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堂本光一&井上芳雄 二大スターがより深い信頼で紡ぐ『ナイツ・テイル─騎士物語─』レポート!

2000年から唯一無二のミュージカル『SHOCK』の主演者として帝国劇場の舞台に立ち続けている堂本光一と、同じく2000年に『エリザベート』のルドルフ役で帝国劇場に鮮烈デビューを飾ったのち、現在もミュージカル界のトップランナーとして輝き続ける井上芳雄の、初共演作品として大きな話題を投げかけたミュージカル『ナイツ・テイル─騎士物語─』再演の舞台が、二人がそもそもの縁を結んだ帝国劇場で上演中だ(7日まで。のち11月13日~28日、博多座にて上演)

ミュージカル『ナイツ・テイル─騎士物語─』はシェイクスピア最後の作品として知られる「二人の貴公子」(共作・ジョン・フレッチャー)を基に、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの名誉アソシエイト・ディレクターであり、『レ・ミゼラブル』初演を演出した世界的演出家ジョン・ケアードが、堂本光一と井上芳雄という二大スターを得て、2018年に帝国劇場で世界初演を果たしたミュージカル。そもそも堂本と井上の夢のタッグの為に創作された作品だが、そこから更に、演劇の豊かさのなかで、戦ではなく愛によって連帯しようという崇高なテーマが描かれていく。

【STORY】
テーベの騎士で従兄弟同士のアーサイト(堂本光一)とパラモン(井上芳雄)。テーベ王の伯父クリオン(大澄賢也)に仕える二人は、熱い友情を誓い合い、騎士としての誇りと名誉を何よりも重んじて生きていた。

その頃敵国アテネでは、アマゾネスの女王ヒポリタとの戦に勝ち、降伏したヒポリタを妻に娶るため故国に戻ろうとしていたアテネ大公シーシアス(岸祐二)が、テーベ王に無残にも夫を殺された三人の王妃の嘆願を受けて、テーベとの戦に乗り出していた。

クリオンの暴虐を実は苦々しく思っていたアーサイトとパラモンだったが、主君に忠誠を誓う騎士として勇猛果敢に戦さのなかへと進んでいく。やがて雌雄を決する壮絶な戦いのなかでクリオンは敗れ去り、アーサイトとパラモンもアテネの捕虜として、牢獄に囚われの身となる。

それでも互いに励まし合いながら日々を送っていた二人は、ある日牢獄の窓から中庭を散策するシーシアスの美しき妹・エミーリア(音月桂)を見かけ、同時に恋に落ちてしまう。折も折、親族が身代金を支払ったアーサイトは牢獄を解かれ国外追放の身となった。別れを惜しむ二人だったが、アーサイトはアテネに残るパラモンがエミーリアに近づくのではないか、パラモンは祖国に戻ったアーサイトが軍を進めてアテネに攻め込み、エミーリアを奪うのではないか、との猜疑心に苛まれながら別々の道を歩むことになる。

テーベに戻る道中、アーサイトは森の楽団を率いるダンス指導者ジェロルド(大澄・二役)に出会い、一座がエミーリアの誕生祝賀の出し物の稽古をしていると知るや、千載一遇のチャンスと名を偽り、ダンサーとして一座に加わる。同じころパラモンは、食事の世話をしてくれている牢番の娘(上白石萌音)の手引きで牢獄を脱出する。牢番の娘は命の危険を冒すほどにパラモンに恋い焦がれていたのだ。

一方、エミーリアの誕生祝賀の席でこの日一番の踊り手に選ばれたアーサイトは、ヒポリタの計らいもありエミーリアの従者に取り立てられ、狩猟の供として森に出る。そこにパラモン脱獄の報が届き、シーシアスたち一行は懸命に森を探索する。自分が誰よりも先にバラモンを探し出さねばと森を駆けたアーサイトは、パラモンと遭遇。ひとまず身を隠させることに成功するが、事態を知らぬ牢番の娘は、パラモンが自分を捨てて逃げたと誤解し、ショックのあまり正気を失ってしまう。

様々な人々の思いが交錯するなか、無二の友であると同時に、恋敵となったアーサイトとパラモンは、どちらがエミーリアを得るにふさわしい男かを決する為、愛と名誉と命を賭けた決闘に挑もうとするが……

2018年にこの作品が帝国劇場で世界初演の幕を開けた時の、新鮮な驚きと感動はいまも忘れ難い。シェイクスピア最後の作品として知られ、その弟子であるジョン・フレッチャーとの共著とされる『二人の貴公子』をベースに、彼らが原作にしたジェフリー・チョーサーの『騎士の物語』、そしてチョーサーが材を求めたジョヴァンニ・ボッカッチョの『Teseida』までを物語の視野に収めたジョン・ケアードの作劇と演出が、二大スターの夢の共演に沸き返っていた客席に届けたのが、ある意味非常にアナログな演劇要素がふんだんに盛り込まれたものだったからだ。

キャンプファイヤーの焚火を模した火を囲んで、登場人物たちが「この物語の結末を見つけ出すのには、あなたがたの協力が必要だ」という趣旨の歌を客席に歌いかけてくる冒頭から、舞台は緻密に手が混んだ作りでいながら、森の木々、エミーリアの庭の花々などを役者たち自らが運び動かしていく、演劇的な想像力に訴える部分をも多く含んでいた。特に、主人公の二人の騎士が纏う甲冑からインスパイアされたのだろう装束や、騎馬戦を思わせる戦い方、和楽器を取り入れた楽曲など、ロンドンを拠点とする演出家のジョン・ケアードと、ニューヨークを拠点とする作曲家のポール・ゴードンが、日本人キャストで世界初演を果たす作品だからこその、海外の目から見た日本のエキゾチックが強烈に感じられる作りが非常に新鮮だった。

そんな初演から2年、2020年の夏、作品はオーケストラの生演奏によるコンサートバージョン、ミュージカル「『ナイツ・テイル』inシンフォニックコンサート」として登場する。言うまでもなく世は、信じ難い速さで世界を覆った新型コロナウィルス禍の只中。肩を組み、共に歌い、笑い、戦った二人の騎士が舞台上で手も取り合えないという状況のなかで、オーケストラによる華麗なオーバーチュア、アーサイト、パラモンに用意された新曲と、演劇界が大きな打撃を受けるなかでも、作品が歩みを止めていないこと。とりわけ、堂本と井上が互いに触れ合えない演出にもかかわらず、それと気づかせないほどのコンビネーションを発揮する様に、どれほど勇気づけられたか知れない。

だからこそ、2021年ついに再び帝国劇場に帰ってきたこの作品で、コンサートバージョンから出発したオーバーチュアが、様々に角度を変えて舞台を映し出す照明効果と共に奏でられ、懐かしい装束の登場人物たちが次々に現れて「もうあなたたちは話のなか」と歌いかけてきた瞬間から、涙腺が怪しくなるのを止められなかった。演劇の力を最大限に信じて、エンターティメントに昇華させている作品が、こうしてまたフルコスチューム、フルバージョンで再び観られるのだという喜びには、代えがたいものがあった。

しかも、コンサートバージョンを経て1年、作品は更に前へと進んでいた。非常に乱暴なまとめ方をするなら、初演の『ナイツ・テイル』は、名誉に囚われ、それのみに命を賭ける男の単細胞さを、女性の機智と愛が救い、幸福な大団円をもたらす物語だった。その根本が変わった訳ではないながら、この再演の舞台では二人の騎士アーサイトとパラモンをはじめとした男性たちも複雑さを増し、それぞれに悩み、考えながら新たな価値観を見出すに至る面が深まっている。これによって男性が、女性がではなく、人が闘いを捨て愛によって連帯していくという、新たな価値観を共有していく世界観が広がったのは大きな深化だった。それはパンデミックによって引き裂かれた世界の断裂にとって、もっとも必要な視点で、2021年の世界を想像すらできなかった2018年に生まれた作品が、時代を生きていることの尊さを表出したものだった。

その深化に呼応したアーサイトの堂本光一が、グランドミュージカルに相応しい発声と歌唱法を初演からの日々で着実に会得しているのが、作品全体の完成度を高めている。ここがしっかりと定まったことで逆に、アーサイトの新ナンバー「贈り物」に、アーティストとしての堂本に非常によくあった、ダンサブルなアレンジがなされていても、作品世界から決して浮かない。むしろアーサイトのエネルギーや、機転の利く性格を効果的に表しているのに心躍った。しかもこと改めて言うことではないかもしれないが、堂本のスターたる由縁である、キラキラした存在感。どこにいて何をしていてもまるで本人が発光しているような力が、舞台を更に輝かしいものに押し上げている。

一方のパラモンの井上芳雄も、新曲の「悔やむ男」がよりドラマチックなミュージカルナンバーになり、エミーリアへの思いだけに向けられていたパラモンの思考が、牢番の父親までをも危険にさらしてまで、自分を助けた牢番の娘に想いが至る流れが明確になった。これによってパラモンの人物像がより人間的に映り、これぞミュージカル!と正面から聞かせる歌唱も心地良い。それでいてどこかで軽やかな笑いの要素も手放さない井上の個性が、絶妙のバランスを生んでいる。

わけても「自分はかすり傷だがお前の怪我は深いのではないか?」とお互いがけん制し合う冒頭から、二人が共にいるだけで舞台が快く弾むのが、二大スター共演の醍醐味を深める。「囚人の歌」「宿敵がまたとない友」など、二人が歌い合うナンバーがもたらす楽しさは、なんとも格別なものだ。

そんな二人の運命を担うアテネ大公シーシアスの岸祐二も、葛藤を越えて、固く守られていた伝統、信じていた価値観を見直す勇気を持った男を、大きな造形で演じている。今回の上演に際して更に追加された新曲「妹よ」の歌声も堂々たるもので、非常にウィットに富んだ開演アナウンスも担当しているが、そうした岸の持つしゃれっ気と、威厳ある舞台姿のギャップも面白かった。

そして、初演では、すべてのドラマをさらっていくのはヒポリタだと感じたほどの島田歌穂の存在感に、エミーリアの音月桂と、牢番の娘の上白石萌音が拮抗してきたのが、舞台の彩をより深くしている。音月の二人の騎士にひとめ惚れされるに相応しい美しさと共に、大公の妹として定められている運命に抗う強い意志が前面に出るようになったからこそ、「見栄えがいい」とアーサイトに寄せる感想や、二人への評価の鋭さが微笑ましい可笑しみにつながっている。牢番の娘の上白石も、ビジュアル全体から醸し出されるひたすらな可憐さのなかに、思いの強さや信念が真っ直ぐに表現され、だからこその悲嘆にも、また高貴な騎士であるパラモンと自分の身分の違いに持つ諦観にも、思いを寄せ応援したくなる娘になった。

もちろん、アマゾネスの女王ヒポリタの島田歌穂の、終幕を浚う堂々とした歌唱と、切れ味鋭い思考が垣間見える女王としての駆け引きが、作品全体の大きな見どころなのは揺るぎもなく、『レ・ミゼラブル』オリジナルキャストとして、ジョン・ケアードにある意味見出された、ミュージカル俳優としての島田のキャリアの貫禄は、別次元を感じさせるほど。一方、テーベの王クリオンと、森の楽団のダンス指導者ジェロルドを二役で演じる大澄賢也の、全く色あいの異なる役柄を実に楽し気に演じる姿も演劇の祝祭に満ちている。如何にもシェイクスピアの言葉遊びによる演説も軽妙で、作品の世界観を端的に表している「ひーふーみーよー」というダンスのカウントの取り方が耳に残るのも、大澄のダンス力に裏打ちされた軽妙さ故だろう。

他にもシーシアスの副官ピリソスの中井智彦の誠実さにあふれる演じぶりや、シェイクスピア特有の森のなかの神秘を象徴する牡鹿の松野乃知、そもそも物語を運ぶ三人の王妃の折井理子、七瀬りりこ、水野貴以をはじめ、メンバー全員が舞台に放つ熱量が実に大きい。初演でやや日本人の美意識とは離れるかもしれないと思わせる部分もあった美術面も、非常に観易く変化していて、日本、英国、米国のパフォーミングアーツの才能が揃って生み出した作品が、確実に時代を共に生きながら深化していることに熱い感動を覚えるステージになっている。

【公演情報】
ミュージカル『KNIGHTS TALE─騎士物語─』
原作◇ジョヴァンニ・ボッカッチョ「Teseida」ジェフリー・チョーサー「騎士の物語」ジョン・フレッチャー/ウィリアム・シェークスピア「二人の貴公子」
脚本・演出◇ジョン・ケアード
音楽・訳詞◇ポール・ゴードン
日本語脚本・訳詞◇今井麻緒子
振付◇デヴィッド・パーソンズ
出演◇堂本光一 井上芳雄
音月桂 上白石萌音 島田歌穂 岸祐二 大澄賢也 ほか
●10/6~11/7◎帝国劇場
〈料金〉S席14.500円 A席9.000円
〈お問い合わせ〉 東宝テレザーブ 03-3201-7777
●11/13~28◎博多座
〈料金〉S席15.500円 A席9.000円
〈お問い合わせ〉https://hakataza.e-tix.jp/pc/hakataza.html

 

【文・橘涼香】

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