあってほしいと思っていますし、もう演劇界だけの財産ではないものになっていると思いますので、僕たちの時代に無くすわけにはいきませんからがんばります。

──最後に『ウィット』を観にきてくださる方たちにメッセージをいただければ。

癌患者の主人公が亡くなるまでの話ですが、核にあるのは人と人とのコミュニケーションの話だと思います。生と死について、医学、文学、詩、いろいろな言葉が語られています。観にきてくださった方の気持ちを引き上げるものがきっとある作品だと思います。劇場でお待ちしております。

こばまさみ○1984年生まれ、東京都出身。08年『i/c(アイ・シー)』(innerchild)で初舞台、小劇場などでの活動を経て、2011年に文学座研究所入所(第51期)。16年4月、文学座座員となる。これまでの主な舞台は、『真田風雲録』(09年さいたまネクスト・シアター)『カッコーの巣の上で』(14年ホリプロ)『リア王』(15年アトリエ) 『マッシュ・ホール』(15年日本劇団協議会) 『明治の柩』(15年文学座本公演) 『ドリアン・グレイの肖像』(15年松竹) 『桜の園』(15年新国立劇場)『キャベツの類』(16年かまつか) 『マクベス』(16年クオラス) 『かまつかのオイディプス王』(16年かまつか)『メカニズム作戦』 (17年日本劇団協議会) 『愛の眼鏡は色ガラス』(17年笛井事務所) 『再びこの地を踏まず-異説・野口英世物語-』(18年文学座地方公演) 『クイーン・エリザベス-輝ける王冠と秘められし愛-』(19年松竹) 『十二夜』(20年ワタナベエンターテインメント) 『ガールズ イン・クライシス』(20年文学座アトリエ)など。

【公演情報】
文学座公演『ウィット』
作:マーガレット・エドソン
訳:鈴木小百合
演出:西川信廣
出演:新橋耐子、富沢亜古、張 平、斎藤志郎、内藤裕志
木場允視、杉宮匡紀、西村知泰、川合耀祐
●6/5~13◎紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
〈料金〉一般6,200円 夜割4,500 円[6/5・6/8夜のみ](全席指定・税込)
夫婦割11,000円 ユースチケット(25 歳以下対象)3,800 円 中高生2,500円
※ユースチケット・中高生は観劇当日、年齢が確認できる証明書等を要提示
〈お問い合わせ〉文学座 03-3351-7265(10:00~18:00 日祝を除く)
〈文学座チケット専用ダイヤル〉0120-481-034(シバイヲミヨー)(10:00~17:30日祝を除く)
〈公式サイト〉http://www.bungakuza.com/wit/index.html

●6/19◎長岡リリックホール
〈料金〉一般 3,000円(全席指定・税込)
〈お問い合わせ〉(公財)長岡市芸術文化振興財団 0258-29-7715

 

【取材・文/榊原和子 撮影/友澤綾乃】

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