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「キ上の空論」10周年記念公演『幾度の群青に溺れ』中島庸介・高柳明音・町田慎吾 インタビュー

中島庸介が主宰する演劇ユニット「キ上の空論」が、10周年記念公演『幾度の群青に溺れ』を7月5日(水)~9日(日)東京・紀伊國屋ホールにて上演する。

本作は高柳明音と町田慎吾をW主演に迎えて描く、実在の事件から着想を得た物語だ。人を眠らせる成分の入った唾液の持ち主であるという“秘密”を持つ川辺タイラを高柳、ストレス性の胃痛を抱えたホストクラブの店長・太田マドカを町田が演じ、とある宗教団体をめぐる事件や、その教団に入信したマドカの旧友など、様々な人物や事柄が複雑に絡み合っていく。

本作の上演に向けた思いを、作・演出を担う中島庸介、W主演の高柳明音と町田慎吾に聞いた。

中島庸介 町田慎吾 高柳明音

旗揚げ10年でたどり着いた紀伊國屋ホール

──「キ上の空論」10周年を迎えた率直なお気持ちをお聞かせください。

中島 あっという間でしたね。無我夢中でやってきたので、気持ち的にはまだ4、5年ぐらいの感覚ではあるんですけど。これまで支えてくれたスタッフやキャストの皆さんに本当に感謝ですね。

──10年やってきた中で、続ける大変さを感じることはありましたか。

中島 それはありましたけど、でもそれ以上に目標があったというか、2015年くらいから「ここに立ちたいぞ」と思った劇場全部でやろう、と思うようになって、自分の中ではそのゴールが本多劇場と紀伊國屋ホールだったんです。昨年『朱の人』という作品で本多劇場に立つことができて、今回紀伊國屋ホールでやることになって、旗揚げ10年でやっとゴールできたな、という感じです。

──旗揚げ公演のタイトルが『空想、甚だ濃いめのブルー』でした。今回のタイトルにも青色が入っていますが、その理由を教えてください。

中島 個人的に青色と赤色が好きなんです。青はだだっ広いイメージがあって、第1回とか節目になるようなタイミングで「青」を使うようにしてきました。実は、今後はタイトルに色を使うという縛りはなくそうと思っているんです。色の印象ってとても強くて、これまではそれで良かったんですけど、最近はもっと身近で素朴な作品を描きたい、という気持ちが強くなってきたので、多分今後は内容とタイトルの相性が悪くなってくると思って、これを機に変えていこうかなと。

3人とも人見知りで親近感がわいた

──今回の作品で、高柳さんと町田さんに主演を依頼した理由を教えてください

中島 今まで僕1人でやってきたわけではなくて、いろんな人にお世話になって10周年までたどり着いたので、ご縁があった方にお願いしたいという思いが強くありました。町田さんは今回で3回目の出演なのですが、また絶対一緒にやりたいと思っていたのでお声掛けしました。高柳さんは僕の大好きな演出家が「すごくいいよ」と褒めていたということと、高柳さんのマネージャーさんとは以前から知り合いで、これもご縁だなということでお声掛けしました。

──今作に声をかけられたときのお気持ちを教えてください。

高柳 お声をかけていただいたときは、まだどういう物語になるかわかっていなかったのですが、でも10周年という記念の公演に呼んでいただいて嬉しかったですし、私のマネージャーさんが過去に中島さんの作品を見てすごく面白くて、高柳にも出演してほしい、と思っていたとも聞いて、ぜひ!とお受けしました。

──中島さんとは初めてご一緒するということですが、やはり最初は緊張しましたか。

高柳 「はじめまして」も「お久しぶりです」も、どっちも緊張するんです(笑)。

中島 それ、めっちゃわかります(笑)。僕の印象としては、高柳さんはすごく喋りやすい方ですね。

高柳 今回は稽古の顔合わせが初対面ではなくて、その前に3人でインタビューを受けていたんです。そのときに3人とも人見知りだということがわかって、逆に親近感がわいて仲良くなれたかな、と思います。

──町田さんは今回でキ上の空論には3回目の出演ということで、中島さんの作品の魅力をどのように感じていらっしゃいますか。

町田 中島さんにしか作れない作品だということをすごく感じました。そういう作品に出演することができて自分自身にとって良い経験にもなったし、楽しかったですね。中島さんには「またぜひ一緒にやらせていただきたいです」と話していたので、今回10周年で呼んでいただいて嬉しいのと同時に、紀伊国屋ホールが目指していた場所だと聞いてプレッシャーも感じています(笑)。

──高柳さんと町田さんは今回が初共演となりますが、お互いの印象はいかがでしょうか。

町田 柔らかい方だなという風に思っています。

高柳 柔らかい方だな、と私も思っています(笑)。

中島 確かに2人とも柔らかい方ですね。

──柔らかいというのは、具体的にはどういったところでしょうか。お互いの演技に柔軟に対応していけるとか。

中島 もちろんそれもありますし、2人とも演出意図とか、作品の中の自分のポジションとかを意識してやる方なんです。俳優にもいろいろなタイプがいて、自分の役だけを考えている俳優もいるんですけど、どちらかというと2人はそうではなくて、自分がこの舞台にどうやって立つかということを、全体を見て考えているような感覚があるので、すごく素敵です。

リアルとファンタジー、そのバランスは?

──今作で中島さんは“集団”を描きたいという思いがあったとうかがいました。この10年、公演ごとに座組という“集団”を率いてきた、ということも関係しているのでしょうか。

中島 演劇をやっていて思うのは、集団で一つのところに向かうということは、集団の中に入ってしまえば楽しいんですけど、俯瞰すると怖い部分もあると思うんです。ちょっと狂気性みたいなものが演劇にはあって、日常では出さないような大きな声を出すとか、役にスイッチを入れて演じるとか、それを団体でやるということを俯瞰したときの狂気性みたいなものが、ずっと自分の中に引っかかっているといいますか、そこが見ていて面白がれる部分なのかもしれないな、という思いがありました。

──リアルなストーリーかと思うと、ちょっとファンタジー的な設定も登場します。リアルとファンタジーのバランスというのは意識されている部分でしょうか。

中島 僕は、なるべくリアルな作品を描きたいという思いがベースにあるんです。今回実在した事件をモチーフにしていて、でも若い子は知らないだろうし、僕も当時10歳くらいであまり現実味がないんですよね。実際の出来事だけど、一歩俯瞰するとそれはどこか他人事だし、ファンタジーのような曖昧なものだけど、気がついたらすぐ隣にあって日常の世界を侵食している恐怖みたいなものを描きたい、という感覚で今作を書きました。

──高柳さんのタイラという役が、唾液に人を眠らせる成分がある、という設定からまず驚きました。ご自分の役についてどのような感想を抱きましたか。

高柳 台本を読むより先にその設定を聞いたので、どういうことだろう?と思いました。最初はそれこそファンタジーなのかなと思ったのですが、台本を読んだらむしろリアルで、人は目に見えないものに怯えているな、と思いました。例えばネットの情報に踊らされてしまうようなことが世の中にはたくさんあって、そうした人間の良さでもあり醜さでもあるようなところを描いている作品だと思います。

──町田さんの役は、マドカというホストクラブの店長、しかも源氏名が“マッチー”という。

中島 ふざけて書きました(笑)。

──普段から“マッチー”と呼ばれることが多いのでしょうか。

町田 応援してくれている人からは「町田さん」と呼ばれることが多くて、それこそ中島さんとかお仕事でご一緒する方から「マッチー」と呼ばれています。でも、最初に台本を読んだときは「太田マドカ」と書いてあったので女性だと思って、だから「自分の役はどれなんだろう」と考えてしまいました(笑)。情報解禁されたときに初めて自分が主演だということを知ったんです。

高柳 私もそうです!「え、私、主演なんですか?」って(笑)。

町田 「W主演」っていうのを情報で見て、あれ、誰だ?……え、僕?って(笑)。

高柳 でも、この作品はみんなが主演みたいなものですよね。

中島 そうですね、群像劇に近いので。

町田 僕の役としては、“大衆”の部分を担うという感じだと思っています。

高柳 お話の軸になっていますよね。

町田 そうですね、みんなに振り回されるというか。以前、中島さんとお話したときに「マッチーさんはサイコパスが似合う」って言われて(笑)。過去2回出演したときはそんな役だったんですけど、今回は結構普通の人の役ですね。僕としてはどんな役でも楽しく演じられたらと思っているので、真摯に一生懸命にやるだけです。

タイラとマドカ、名前に込められた意味は?

──お稽古場の雰囲気はいかがですか。

中島 まだシーン稽古の途中なので全員集合しての稽古ではないんですけど、「シリアスチーム」と「賑やかしチーム」っていうのがあって、なんだかそれぞれ別の作品をやっているみたいな感じです(笑)。まだ高柳さんと町田さんは「賑やかしチーム」のところにいる状態で、コメディっぽい要素もあったりするんですけど、一方で「シリアスチーム」がやっている宗教絡みのシーンとかはずっと静かで、みんな脚本を「読み解くぞ!」みたいな感じで凝視していましたよ(笑)。

──ではお2人は、今は楽しい雰囲気のお稽古なんですね。

高柳 はい、楽しくやっています。でもタイラは、存在の仕方が難しいな、と思っていて。

中島 一番難しいかもしれないですね、あやふやな状態で居続けなきゃいけないというか。タイラという名前は「平等」とかそういう意味からつけた名前なんですよ。

高柳 そうなんですね! それ、聞きたかったんです。

中島 基本的にあまり名前に意味を込めないんですけど、今回はちょっと込めました。タイラは生と死を平等に見ているとか、被害者と加害者の中立の立場にいるとか、そういった意味でつけた名前です。マドカは「円」をイメージしていて、中和するような印象で、とにかく周りを気遣って動く、という設定なんです。

──これからお稽古が進んでいく中で、賑やかしチームとシリアスチームがどう融合していくのか楽しみですね。

中島 本当にそうなんですよ。楽しみです。

高柳 私はホストクラブに行ったことがないので、この作品で疑似ホストクラブ体験ができて楽しいです(笑)。

中島 そうそう、みんなホストクラブ行ったことないし、ホストやったことないし(笑)。

高柳 一回みんなで行かないと(笑)。

中島 そうだね、行っておこうか!

町田 僕、お酒飲めないですけど……(笑)。

高柳 あ、私もそんなに飲めないです。

中島 僕もです(笑)。今回の座組は飲めない人が多いんですよ。

町田 それでホストクラブが登場する作品って、大丈夫かなぁ(笑)。

高柳明音 中島庸介 町田慎吾

■PROFILE■

なかしまようすけ○岐阜県出身。劇作家・プロデューサー。「キ上の空論」主宰。18 歳から独学で演劇を学び、名古屋で活動。2009年、東京進出と同時に演劇ユニット「リジッター企画」の作家・演出家として活動開始。2013年、個人ユニット「キ上の空論」を旗揚げ。全作品の脚本・演出を手掛ける。大きなセットは組まず、役者の肉体と、会話言葉、軽快なシーン転換で「滑稽な人々の生活」を綴ってゆく。

たかやなぎあかね〇愛知県出身。2021年4月にSKE48を卒業。現在は女優業を中心にバラエティやラジオパーソナリティーなどマルチに活動中。主な出演作品は、ドラマ「スタジオより曇愛をこめて」、映画「まくをおろすな!」、舞台は、PARCO劇場オープニング・シリーズ 『ラヴ・レターズ 30th Anniversary Special』、『あやかし緋扇』、『RUST RAIN FISH』、30-DELUX NAGOYA アクションクラブ MIX『ナナシ2021』、『冤罪執行遊戯ユルキルthe stage』、『追想・地獄変』、ノサカラボ『ホロー荘の殺人』など。

まちだしんご〇東京都出身。俳優、ダンサー、演出家、振付師、アクセサリーデザイナー。97年の初舞台以降、舞台を中心に数々の作品に活躍中。近年の主な舞台出演は、「伊賀の花嫁」シリーズ、水木英昭プロデュース『蘇州夜曲2022』、TAIYO MAGIC FILM『センチュリープラント2022』、『CLUB SEVEN 20th Anniversary』など。キ上の空論は『紺屋の明後日』(2019)に出演。近年の主な舞台演出は、「紅葉鬼」シリーズ、『ちょっと今から仕事やめてくる』など。

【公演情報】
キ上の空論 10周年記念公演
『幾度の群青に溺れ』
作・演出:中島庸介
出演:高柳明音/町田慎吾/藤原祐規
久下恭平/竹石悟朗/富田麻帆/高橋明日香/藍澤慶子/平山佳延
髙木俊
名塚佳織
美里朝希/田名瀬偉年/シミズアスナ/陽和ななみ/小林宏樹
熊手萌/楓菜々/花音/濵尾咲綺/河村凌
村田充
●7/5~9◎紀伊國屋ホール
〈料金〉一般前売 7,200円 一般当日 7,700円 U-25割 4,500(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※U-25割は要身分証
〈チケット問い合わせ〉オデッセー 03-4426-6303(月・水・金 13:00~17:00)※祝日除く
〈公式サイト〉http://kijyooo2013.com/gunjyooo-10th/

 

【取材・文/久田絢子 撮影/田中亜紀】

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