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KASSAY第14回公演『ふたりの老女 古老の知恵と教えを語り継ぐアラスカ先住民の伝説』有賀沙織・白石珠江・大川婦久美 インタビュー

人間の生きる力と古老の知恵を語り継ぐ、アラスカ・インディアンの感動の伝説を原作にした舞台『ふたりの老女 古老の知恵と教えを語り継ぐアラスカ先住民の伝説』が、8月4日~6日、内幸町ホールにて上演される。

舞台は極寒のアラスカの冬──。
厳しい飢えにみまわれた集団が全滅の危機に立たされた。
グループのリーダーは苦境を乗り切るために、
ふたりの老女を棄てる決心をする。
棄てられたことで、プライドをよみがえらせたふたりの老女。
互いに叱咤激励をしながらふたりの旅ははじまる──。

原作者はアラスカ生まれのヴェルマ・ウォーリス。母メイより聞いた伝説を書き留めたこの本は、1993年に出版されるやいなやアメリカ全土で話題となり、「Western States Book Award」の「Creative nonfiction」部門を受賞。16言語に翻訳されている。

現在も世界は戦争や疫病、災害などで混乱し、弱者が置き去りにされている。そんな今だからこそ、ひときわ注目されるこの原作を、KASSAY主宰でプロデューサーの有賀沙織が脚本化、演出は劇団民藝の杉本孝次と中島裕一郎が手がけている。出演は、劇団民藝の白石珠江、東宝現代劇出身の大川婦久美をはじめ実力派俳優が集結した。

この注目の舞台について、有賀沙織、白石珠江、大川婦久美にそれぞれの思いを語ってもらった。

白石珠江、有賀沙織、大川婦久美

KASSAYの活動は、郷土文化の舞台化から始まった

──この舞台はKASSAY第14回公演となりますが、まずKASSAYを立ち上げた経緯について主宰の有賀さんに伺いたいのですが。

有賀 私は幼い頃から演劇が好きで、高校でも演劇部で活動していましたし、将来は演劇の世界で生きていきたいと思っていました。そして大学時代にアルバイトで帝国劇場の案内係をしていたとき、東宝演劇部に脚本家を育てるプロジェクトがあると声をかけていただき、3期生として入り、3年間その養成講座で脚本について勉強することができました。ただちょうど芸術座がシアタークリエに変わるという時期で、上演する演目がガラッと変わって、海外のミュージカルを主に上演していく劇場になり、事実上、脚本家はいらないという状況になってしまったんです。そんなときに、東宝現代劇の女優として活躍していた大川婦久美さんから、一緒にコラボレーションして何か作りませんかと声をかけてもらったんです。そしてたまたま大川さんの出身地、石川県小松市の小学校で朗読劇を上演するので、その脚本を書いてほしいと頼まれたのが、KASSAYとして活動するきっかけになりました。

大川 私は東宝現代劇にずっと出演させていただくなかで、どうしても役柄が固定していくことで物足りなく思っていたんです。もっといろいろな役を演じてみたいと。そういう仲間たちが集まって「75人の会」という集団を作って、稽古場公演をはじめさまざまな形で上演していたのですが、3人とか4人でできるようなもので良い脚本って意外と少ない。そのとき気づいたんです、「脚本を書いてくれる人たちが身近にいるじゃない!」と。それで養成講座の戯曲コースの人たちに声をかけて小品を何本か書いてもらったんです。またその頃、私の故郷が過疎化していたので、お芝居を上演することで少しでも活性化のお役に立てばと考えて、地元の伝説をもとにした朗読劇を有賀さんに書いてもらったんです。山の中の小学校で全校生徒70人ぐらいでしたが、地域の人にも喜んでもらえて、やってよかったなと思いました。

──それが2007年の『やすな(伝説やすなが淵・伝奇やすなが物語)』で、KASSAYの第1作目となったのですね。

大川 そこからが有賀さんのすごいところで、いろいろな場所から声がかかるとその地域の伝説や伝承をもとに脚本を書き、創作劇を次々に上演していくんです。

有賀 2作目が静岡県の菊川市で坂上田村麻呂の伝説を書いた作品で、そのあとも埼玉県の熊谷市とか桶川市、また愛知県の西尾市では『吉良きらきら』という作品で吉良上野介の話を書きました。

──その『吉良きらきら』で、白石さんはKASSAYに初出演されたそうですが、有賀さんと初めて会ったときの印象はいかがでした?

白石 まず、いろいろな地域の伝説にまつわる作品作りをされるその着眼点に驚きと感動を覚えました。そして演劇にはまだまだ沢山の可能性があるのだと刺激を受けました。

──日本各地にそういう素材はあるわけですから、埋もれさせるのは惜しいですね。

有賀 そうなんです。また、私は「芸」自体についても危惧していて、東宝現代劇だけでなく新劇なども時代とともに活動の場を縮小せざるを得なくなっていて、いわゆる所作や台詞まわしをはじめとする「芸」を継承する場も少なくなっている。その表現の場をなんとか作るという活動にも力を注いでいて、ここ数年は東京を中心に創作しています。その中で今回の『ふたりの老女』が、候補にあがってきたのです。

棄てられた側だけでなく、棄てた側の心情も描いている

──有賀さんにとって『ふたりの老女』は初めての翻訳劇だそうですが、なぜ今この作品を上演したいと?

有賀 私がKASSAYを始めたのは20代でしたから、いつも年上の方たちに教えていただくことが多かったんです。それが年齢を重ねるにつれて周りのスタッフの方も同年代の人が増えてきて、ぶつかったり、意見が合わずに一緒に仕事ができなくなったりすることが出てきて、そんなどこか棄てられたような寂しい思いを抱いていたときに、この本に出会ったんです。この本のふたりは75歳とか80歳なのに、棄てられても必死で闘って生き延びている。「そうだわ、私も生き延びなきゃ!」と(笑)。

大川・白石 (笑)。

有賀 だから本当に個人的な思いから脚本を書いたんです。ただ、この内容は今の高齢化社会にマッチするテーマだという声もあって、それに力づけられて舞台化を進めることができました。実はこの本は大川さんが先に読んでいて、東宝現代劇の方たちが年齢を重ねられたことで、自分たちで上演したい作品の候補として考えていらしたそうです。

大川 私に劇化する力があればやってみたいと思って本を取り寄せたんです。ただちょっと芝居作りもシンドイなと思っていた時期だったので、そのまま本棚の隅に眠ったままで。有賀さんから何か良い題材ない?と言われたとき、そうだこれがあったと。

──超高齢化の日本に、まさにふさわしい題材ですね。

大川 今の日本では野原に老人を棄てることこそありませんけど、定年退職した男性が生き甲斐を失ってしまう話や家庭内別居などもよく聞きます。私たち自身のこれからを考えると他人事ではないなと思いました。

白石 ただ、老人が棄てられるという意味ではいわゆる「姥捨て」の物語かなと思ったら、そこから生き延びていくという話なので、すごい本ですよね。そして棄てられたことで初めて気づくこともあるんだなと。老齢になってもまだ気づくことがある、それがある限り生きる力はなくならないと思いました。すごく前向きな芝居で、そこが私はとても気に入りました(笑)。

──有賀さんは脚本化するとき、何を大事にしたいと思いましたか?

有賀 他の劇団で上演されたものを拝見したら、アラスカでの核実験の話やエスキモーとアメリカ本土との人種問題なども書き込まれていて、スケールの大きな作品になっていたのですが、私は原作者であるヴェルマ・ウォーリスさんの思いを一番大事にしたいと思ったんです。アラスカ先住民としての歴史と誇り、それを書き残すことに命をかけていた。それは翻訳をされた亀井よし子さんも大事にされていたところで、そのうえでかなり変更箇所はありますし、稽古中にもさらに変更しています。でも原作の本質部分はしっかり残していくということを心がけています。

大川 今回の脚本でとても大きな変更は、棄てられた側だけでなく棄てた側の心情、その辛さなども丁寧に描いてあるところだと思います。それは現代の親子関係にも通じるものがあって、心ならずも親の面倒をみられなかったり、ちょっと連絡せずにいたら親に孤独死されてしまったり、有賀さんはそういう日本の現実なども考えながら膨らませて書いていると思います。

有賀 棄てた側のリーダーの独白や、棄てた家族たちの思考回路がわかるような部分を増やしていて、そこが私の色として出ていると思います。それをアドバイスしてくれたのが白石さんで、私に「脚本家として自分をもっと晒け出していいんじゃない?」と。そこが私の弱いところだったので、とてもありがたかったです。

白石 いえいえ(笑)。

有賀 やはり棄てられた側だけががんばっても社会は良くならないんですよね。全体の世代が一緒にがんばっていく。そのためには棄てた側にこそ活路があると思いますし、棄てた側のちょっとしたマインドの変換があれば、その可能性が膨らむだろうなと。だから現役世代にこそ、このお芝居を観てほしいなと思っているんです。

「からだは食べ物を要求する。心は仲間を求める」

──この作品のタイトルは『ふたりの老女』とあるように、「ふたり」というところに大きな意味があると思います。80歳のチディギヤークを白石さんが、75歳のサを大川さんが演じますが、それぞれの役柄について話していただけますか。

白石 チディギヤークは平凡な女性で娘がいて孫もいて、年老いてからは家族を頼りながら生きていたのに、いきなり棄てられた。たぶん1人だったらすぐ死んでいたと思います。サというすごくエネルギーのある人が一緒だったことで、めげそうになると立ち上がらせてくれた。そして、子どもたちに頼りすぎていたけれど、自分にはまだ力がある、できることをやらなきゃという思いになって、必死で生きていく。それはサがいてくれたからこそだと思います。

大川 サは、男兄弟の中で男勝りに育ったので狩りなども得意なんですよね。だから若いときは、自分は1人でも生きていけるだろうという考えもあったと思います。ただ私の台詞で「からだは食べ物を要求する。心は仲間を求める」という言葉あって、人間はやっぱり1人では生きていけないんですよね。だからサもチディギヤークがいたから生きられたんだと思います。

──そして棄てた側も、生き延びたふたりを見つけたとき、自分たちにはふたりが必要だったと気づきます。

大川 棄ててはじめて気づいたんですよね。

白石 だからこの芝居は気づきの芝居なんだなとつくづく思います。

──では最後にあらためて、この作品を観てくださる方へのアピールをいただけますか。

白石 生きるための前向きな力を描いている作品です。人間1人の中には起き上がっていくエネルギーが必ずあるということを、観終わったときに感じていただけると思います。老若男女全部の皆さんに観ていただきたいです。

大川 ふたりの台詞の中に「あたしたち、まだまだいけるわ」という台詞があるんです。幾つになっても何かができる、これでお終いじゃない、まだまだできることがあるという気持ちを、観た方たちに持って帰っていただきたいです。誰でもみんな年を取りますが(笑)、最後まで元気でいましょう!

有賀 私は舞台は綺麗なものを作りたいと心がけていて、このお話は一見地味そうですが、踊りもありますし、西川古柳座の人形師が遣う動物たちも出てきます。音楽はパリのオペラ座かと思うような(笑)華やかなクラシック風の音楽もあり、バレエのようなダンスシーンもあります。すごくファンタジックな演出になっています。衣装も現代アート界で注目のアーティスト、KiNGさんにお願いしています。ぜひ現代アートの愛好家の方にも観にきていただければと思っています。今、この作品を作りながら「生きる」ということ、そして「赦す」ということを考えています。各世代の人たちみんながどうしたら心地よく生きていけるかというヒントがこの作品には表現されていますので、いろいろな世代の方に、いろいろな視点で観ていただければ嬉しいです。ぜひ観にいらしてください。

■PROFILE■ 

白石珠江 有賀沙織 大川婦久美

あるがさおり○脚本家・プロデューサー。KASSAY合同会社代表。幼少期より演劇、ミュージカルに親しみ、学業と医療機関や事業会社勤務を継続しながら、東宝演劇部の活動の中で脚本執筆の手ほどきを受け、東京大学大学院人文社会系研究科文化資源学研究室修士課程では、文化経営学を学び、これまでにないプロデューサーのあり方を打ち出している。2007年10月、石川県小松市での小学校の朗読劇の上演を機会にKASSAY(カッサイ)を立ち上げ、地域発の作品づくりを行い、その後、伝統芸能・新劇・商業演劇・宝塚歌劇・大衆演劇・舞踊など、多様な芸のエッセンスを生かしながら、多様な演劇人とのコラボレーションを行っている。代表作は『吉良きらきら』『振り返れば、道』『うらみ葛の葉』『面影小町伝』など。

しらいしたまえ○東京都出身。桐朋学園短期大学を卒業、1975年劇団民藝入団。劇団での主な出演作品は、 『ノア美容室』『新・正午浅草-荷風小伝-』『野の花ものがたり』『ワーニャ、ソーニャ、マーシャ、と、スパイク』『大正の肖像画』。外部出演は 『メリーさんの羊』『もーいいかい、まーだだよ』山の羊舎『窓から外を見ている』。ドラマは『逆転人生』(NHK)『渡る世間は鬼ばかり~三時間スペシャル~』(TBS)『琥珀』(テレビ東京)など。

おおかわふくみ○石川県出身。女優 声優・ナレーター。日本大学芸術学部から東宝現代劇21期生。三益愛子賞、第24回菊田一夫演劇賞を受賞。主な出演作品は、KASSAY『面影小町伝』KASSAY『うらみ葛の葉』、『二十四の瞳』(御園座)、『LOVEセンチュリー』(日生劇場)、『細雪』(帝国劇場)、『虹の橋』(御園座)、『蔵』(芸術座)、『放浪記』(芸術座)。映画は『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』、ドラマは、『天使が降りた滑走路』(NHK)『火曜サスペンス劇場』(NTV)『恋のバカヤロー!』(TBS)『ザ・ジャッジ! ~得する法律ファイル』(CX)など。

【公演情報】
KASSAY第14回公演
『ふたりの老女 古老の知恵と教えを語り継ぐアラスカ先住民の伝説』
作:Velma Wallis(ヴェルマ・ウォーリス)
翻訳:亀井よし子
脚本:有賀沙織
演出:杉本孝次・中島裕一郎
出演:白石珠江 大川婦久美 キムセイル 大野裕生 緒形りょう 新澤 泉 奥山眞佐子 笠倉祥文 冨田佳孝 大竹このみ 上倉悠奈 西川古柳 西川柳玉 渡邊紀ゐ
●8/4~6◎ 内幸町ホール(千代田区内幸町)
〈公演スケジュール〉
08月04日(金) 18:30
08月05日(土) 13:00 / 18:30
08月06日(日) 12:00 / 16:00
※開場は開演の30分前
〈料金〉6.500円 30歳未満4,000円(全席自由・税込)
〈お問い合わせ〉カンフェティチケットセンター0120-240-540(平日 10:00~18:00)
https://www.confetti-web.com/detail.php?tid=72156&
〈KASSAY公式サイト〉https://kassay-stage.com/

 

【取材・文/榊原和子 撮影/田中亜紀】

 

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