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江戸の絵師たちのパワーを届けたい!『夏の盛りの蟬のように』加藤健一 ・加藤 忍 ・加藤義宗 インタビュー

和物の作品を取り上げることが珍しい加藤健一事務所が、『滝沢家の内乱』以来7年ぶりに吉永仁郎作『夏の盛りの蟬のように』を上演する。

物語の主人公は、日本を代表する浮世絵界の巨匠・葛飾北斎。そして北斎の弟子の筆頭にあげられた蹄斎北馬や、武士でありながら肖像画を描いて日本一と言われた渡辺崋山、遅咲きながら独創的な浮世絵を生み出した歌川国芳という絵師たち。さらに晩年まで父・北斎を助け、その画才を受け継いで絵師・葛飾応為となった娘のおえい。これらの人々が、文化13年(1816年)から安政5年(1858年)という激動の時代の荒波に翻弄されながら生きた日々を描き出す。

その作品で北斎役を演じる加藤健一、北斎の娘おえい役の加藤忍、武士と絵師という2つの道に悩む渡辺崋山役の加藤義宗、3人が江戸の芸術家の世界を語り合ってくれた「えんぶ10月号」のインタビューを別バージョンの写真とともにご紹介する。

加藤義宗 加藤忍 加藤健一

蟬みたいにミンミン言いながら死んでしまうのがいいんです

──今回この作品を取り上げたのは同じ吉永仁郎さんの『滝沢家の内乱』を上演したことがきっかけですか?

健一 そうですね。吉永先生の本はいろいろ読んでいて、これは北斎のパワーに惹かれて演じてみたいなと。北斎は93歳まで生きたのですが、本人は110歳まで生きると言っていたそうで、当時としては尋常ではない生命力だなと。

 でも師匠(加藤健一)も北斎と似ています。いつも「俺は112歳まで生きるんだ」と言ってらっしゃるので(笑)。

健一 (笑)。

──さらに2歳多いのですね。皆さんは役へのアプローチはどんなふうに考えていますか?

健一 僕の場合は江戸弁が課題ですね。スピーディで耳に心地いい江戸弁をちゃんと喋りたいですね。

 おえいは、父というより師匠としての北斎に付いていくのですが、そこは自分と師匠との間柄と同じですね。それに絵師たちがいつも絵について熱くなって討論するところなど演劇の世界と同じですし、共感できるところが多いです。それにこの作品ではおえいの12歳から52歳まで演じるのですが、そこも女優として初めての挑戦で嬉しいです。

義宗 崋山は絵師になりたいと思っているのですが、たぶん武士の魂である刀を離すことはできないだろうなと。僕も実は居合いをやっていますので、そこは理解できるんです。ただ論理的な話し方をするわりには自己中な考え方をする人かなと(笑)。

健一 この作品は基本がコメディなので、その中に四角四面の崋山みたいな人が出てくることで、突っ込みやすさが出ていいんだろうね。

──全体的に江戸の絵師たちの自由闊達な空気が大事なのですね。

健一 タイトルに「蟬のように」と入ってますからね。ミンミンミンミンやってるだけという面白さだし、蟬みたいにミンミン言いながら死んでいってしまうのがいいんです。

何があっても遊び通す心意気

 

──今日は加藤さんが3人揃いましたので、お互いについてもいろいろ伺いたいのですが。義宗さんは加藤健一事務所の俳優教室で忍さんの後輩なのですね。

義宗 忍さんを初めて拝見したのが『松ヶ浦ゴドー戒』(1995年)で。

 初舞台です。義宗くんの初舞台『私はラッパーポートじゃないよ』(1996年)には、私も一緒に出ていて、義宗くんが17歳で、私も俳優教室を卒業したばかりの頃でした。

──女優・加藤忍の魅力を語っていただくとしたら?

義宗 毎回まったく違う役なのに、どれもその役になっていて凄いなと思います。

健一 忍さんは声が良い、それに気が強いんです(笑)。それがあればなんとかなるので。

──キャリアが長いのにみずみずしくて、しかもいつも楽しそうに出ていますね。

 若い頃はちょっと神経質に考えてしまうところもあったのですが、ここまでくると楽しめることが一番だなと思います。そう思いながらもお稽古が始まるとテンパって(笑)出来ない! 出来ない! となるんですが。でもやっぱりお芝居ができることは本当に幸せだと思うので、今回もその時間を大事に楽しみたいです。

──義宗さんについてはいかがですか?

健一 どこまで遊び感覚が伸びるかですね。真面目なだけじゃダメなので。僕は「PLAY」という言葉を「遊び」と訳すんですが、どこまで遊びきれていくか。プロの遊びですから、何があっても遊び通す心意気みたいなものがどこまで育っているかですね。

──遊ぶには何が必要なのでしょうか?

健一 真面目に生きるより遊んで生きたほうがラクだという思い込みですね。仕事なんかしてたまるかという(笑)、一生遊んで通すぞという。はからずもこの芝居の中で北斎も言ってますが、「女がなんだ、家がなんだ、一万二千石がなんだ。絵のほうが大事だろ」という心意気ですよね。「お前は絵しか描けないんだよ。ほかのことはお前なんかいなくても何とかなっていくんだよ」と。その遊び心が大事で。今、一番遊ぶのが上手なのは野球の大谷翔平くんで(笑)、あんなに野球を楽しむ人は珍しいと思っているんです。

──加藤さんも最近演じた一人芝居『スカラムーシュ・ジョーンズor(あるいは)七つの白い仮面』で、大谷翔平に負けないくらい楽しんでいるのを感じました。そういう人を追いかける義宗さんも大変ですね

義宗 本当にそうです(笑)。ただこの世界に入ろうと思ったとき、背水の陣というか、自分が生きるところはここしかないと覚悟を決めましたから、大変さは大前提で。なおかつ役者って承認欲求のかたまりみたいなものですけど、この人より凄くならないといけないというのではない別の価値観があると思うので、そこを目指して、僕の中で目標を1つ1つクリアしていくしかないと思っているんです。

──大変な面もありますが、そばでスキルとか経験値を盗めるメリットはありますね。

義宗 それは誰よりも一番盗める立場なので(笑)、どんどん盗んでいきたいですね。

 義宗さんは師匠の財産である『審判』を演じて素晴らしかったので、これからも上演していってほしいです。

──師匠・加藤健一の凄さを改めて言うなら?

 何よりも日々の努力を惜しまないんです。柔軟とか身体に必要なことの積み重ねの結果が、『スカラムーシュ』での高いところからの前転スローモーションだったと思います。60歳を過ぎてからベタッと開脚できるように目標を掲げて、できるようになって。たぶん普通の人なら怠けるところでも怠けるという感覚がないんだと思います。努力のかたまりみたいな、あれは真似できません。

──それはよく遊ぶための努力ですか?

健一 そうですね。ただ努力と思ったらできなくなるので、気持ち良く遊べるようにと。北斎の引っ越しと同じです(笑)。

──最後にこの作品を観て下さる方にアピールを。

義宗 今の日本の状況と似ていると思うんです。外国の力が日本にとって脅威になって、しかも国内は混乱している。その中で崋山は国のことを考えるあまり身を滅ぼすわけですが、そういう社会情勢の中でも自分たちの絵を描き続けた絵師たちのパワーを今の日本に伝えたいです。

 そのパワーと、ここでしか生きられない芸術家たちのバカバカしさみたいなバランスがうまく盛り込まれていて、でもとにかく楽しいコメディなので笑ってもらいたいです。そして劇中で私の好きな歌川国芳の絵が出てくるので、その絵も楽しんでいただきたいです。

健一 この芝居をやろうと決めるまで北斎のことはあまり知らなくて、でも調べだしたら北斎ってすごく人気があることにびっくりしました。展覧会も行ったんですが人がいっぱいで、世の中の人は思った以上に北斎を好きなんだなと。そういう方たちにも観ていただきたいし、スキッとするような楽しい芝居にしたいですね。

加藤義宗 加藤忍 加藤健一

■PROFILE■
かとうけんいち○静岡県出身。1968年に劇団俳優小劇場の養成所に入所。卒業後は、つかこうへい事務所の作品に多数客演。1980年、一人芝居『審判』上演のため加藤健一事務所を設立。その後は、英米の翻訳戯曲を中心に次々と作品を発表。紀伊國屋演劇賞個人賞(82、94 年)、文化庁芸術祭賞(88、90、94、01年)、第9回読売演劇大賞優秀演出家賞(02年)、第11回読売演劇大賞優秀男優賞(04年)、第38回菊田一夫演劇賞、他演劇賞多数受賞。2007年、紫綬褒章受章。2016年、映画『母と暮せば』で第70回毎日映画コンクール男優助演賞を受賞。

かとうしのぶ○神奈川県出身。加藤健一事務所俳優教室出身。舞台や映像で活躍、多くの海外ドラマの吹き替えも担当する。最近の出演作品は、映画『パンケーキを毒味する』、舞台『葵上 弱法師-近代能楽集より』加藤健一事務所『THE SHOW MUST GO ON ~ショーマストゴーオン~』俳優座劇場プロデュース『罠』『新雪之丞変化』など。第39回紀伊國屋演劇賞個人賞、第62回文化庁芸術祭演劇部門新人賞、2007年度岡山市民劇場賞受賞。

かとうよしむね○東京都出身。加藤健一事務所俳優教室17期生として父、加藤健ーより舞台のノウハワを学ぶ。加藤健一事務所の公演に多数出演する中、『シュペリオール・ドーナツ』(12年)『モリー先生との火曜日』(13年)ではW主演を演じた。近年の主な出演舞台は『更地 SELECT SAKURA V』(大森カンパニー)『グッドディスタンス第五章』(本多真弓プロデュース)など。2020年に自身のプロプユースユニット義庵にて『審判』を上演、好評を得て2022年にも再演。

【公演情報】
『夏の盛りの蟬のように』
作:吉永仁郎
演出:黒岩 亮
出演:加藤健一 新井康弘 加藤 忍
岩崎正寛(演劇集団 円) 加藤義宗 日和佐美香
●12/7~18◎下北沢・本多劇場
〈料金〉前売5,500円、当日6,050円、学生2,750円(全席指定・税込・未就学児童入場不可)
※学生券は学生証提示、当日のみ
●12/24・25◎京都府立府民ホール“アルティ”
〈お問い合わせ〉加藤健一事務所 03-3557-0789(10時~18時)
〈公式サイト〉http://katoken.la.coocan.jp/

 

 

【構成・文/宮田華子 撮影/中村嘉昭】

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