年末“祭”シリーズ『明治座の変~麒麟にの・る』平野良・安西慎太郎・原田優一インタビュー
2011年より、演劇製作会社る・ひまわりと創業140年を超える東京最古の老舗劇場明治座が展開している歴史舞台「年末“祭”シリーズ」。大人が真面目に全力でふざけた、独特なオリジナル解釈により繰り広げられる歴史エンターテインメント時代劇に、キャストが繰り広げるショーという構成のここにしかない演劇公演は、年年歳歳その人気を高め、今や「年末“祭”シリーズを観ないと年が越せない!」という、年越しの風物詩として定着している。
そんなシリーズの令和元年を飾るテーマは日本の歴史上、最も有名にして最も謎が多いとされる“本能寺の変”。もちろんこれまでに見たことがない斬新な設定での新たな物語として、「明智光秀はなぜ織田信長を討ったのか?」という、“本能寺の変”最大の謎が描かれていく。
その芝居『麒麟にの・る』でW主演を果たす明智光秀役の平野良、織田信長役の安西慎太郎、そして徳川家康役と演出の大任を任された原田優一が、公演への意気込みを語ってくれた。
明治座でその年の全てを総決算する
──年末の風物詩としてすっかり定着したシリーズとなりましたが。
原田 そうですね。僕はこのシリーズに出させていただいたのは、実は2回くらいなんですよ。ゲストという形ではもっと参加しているんですが。それでもこれが来ると年末だなというのと、これを乗り切らなきゃ年を越せないんだな、よし頑張るぞ!というような感覚がありますね。この1年の総清算と言いますか、この1年僕はどこでどんなことを学びましたか?ですとか、こうしたものをインプットしました、という自分の引き出しを全部出し尽くしてから、一斉に大掃除をして帰るみたいな(笑)。明治座でその年の全てを総決算するという印象です。
平野 はじまって10年近く経ちましたけれども、最初は「年越しって何?え?演劇で年越しをするの?」に近い感じだったんですよ。それがこの年月をかけて、年末にはあるのが当たり前の、恒例のコンテンツとして定着しているのはすごいなと思います。僕も出演自体はずいぶん久しぶりなんですけれども、ここまで「年末の明治座といえば」に育ったシリーズに、今回W主演として出させてもらえるのはとてもありがたいことだなと思います。
安西 原田さんもおっしゃいましたが、1年の総決算的なところがあります。この場所に戻ってくると極自然に自分の持っている力をすべて出し切って、全てをここに置いてバッと帰って「よし、丸二日寝るぞ!」みたいな(笑)。しかもそれがお客様からは明治座さんでの恒例行事のように感じて頂けているので、僕にとってもお客様にとっても大切なシリーズという印象です。
──そんなシリーズの令和元年バージョンが「本能寺の変」をテーマにしたもの、ということですが。
原田 歴史上非常に有名な、ほぼ誰もが知るというテーマと登場人物なんですけれども、そこに「この人とこの人の関係性がもしこうだったら?」とか、「もしこの人とこの人が肉親だったら?」というような「if」を詰め込んだものになっているので、歴史を好きな方はもちろん、歴史にはあまり興味がないという方にも物語として楽しんでいただける作りになったのではないかなと思っています。演じる役者さんたち、それぞれのキャラクターが立つように役が描かれていて、森蘭丸が森蘭と森丸に分かれている等が典型的な例なんですけど、エンターテインメントな作品を作るにあたって、バラエティに富んだキャラクターが多数登場するのが、印象的になっていくと思います。その分構成をするうえでどういう風に展開を早く見せるか、どこに絞るかを考えなきゃいけない。台本のどこをよりクローズアップするか、どこで誰に重きを置くかという作業が今から待っているんです。でもすごくスペクタクルに見えて、年末シリーズが本来持っている最たるばかばかしさみたいなものは残しながら(笑)、笑いながら最後は感動できるちょっと切なくなるような話の展開にしていきたいなと思っています。
平野 今すべて、総指揮者が言ってくれたんですけど、歴史のネオフィクションな部分「トンデモ論」と言っていますが、実際残っている資料にも穴がいっぱいあるし、日本史の8割ぐらいのイメージは司馬遼太郎さんが作り上げたものだと思うんですよ。「司馬史観」と言われますが、真っ直ぐに言えばあくまでも「小説」が生み出したイメージですよね。それと同じように、「もしもこんなことがあったら?」「if」と銘打っていることが、あたかも本当だったのかのように見えていくことがある。そこが歴史を使ってお芝居を作る上での楽しみでもありますね。特に「本能寺の変」って、おそらく歴史が嫌いな人でもなんとなくの概要は知っていたりするぐらいの事柄なので、時代劇はそんなに得意じゃないという方にも入りやすい導入になっています。しかも一見どんちゃん騒ぎに見えて、その実しっかりと押さえるところは押さえている作品なので、その作りはすごいと思います。
安西 僕は「面白いからいいだろう?」みたいなものが詰まっている感じがとても好きです。お二方がちょうど言ってくださったんですが、僕自身そんなに歴史的なことは詳しくないんですよ。難しいなという印象があります。でも脚本の赤澤ムックさんや、プロデューサーさんが、歴史の余白の中に、様々なものを見つけて考えて、徹底的なエンターテイメントにしているので、そこを存分に楽しみたいし、楽しんでいただきたいです。
一般的なイメージを超えて行く役柄
──その中で、それぞれ演じる役についてはいかがですか?
平野 僕は明智光秀を演じますが、光秀って一般的には、頑固で融通がきかないイメージがあると思うんです。でも今回に限っては全く違う作りになっていると思います。不器用だからこその可愛さというのかな。そういう人物像になっていますし、特に今回は作品的なギミックによって、これまでに皆様が知っている明智光秀じゃない光秀になると思いますから、おそらく観終わる頃には、その意外性による引っかかりがきっと残るので、面白く観ていただけるのではと。
安西 僕は織田信長役ですが、一つだけハッキリ決めていることがあって、信長って色々なものと戦ってきた人だと思うので、そこはちゃんと落とさないで考えていこうと思っています。信長のイメージは?と言えばおそらく「冷酷」が出てくると思いますが、それだけでもつまらないし、かと言って温かくなりすぎてもまたね。そこは信長と光秀のバランスもすごく大切ですし、この作品の色の元になると思うので、原田さん、平野さんと相談し合いながら作っていきたいです。
原田 魑魅魍魎が跋扈する時代と言うかね、誰が誰を落とすか?の戦国時代ですが、結局信長もあえて自分自身でも敵を作っちゃうところがあったのかもしれないなとは思います。その中で、僕は徳川家康なんですけど、粟根まことさん演じる「おっちゃん」に、信長と光秀をめぐるこういう話がありましたと読み聞かせられる、話を聞く側ですね。
舞台は全員で作っているもの
──演出家として、平野さん安西さんに期待するところはどうですか?
原田 良君(平野)から言いますと、ものの見方、ツボというのかな、「これ面白いよね」ですとか、「これはあまり効果的じゃないね」という感覚が一緒なのが、とても心強いです。僕はまだ良君が踊っている姿は見たことがないんですが、芝居の身のこなしで身体も使える人だし思うし、とても器用な人なのに、一方に頑固で不器用なところもあって。そこは僕も同じなので共感するし、すごく期待していますし、楽しみにしています。言葉にすると簡単に聞こえてしまうかも知れませんが、一緒にできることをとても嬉しく思っています。安西君とも共演経験があって、この人の面白さはすごくわかっているからこそ、今回の信長、サイコパスみたいなエピソードもたくさん残っている役に対して、安西慎太郎のある種の闇の部分をどれだけ前面にだせるか?だなと思っていて、そこはミステリアスな雰囲気を持っている彼だからこそできる役ですね。
──そうエールを受けたお二人は?
平野 この前慎ちゃん(安西)が出た舞台が4人芝居だったんですけど、そこでちゃんと生のお芝居を見て、一緒にやれることが余計に楽しみになりました。座長二人で作り上げていくというのももちろんあるでしょうが、僕自身が結局舞台は全員で作っているものだから、座長だからあれもこれもやらなければ、という感覚は持たなくなっているんです。だから座長としての役割というものは絶対あると思いますが、でも座長だからという強迫観念みたいなものはなく、お芝居というツールを使って皆で楽しんでいきたいです。
安西 良君とW主演やるということがまず嬉しいし、光栄なことですし、座長の在り方というのは良君と一緒です。でも、優一さんもそうですけど、良君も演出もやられる方なので、やっぱり役者としてではない視点を持たれているから、ある意味芝居をしながら「こいつセンスないなぁ」と思われるのが怖い怖い(爆笑)
平野 ないないない。そんなこと思って見てないから!(笑)本当に皆で作っていきたいなって感じです。
──お二人から見た原田さんは?
平野 持っているものや経験値が圧倒的に上なので、そこに委ねつつ、今まで自分が培ってきたものをあますところなく出して、摺合せていけたらいいなと思いますね。
安西 優一さん(原田)はスペシャリストだと思います。舞台上に優一さんがプレイヤーとしていると、場が動くし、必要に応じて止まるし、魔術師みたいにあらゆる意味で面白くなりますね。その方に演出して頂くのにワクワクすることもありますし、演出家の優一さんに見られるんだという怖さもどこかにありますけど、だからこそ守りに行くのではなく、ガシガシに攻撃して皆で作っていきたいなと思います。
──演出家・原田優一が、役者・原田優一に期待するところはどうですか?
原田 あ、それは難しいですね~。いつもならば場をかき回して埋めろ、と思うところなんですが、今回の役はそうではなく、ストーリーの頭に出てくるタイプの役なので、「ひとつ空気作っておけよ」とは思います。
──それは役者・原田優一の得意中の得意では?
原田 いやいやいや(笑)、命がけです!本当に怖いんですよ、空気を作るって。緊張しているお客様を溶きほぐすとか、逆にほぐれているお客様を一回緊張させるのもあると思うんですけど、それを公演毎に異なるお客様に対して起こしていくのは、すごく怖いことで。ただ、そこでうまくいったとき、「今動いたね」というのは、動かした者にしかわからないことなので、そこはキャッチしたいし、して欲しいかなと思います。
人間力勝負のショーで楽しく年越しを!
──また、今回は第二部が「3.5次元舞台『LMS歌謡祭』」という形になっていて盛りだくさんですが。
原田 第二部に関しては、本編とは打って変わってみなさんがノリノリでご覧になれるようなものになっています。一個一個見ていくと、すごくクセのあるタイトルで「ついていけるかしら?」と思われるかもしれませんけど、全然ついていけます!(笑)。そこは初見の方でも間違いなく大丈夫ですと断言しておきます。
平野 こういうバラエティーショーこそ役者力というより人間力を求められるところがあるじゃないですか。役者としてはすごくうまいのに、人として出て来たら「あれ?薄い?」(笑)と思われないようにしなきゃ!
原田 それ逆もあるんだよね。ショーになると途端にキラキラし出す人もいるから!
平野 人間力勝負ですよね!なので、どっちもちゃんとお客様の印象に残るようにしたいです。
安西 これだけ色々な方面にオマージュして作り込んでくださっているので、僕たちも本気で頑張らないと、と思います。
──ますます楽しみが増しますが、では楽しみにされているお客様にメッセージをお願いします。
平野 僕は6年ぶりに出させていただきますが、この6年間ずっと年越しを控えてきたんです。年末“祭”シリーズを含めずっと年越し系の仕事が続いていた時期のあと、ここ5年ほど年末には仕事がなかったので、それまでできなかったカウントダウンパーティをやるか!と思ったら、全然肌に合わなくて1年でやめて(笑)。それからは家で一人、男性アイドルユニットのライブを見ながらこっそり過ごすのが年越しの恒例になっていた中で、また皆で年越しできるのは、年越し難民としては(笑)すごいありがたいというか。そこも含めて楽しめたらいいなと思っています。2019年を締めくくり、2020年の開幕を皆で迎えられたらいいなと思うの、でぜひ遊びに来てください!
安西 僕たちにできることは全力でお客様に面白がっていただくこと、笑うこともそうですし泣くこともそうですし、色々な感情が混ざるような舞台を作りたいと思いますので、是非年末明治座に遊びに来ていただきたいです!
原田 今回番外編ということなんですけど、毎年楽しみにされている方も、今回初めての方も楽しめて「あ~面白かった」と単純に思っていただきたいです。1本の芝居としてしっかり観たなと思っていただき、そこから第二部のドンガラガッシャーンていう(笑)祭りのスタートです!みんなで楽しく年を越しましょうと言えるような、2019年の締めくくりにふさわしい舞台になるように作り上げるという目標を掲げて、まっしぐらに突っ走っていきたいと思います。明治座でお待ちしています!
■PROFILE■
ひらのりょう〇神奈川県出身。1999年テレビドラマ「三年B組金八先生」で映像デビュー。以後、テレビ、バラエティ、舞台と活動の幅を広げている。近年の主な舞台作品に『文豪とアルケミスト 余計者ノ挽歌』ミュージカル『憂国のモリアーティ』舞台『アオアシ』ミュージカル『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』等があり、2020年ミュージカル『チェーザレ 破壊の創造者』への出演が控えている。
あんざいしんたろう〇神奈川県出身。近年の主な出演作は舞台 『絢爛とか爛漫とか』TRUMPシリーズ『COCOON 月の翳り星ひとつ』、DisGOONie Presents Vol.5『Phantom words』、舞台『野球』飛行機雲のホームラン、舞台『RE:VOLVER』、『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』、舞台『四月は君の嘘』、SHATNER of WONDER #6『遠い夏のゴッホ』、舞台『幸福な職場』、『幽霊』、『喜びの歌』、『アルカディア』、『僕のリヴァ・る』、舞台『K』シリーズ、など。
はらだゆういち〇埼玉県出身。9歳よりTV、舞台、映画、ライブ、ダンス・イベントに多数出演。安定感のある ソフトな歌声と幅広い役をこなせる器用さを持ち、ミュージカルを中心に活動中。 主な出演作に『ミス・サイゴン』、『レ・ミゼラブル』、『GEM CLUB』、『ウーマン・オブ・ザ・イヤー』、『マリー・アントワネット』『FACTORY GIRLS~私が描く物語~』等。 近年では演出も手掛け、オフブロードウェイ・ミュージカル『bare』やオリジナルミュージカル『デパート!』、自身も出演する『KAKAI歌会』などで好評を得ている。
【公演情報】
る・ひまわり×明治座年末“祭”シリーズ
第一部 『麒麟にの・る』
演出:原田優一
脚本:赤澤ムック
出演:平野良(W主演) 安西慎太郎(W主演)/
神永圭佑、木ノ本嶺浩、大山真志/
井阪郁巳、松田岳、小早川俊輔、吉村駿作、土屋神葉/
林剛史、谷戸亮太、川隅美慎、二瓶拓也、井深克彦、中村龍介/
加藤啓、内藤大希(31日のみ出演)・原田優一(Wキャスト)、椿鬼奴/
辻本祐樹/粟根まこと/凰稀かなめ(特別出演)
[第二部] 「3.5次元舞台『LMS歌謡祭』」
◆総合司会:三上真史
◆日替わりゲスト
28日(土)昼:多和田任益 夜:佐藤貴史
29日(日)昼夜:佐奈宏紀
30日(月)昼:永田崇人、永田聖一朗 夜:杉江大志、近藤頌利
31日(火)昼:山崎大輝 夜:内藤大希
●12/28~31◎明治座
〈料金〉S席1,3000円、A席5,800円
(カウントダウン公演のみS席13,500円)
〈お問い合わせ〉明治座チケットセンター 03-3666-6666(10時~17時)
〈公式HP〉https://le-hen.jp/
【取材・文/橘涼香 撮影/友澤綾乃】
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